2020年も終わりに近づき、ゲーミファイドサービスを提供するGameloftの北米担当マネージングディレクターであるCasey Campbell氏が、2021年のデジタルマーケティングを席巻するトレンドとテクノロジーについて語った。

 

ほとんどの人々が何週間も続く自宅待機を強いられた結果、モバイルゲームやeコマースなどの一部のセクターは、売上を大幅に増加させた。だが、2020年がほとんどの人にとって忘れてしまいたい1年であったことは間違いないだろう。2021年は、より正常な年になると誰もが願い、自信を持って前を向いているなか、来年のトレンドやテクノロジーについて検討してみたい。以下に、私の考えを紹介しよう。

 

ブランドによる利用が増加するゲーミファイドAR

パンデミック前からより多くの人々がオンラインショッピング・プラットフォームの提供する高い利便性と豊富な品揃えを選択するようになり、実店舗での買い物は衰退していた。しかし、オンラインショッピングに欠けていることの1つは、実際の人間と対話し、実物の製品に触れるという機能である。インターネット上で、靴を試着することはできないのだ。しかし、拡張現実(AR)を活用し、試着が実現させる、または、満足のいく代替サービスを提供することは可能である。

 

ARは、買い物客がバーチャルに商品と触れ合うことを可能にし、対面ショッピング体験を再現するのに役立つ。買い物客は、家具小売のIkeaの顧客が「Ikea Place」 アプリで行っているように、バーチャルでリビングルームに椅子を配置し、自分の部屋のインテリアに合うかどうかを確認することができる。また、商品出荷前に化粧品や洋服を試着してみることもできる。サングラスメーカーのGoodrは、ARを活用し、消費者がサングラスを購入前に、バーチャルに試着できるようにした結果、コンバージョン率が32%増加したと報告。一方、バッグ小売業のEBagsでは、ブラウザベースのAR体験を導入し、買い物客があらゆる角度からバッグやスーツケースを閲覧できるようにし、モバイルでのコンバージョン率が112%、PCでの閲覧率が81%増加したと報告している。

 

AR技術は、安定して確立されていて、バーチャルリアリティ(VR)とは異なり、ほとんどの携帯電話から簡単にアクセスすることができる。ARには、まだ目新しさがあり、「すごい!」と思わせる要素があるため、キャンペーンを効果的に実行すれば高い注目を集める。他の例として、ワインメーカーのTreasury Wine Estatesの「Living Labels」アプリが挙げられる。これは、顧客がワインボトルのラベルをスキャンして、そのワインについての詳細情報を見ることができるARアプリである。Treasuryの「19 Crimes」ブランドは、実在の犯罪者、芸術家、学者で、自分が犯した犯罪のためにオーストラリアに「流刑」となった人々の画像を使用している。 顧客が各ボトルのラベルをスキャンすると、ラベルに描かれたそれらの男女の写真が浮かび上がり、自身のストーリーを語る。これは、AR技術の素晴らしい活用方法であり、このアプリがすでに200万回以上ダウンロードされていることは驚きではない。その実際の様子はここで見ることができる。

 

ARによって、顧客の現実の中にブランドを引き込むことにより、楽しく魅力的な瞬間を作り出す。そして、瞬時にソーシャルネットワーク間で共有することができ、リーチとバイラルアピールを高めることが可能となる。我々は、インドネシアのミレニアル世代の消費者に人気のある同国美容ブランド、Pucelle向けに、消費者が顔のジェスチャーを使ってPucelleアバターを操作し、誘導しながら街中の通りを走り、障害物を避けてポイントを集めるARゲームをInstagramで制作した。このAR体験は、PucelleのZ世代オーディエンスの想像力を刺激し、Pucelleブランドが一番に思い浮かべられるようになった。実際のゲームの様子はここで見ることができる。

 

また、最近、製菓ブランドのKinderと提携し、ARによって、Kinderのおもちゃに命を吹き込む無料モバイルアプリ「Applaydu」を制作した。このアプリは、4歳から9歳までの子ども向けエデュテイメント・プレイ体験であるが、家族全員が一緒に使用できるようデザインされている。また、Applayduは、アプリ開発中にOxford大学の教育学部とコラボレーションし、子どもの認知能力を育てる助けとなるよう最適化されている。これもまた、ARが一見不可能に見えることを可能にし、ブランドとそのコアオーディエンスとの間に強い絆を生み出す方法の一つである。

