Walmart(米国に本社を置く世界最大のスーパーマーケットチェーン)は12月21日、顧客からの返品商品を自宅から無料で集荷することを発表し、オンライン小売業者によるサービスレベルを引き上げた。
「Carrier Pickup by Fedex」と呼ばれるこのプログラムでは、 Walmartのオンラインストアで購入した商品を最小限の手間で返品することができる。購入者はWalmartストアから自宅へ集荷に来てもらう日時を決め、商品の返品ラベルを印刷する。
返品ラベルを印刷できない場合は、Walmartのアプリ内でQRコードを作成できる。作成したQRコードは、FedEx(世界最大手の物流サービス企業)のオフィスでスキャンすることが可能で、顧客に代わりFedexが返品処理を行う。
Walmartは店頭での返品を迅速化するために、いくつかの変更を行うことも発表。例えば、商品の購入方法を問わず、返品のプロセスをオンラインで開始できるようにし、返品商品が店舗に持ち込まれた後のサービスをスピードアップさせる予定だ。
また、レシート紛失の問題にも対応しており、店頭でペイメントカード(クレジットカードやデビットカードなど支払機能の付いたカード全般)で商品を購入した場合は、どのレジでもその取引を呼び出すことができる。
Walmartは、返金手続きにかかる時間も改善されていると補足している。多くのオンラインでの返品の場合、返金は最短で翌日に顧客の支払口座に入金され、店頭での返品の場合は同日中に返金される。
米国Walmartの顧客戦略・サイエンス・ジャーニー担当副社長であるLinne Fulcher氏はステートメントで次のように述べた。
「ホリデーシーズンは、ストレスフルだ。我々は顧客がどのような方法で商品を購入しても、返品の体験を簡単かつ安全でシームレスなものにしたいと考えている。我々は、幾分かのホリデーシーズンのストレス、また、不要なセーターから顧客を解放するための改善策を誇りに思っている」。
手間を省く
消費者と小売業者のいずれにとっても、返品に関するすべてのことは困難な問題である。そして、シカゴの株式証券調査会社 Consumer Intelligence Research Partnersの共同創設者Josh Lowitz氏は、配達済商品の返品はさらに煩雑であると指摘する。
「従来、対面での返品は処理に時間がかかり、多くの場合、後ろめたさを感じる要素があった。配達済商品の返品には、再梱包に加え、郵便局や配送サービス会社へ出向く、もしくは、集荷のための費用を負担する必要があった」と同氏。
また、多様な返品ポリシーも、返品の手間を増やす要因だ。
「消費者が買い物をするすべての店舗が、返品できる店舗、返品が可能な期間や返金までにかかる時間など、それぞれ異なる返品ポリシーを持っている」。eコマースの専門家であり、テキサス州オースティンにあるAmazonセラー向けソフトウェアパッケージの製造元 Jungle ScoutのライターであるBrian Connolly氏はこのように説明する。
同氏は「特に、2020年は商品を安全な方法で返品することが困難だった」と語った。
シカゴのコンサルティングおよびテクノロジーサービス企業であるUpstartWorksのブランドポートフォリオマネージャーであるHannah Frentzel氏は、オンラインショッピングの最大の利点の1つは、消費者が自宅から出る必要が全くないことであると指摘する。
「返品の手間は、通常、返品のために自宅から出かけなければならないことにある。商品の返品をしようと思っている多くの人々が、返品手続きを実行しないことがよくある。彼らは返品予定の商品を何ヶ月も車の後部座席に置いたまま、返品する時間を見つけたいと思いつつも、決してそれを行動に移さないのだ。したがって、FedExが返品商品を自宅まで集荷に来てくれることは、買い物客にとって革命的なことなのだ」。
「このサービスは、Walmartにとって競争力のある一歩となる。Walmart.comで購入した商品を、何千ものWalmartのいずれの店舗でも返品できることは、すでに消費者にとって大きなメリットであった。自宅から無料で返品できるサービスはオンラインショッピングにおいては珍しいことであり、Walmart.comがその先陣を切っているのは興味深いことだ」と、Lowtiz氏は付け加える。
最適なタイミング
