サブスクリプションサービスランキング ― サブスクリプションの定義から紐解いた評価軸に基づく、国内25のサブスクリプションサービスの評価
顧客に継続的な利用権を提供することで安定した売上を獲得できるビジネスモデルとして注目を集める「サブスクリプション」。今回は、具体的にどのようなビジネスがサブスクリプションと定義されるのかを考え、理想的なサービスを判断するために一定の基準を設け、国内で提供されている25サービスについてeccLab独自の評価軸で評価を行いランキングした。
※このランキングはサービスの優劣を明確にすることが目的ではなく、サブスクリプションサービスの定義を具体的なサイト事例を元に改めて考え、理解を深めることを目的としている。また、ブランドの背景情報などは一切考慮しておらず、実情に即していない部分もある可能性がある点もご理解下さい。
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サブスクリプションとは
サブスクリプションとは「定額料金を支払うことで一定期間サービスが受けられる」という形態のビジネスモデルで、略してサブスクとも呼ばれる。サブスクリプションという言葉はもともと、新聞などの予約購読や年間購読を意味する用語としてアメリカで使用されていたものに端を発している。
サブスクリプションの特徴は、リカーリング収益モデル(Recurring Revenue model)という、継続的に利益を得られるビジネスモデルをベースにしている点にある。Recurringは繰り返す、循環するという意味を持つ単語だ。一般的なサービスの課金形態は従量制と定額制に分類され、そのうち定額制リカーリング収益モデルである後者がサブスクリプションに該当する。また、サブスクの中にも従量制と定額制を掛け合わせた課金制の収益モデルも存在している。
サブスクリプションの必須条件のひとつに、「サービスの自動的な継続性」というものがある。つまり、利用者が自発的に解約を行わない限り、自動で料金を支払い続けるシステムということだ。この点を踏まえると、同じ商品が定期的に送られてくる定期購入や毎回異なる商品が送られてくる頒布会のようなサービスも、定義上はサブスクの一種と捉えることができる。したがって、本記事では定期購入や頒布会などもサブスクリプションとして扱い、紹介していく。
以前は買い切り型が主流だったこともあり、たとえ短期間の利用であっても高額なプロダクトの購入が必要になるなど、ハードルの高い商品やサービスが多く存在していた。しかし、サブスクリプションの普及によって所有せずとも自分に合った料金プランで利用可能になり、その手軽さから若年層を中心に注目を集めている。最近では、定められた利用範囲内で購入者が自由に商品を選べるほか、購入者の嗜好に合わせてパーソナライズされた商品が送られてくるものなど、「顧客のニーズに合ったものを提案する」ことに重きを置いたものも増えている。このように、利用と所有に伴う意思決定のプロセスをパーソナライズという形で簡略化したサービスが存在することも、サブスクならではのポイントといえるだろう。
以上を踏まえ、顧客の状態に合わせてサービス利用前の認識とサービス利用後の体験の2段階に区切り、さらに掘り下げて考えていきたい。
理想的なサブスクリプションとはどのようなものか
一言でサブスクリプションといってもそのサービス範囲は広く、一定期間において商品を定額で利用できるだけでは、サブスクとしての必須条件を満たしているだけに過ぎない。ここでは、理想的なサブスクとはどのようなものか、そしてここ最近のサブスクビジネスにおいてどのようなトレンドがあるのかを、サービス利用前とサービス利用後の各段階を顧客視点でシミュレートしながら整理していく。
サービス利用前の認識
サブスクリプションに限らないことだが、SNSを用いた情報発信は認知度の向上につながり、利用のきっかけとなりうるので、第一段階として重要である。次に、サブスクを利用する消費者のニーズは、高額商品などを所有せずレンタル感覚で利用できることと、選ばずともパーソナライズされた商品が自動で届くことの2点に大別される。料金プランの豊富さはターゲット問わずメリットといえるが、スマホで簡単に操作できるアプリの用意、加入のハードルを下げるトライアルの実施など、ターゲットに合わせて手軽さをPRすることもサービス加入の促進につながるだろう。また、申し込み後すぐに商品が届く即時性、サービス対応エリアの充実、利用者の声が聞ける口コミなども、サブスクがECの一種である以上欠かせない要素である。
サービス利用後の体験
