中小企業が、デジタル広告およびマーケティングサービスに支出する額は、年間数十億ドルに及ぶ。

 

米国ではCOVID-19による経済的低迷への関心の大部分は、3月以降に生じた3,860万人の雇用喪失に向けられている。国勢調査のデータでも、米国の約47%の世帯がレイオフ(一時解雇)または給与削減といった影響を受けていることが示されている。

 

しかし、COVID-19がSMB(中小企業)に与える影響や、それに関連したデジタルマーケティングのエコシステム(複数の企業やサービスがつながり共存するための仕組み)に及ぶ影響については、それほど注目されることはなかった。30万社以上のSMBを対象としたAlignable社(米国で中小企業を対象としたSNSサービスを展開)の調査によると、現在、約85%が主に収益の損失やレイオフという形でCOVID-19の影響を受けているという。SMBの約75%が政府のPayroll Protection Program(PPP:給与保護プログラム)の支援に申請しているものの、5月上旬までに支援を受けることができた企業は40%未満にとどまっている。

 

出典: Alignable

 

わずか数ヶ月分の手元現金

米国の約 3,000 万社の中小企業のうち 90%以上が、従業員数 10 人未満という規模である。米国政府のデータによると、米国の雇用の48%はSMBが抱えており、2005年から2019年までの新規雇用創出の64%は、小規模事業者によって生み出されている。

 

しかし、現在、SMBは過去75年間において例を見ないほどの存続の脅威に直面している。大手銀行Facebookなどの調査、データによると、SMBの3分の2は、数ヶ月分の手元現金しか保有しておらず、それより少ない場合もしばしば見受けられる。党派政治はさておき、この点の認識が間違いなく今すぐ経済を再開させようとする動機の一つとなっている。

 

SMBの支出は、年間数十億ドルに相当するため、グループとしてのSMBの存続は、デジタルマーケター、代理店、SaaS(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)企業にとって重要である。GoogleやFacebookの広告主の多くは、厳密には、SMBに該当する。一方で、確実に信頼のおける試算はないものの、SMBによるマーケティング支出総額は莫大なものとなっている。

 

数十億ドルのマーケティング費用がリスクにさらされている

これまでSMBは、広告やマーケティング費用として、毎年平均で約6,000ドルを支出してきたが、実際には、それ以下である場合が多いという。SMBのマーケティング支出者が600万人だと仮定してみよう。仮説上、これは年間360億ドルのマーケティング費用に相当するが、そのうちいくらかは依然として従来のメディアやオフラインマーケティング費用とされている。しかし、Intuit(米国のビジネスおよび金融ソフトウェア企業)などの企業は、SMBの全体的なマーケティング支出は年間1,000億ドルを超えると主張する。

 

SMBが破綻した場合、デジタルマーケティングエコシステムにおいて、その予算が失われてしまうのは明白だ。様々な調査や予測により、恒久的な閉店リスクの定量化を試みているものの、コンセンサスは得られていない。今月初めに発表されたある学術調査では、米国のSMBの2%がすでに破綻したと推定されている。しかしながら、他の調査に基づく推計では、経済が年末までに「通常の状態に戻らない」場合、700万社から約1,200万社のSMBが恒久的な閉鎖リスクにさらされる可能性があると主張している。

 

ビッグテックによる援助と自己利益追求

この状況下で、義務感と自己利益追求の両方が動機となり、全ての大手テック企業(Amazon、Google、Appleなど)が様々な形でSMBへサポートを提供している。

 

Googleは今月初め、米国、カナダ、英国、およびその他の英語圏市場向けに、ビジネスプロフィールのサポートリンクを導入した。これにより、ビジネスオーナーは、寄付やギフトカードのリンクをプロフィールに追加でき、資金が必要とされる理由やその使途についてのメッセージを添えて、プロフィールに追加することができる。寄付に関してGoogleは、PayPal(オンライン決済サービス企業)、GoFundMe(米国のクラウドファウンディングプラットフォーム)と提携。ギフトカードについてはSquare(米国モバイル決済企業)、Toast(レストラン管理プラットフォーム)などと提携している。また、これまでにも、同社は3億4,000万ドルの広告クレジットを含む数億ドルのSMB支援を誓約している。

 

Facebook は、これまでに中小企業向けに1億ドルの助成金(広告クレジットを含む)を用意しており、そのうち4,000万ドルを米国市場向けとして提供。また、同社は多様な企業と提携し、消費者が地元企業のプロフィール経由でギフトカードやクーポンを購入できるようにしている。同社が今週発表したアプリ間共通のeコマースプラットフォーム「Facebook Shops」は、オンラインで活動する中小企業を対象としている。

 

Yelp(米国のローカルビジネスレビューサイト)は、中小企業、特にレストランやバーを対象として、様々なツールやサービスを無料で利用できるようにした。また、広告料の免除、無料広告、様々な製品のアップグレードといった2,500万ドル相当のSMB救済プログラムを実施した。

 

Bing(Microsoft提供の検索エンジン)の寄付ボタン: GoFundMeとの提携により、Bingでは地元のリスティングページに寄付ボタンを表示できるようになった。

 

Nextdoor(地元近隣の住民を対象とする米国発のソーシャルネットワークサービス)では、事業者プロフィールページにリンクを貼ることで、ギフトカードの購入やGoFundMeキャンペーン実施による資金調達の援助を行っている

 

Help Main Street(食事券を購入し米国の飲食店をサポートするオンラインプラットフォーム )のように、無料サービスと資金によって小規模企業を支援しようとする救援活動は他にも数多くみられる。現時点で答えが出ていないように見える懸案、それは、これらの取り組みが「実際に助けとなっているのか?」「これらのリンクやプログラムは、実際に地元のビジネスオーナーのための資金と収益を生み出してしているだろうか?」ということだ。

 

政府融資と民間資金調達の組み合わせにより、多くの中小企業が資金不足に陥らないようにすることはできるのだろうか?我々はそれを心から祈っている。地域社会のバイタリティや特性が今まさに危機に瀕しているのだから。

 

 

※当記事は、英国メディア「Marketing Land」の5/26公開の記事を翻訳・補足したものです。