革新的な「ヘッドレスコマース」の概念を理解し、事業にどのように活かしていくべきか
ここ1~2年、ヘッドレスコマースというキーワードが、EC界隈で注目を集めている。従来のeコマースよりも柔軟なカスタマイズができる点や、顧客のニーズへのスピーディーな対応が可能など魅力的な特徴を持つが、ヘッドレスコマースは2021年時点でまだ黎明期であり、詳細については知られていないことも多い。今回は、ヘッドレスコマースとはどのようなものなのか、そして、どういった点に注意して取り組むべきかについて考えていく。
※当記事は、クラウドネイティブなECプラットフォームCommerbleを提供する株式会社Commerbleからノウハウ提供を受け、記事を作成した。当記事で紹介している継続改善可能なECシステムは、ここからダウンロード可能だ。
ヘッドレスコマースとは
ヘッドレスコマースとは、ECサイトを構築する手法のひとつで、ユーザーが接するECサイトなどのフロントと裏方であるバックエンドを分離させることが可能なシステムのことを指す。バックエンドを中心に機能をAPI化することでカート情報や会員情報などを用途に応じて共有・連携できるようにし、フロントエンドはそのAPIを呼び出す形で実装することで、柔軟かつスピーディなECシステムを実現するというものだ。従来のECシステムはフロントとバックエンドが一体されているため、ECサイトのUI改善が困難であったり新たなチャネルへの対応が迅速に行えないなどの課題があったが、ヘッドレスコマースはこのような制限を抜本的になくすことが可能な次世代ECシステムとして注目を集めている。
このヘッドレスコマースはもともとAmazonが採用しており、ECのフロントとバックエンドを分割して開発できるために柔軟性が高く、その結果として顧客体験を向上させることが可能と言われている。その一方で、ECにおけるフロント用の環境を別途構築したり、外部サービスを契約する必要があり、開発の難易度が高いといった注意点もある。2021年時点では、ヘッドレスコマースは黎明期にあり、サービスを提供している企業ごとに注力している部分も異なる。そのため、どのサービスや概念が優れているか、等を一概に評価することは難しい部分もあるため、各事業者に合った適切なサービスを見極めも現状では難易度が高い状況だ。
ヘッドレスコマースの要となるAPI
ヘッドレスコマースの要は、バックエンド側の機能やデータ取得をAPIとして提供しており、ECサイトなどの各フロントと共有・連携できる点にある。APIとはApplication Programming Interfaceの略で、APIを連携させることで機能やデータベースが共有可能になるシステムのことをいう。ヘッドレスコマースにおいては、分割されたフロントとバックエンドを自由につなぐ架け橋として、このAPIによる機能提供が最も重要なポイントとなるのだ。
ヘッドレスコマースで利用可能なAPI例を紹介すると、「カート情報の取得や設定に関するもの」や「会員情報の取得や設定に関するもの」、「商品の情報取得」などがある。カート情報には主に商品や支払い方法、配送先、特典、計算など、会員情報にはユーザーの登録情報やパスワードなどが含まれる。
では、このAPIがどのような形で提供されているか、実際のサービスをいくつか見ていこう。
Vue Storefront
VSF Sp. z o.o.が運営するVue Storefrontは、他社製品と連携し柔軟なフロント画面を提供することに注力しているのが特長のサービスである。
既存ECシステムのAPIと通信してECサイトのフロントを作るvue.jsのフレームワークを提供しており、現在オープンソースとして開発されている。ShopifyやMagento、BIGCOMMERCEなどの既存ECプラットフォーム製品のAPIと連携し、ECサイトのフロント部分を提供しているのがポイントだ。
Swell
Swell Commerce Corp.が運営するSwellは、柔軟性のあるAPI提供が特長のサービスだ。
Vue Storefrontとの違いは、他社製品との連携よりもAPIそのものに注力している点にある。機能表ページの下部では、SwellとShopify Plus、Magento、BIGCOMMERCEとAPI機能や仕様の違いについての記載を見ることができる。
このようにヘッドレスコマースを提供しているベンダーでも、フロント部分に注力しているものや、より高機能なAPI提供を目指しているものなど、それぞれ得手不得手があることがわかる。
ヘッドレスコマースのメリット
ここまでに概要は触れてきたが、改めてヘッドレスコマースのメリットについて考えていこう。
1.様々なフロントを共通のバックエンドで実現できる
従来のECサイト構築のようにフロント(チャネル)ごとにバックエンドを作り直す必要がないため、ECサイトはもちろん、スマホサイトやアプリ、SNS連携など、多様なフロントで共通のバックエンドとしてAPIを利用可能になる。中でも期待されるのが、PWA化が容易になる点だ。PWAはProgressive Web Appsの略で、Webサイト上でネイティブアプリのような顧客体験を可能にする技術のことである。今後ECサイトのアプリ化などの需要が高まった場合、ヘッドレスコマースはその最適な手段のひとつとなりうるのだ。