サブスクリプションは顧客に継続してもらうことが肝になるので、サービス加入後の利用体験はさらに重要だ。顧客の継続率は、商品やサービスが期待通りのものであるか、もしくは支払った金額以上の価値を得られるかどうかにかかっているといえるだろう。また、サービスを継続したくなるようなベネフィット、顧客の興味を引き続けられるラインナップ追加のほか、必要に応じてプランやサイクルを調節できると理想的だ。不明点があった際に参照できるFAQページはもちろん、チャットを用いたオンラインサポートがあると顧客が疑問を解決しやすく、親切である。また、解約プロセスや料金プラン変更の分かりやすさも、安心してサービスを利用する上で不可欠といえる。
サブスクリプションの評価軸と評価項目、評価方法
理想的なサブスクリプションについて把握したところで、それらに必要な要素をピックアップし、サービスを客観的に評価するための評価軸と評価方法に落とし込んでいく。サブスクには顧客が必要とするものをピンポイントで提供するという特徴があり、ビジネスモデルの肝である継続の可否が顧客に委ねられているため、評価軸もサービス利用前の認識とサービス利用後の体験という顧客視点の2軸をベースに進めていく。ここでは、評価軸ごとに7つの評価項目を設け、合計14項目で評価を行った。〇△×の3段階で評価を行い、各軸14点満点、2軸合計で28点満点での評価となっている。
では、それぞれの評価軸の評価項目と評価方法を見ていこう。なお、これらの評価はランキング作成のために便宜上一意的に行っているものであり、取り扱い商品によっては、意図的に〇となる取り組みを行っていないケースもある等、場合によっては絶対的な指標とならないことをご理解頂きたい。
サービス利用前の評価項目と評価方法
・料金プランが充実しているか
〇 料金プランが複数ある
△ 単品購入がメイン
× 料金プランが1つのみ
・サービス利用開始までの期間が短く、即時性に優れているか
〇 加入時期に制限がなく、すぐに利用可能
△ 加入時期に制限はないが、利用開始まで時間がかかる
× 募集時のみ加入可能
・専用アプリなど、スマホ向けに最適化されているか
〇 専用アプリがあり、アプリ上で完結できる
△ 専用アプリはあるが、機能が限られている
× 専用アプリがない
・トライアルや初回割引があるか
〇 無料トライアルがある
△ 有料トライアルがある/初回割引がある
× トライアルがない
・認知度向上のための情報発信を行っているか
〇 SNSアカウントがあり、更新頻度が高い
△ SNSアカウントがあるが、更新頻度が低い
× SNSアカウントがない
・サービス対応エリア
〇 ほぼ日本全国に対応している/制限なし
△ 一部対応していない地域あり
× 主要都市のみなど、対応エリアが限られている
・口コミや他サービスとの比較があるか
〇 口コミとサービス比較の両方がある
△ どちらか一方がある
× 掲載されていない
サービス利用後の評価項目と評価方法
・パーソナライズやレコメンドに対応しているか
〇 両方に対応している
△ どちらか一方に対応している
× 対応していない
・料金プランの変更や追加に対応しているか
〇 料金プランの変更や追加が可能で、手順がわかりやすい
△ 料金プランの変更や追加は可能だが、手順がわかりにくい
× 対応していない/料金プランが1つのみ/単品購入がメイン
・継続性を高めるベネフィットがあるか
〇 基本的な特典(ポイントやクーポンなど)以外のベネフィットがある
△ 基本的な特典(ポイントやクーポンなど)のみある
× 特典がない
・商品の交換や追加などに利用制限があるか
〇 定額で使い放題の料金プランがある
△ 既定の範囲内で可能/別途料金を支払うことで可能(単品購入を含む)
× 商品の交換や追加などは不可/料金プラン変更による対応のみ
・解約手順のわかりやすさ
〇 わかりやすい場所に記載があり、手続きが容易
△ わかりやすい場所に記載があるが、手続きに手間がかかる
× わかりやすい場所に記載がない/オンラインでの手続き不可
・サポートの有無
〇 チャットなどのオンラインサポートとFAQの両方がある
△ どちらか一方がある
× 基本的なサポートのみ(お問い合わせフォームや電話など)
・商品・サービスのラインナップ
〇 ラインナップが豊富で、追加が頻繁にある
△ ラインナップは豊富だが、追加が少ない
× ほぼ決まった商品のみ取り扱っている
今回評価したサブスクリプションサービス
今回評価したサブスクリプションサービスは、国内でサービスを展開しているサイトから、サブスクの定義を満たす定期購入や頒布会なども含めてピックアップした。対象はアパレル・ファッション4サイト、家具・家電4サイト、食料品・日用品4サイト、美容・健康4サイト、その他ジャンル9サイト、合計25サイトとなる。なお、今回の評価では新進気鋭の新しい取り組みに脚光を当てることも目的としていることから、既にユーザー数を膨大に抱えている、例えばミュージックやビデオ系のサブスクサービス等は評価対象外としている。
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サブスクリプションサービスランキング
