Amazonは2019年2月28日、ベンダーの偽造品撲滅を支援するプロジェクト、「Project Zero」を発表した。

Amazonが発表した偽造品防止キャンペーンでは、Amazonの高度なテクノロジー、機械学習、およびイノベーションが採用されている。AmazonはProject Zeroの参加ベンダーと提携し、彼らの知的財産権を守るため、偽造品出品を検知し、排除するという。

 

Project Zeroは、偽造品への対抗策として、3つのツールを使用。それは自動プロテクションシステム、セルフサービスの偽造品排除ツール、そして製品のシリアルコード化ツールである。

Project Zeroの目的は、Amazonで買い物をする顧客が常に本物の商品を受け取るようにすることである。

 

Amazonのワールドワイド・トラストおよびパートナーサポートのバイスプレジデント、Dharmesh M. Mehta氏は、「Project Zeroは長年にわたるAmazon偽造品対策への取り組みと投資の結果である」と述べた。今回のプロジェクトによりブランドは、Amazonと連携し、両者の統合した強みを活かしながら大規模、かつ迅速な偽造品撲滅の達成を目指す。

オンデマンド鑑定ソリューションを提供するEntrupyのCEOであるVidyuth Srinivasan氏は次のように述べた。「Project Zeroでは、ブランドに対し、偽造品を特定し排除する権限が与えられている。これは、Amazonが偽造品問題に対し真剣に取り組んでいることを表すだろう」。Amazonは偽造品販売業者に対し、「偽造品を排除する」という強いメッセージを打ち出している。

「当然、今回のような大胆な施策を講じた初期段階では、いくつかの混乱が生じるだろう」と、Srinivasan氏は語る。「販売チャネルを厳格に管理するブランドは、流通市場で合法商品を販売する再販業者を阻止するために、Project Zeroによって新たに獲得した権限を利用する、という危険性もある」。

 

ベンダーの直面する問題

この問題は、Amazonマーケットプレイス以外で販売を行うSrinivasan氏の再販事業者顧客がすでに経験していることであると同氏は指摘している。

今回のプログラムは、自社オリジナル製品を製造する中小企業にとっては素晴らしいニュースだとSrinivasan氏。

問題の1つは、一部のセラーや製造業者は、Amazonで販売しない商品にタグを追加することを望まないことだ。しかし、タグが特定の商品群にのみ追加されるのであれば、「プロジェクトの本来の目的は達成されない」とSrinivasan氏は指摘している。

それでも、「Amazonは、販売業者や製造業者がAmazonマーケットプレイス以外で行う行為をコントロールするべきではない」と、同氏は述べた。

 

プラス面とマイナス面

Amazonでの偽造品と無許可販売事業者の排除を専門とするブランドプロテクション会社、Brand AlignmentのCEO、Emmanuel Frost氏は、次のように指摘する。「Amazonは、Project Zeroキャンペーンによって、いくつかの重要な点を解決しようとしている。しかし、その偽造品撲滅への取り組みは、より差し迫った問題の解決にはほとんど効果がないだろう」。

また、「今回のプロジェクトにより、オンラインフォームに記入後Amazon Seller Performanceが疑いのある販売業者を排除することを祈るだけしかできなかったこれまでの商標所有者たちの非効率的なプロセスは、合理化されるだろう」と同氏は語る。

それだけではない。これまでは、販売業者が正規製造事業者から商品を購入したことを証明するインボイスを偽造した場合、Amazonは、その販売業者の登録を再び許可する可能性もあった。

Project ZeroがすべてのAmazonブランド登録メンバーに提供されれば、プロセスがより迅速かつ効率的なるとFrost氏。これは大きなメリットと言えよう。

 

一方、マイナス面としては、偽造品問題がAmazonのサードパーティセラーの最大の問題ではないという点だとFrost氏。最大の問題というのは、非正規セラーがブランドの最低広告表示価格を下回る価格でブランド製品を販売することである。多くの場合は、中古または不良品を「中古」または「修理済み」ではなく「新品」と表示し、不正販売しているのだ。

「このことにより、ブランドの品位とカスタマーエクスペリエンスが、ダメージを受ける」と同氏。「現在Amazonは、問題解決のために、ブランドに対し我々のような会社を雇い不正販売業者を排除するためのリソースをほとんど提供していない」。

 

偽造品対策の自動化

Amazonの機械学習を採用したこの自動プロテクション機能により、Amazonのストアは継続的にスキャンされ、疑わしい偽造品は積極的に排除されるように。参加ベンダーは、Amazonに自社のロゴ、商標、および自社ブランドに関するその他の主要データを提供する。

Amazonは毎日50億以上のアップデートされた商品リストをスキャンし、疑わしい偽造品を検知している。また同社は、これらの自動プロテクション機能を多数のブランドでテストしている。Amazon社Mehta氏によると、「自動化されたプロテクション機能は、これまでブランドからのレポートに基づいて削除してきた従来の方法の平均100倍、積極的に偽造品を排除する」と言う。

Project Zeroによって事業者は、偽造品出品を排除するためにAmazonに連絡する必要がなくなった。ベンダーは、セルフサービスの偽造品排除ツールを使用し、偽造品出品を削除することが可能だ。これまでは、調査と削除を依頼するためにベンダーは、Amazonにレポートを送信しなければならなかった。

Mehta氏によると、Project Zeroは、Amazonストアの出品を管理および削除するという、これまでにない権限をブランドに提供するものであるとのこと。出品の削除関する情報は、自動化プロテクションサービスにフィードバックされ、将来の偽造品出品のより正確で積極的な排除につながるという。

 