2.フロントとバックエンドを個別に開発できる
ヘッドレスコマースはAPIとフロントでシステムアーキテクチャが別々になっているので、個別に開発することが可能である。そのため、運用ルールを確立させてフロント実装の技術者を確保すれば、開発効率が上がりやすい。ECサイトのUIにこだわりたい企業やアプリ提供で顧客体験を向上させたい企業にとっては、フロントに限定して内製化を行えることは大きなメリットとなるだろう。
3.フロントの顧客体験が豊かになる
一般的に、ヘッドレスコマースのメリットは顧客体験が豊かになることにあると言われている。具体的には、どこでもカートインやカート表示が可能、どこでもワンクリック決済が可能、CRMとの連携でクーポン表示が可能、高機能な検索が快適になるなどだ。また、スマートスピーカーなどWeb以外のインターフェースにも柔軟かつスピーディに対応できるので、ECサイトに限定されない新たな購入体験を提供できる点も評価できるだろう。
ヘッドレスコマースのデメリット
一方、ヘッドレスコマースのデメリットについてもしっかり整理しておく。
1.設計をしっかり行う必要がある
ヘッドレスコマースの持つ可能性を最大限に引き出すためには、より高度な専門知識と開発技術が不可欠である。設計段階からしっかりと行う必要があるので、最初から業務効率化が行えるわけではなく、それに伴い設計・開発段階では費用や工数が増加しやすいことは覚えておきたい。しっかり設計できていないと今後の運用が難しくなってしまい、企業にとってもユーザーにとっても使い勝手が悪くなる場合もある。
2.自在なカスタマイズができない場合もある
ECの機能をAPIで呼び出すことができればフロントは比較的柔軟にカスタマイズ可能だが、APIの仕様がカスタマイズしたいことを満たしていなければカスタマイズは難しくなる。例えば、バックエンドのロジックに関しては自在なカスタマイズが難しいケースもある。フロントとは異なり、ロジックのカスタマイズを柔軟に行えないAPIもあるということは覚えておこう。また、API自体にも呼び出し回数の制限など考慮すべき要素があるため、開発の際は留意したい。
柔軟なカスタマイズが特長のヘッドレスコマースを検討する際、メリット・デメリットはもちろん、ECシステムに求められる柔軟性とは何かについて考える必要がある。ECサービスの柔軟性は、送料や税などを扱うロジックにおいてどれだけの選択肢が提供されるかという「機能的柔軟性」と、そのサービスを利用してEC構築した際にどれだけの選択肢が提供されるかという「実装的柔軟性」の2点に分けられる。ヘッドレスコマースの実装的柔軟性は非常に優れているが、機能的柔軟性とは全く異なる性能のため、必ずしも機能的柔軟性が保証されるわけではない。サービス選定の際は、自社が必要とする機能的柔軟性と実装的柔軟性をよく洗い出し、それらを混同せず調査することを心がけよう。
ヘッドレスコマースの可能性を引き出し、事業を発展させるために
ヘッドレスコマースは、今後ますます多様化する顧客とのタッチポイントに柔軟な対応が可能で、企業の業務効率化と顧客体験の向上も両立できる革新的なECシステムである。ECシステムのAPI化や柔軟なAPI呼び出しができる点は非常に有用だが、単純にフロントとバックエンドを分けることだけを考えてしまうと、サービスベンダーやデータの保存場所が分かれて利便性が損なわれたり、希望のカスタマイズが行えないなど、予想外の問題が発生しやすい。拡張性の高さゆえに誰でも簡単に扱えるものではなく、その可能性を引き出すためには、事前調査や開発環境の整備が必須となるのだ。
海外ではすでに成功事例もあるヘッドレスコマースだが、国内においてはまだ黎明期を迎えたばかりである。国内のeコマースにヘッドレスコマースがどのように浸透していくのか、今後の動きに注目していきたい。
ヘッドレスコマースと同等の機能を持つECサービス「Commerble」
Commerbleは、株式会社Commerbleが提供している、クラウドネイティブなECプラットフォームだ。
Commerbleは、前述のような問題点をカバーするヘッドレスコマースを包含し、柔軟かつ迅速にEC業務を行えるようにしたシステムである。具体例のひとつとしてCMSの中でAPIを呼び出すことができるため、フロント側のサービスを別途契約する必要がなく、フロントとAPIを柔軟に組み合わせた実装が可能となっている。また、ヘッドレスコマースの弱点であるAPI内部のロジックカスタマイズにも、柔軟に対応できる点が特長だ。
Commerbleでは、ヘッドレスコマースのメリットに加え「APIと柔軟に組み合わせることが可能なCMS」と「APIの途中に処理を挟むことが可能なパイプライン」など柔軟なカスタマイズを可能にする機能が充実しており、このカスタマイズ可能なECプラットフォーム形態をPaaSとして提供している。
ここで紹介している継続改善可能なECシステム資料は、ここからダウンロード可能だ。