2020年5月19日、Facebookは新しいECサービス「Facebook Shops」を発表した。これは、InstagramとFacebookの両方からアクセス可能な単一のオンラインストアを開設することができる、小規模事業者向けの新サービスである。

これまでFacebookは、BUYボタン、Facebook Marketplace、さらにはメッセンジャーチャットボットによる決済機能の提供など、ECサービスの展開を何度となくトライしてきた。このFacebook Shopsはどのようにユーザーに受け入れられていくのだろうか。

 

Facebook Shopsは、事業者が取り上げたい商品を選択し、オンラインショップのルック・アンド・フィールをカスタマイズすることができる。

消費者は、Facebookのビジネスページ、もしくは、Instagramのプロフィール、または、ストーリー(24時間で自然消去される投稿)や広告からFacebook Shopsを見つけることができ、事業者の商品ラインアップを閲覧して、興味のある商品を保存することが可能だ。

事業者が、米国内決済を行なっている場合、顧客はアプリ内での商品注文ができる。または、事業者が希望する場合は、事業者ウェブサイト上での注文も可能。(詳細はこちらの動画を参照)

 

消費者は、インスタントメッセージアプリのWhatsAppMessenger 、またはInstagram Direct経由で、Facebook Shopsにコンタクトし、質問をしたりサポートを受けたり、配送を追跡したりすることが可能だ。

 

消費者が、中小規模事業者に直接メッセージを送信できるということは、「中小企業が今まさに必要としている、エンゲージメントを強化できる方法である」と、米国マーケティング会社ClutchのエディトリアルアソシエイトであるMandile Mpofu氏は述べている。

「消費者は、利便性を高く評価する。そして、それはまさにFacebook Shopsが提供するものであろう」とMpofu氏。「私はFacebook Shopsへの消費者エンゲージメントは高くなると予感している」。

 

Clutchが最近実施した調査に回答した中小事業者の34%が、ソーシャルメディアキャンペーンの成功度を測るためにエンゲージメントを使用している。

 

Facebook Shopsは、「すでにFacebookやInstagramを利用し、顧客にリーチしているものの、eコマースプレゼンスが限定されている企業にとって、有効なものだろう」と指摘するのは、リサーチ&コンサルティング会社Valoir社代表取締役であるRebecca Wettemann氏だ。

「Facebookは、Facebook Shopsを使用するための対価を明確にしていない 」と同氏は語った。

 

Facebook Shopsは、18日に発表されたthe State of Small Business Report(小規模ビジネスの状況調査レポート)のリリースに続く形で発表。このレポートは、Facebookが、Small Business Roundtable(小規模企業団体)のメンバーである中小規模企業のオーナー、マネジャー、労働者、86,000人を対象に実施した調査結果を示したものである。

中小企業の将来は厳しいが、このレポートでは、オンライン化が役立つ可能性があることを示唆している。

 

  • 中小企業の経営者・管理者の31%、個人事業者の52%が、現在自社ビジネスを運営できていないと回答。
  • 中小企業の28%は、今後数ヶ月間に直面すると予想される最大の課題が「キャッシュフロー」だと回答。
  • 中小企業の20%は、「需要不足」が、直面するだろう最大の課題と回答。
  • 51%の企業が、顧客とのオンラインでのやりとりが増加したと報告。
  • オンラインツールを利用している個人事業者の36%が、すべての販売をオンラインで行っていると回答。

 

Facebook Shopsは、19日にリリースされた。

「Facebookは、3つの重要な分野において、多大な遅れをとっている。それは、決済とコマース、そして、アイデンティティである」と、リサーチ会社Constellation ResearchのプリンシパルアナリストのRay Wang氏は言う。

「Facebookは、同社が開発した暗号通貨Libraプロジェクトが、これを実行するための基盤として機能することを期待していた。しかし、Libraは、規制当局の承認を得られていないため、実現していない」と同氏は語った。

「15億人のユーザーがいて、コマースを行わず、広告の収益化しか実現していなければ、不利な状況にあるといえる」と、Wang氏は指摘。「Amazonは、コマースを収益化し、すでに広告に参入し、(米国において)100億ドルの収益をあげている」。

 

