人工知能(AI)は、eコマースにおけるイノベーションをさらに促進し、かつては興味深いコンセプトだったものを、競争上不可欠な優位性へと変えている。AIはもはや単なる効率化のツールではなく、小売企業がショッピング体験をパーソナライズし、プロダクトディスカバリー(プロダクトの発見)を最適化し、顧客エンゲージメントを促進する方法に革命をもたらしている。
小売企業は今や、適切な商品を適切なタイミングで適切な買い物客とマッチングさせるAI主導のインサイトに、かつてないほどアクセスできるようになった。しかし、GroupBy(eコマース向けの検索やデータ管理ソリューションを提供するカナダ企業)の商品担当ディレクターであるArv Natarajan氏によると、マーチャンダイザーの中には、自分の直感がAIのレコメンデーションよりも優れていると信じている人もいるという。
AIは依然として小売業界の誰もが口にする注目の話題ではあるが、それはもはや仮定の話ではない。AIの有効性はすでに証明されている。Natarajan氏は、今話題になっているのは、興味深く、困難な小売のユースケースを解決するために、テクノロジーをどのように適用するのがベストなのかということだと主張する。
それでも、小売企業は慎重に行動する必要がある。AIのイノベーションに遅れずについていくことは非常に重要だが、戦略的なアプローチなしに過剰な投資を行うと、コストのかかる失敗につながる可能性がある。
「技術スタックへのAIの追加は慎重に行う必要があり、それは効率性の向上、より良い顧客体験の創出、あるいは難題の解決を行うものでなければならない。これらのいずれにも当てはまらないのであれば、それはおそらく貴社と貴社ブランドにとって適切な解決策ではない」と、Natarajan氏は述べる。
小売企業はCXでAIを戦略的に活用しなければならない
統合AIにおける発展途上の驚異のひとつは、セラーとのやり取りで顧客満足度を向上させる役割である。AIを活用したカスタマーサポートの自動化を手掛けるForethoughtの最近の調査によると、CXにAIを活用することは、多くの人が予想している以上に難しいことがわかった。
Forethoughtの社長兼会長のDeon Nicholas氏は、「企業は、ようやくそれを正しく理解し始めている。しかし、まだやるべきことはたくさんある」と話す。
現在、AIエージェントを導入していると主張する企業のほとんどは、単純なボットに頼っている。アクションを起こし、微妙な判断を下し、トラブルシューティングを行うことができる真のエージェントAIに移行することで、差別化を図り、顧客満足度を向上させる大きな機会が存在すると、Nicholas氏はAIとCXに関する消費者の態度に関する同社の調査についてのプレスリリースで指摘している。
この調査によると、消費者はカスタマーサポートからの返答を約9分しか待たないことがわかった。その後、10人中3人もの顧客が注文のキャンセルまたは返品を行い、その企業には戻らないか、ネット上に批判的なレビューを残すだろうとのこと。
「多くの人はボットに不信感を抱いており、それが問題を解決してくれるとは思っていない」とNicholas氏は語る。「より多くの企業がより高度なエージェントAIに進化するにつれて、AIにチャンスを与えようとする顧客が増えるだろう」。
Natarajan氏は、AIが小売業者の顧客体験とバックエンド業務の大幅な改善に役立っていることに疑いの余地はないと指摘する。「それでも、AIはまだ新しく、完璧にはほど遠い」。
AIは小売業の業務をどのように変えているか
Natarajan氏は、AIの自動化とインサイトを活用するために、人間参加型(ヒューマン・イン・ザ・ループ)アプローチを採用するよう小売業者にアドバイスしている。このアプローチにより、AIのパフォーマンスを監視・調整するための安全策が確保される。
AIは、検索結果を売上につながるよう自動的に最適化し、これまで手作業による検索体験のキュレーションに費やされていた時間を削減することで、e コマース業務を合理化し、コストを削減していると、同氏は説明する。
「これにより、特にマーチャンダイザーは、戦略的で、収益を生み出すビジネス目標により集中できるようになる」と続ける同氏。
マーチャンダイジング業務において、人工知能は重要な役割を果たしている。Natarajan氏は、小売業者がAIを導入しているユースケースを紹介した。たとえば、商品説明や画像といったコンテンツの作成である。
「最もエキサイティングなのは、AIを使って検索やプロダクトディスカバリーを改善することだ。AIの力を活用することで、当社のアプリケーションを使用する小売業者が売上を大幅に増加させ、ハイパーパーソナライゼーションを通じて顧客により豊かなショッピング体験を提供する一方で、マーチャンダイザーによるビジネス目標の達成を支援するのを目にしてきた」と、同氏は語る。
小売業におけるAI導入の課題の克服
Natarajan氏によると、小売企業がAI導入で直面する一番の課題は不良データであるという。今ではおなじみの格言ではあるが、「garbage in, garbage out(ゴミを入れたら、ゴミが出てくる。入力するデータの品質が悪いと、出力される結果も良くないという意)」という考え方は今でも真実である。
AIは、トレーニングデータの質に比例する。小売業者がデータをクリーンな状態に保たなければ、AIはそのポテンシャルを完全に失ってしまう。
小売業者が数百万SKU(受発注や在庫管理を行う際の最小の管理単位)を含む膨大な商品カタログを管理している場合、この課題はさらに重要になる。
不完全なデータを手作業で見直し、データガバナンスを適用するには数か月かかることもある。
AIを活用したカタログサービス(CaaS/Catalog-as-a-Service)テクノロジーは、データエンリッチメント(社内外のデータセットを組み合わせて、データの価値や有用性を高める手法)を加速し、カタログのサイズやデータの品質に応じて、そのプロセスを数か月から数日に短縮する。
「企業がAIの利用を拡大することで、いくつかの分野でビジネス成果を向上させる大きな機会がもたらされる」と、Natarajan 氏は述べる。
小売業におけるAI評価の重要指標は「売上高」
Natarajan氏は、小売企業がAIソリューションのパフォーマンスを評価する際に考慮すべき最も重要な指標は「売上高」であると付け加えた。GroupByは、同社のプロダクトディスカバリープラットフォームが生み出す売上高を評価するよう自社の顧客に促しているが、それは平均で約10%の増加となっている。
「他の指標も重要ではあるが、売上高に比べれば二次的なものである。小売業者はより多くの商品を販売するために存在する。それが彼らの目標なのだ」と、同氏は指摘する。
Natarajan氏は、2025年が小売業におけるAI導入の転換点になると予想している。小売企業は、仮説の検証、タスクの自動化、キャンペーンやランディングページの構築などのコンテンツ開発にAIの利用を増やすだろう。
同氏は、AIを採用しないことについて痛烈なアドバイスをした。「AIを躊躇(ちゅうちょ)する時期はもう過ぎ去った」。
「まだAIソリューションを導入していない小売企業は、自社の技術スタックでAIのテストを始める必要がある。そうしないと、取り残されるリスクがある」と同氏。
小さなタスクから始めても、すぐに効果が現れ、AIがどのように業務と顧客体験をさらに改善できるかについて、より深いインサイトを得ることができるだろう。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の2/18公開の記事を翻訳・補足したものです。