AIは2025年春のMarTechカンファレンスでも頻繁に話題にあがった。そして、そこから得た教訓5つを解説する。


2025年春のMarTech Conference(the Spring 2025 MarTech Conference)が3月下旬に開催され、AIは注目の話題だった。すべてのセッションやパネルディスカッションの記録を確認したわけではないが、おそらくほとんどすべてのセッションでAIについて言及されていただろう。

カンファレンスではAIに完全に特化したセッションが3つあり、そのうち2つは参加者が講演者と自由に対話できる形式で開催された。

その3つのセッションとは次の通り。

・マーケターが語るAIの実際の成功事例

講演者:Googleのディスプレイ担当グローバル責任者のKendall Davis氏、米国に本社を置く消費者向けヘルスケアメーカーであるKenvueのグローバルAmazonカスタマーリーダーのChannan Sawhney氏、ドイツのテクノロジー主導型企業向けのコンサルタントQvestのマーケティング担当バイスプレジデントであるSarah Weiss氏。

コンテンツ制作向け生成AIツールの活用方法

講演者:米国オレゴン大学(the University of Oregon)の没入型の戦略的コミュニケーションインストラクターであるLisa Peyton氏。

エージェント型AIの導入

講演者:米国のマーケティング分析コンサルティング会社TrustInsights.aiのデータサイエンティストチーフであるChristopher Penn氏と米国マーケティングメディアMarTechの編集長であるConstantine von Hoffman氏。

これらのセッションの講演者と参加者の知識を結集し、AIとマーケティングについて5つの結論が導き出された。


1.  小さなことから始めて、本物の効果につなげる

マーケティング戦略をすぐ全面的に修正しようとするよりも、たとえばターゲティング広告のバリエーションを作成したり、反復タスクを自動化したりすることから始めるなど、特定の1つの課題を選び、そこでAIを活用したソリューションをテストすると良い。

なぜ重要か

このアプローチにより、チームは迅速に学習し、具体的なROI(投資収益率)を証明し、最も成功した活用事例をより重要な問題解決のために体系的に拡張できる。

AI を使用して、優先度の高い1つのキャンペーンのクリエイティブを分析し、主要なセグメントに最も響く要素を把握し、そこからさらに最適化する。


2. 人間の専門性と機械の効率性を組み合わせる

AIは大量のデータを処理し、傾向を把握し、労働集約型タスクを自動化することに優れている。だが、「ヒューマン・イン・ザ・ループ(機械学習に人間からのフィードバックなどの関与が含まれる)」は依然として不可欠だ。マーケターは、今でも戦略、創造性、視聴者の心理の理解を提供し続けなければならない。

なぜ重要か

マーケターはAIに取って代わられるのではないかと心配しているが、AIは人間の直感やブランド理解、共感力に導かれてアウトプットしたときに最も効果を発揮するのである。

AIに複数のバージョンでクリエイティブコピーの生成を依頼し、マーケティングチームが雰囲気、語り口、ブランドとしての一貫性を調整する。


3. 効率性とパフォーマンスの向上の両方を測定する

AIの効果を評価する時は、コンバージョンや収益のようなパフォーマンス指標だけを見てはいけない。時間の節約、顧客獲得単価の改善、クリエイティブ制作費用や工数の削減などの効果指標も追跡すること。

なぜ重要か

ステークホルダーは、ビジネスの結果と事業活動におけるROIを要求する。AIはチームを単純作業から解放し、節約できた時間をより高価値な戦略と革新に振り分けることができる。

AIが支援するキャンペーンの成果を「通常業務」のキャンペーンと比較し、クリックスルー(バナー広告などをクリックして広告主のサイトを訪問すること)や収益の上昇、節約できた制作時間やメディア費用を数値化する。


4. ハイパーパーソナライゼーションとリアルタイム調整への傾倒

閲覧行動、使用デバイス、使用時間帯などのリアルタイムのシグナルに基づいて、メッセージ、画像、オファーを生成したり調整したりするためにAIを活用しよう。そうすれば、消費者の各タッチポイントで独自の関連性を持つことができる。