Frentzel氏は、Walmartが新たなサービスを提供するタイミングを賞賛し、次のように述べた。「ホリデーシーズンは、このようなサービスを開始するのに絶好のタイミングだ。この時期に、小売業者は多くの新規顧客を獲得する。そして、彼らに素晴らしい顧客体験と簡単な返品プロセスを提供することで、将来的に新規顧客を確固たるリピーターにすることができるだろう」。
「実際のところ、ホリデーシーズンの小売業者の返品対応は、さらに厳格化することになるとみられる。返品可能期間の短縮や、一部の商品については返品が制限される。これは、Walmartにとっては好ましいことだ。こうした返品対応の厳格化は、Walmartのサービスを際立たせ、ホリデー中のWalmartの対応がより手厚く見えるのだ」と同氏は付け加えた。
FedExを利用した返品商品の自宅集荷は良いアイディアだが、Forrester Research(米国の独立系のアナリスト・ファーム)のアナリストであるSucharita Kodali氏は、物流会社を返品商品の引き渡しに利用するという考えに疑問を呈した。
「正直なところ、少しやり過ぎだと感じている。5,000近くの店舗があるにもかかわらず、なぜ自社以外のロケーションへ誘導するのかが不可解だ。私の経験からすると、Walmartは、人々が列に並んで待つ必要がないよう、返品とカスタマーサービスデスクのスタッフをもう少し手厚く配置できると考えられる。同社がスタッフ配置の問題を解決すれば、おそらくオンライン注文品の店頭返品における最大の問題点が解決するだろう」と同氏は語る。
「実際、私がWalmartなら、他の小売業者にサービスを提供し人々を店舗に呼び込み続けることを試みるだろう。しかしWalmartは十分な客足があるか、人混みをコントロールする必要があるため、そうした働きかけを続ける必要はないのかもしれない」とKodali氏は続けた。
Amazonとの競争
返品商品の自宅集荷は、消費者にとってメリットがあるが、WalmartとFedExの双方にもビジネス上の利益をもたらす可能性がある。「こうしたサービスは、返品商品を効率的に処理するというWalmartの物流ニーズに対応している一方で、WalmartにとってのかけがえのないパートナーになりたいというFedExの考えが動機のある部分を占めている可能性もある」とLowitz氏は指摘する。
Connolly氏は、WalmartがAmazonと競争するために多くの変更を行っていると付け加えた。「商品返品は、Amazonが大勝していた分野の一つであった」。
「これは、Walmartが、自社とAmazonとの間にある差を縮めるためのもう一つの試みに過ぎない。Amazonは、すでに顧客が商品を返品するためのさまざまな方法を提供しており、簡単に返品できるよう最善を尽くしている。Walmartは、今日の発表があるまで、従来型の返品方法にしか対応していなかった」と同氏は主張した。
「Walmart+(Walmartの有料会員サービス。商品の当日無料配達の他、燃料割引などの特典が受けられる)を導入し、商品を販売する方法としてWalmartの採用を検討する売り手が増加している。そのため、Walmartにとって、消費者向けの簡単な返品手続きなど、競争力のある特典を提供し、売り手を満足させることが重要なのだ」と同氏は続ける。
大手小売企業がより多くの無料サービスを展開し、ショッピングプロセスのすべてのポイントでフリクションを減らしていく中で、小規模小売業者は危機感を抱き始めている。
「AmazonでもWalmartでもない事業者にとっては、日々のビジネスがますます厳しいものになりつつある。人々は、どこで買い物をしても、送料無料、無料返品と交換、そして2日間での配送を期待するようになった。AmazonとWalmartにとっては容易いことでも、他の小売業者にとっては利益が出ないのだ」とFrentzel氏は語る。
Connolly氏は、小規模な小売業者にとっては厳しい競争であることを認めている。「しかし、これらの小規模小売業者は提供するものや、提供方法を変えることで適応する方法を学んでいる。便利だとしても、すべての人がWalmartやAmazonでいつも買い物をしたいと思っているわけではないのだ」と同氏は加えた。
※当記事は米国メディア「Ecommerce Times」の12/22公開の記事を翻訳・補足したものです。