ECサイトは「サイト」という形態を存続させる意義はあるのか - テクノロジーの進化が生み出すジレンマ | EC業界ニュース・まとめ・コラム「eコマースコンバージョンラボ」
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公開日2019/10/30

ECサイトは「サイト」という形態を存続させる意義はあるのか - テクノロジーの進化が生み出すジレンマ

ECサイトは「サイト」という形態を存続させる意義はあるのか - テクノロジーの進化が生み出すジレンマ

 

オンラインでモノを売るためにECサイトが世の中に登場して25年が経とうとしている。しかし、この25年の間、ECサイトは、ユーザビリティや機能面において大きな進化を遂げているものの、その「サイト」という形態の根本は初期と大きく変わっていない。しかしここ数年のテクノロジーの進化はその根本を覆す可能性を秘めている。そこで今回はECサイトがテクノロジーの進化によってどのように変化していく可能性があるのかを考えていきたい。

 

<参考>

「eコマースの歴史」 コマースコラム

 

 

持続的イノベーションと破壊的イノベーション

 

イノベーションのジレンマという名著をご存知だろうか。企業やサービスはイノベーションにさらされる中で、その進化を続けているものの、結果的にジレンマによって終焉を迎えてしまうというストーリーだ。その中で持続的イノベーションと破壊的イノベーションというキーワードが登場する。

持続的イノベーションとは、現在市場で既存顧客が求めている価値を向上させる方法のイノベーションである。顧客のニーズに合わせて改良を積み重ねていくことをベースとした考え方だ。

一方で破壊的イノベーションとは、現在市場で既存顧客が求めている価値とは異なる別の価値を検討、出現させ、今まで市場になかった新たな価値を提供されることで、市場がそれに置き換わっていくイノベーションを指す。

一般的に、大企業に限らず企業のほとんどは持続的イノベーションを繰り返すことで、顧客満足を向上させていく。しかし、持続的イノベーションが繰り返されると、市場のニーズを超え、過剰な改良・改善が行われてしまう。結果、消費者が求めるものを超えた性能を持ち、かつ高価格な製品が市場に出ることとなる。そのような中で、イノベーターによって破壊的イノベーションが創出され、新たな価値を持った製品が生み出されると、消費者が今まで見過ごしていた領域に目を向けさせ、市場を塗り替え、席捲することができる。持続的イノベーションをしてきた企業は、既存の価値水準を素早く変えることは難しいため、結果的に市場を奪われてしまうこととなってしまうというものだ。

例えば固定電話の延長線上で登場した、初期の携帯電話だが、当初は従来の設置型の電話の受話器のような形をして、それが進化し折り畳み型のいわゆるガラケーが市場を席巻していた。しかし今やiPhoneに代表されるようなタッチパネルと大型液晶画面を主体とした形態に変わり従来の端末メーカーの多くが撤退を余儀なくされている。また、画素数の向上というイノベーションを続けていたデジタルカメラも、スマートフォンに代替えされるようになって、市場がシュリンクしてきた。このように破壊的イノベーションは当初は想定していなかったイノベーションや他のジャンルのサービスが既存市場を塗り替えていくのだ。

 

 

ECサイト界隈で巻き起こっているイノベーション

 

では、ECサイトは今、どのようなイノベーションにさらされているのだろうか。ここ数年でECサイト界隈で起こっているイノベーションで代表的なものをいくつか取り上げてみよう。

 

AI

AI(人工知能)自体はかなり以前からテクノロジーとしては存在していたが、実用化が進み、サービスに組み込まれるようになってきたのはここ数年のことだ。ECサイトでは、AIを取り入れることで、ユーザーが欲しい商品と関連した商品を表示するレコメンドロジックや、商品の価格決定、更には後述するチャットボットなど、従来は優秀なマーケターやヘルプデスクが行ってきた業務を自動化すること等に活用されている。

 

チャットボット

チャットボットもその存在自体は以前からあったが、AIの発達や、言語処理能力の向上により、ここ数年で一気に製品化が進んでいる。ECサイトでは主に顧客対応を行うために活用されており、基本的な質問への対応だけでなく、そこから売上向上への道筋を作るようなサービスまで登場してきている。もちろん24時間365日対応するため、大幅な業務効率化が可能になってきている。

 

音声認識

音声認識技術は、スマートフォンやAIスピーカーに搭載されるなど、ここ数年でかなり身近な存在になってきた。現時点ではECサイトに実装されて一気に便利になるケースは多くはないが、音声による商品やFAQなどの検索に活用されてきている。

 

決済の多様化

実店舗でのキャッシュレス化と共に、オンラインでも従来のクレジットカード決済だけでなく電子マネー、IDとパスワードを入力するだけで決済のできるID決済など、様々な決済方法の使用が可能となってきている。最近ではQRコードやバーコードを読み取って支払うアプリ決済が話題となっており、これも徐々にECサイトへ実装が進んできている。

 

これらのイノベーションは、現状でのECサイトへの活用は、あくまで「持続的イノベーション」の領域を出ていない。AIは現状の業務を自動化する、チャットボットもお問い合わせを減らす目的で自動化する、音声認識の活用も検索のサポートだ。さらに決済についても新しい選択肢の提供と言う域を現状では出ていない。

 

 

ECサイトにおける破壊的イノベーションを考えてみる

 

では、ここでECサイトにおける破壊的イノベーションとなり得るものにはどのようなものがあるのだろうか。ECサイトの存在を否定する可能性のある破壊的イノベーションについて考えてみたい。