それでは、評価結果とランキングをカテゴリ別に見ていこう。ランキング作成の元となる各評価軸の調査は2021年2月2日から2月26日に実施した。
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アパレル・ファッション
まずはアパレル・ファッションカテゴリから見ていこう。
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アパレル・ファッションカテゴリは、他カテゴリと比べて全体的にスコアが高くなりやすい傾向があった。自分に合った洋服が自動で毎回送られてくる点や高額な商品を所有せず利用できる点が、サブスクリプションの特性とマッチしているからだろう。アパレル・ファッションカテゴリで総合スコアが最も高かったのは、定額で洋服が借り放題のサービスMECHAKARIだ。
MECHAKARIはサービス利用前・利用後のどちらの軸も高評価で、サブスクのメリットを活かしバランスよく設計されていることがわかる。毎月自動で洋服が届く手軽さだけでなく、借り続けることで購入できるベネフィットもあり、サブスクリプションの理想形のひとつといえるだろう。サブスク2番手はブランド品の腕時計を扱うKARITOKEと、同じくブランド品のバッグを扱うLaxusが同点で並んだ。どちらもサポート体制と商品ラインナップの評価が高く、必要なときに必要な商品を適切に利用できるよう配慮がなされている。My Little Boxはパーソナライズ要素がなくサプライズを楽しむタイプのサービスだが、その反面顧客の嗜好や要望を反映させることが難しいためか、この中では伸び悩む結果となった。
家具・家電
続いて家具・家電カテゴリを見ていく。
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家具・家電カテゴリは、サービス利用前とサービス利用後のスコア平均値に大きな差はないものの、サービスによってそれぞればらつきが出やすい傾向があった。商品の特性上かさばるものや高額なものが多く、ニーズのある顧客もそれなりに限られるため、サービス加入の手軽さを評価する項目は全体的に低めである。そんな中で最も総合スコアが高かったのは、カメラレンタルのサブスクGooPassだ。
GooPassは一眼レフなどの本格機材が定額で使えるサブスクで、サービス利用前の評価が特に高い。アプリやトライアルなどの手軽さをあえて捨て、高額商品ならではの長所を伸ばす適切な施策がターゲットとマッチし、功を奏したケースといえる。扱う人を選ぶ商品のためどのサービスでも真似できるわけではないが、参考にできる点は多くあるだろう。2番手はsubsclife、3番手はCLASと、家具のサブスクが僅差で続いた。サービス内容は類似しているが、subsclifeはサービス対応エリアが広いことと、気に入った家具を買い取れる点においてアドバンテージがある。スグゲーはゲーミングPCを扱っており、高額なハイスペックPCを購入してもすぐ型落ちになってしまうなどの悩みから解放される可能性を秘めているが、商品特性もあってかサービス利用後の制限の多さが目立つ結果となった。
食料品・日用品
次に食料品・日用品カテゴリを見ていく。
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食料品・日用品カテゴリは、プランの豊富さとすぐに利用できる即時性の評価が高くなりやすい傾向があった。目的や予算に応じてプランを選択でき、必要なものがすぐ届くという点は、このカテゴリにおいて特に重要な項目といえるだろう。そんな中で最も総合スコアが高かったのは、生鮮食品やミールキットを扱うOisixだ。
Oisixは一見ネットスーパーのようにも思えるが、毎日の暮らしで必要な食材セットがおまかせで届く商品や、献立の悩みを解消するミールキットに力を入れるなど、サブスク要素の強いサービスである。パーソナライズを筆頭にスコアが全体的に高く、満遍なく施策を実施していることがうかがえる。2番手はアイスクリームのサブスクHIO ICECREAM PINT CLUBで、フレーバーは原則としておまかせとなるが、苦手なフレーバーがある場合は事前に連絡すれば代替品に変更できるなど、食品ならではの配慮がなされているのが特徴だ。3番手は自販機のサブスクeverypassで、定額で好きなドリンクを毎日1本受け取ることができるというものだが、現状では加入できる時期と人数が限られてしまっている。4番手はニューノーマルにおいて欠かせないマスクが定期的に届くGALLEIDO SANITARY MEMBERというサービスで、世間のニーズにはマッチしているものの、解約が電話のみである点などは改善の余地があるだろう。
美容・健康
