Bloombergの2019年5月28日の報道によると、Amazonは、長年にわたり取引を行っていた複数の卸売サプライヤーとの関係の見直しに取り組んでいるという。今後は、中小事業者ではなく大企業から商品を供給することになるようだ。
Amazonプラットフォームでの年間売上が1,000万ドルに満たない何千社もの中小サプライヤーは大量の注文を失うことになる一方で、世界最大手の一般消費財メーカーProcter&GambleやLegoのような大きなブランドはその恩恵を受けることになるだろう。
テクノロジーリサーチ会社のConstellation Researchの主席アナリストであるRay Wang氏は、「Amazonが要求する必要条件に対応できない小規模サプライヤーは、Amazonとの取引においてより困難な状況に追い込まれるだろう」と述べている。
Amazonは次のようにコメント。「Amazonは合理化と効率化を実行すべき時期にきている。大規模なコモディティ化が起こっているあらゆる分野をターゲットとするだろう」。
しかし、大規模卸売サプライヤーが、今回の措置の打撃をまったく受けないわけではない。
マーケティング・コンサルティング会社Enderle Groupの首席アナリストであるRob Enderle氏は、次のように述べている。「Amazonは、常に効率性を向上させることに注力している。そして、コスト効率の悪い事業者はその規模に関わらず、常に排除されるリスクがある」。
なお今回のBloomberg の大規模なベンダー削減に関する報道についてAmazonは、「事実ではない」と述べている。
Amazonにとってのメリット
もし、実際にAmazonが小規模卸売サプライヤーとの取引を停止した場合、それらのサプライヤーは、商品を消費者に”直接”販売するセラー方式での販売形式に移行することができる。
取引停止がもたらすAmazon側のメリット:
- ベンダーとの関係を維持し、商品の売れ行きを予測して大量注文を管理するために必要となるAmazonスタッフ数の削減。
- 在庫プロセスの合理化
- 今回の措置の影響を受けたサプライヤーが、Amazonサイトで商品を直接販売した場合にAmazonへ支払われる手数料の増加。
- 梱包や配送などのサービスに対する料金
- Amazonの純利益にプラスとなる、マーケットプレイスが収益に占める割合の増加。Jeff Bezos氏は、4月に株主宛に送付した2018年報告書において、マーケットプレイスがAmazonコマース売上高の58%を占めていると公表している。
「今回のAmazonの動きによって、おそらく消費者の満足度は向上するだろう。小規模サプライヤーは、しばしば問題を引き起こしがちだからである」とEnderle社は述べた。
その「問題」とは、例えば、Amazonへのブランド製品の非正規販売や偽造製品の出荷、その他さまざまな不正手段による競合事業者に対する妨害行為などである。こうした対応に、Amazonはかなりの時間とコストを費やしてきている。
また、同社の卸売業者向けのCRMパッケージを提供しているVendrive CRMのDillon Carter氏によると、今回のAmazonの措置は、Amazonのキャッシュフロー管理をよりスムーズにするためでもあるという。なお、Carter氏はVendrive CRMのAmazon卸売業者成長担当チームを率いている。
同氏は次のように述べた。「Amazonの資本を、より戦略的に自由に流動させることにより、サードパーティの売上をさらに増加させることができる。そして、Amazonの自己資本がボトルネックになることなく、より多くの商品をマーケットプレイスに提供できるようになる」。
サードパーティの売上を伸ばすことにより、「Amazonは、マーケットプレイスの消費者の需要を増加させることに注力できるようになり、サードパーティサプライヤーや売り手が、商品供給の側面を担うことになる」と言う。「実際に、Amazonが現在行っているレベルで在庫管理を行うためには、大量の資本と物流が必要である」。
Enderle氏は、小規模サプライヤーが、依然として小規模のサプライヤーとの取引に注力しているeBayに移行する可能性はあるかもしれないが、「致命的になるほど大多数の顧客が、AmazonからeBayに乗り換えるかどうかは疑問である」と述べた。
サプライヤーに対する取り締まり警告
Amazonのサプライヤーは、まもなく取り締まりが実行される可能性があるという警告を十分に受けていた。
Amazonは3月には、発注額が年間1,000万ドル未満のサプライヤーへの注文を一時的に停止し、一部のブランドの在庫をゼロにして直接販売モデルに変更した。
この3月の措置により、何千社もの中小企業が影響を受けたと報じられた。
Amazonは小規模サプライヤーに対し、自動発注フルフィルメントへのアクセスを継続したい場合は60日以内に「ブランド登録」にサインアップするよう要求している。
「ブランド登録」とは、登録商標を持つブランドオーナーが、Amazonでの存在感を強化するために、偽造品撲滅を目指すProject Zeroイニシアチブを含むさまざまなツールを利用できるプログラムである。
当時Amazonが、ベンダー(卸売業者)セントラルとマーケットプレイスのセラーセントラルを統合して、統合型販売システム「ワンベンダー/One Vendor」を導入するための最初のステップを実行していると憶測されていた。
「Amazonは、独自の条件でサプライチェーンを完全に管理しようとしている」と、Constellation社のWang氏は指摘している。
3月に行った一部の取引停止によって、Amazonは、「利益を増加させると同時に、顧客満足度の向上とコストの削減を達成したと考えられる」と、Enderle社は示唆。「それが、今回の措置を検討する背景となった可能性がある」。
Amazonの市場支配
eコマースデータ会社のJumpshotは、Googleは商品検索分野、特に消費者向けパッケージ商品検索において、Amazonに敗北したと指摘する。
YouTubeのインフルエンサーによって、着実に、Amazonのエンゲージメントとコンバージョンは伸びている。YouTubeのトップ1,000にはいるインフルエンサーチャネルにおいて、8,400万の商品紹介コンテンツビュー数を獲得し、220万件の購入につながっているのだ。そして、トップ10のインフルエンサーチャンネルが、Amazonでの購入の21%を占めた。
消費者への影響
VendriveのCarter氏は、小規模卸売業者との取引を停止し、彼らを消費者への直接販売小売に移行させることで、「サードパーティの売り手間での競争がさらに激化し、消費者にプラスの影響が生じるだろう」と述べた。
「多くのブランドがMAP(最低広告価格)の強制協定を締結する傾向が強くなっている。そのため、ブランドがAmazonのようなサイトでの自社製品の価格設定をより管理しやすくなり、消費者にとって価格安定性が高まる可能性がある」と、同氏は指摘する。
しかし、Constellation社のWang氏は、必ずしもそうなるとは限らないと考えている。「長期的に見ると、サプライヤーの販売先の選択肢が減少し、商品の選択肢も減り、価格が上昇することになるだろう」。
※当記事は米国メディア「E-Commerce-Times」の5/30公開の記事を翻訳・補足したものです。