 

ARは、単なるギミックではない。上記のGoodrやEbagsの例が明らかにしているように、売上と収益の向上に貢献している。BRP(Boston Retail Partners)の2018年 Digital Commerce Surveyによると、消費者の48%が、AR体験を提供している小売業者から購入する可能性はより高くなると回答。しかし、このレポートが発表された時点では、ARを利用している小売業者は15%しかなく、その後3年間、VRやARアプリケーションの導入予定があると答えた小売業者は32%にとどまっていた。ARに賭けるブランドや小売業者には大きなチャンスが存在しているのだ。

 

バーチャルイベントにおけるゲーミフィケーション

人々が物理的に対面するイベントに大人数で集まることが許可させるまでには、もうしばらく時間がかかるだろう。そして、たとえ許可されたとしても、人々が安心できるようになるにはさらなる時間を要するだろう。Zoom疲れが生じるにつれ、イベント主催者は、対面式会議の興奮と人と人とのつながりを再現する方法を模索している。そこで、ゲーミフィケーションが有効となる。

 

実際、改めて考えてみると、ゲームは常にイベントの一部となっている。iPadを当てるチャンスのために、抽選箱に自分の名刺を入れたことがない人はいないだろう。バーチャルな世界において、イベントのゲーミフィケーションは様々な形態をとることができる。イベント主催者は参加者に対し、イベントスポンサーとの交流やソーシャルメディアでのイベント体験の共有などを促し、それに対するインセンティブとしてリアルまたはバーチャルな賞品を提供することができる。

 

リーダーボードもまた、バーチャルイベントでエンゲージメントを向上させるための優れた方法である。出席者が参加したり、質問をしたり、投票に答えるたびに、リーダーボードの順位が上がる。出席者は、これを勤務先に持ち帰り、イベントへの参加時間が有意義であったことを上司に証明することができる。

これは、双方に利益のある状況である。出席者にとっては、イベントがより楽しく、やりがいのあるものになり、主催者にとっては、最も積極的に参加した出席者がわかり、今後のイベントへの参加を彼らに呼びかけることが可能となる。また、データに基づいて、イベントのどの部分が最もうまくいき、どの部分のパフォーマンスがあまりよくなかったのか確認することもできる。

 

ネイティブ広告を統合したクロスプラットフォーム・ゲーム開発

ゲーム開発者は、PC、コンソール(家庭用ゲーム機)、モバイルなどの複数のプラットフォームで動作可能にするため、複数のバージョンを作成するケースが増えている。これは、手元にあるどのデバイスでもお気に入りのゲームをプレイできるということを意味し、ゲーマーにとっては嬉しいことである。つまり、自宅のゲーム機でゲームを開始して、その同じ日に外出先から携帯電話でゲームの続きを楽しむことができるのだ。さらに、5Gが展開されると、携帯電話ネットワークへの接続時であっても、モバイルでのゲーム体験の質は、PCやゲーム機での体験に劣らないものとなるだろう。また、5Gによって、リアルタイムチャットからタイムラグのないマルチプレイヤーゲームといったゲーム内ソーシャル機能導入の新たなチャンスがもたらされるだろう。

 

ゲーム内で開発者が作り出す環境は、とてもリアルで臨場感がある。そのため、ゲームは、プレミアムブランドをアピールするのに最適な場所であるといえる。さらに、広告を、ゲーム環境内に自然に、ネイティブに統合することが可能である。文脈から外れた不格好なバナー広告をゲーム画面上に表示するのではなく、レーシングゲームのバーチャルコース沿いのビルボードにブランド広告を表示したり、車そのものに広告を表示したりすることを考えるべきである。ゲーム内へ広告出稿するというアイデアがまだ現実的でないブランドもあるだろう。しかし、ゲームオーディエンスは、すべての年齢層とすべてのデモグラフィックに広がっている。そして、あらゆるデバイス上で、ゲームをプレイしている人々の数は膨大であり、ゲーム内広告は容易に規模を拡大できる。先進的な考えを持つブランドは、ゲームパブリッシャーや開発者と直接的に協業し、ゲーム内に広告をネイティブに統合するケースが増えている。