さらに、美容・健康カテゴリを見ていく。
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美容・健康カテゴリは、他カテゴリと比べてサービス利用前のスコアが高くなる傾向にあった。SNSを活用した情報発信の評価項目がどのサービスでも最高評価となっている点も、ターゲット層の特性が表れているといえるだろう。美容・健康カテゴリで最も総合スコアが高かったのが、オンラインフィットネス動画サービスのLEAN BODYだ。
LEAN BODYは全体的にスコアが高く、特にサービス利用前の評価が軒並み高得点となっている。簡単な質問に答えることで最適なレッスンが選ばれるパーソナライズ要素のほか、課題のクリアバッジや修了証が集められるベネフィットなど、加入後も顧客が楽しく続けるための工夫が凝らされている。2番手は美容室の定額通い放題サービスMEZONで、プランが豊富かつ自分に合ったプランを見つけるためのコンテンツも用意されているが、利用可能な美容室を確認できるのは無料会員登録後となっている。スコアには出にくい要素だが、店舗型美容サブスクでは対応店舗の数が利便性に直結するため、今後の課題となりうるポイントだろう。3番手は化粧品やサプリメントを扱うKINSで、本記事ではその中のKINS BOXという定期コースをピックアップした。検査キットや体質に合わせたカスタマイズに力を入れており、LINEによるサポートも行うなど、定期購入でありながら双方向コミュニケーションの要素も併せ持つ。4番手は化粧品を扱うAGILE COSMETICS PRODUCTで、こちらは従来の定期購入により近いサービス内容である。今回ピックアップした4サービスは個性的な取り組みが目立つためスコア上は4番手となったが、初回購入割引や安価で始められるコースが用意され、加入のハードルを下げる施策が重点的に行われている。
その他
最後に、その他のカテゴリを見ていこう。
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その他のカテゴリには多彩なサービスが存在するため、スコアにも大きなばらつきが見られた。そんな中、最も総合スコアが高かったのが医療関係者にいつでもオンラインで相談ができるDoctors meだ。
これは一言でいえば定額の相談し放題サービスとなるが、オンラインで専門家のアドバイスが受けられるため対応エリアに制限がないほか、既定の回数以内であれば聞き返しも可能など、サブスク視点でも可能性を秘めている。2番手のOFFICE PASSは、法人だけでなく個人でも利用可能なシェアオフィスサービスである。利用前・利用後のスコアのバランスがよく、サービスの特性もあり即時性が高評価となっている。利用可能なシェアオフィスは随時追加されているが、必要なときに必ずしも付近にシェアオフィスがあるとは限らないため、今後の拠点拡大に期待したいところだ。
ランキングから読み解くサブスクリプションの未来
今回は、国内25のサブスクリプションサービスをピックアップして、顧客視点を重視した2つの評価軸からそれぞれ詳細に評価を行った。繰り返しとなるが、このランキング作成はサービスの優劣を明確にすることが目的ではなく、理想的なサブスクリプションの定義について具体的な事例を元に改めて考え、理解を深めることを目的としている。そのため、成功しているサブスクリプションサービスがどのような取り組みを行い、どのようなことを意識しているのか、その成功の理由を理解するための一助として頂ければ幸いだ。
所有することなく気軽に、必要なものを必要なだけ手にすることを可能にしたサブスクリプションは、ミニマリストや断捨離などの「持たない生活」というトレンドを受けて今後も普及していくだろう。今では、利用者に合わせてパーソナライズされた商品が届くなど、サプライズを楽しむような新しいタイプのサービスも増えている。この点が従来のレンタルサービスとの違いであり、サブスクリプションならではの可能性を秘めたポイントであるといえるだろう。
一方で、従来の定期通販では、サービス加入の次に顧客がWebサイトを訪問するのは解約するときだと揶揄されてきた。しかし、これからのサブスクは、事前情報としての口コミやレビューとは別に、利用者自身が情報を発信・交換し、その周りに利用者が集うコミュニティのような場を設けることなどで、顧客とのエンゲージメントを高め、ビジネスの要である解約率を下げることなども考えていく必要があるだろう。
価値観の多様化は、マーケティング手法だけでなく、ECでモノを売ることの在り方にも変化をもたらした。顧客を理解することで商品を提案していくサブスクリプションサービスがどのような発展を遂げるのか、今後も注目していきたい。
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