シリアルコード化の効力

Project Zeroの3番目の偽造品防止ツールである「製品のシリアルコード化」によって、Amazonは自社ストアで購入された全ての製品が正規品であるかどうかを個別にスキャンし、確認する。製品のシリアルコード化によって、製造されるすべてのユニットに対して固有のコードが発行される。

業者は、製造プロセスの途中で製品にシリアルコードを追加。それが、2段階プロセスの一つ目になる。

シリアルコードサービスを使用する製品がAmazonストアで注文されるたびに、Amazonは2つ目のプロセスとして、購入された商品が正規品であるかどうかをスキャンして検証する。

Mehta氏によると、この製品シリアルコードサービスを利用すれば、Amazonは全ての製品に対し、偽造品でないかを検証し、顧客に届く前に阻止することが可能になるそうだ。

 

限定的な展開

現在のところProject Zeroは、招待制のプログラムである。Amazonはこの偽造品防止プログラムを開始にあたり、複数のブランドを選別し、招待してきた。なお参加を望むブランドは、待機リストに登録することが可能だ。

Project Zeroに登録するには、ベンダーは、政府登録商標を所有し、自社ブランドをAmazon Brand Registryに登録している必要がある。

Project Zeroへの登録は無料。製品シリアルコードサービスを利用する企業は、製品数によって異なるが、1ユニットあたり0.01ドルから0.05ドルのコストを負担する。

 

精度の保証

Mehta氏によると、「参加事業者に前例のないレベルの権限を提供するのは、Amazonが、同社とベンダーの強みを統合させることにより、偽造品ゼロを達成できると確信しているからだ」と言う。Project Zeroの特権を保持するために参加ベンダーは、正確性において高い基準を維持しなければならない。

正確性を確保するために、Amazonにはいくつかのプロセスを準備している。1つは、Project Zero登録の際に必須となる「トレーニング」である。ツールの誤用を防ぐための継続的な監視を行うことも、この管理が必要な要素である。

なお、Project Zeroに登録するために参加事業者は、必ず製品にシリアルコードを追加しなければならないわけではない。しかし、Mehta氏によると、自社製品をシリアルコード化しているブランドが最良の結果を出しているとのこと。またブランドは、シリアルコード化する製品をいくつか選択することも可能だ。

 

価格変動の可能性

Project Zeroは、最新偽造識別ツールの提供と迅速な償還請求を実行することで、不正事業者の状況を一変させるだろう。小売事業者向けソフトウェア企業のStacklineのCEOであるMichael Lagoni氏は、「不正事業者による販売から生じるブランド・セーフティ問題と、Amazonで予測される売上収益を比較検討しなければならなかった企業にとって、Project Zeroは高く評価されるだろう」と、述べている。

「違法な販売業者が排除され、特に偽造品に対して慎重なファッション業界などの高級ブランドがAmazonマーケットプレイスに参入するにつれ、特定のカテゴリーにおいて人為的に引き下げられた価格の回復が見られるだろう」と、同氏は語った。

 

意図しない結果

Amazonセラー向けサービスを提供するJungle ScoutのCEOであるGreg Mercer氏によると、Amazonは2016年に一度、偽造品の取り締まり強化を試みたが、裏目に出た。多くの合法的なセラーの商品にフラグが立てられ削除されたからだ。

「今回も、(売り手が)このプログラムを武器として利用すれば、問題が生じる可能性がある。競合他社の多数のアカウントが非倫理的に停止されることが起こり得るからだ」と同氏。

Amazon販売事業者向けサービスを提供するAmifyの社長、Ethan McAfee氏は、次のように述べた。

「Project Zeroに登録するブランドは、そのプロセスに積極的に参加することが必要である。多くの場合、ブランドはAmazonで『偽造品』が販売されていると信じているが、実際にはグレーなマーケットのセラーによって合法的に販売されていることが判明するだけである」。

 

”いたちごっこ”

偽造品販売業者は、Amazonの自動化システムを切り抜けるための実に巧妙な手法を確立しているとVelocity Commerce Groupのデジタルコマース担当バイスプレジデント、Rami Odeh氏は述べた。偽造品販売業者対策は、 まるで”いたちごっこ”のようなものだ。

「偽造品販売業者は、事業者名義の変更、セラー名義の変更、異なるアドレスの使用、IPアドレスとMACアドレスの変更を繰り返し、検出を回避してきた」と、同氏。「排除されても、それは特に大きな問題ではない。彼らは別の事業者になりすまし、戻ってくるのだ」。

「Project Zeroによって偽造品問題は100%解決するわけではない。しかし、販売を再開する度に、複数のハンマーで打撃を受ければ、偽造品販売業者がビジネスを行うことは困難になるかもしれない」とOdeh氏は指摘する。

 

トラスト・ファクター

データソフトウェア会社であるRiversandの製品管理担当アシスタント・バイスプレジデントであるNikhil Bhatia氏は、「AmazonのProject Zeroは、顧客、マーケットプレイス、そして、ブランドメーカーにも利点がある」と述べている。

顧客はまず、購入商品が正規品であると信じることができる。ブランドメーカーにとっては、偽造品によって顧客からの製品に対する評価が落ちることがないことを担保できる。そしてマーケットプレイスにとっては、返品と偽造品に関連する顧客問題が減少するだろうと、同氏は説明している。

「もし同様の機能が提供されなければ、将来の偽造品との競争は全く別の結果となるだろう。なぜなら、今回の取り組みはマーケットプレイスに対する顧客の信頼に直接影響を与えるものだからである」とBhatia氏は語った。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の3/1公開の記事を翻訳・補足したものです。