 

パンデミック渦において、ゲームがこれほどまでに人気となったのには、もう一つの理由がある。確かに、人々はゲームをプレイする楽しさや競い合うスリルを楽しんでいる。しかし、それだけでなく、ゲームは、COVIDによって大幅に減少した人との対面交流に代わる重要な社会的交流手段となっている。また、プレイヤーは、ゲーム内でプレイヤーが自分自身を表現したり、アバターや車、環境をカスタマイズしたりするため、ブランドは、彼らのカスタマイズを充実させるためのツールを提供することでこの分野でも関与することができるのだ。

 

代理店やブランドの専属ゲームチーム

より多くのブランドが、ゲームそのものと、リーチが難しいオーディエンスにリーチするためにゲームが果たす役割を「理解」するようになれば、ブランドや代理店におけるゲーム分野への注目度が高まり、マーケティング計画におけるゲームの位置づけや、ゲームやゲーミファイド・コンテンツにとって重要な評価基準についての理解が深まるだろう。つい最近、広告代理店のDentsu UK and Ireland は、クライアントのゲーマーとのエンゲージメント構築を支援する部門「Dgame」を立ち上げた。

 

すでに述べたように、ゲームのオーディエンス層は幅広い。また、富裕層や教育水準が高い層も多く、ゲームのジャンルやタイプは無数にあるためターゲットを容易に絞ることができる。ゲームのタイプによって訴求する層は異なる。これは、ブランドが、ゲームユーザー全体のセグメント化を始めるハイレベルな方法の1つである。

 

しかし、インタラクティブで能動的に消費されるメディアは、独自の機会をもたらし、それ故に独自のアプローチが必要となる。静的ディスプレイやパッシブビデオのような既存のマーケティングアセットを再利用することは、ゲームオーディエンスとのエンゲージメントを高めるための効果的な方法とはいえず、実際には、ブランドやエージェンシーがリーチしようとしているエンゲージメントの高い顧客を遠ざけてしまう可能性がある。その点は、他のメディアと同様であり、テレビでうまく機能したものがソーシャルでうまく行くわけではないのだ。コンテンツを制作するときは、常にそのコンテンツを提供する環境を考慮しなければならない。ゲームでは、より魅力的でインタラクティブなコンテンツほど効果的である。

 

ブランドや代理店は、マーケティング目標を達成する一方で、社内に専門知識を有し、ゲーマーを魅了し楽しませながら、自社ブランドを真正にゲーマーに表現する方法についての理解を深める必要がある。しかし、ブランドが従来のチャネルにソーシャルを加えながら徐々に適応させてきたように、ゲームはほとんどの場合、キャンペーンにユニークな機会をもたらすことを理解するようになる。そして、ゲームがプランニングの中で果たす役割が大きくなり、最終的にはデジタル、ソーシャル、テレビと並んでデフォルトのチャネルになると考えている。

 

最も革新的なマーケターは、ゲーム開発者と協力して自社ブランドをゲームに統合し、ブランドの「ミッション」やレベル目標を設定することもあるだろう。さらに、ブランドはゲームから学んだことを他のチャネルにも応用し始め、ブランドとの関係を深めることにコミットした顧客向けにさらなる進行と報酬を提供しながら、コラボレーションや競技要素を含むエンゲージメントや目標を開発するようになるだろう。

 

要するに、ゲームの人気は高く、今後も継続するということである。賢明なマーケターやブランドは、どのようにゲームに関与するかを真剣に検討し、目標を設定し、ゲームのポテンシャルをテストしながら、パブリッシャーと緊密に協力して、ネイティブでインタラクティブな魅力的な体験を開発している。

 

では、ゲームを始めるにはどうすればいいのだろうか?それは、思っているよりも簡単である。20年のゲーム開発経験を持つGameloftは、クライアントのマーケティング目的を念頭に置いて、アイデアを取り入れ、創造性を生かし、高品質のブランド・ゲーミファイドコンテンツを制作する専門家である。スムーズにスタートするために、今すぐコンタクトしてみてはいかがだろうか。

 

※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の11/27公開の記事を翻訳・補足したものです。