パートナーとの提携

Facebookは、ECプラットフォーム大手のShopifyBigcommerceWooCommerceChannelAdvisorCedCommerceCafe24Tienda NubeFeedonomicsなどのパートナーと提携している。提携パートナーは、中小企業がFacebook Shopsを構築し成長させ、Facebookの他のコマースツールを利用するようサポートしている。

 

しかしeコマース開発会社であるNetalico CommerceのCEO、Mark Lewis氏は、「Facebookは、もしShopifyやBigCommerce、Magentoのようなプラットフォームが独自のeコマースプラットフォームを構築しようとした場合、彼らを疎外するだろう」と警告する。

Facebook Shopsはむしろ、既存のパートナーとの統合機能の一部を活用していると言える。つまり、「別のプラットフォームというよりは、直接的な収益チャネルになる」と語る同氏。「今のところFacebookは、ただ、広告売上の可能性を最大化するために、自社プラットフォームにできる限り多数の事業者を呼び込むことを望んでいるに過ぎない」。

 

それはまた、GoogleやAmazonでも商品を販売している中小企業にとって、不利益となる可能性がある。なぜなら「Facebookは、自社技術を他社のためには役立ててこなかったという歴史があるからだ」と、ValoirのWettemann氏は述べている。

そのために、解決が困難な技術的な問題が生じる可能性があると同氏は指摘している。

 

広告収入不足分の補完

Googleと同様、Facebookの広告収入は減少するだろう。両社は、小規模事業者の広告購入に依存しているからである。

Facebook Shopsは、その問題を解決するための施策である可能性が高いと、NetalicoのLewis氏は指摘する。「Facebookが発表した内容の一部は、既存の機能である。例えば、Facebook と Instagram上での商品提供とチェックアウト機能など。販売事業者が、Facebookでカタログフィードを設定すれば、FacebookやInstagramで広告を出すのは簡単である」。

 

Facebookは、Facebook Shopsで買い物をする消費者のプライバシーを守ることを公約している。

しかし、同社の動機には疑問があると、ValoirのWettemann氏は示唆する。

「現実的に、Facebookが慈善事業としてFacebook Shopsを提供するわけはない。依然として、消費者や中小企業の中には、Facebookのデータの取り扱いについて、信頼している人もいる。しかし、今回の新型コロナウイルス危機において、Facebookが中小企業に提供している短期的な『支援』は、より多くのデータを収集し、より多くの収益をあげるためのものである。データと責任に関するFacebookの実績を考えると、警戒すべきである」。

 

この先どうなるか

将来的に消費者は、WhatsAppやMessenger、またはInstagram Directのチャット内で企業ショップを表示し、商品を購入することができるようになるだろう。

メッセージングアプリ内でのソーシャルショッピングは「中国のインスタントメッセージングアプリWeChatのように、極めて巨大化する可能性がある」と、Lewis 氏は予測している。

 

この夏、Facebookは、Instagram Shopを導入し、消費者がInstagram Explore上で商品を発見し、購入できるようにする。ナビゲーションバーには新しいショップタブが追加され、消費者は、より簡単にInstagram Shopにたどり着くことができるようになる。

 

Facebookは、ライブ配信前に、FacebookとInstagram上で販売事業者とブランド、クリエイターが、Facebook Shopやカタログから商品をタグ付けすることができる機能のテストを開始した。これらの商品は動画の下部に表示され、消費者はそれらをタップして詳細を確認し、購入することができるというものだ。

 

また、同社は、消費者のFacebookアカウントをロイヤリティプログラムにリンクさせる方法をテストしている。そして、中小企業が、Facebook Shops上でロイヤリティプログラムを作成、管理、表示できるようにする方法も模索している。

 

「これは、Facebookが、より効果的かつ意図的に点と点を結びつけていることを示している」と、Constellation ResearchのプリンシパルアナリストであるLiz Miller氏。

これまでは、事業者がセットアップすることができたコマース・エクスペリエンスへのエンゲージメントは分断されていたと、同氏は述べた。

 

Facebook Shopsによって、「セラーは、市場の屋台から、モール内の店舗にステップアップできる。そのモールとは、すでに消費者がつながっていて、エンゲージしていて、コミュニケーションをとっている場所だ」。

 

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の5/21公開の記事を翻訳・補足したものです。