 

会話型コマース

上述したAI・チャットボット・音声認識のテクノロジーを組み合わせたのが会話型コマースだ。実店舗で知識の多い店員さんと会話をしながら自分に合った商品を探すような感覚で買いたい商品を探す方法をベースとした形態だ。現状のサービス形態はまだECサイトの存在を否定するまでには至っていないが、ここで明記したいのは、この会話型コマースはECサイトが無くても成り立つイノベーションであるという点だ。現時点でAmazonのアレクサは音声だけでの購入が可能だが、会話をしながら商品を選んで決めて購入するような実店舗での体験を比較すると、まだ十分な顧客体験とは言えない。

 

SNS上での購入完結

SNS上でのECサービスの導入は5年以上前からFacebookなどで始まったが、いずれも大きく普及することがなかった。ここ最近では、Instagramがショッピング機能の拡充を続けている。しかし、これまでの取り組みには2つの問題点があり、SNS上での購入完結までなかなか結び付いていない。1つはSNS上に決済手段の登録を行っていないユーザーが多いため、最終的な購入は外部のECサイトへの誘導後になるという点。もう1つはSNSでタイムラインを見ている際に、急に商品の宣伝めいた投稿が流れてきても、その場ではそのまま購入を行わないユーザーが多いという点だ。しかし、SNSは多くのユーザーが利用しており、特にInstagramはインフルエンサーマーケティングの活用が進んでいるため、ECサイト無しでの商品の購入が日常的になる日はそう遠くないだろう。

 

<参考>

Facebookの「その先」 - ソーシャルメディアマーケティングの新時代

Instagram、新商品発売日の新リマインダー機能「Buy on Instagram」をテスト

 

ヘッドレスコマース

米国ではヘッドレス・コマースという概念が提唱されつつある。ヘッドレスコマースとは、フロントエンドとバックエンドが切り離されたECシステムと理解すると分かりやすい。APIを使用して、商品情報やカスタマーレビューなどを、ECサイトと切り離して保持し、上述したようなSNSやAIスピーカーなどでも提供するという考え方だ。ECサイト以外での購入が一般的になる未来を見据えたECサイトに関連するデータの保持方法の概念だ。

 

<参考>

顧客体験の柔軟性に優れた「ヘッドレス・コマース」がもたらす変化

 

 

テクノロジーの進化が生み出す、ECサイトのジレンマ

 

ここまで、ECサイトにおける持続的イノベーションと破壊的イノベーションとなり得る候補を考えてみた。こうしてみるとECサイトに関わるテクノロジーはいずれもユーザーに手間をかけさせないで購入を行ってもらい、商品を受け取ってもらうのかと言う、トータルでの顧客体験を高める方向にシフトしているのは明らかだ。

そして、その先にあるものは、現在のユーザーの期待の一歩も二歩も先に行くものとなっていくだろう。

例えば、AIスピーカーからは、それまでの会話内容や購入履歴などから、「そろそろこの商品が必要では?明日からタイムセールが行われ15%OFFで購入可能ですがカートに入れますか?」のような問いかけが行われ、それに応じるだけで購入が完結することなどが想像できる。また、SNSのメッセンジャー系の機能では、そのやり取りや購入履歴などから、メッセンジャーに埋め込まれたチャットボットが同じような問いかけをしてくることも可能だろう。

このように顧客体験を究極まで突き詰めて考えていくと、顧客に自発的にECサイトで商品を探して購入してもらうのではなく、顧客に最適なタイミングで最適な問いかけを能動的に行って、わずかなやり取りで購入をしてもらうという流れに行きつくのではないだろうか。そうなると、企業は検索エンジンでECサイトを上位に表示させることに苦心するのではなく、顧客との関係性を構築して、顧客の意向をデータとして蓄積し、いかに適切なタイミングで提案できる許可を顧客から得ることが出来るのか、ということが重要になってくるかもしれない。

 

 

ECは「サイト」という形態が本当に必要なのか

 

ECサイトは顧客が自発的に商品を探すためには非常に最適な形態だ。この25年、ECサイトはその目的のためだけに進化を続けてきたと言ってもいいだろう。そしてそのニーズはこのような未来がやってきたとしても「0」にはならないだろう。しかし、ECサイトの存在意義は確実に減り、役割は変わっていく可能性が高い。少なくともEC「サイト」という形態を保持しないでオンラインでの販売を行う事業者が現れてもおかしくはない環境は整いつつある。

レコメンド技術が発達することの弊害としてよく聞かれるのは、自分の興味のある情報や商品は入手しやすくなったが、自分が知らなかったような情報や商品を目にする機会が減ってしまうのは良くない、というものだ。いわゆる街中でウィンドウショッピングを行っているようなワクワク感がオンライン上では得られないというものだ。しかし、このような考え方もAIの進化と共に過去のものになる可能性が高いだろう。

テクノロジーの進化によって、欲しい商品は探すのではなく、提案してもらう時代になろうとしている。そのような中で、進化を続けてきた「ECサイト」は、その形態や機能を見直す時期に来ているだろう。それは、ウィンドウショッピングのワクワク感を与えるようなブランド指向型になるのか、検索に特化した百科事典的な役割になるのかは分からない。

来るべき未来に、破壊的イノベーションによってオンラインの購買体験が大きく変化するかもしれない時に、EC「サイト」の役割はどのように見直されて、どのような存在意義が与えられているのか、考えてみてもいい時期に来ているのは間違いないだろう。

 

 

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