なぜ重要か

自分に合った体験を期待する消費者がますます増えている。AIは多くのデータ信号を組み合わせることで、標準的なセグメンテーションよりももっとタイミングよく個別化されたオファーを配信することができる。

あるタイプのスキンケア商品に興味を示して繰り返し見ている消費者がいる場合、その商品ラインナップを押し出した動的な広告(ユーザーの履歴に基づいて、最適な広告クリエイティブを自動的に生成、配信する広告)を配信し、購入がピークになる時間帯に即座にプロモーションコードを表示する。


5. 素早く対応するためにパートナーシップとデータ戦略を築く

AIを活用したマーケティングは、顧客データや過去のキャンペーンのような自社データと、小売業者やデジタルプラットフォームのような提携業者のデータを組み合わせると、最も効果を発揮する。しかし、成功するかどうかは、適切なプロセス、つまり正確で欠損のない信頼できるデータ、堅牢なAPI(アプリケーションをつなぐインターフェース)、組織の承認が得られるかどうかにかかっている。

なぜ重要か

AIの正確性と関連性は、データの新しさと質の高さ次第である。技術プロバイダや小売パートナーと連携すれば、ターゲティングや洞察の生成を強化することができる。

購入頻度などの小売パートナーのeコマース行動データを活用して、休眠顧客にパーソナライズされた商品提案をし、再エンゲージメントを促すためのAI主導のキャンペーンを作成する。

 

マーケティングリーダーへの提言

広告クリエイティブの最適化、新商品のテスト、顧客ジャーニー全体のパーソナライズなど、どのような場合でもAIをビジネスの目標や測定可能な成果に結びつけることが重要だ。戦略やブランドの個性は人間が主導し、反復作業やパターン発見はAIに任せれば良い。AIの導入は小規模から始め、部門をまたいだ連携を築き、成果の測定に注力することで、より迅速に、より信頼性の高い成果を得ることができ、マーケティング業務全体に拡張していけるのだ。

 

各AIセッションからの重要な洞察

AIに特化した3つのセッションはすべて、登録不要で視聴できる。時間がない人向けに、各セッションから重要な洞察を抜粋して紹介する。


コンテンツ制作向け生成AIツールの活用方法

主要な洞察

AI 自身にプロンプトを作成させる「メタプロンプト」を活用した手法が有効である。言い換えれば、Claude(米国のAIスタートアップAnthropicが開発したチャット型AIツール)のようなあるAIモデルに、GPT-4(米国のAI開発企業OpenAIが開発した大規模言語モデル)のような別のAIモデル向けの高品質なプロンプトを生成させるということだ。このアプローチにより、時間を節約し、よりターゲットを絞った指示をし、AIが作成するアウトプットをより高品質なものにすることができる。


エージェント型AIの導入

主要な洞察

「一緒に行う」=単なる自動化と「代わりに行う」=真のエージェント型AIを明確に区別することが重要だ。真のAIエージェントは、各ステップを監督する必要がなく、タスクを自律的に遂行する。一方で、一般的な自動化は常に人の直接的な関与を前提としている。この違いを理解しておくことで、単なる高度な自動化を行う「エージェント」に必要以上に支払うのを防ぐことができ、完全な自律性がビジネス上有効かを見極める判断材料にもなる。


マーケターが語るAIの実際の成功事例

主要な洞察

大規模なパーソナライズや、効果とパフォーマンスの向上を測定するためにAIを活用しよう。このセッションに参加したマーケターは、AIが最適化したキャンペーンと従来のキャンペーンを比較するA/Bテストを行って、コンバージョン率やROAS(広告の費用対効果)の向上と時間やコストの削減を定量化することで成功を収めた。AI を活用したハイパーパーソナライゼーションの取り組みにより、キャンペーンの成果と運用効率を向上させることができる。

これら3つのセッションの全編は、以下から視聴できる。
https://vimeo.com/1069661553


※当記事は米国メディア「MarTech」の4/16公開の記事を翻訳・補足したものです。