ショップオーナーとインターネットマーチャントは、変化し続けるeコマースに対応するため、ショッピングをゲーム感覚に変えていかなければならない。また、マーケティング戦略としてのパーソナライゼーションの素晴らしさについての業界の誇大宣伝も、忘れる必要がある。

 

サプライチェーンの崩壊とあらゆるもののコスト上昇により、消費者は急速に消えゆくお金の使い道について重要な選択を迫られている。小売業者は、パーソナライゼーション戦略だけに頼っていては、ロイヤルカスタマーを獲得し維持することはできないのだ。

 

サンフランシスコに本社を置くカスタマーエクスペリエンス企業、Hero Digitalの戦略担当シニア・バイス・プレジデントであるKerri Drozd氏によると、かつてパーソナライゼーションは差別化されたショッピング体験を生み出すための至高の目標と考えられていたという。しかし、多くの小売業者にとっては、不正確な成功のためのアプローチであり、またマーケティング分野は常に進化しているため、依然として捉えどころのないものとなっているとのことだ。

 

「パーソナライゼーションは、かつてはコミュニケーションやログイン体験、ブランドのリワードプログラムで顧客の氏名を使用することを意味していた。たしかに2018年には、顧客にとってこれらが大きな付加価値であったのかもしれない。しかし、2022年には、どのブランドもこれらの基本を備えている。際立つためには、ブランドは異なる方法をとる必要がある」とDrozd氏は語った。

 

次のレベルの技術戦術

経済の荒波の中で生き残るために、マーケターは、ゲーミフィケーション(ゲームに使われている構造を他分野で応用すること)、拡張現実 (AR)、および会話型人工知能 (AI) テクノロジーについての最近のトレンドを取り入れる必要がある。

 

小売業者やブランドは、ブランドとの親和性を築くために顧客との時間を増やし、その過程で顧客について学ぶ方法として、これらのアプリケーションや手法に傾倒している、と同氏。消費者ブランドにとって、ゲーミフィケーションとは、人間のモチベーションを利用して行動を変化させることなのだ。

 

「これは、人々が新たな方法であなたのビジネスに関与することを促し、最終的に顧客とブランドの両方に価値を生み出すことができる」とDrozd氏は述べた。

 

一方で、拡張現実は、物理的な次元とデジタルの次元を結びつけるのに役立つ。消費者が購入前に商品をバーチャルで試すことができるため、オンライン販売を行うブランドにとっては近い将来、非常に重要になるだろう、と同氏は付け加えた。

 

会話型AI技術は、技術の進化とともに支持を得ている。Drozd氏によると、過去の顧客プロファイルデータ、行動、ルックアライク(インターネット広告などのマーケティングにおいて、既存の顧客に似た好みや行動様式をもつ消費者)のデータを使用することで、未知の顧客に対しても次のレベルのパーソナライズが可能になるという。

 

顧客が本当に求めていること

実店舗であろうとオンラインであろうと、パーソナライズされた体験を顧客に提供することは、マーケター達が信じているような取引決定戦略ではない。Hero Digitalが実施した消費者調査によると、基本的なパーソナライゼーションは、顧客にとって重要なエクスペリエンス属性のリストで実際に非常に低い順位にランク付けられている。

 

それでも、実店舗とオンラインショッピングの両方で、顧客にパーソナライズされた体験を提供することは非常に重要だ。実際、消費者の3分の2は、企業が個々の期待とニーズを理解してくれることを求めている。Drozd氏によると、その数字は時間の経過とともに増加する一方であろうという。

 

今日の消費者にとって最も重要なことは、有意義で関連性のあるやり取りである。これは、消費者が、過去および最近、どこで、いつ、どのようにブランドと関わってきたか、そして現在の彼らの意図が何であるかを知ることを意味する。

 

「コンテクスチャライゼーション(語彙や文章の文脈における理解)は、ブランドをパーソナライゼーションの先に進めるものだ。ブランドがサイロを越えてゼロ、ファースト、セカンド、サードパーティ、およびビッグデータを接続することで、それはますます高度化している」とDrozd氏は言う。

 

企業は、顧客がどこで買い物をしているかに関係なくパーソナライズされた体験を可能にするため、顧客のオンライン行動とオフライン行動の両方を取り入れて、前進しなければならない、と同氏は指摘する。

 

時代の変化

Bloomberg(米国の大手総合情報サービス企業)の6月15日付の報道によると、5月の米国の小売売上高は、自動車やその他高額商品の買い控えによる落ち込みから、5か月ぶりに減少したとのこと。購買行動の変化は、何十年にもわたる高インフレの中で商品に対する需要が鈍化していることを示している。この数字は、インフレの悪化により、商品に対する米国人の需要が軟化していることを示唆している。

 

たしかに、小売業者は少なくとも2022年の残りの期間、売上が減少すると予想している。しかし、これは、ブランドが今後6か月程度をただ休業していればよいという意味ではない。

 

「それどころか、既存の関係を維持することはこれまで以上に重要となる。ロイヤルカスタマーを惹きつけることで、彼らが経済的に安心して買い物ができるようになった時に、再びあなたのところで買い物をするようになるだろう」とDrozd氏。

 

パンデミックの影響により、eコマース売上は急増した。最近まで、今後数年間売上高は増加しないとしても、この記録的な高水準を維持する可能性が高いと予測されていた。このように最高記録を出したとしても、小売業全体の売上高の5分の4以上は実店舗で発生している。

 

厳しい経済情勢とはいえ、小売業者にはまだ売上を上げるチャンスがある。ペントアップ需要(繰越需要)と鬱積した社会エネルギーが、人々を屋外や店舗へと駆り立てているのだ。

 

「フィジカル(実店舗)とデジタル(eコマース)の振り子は今後も揺れ続けるため、ブランドはできるだけ顧客の近くにとどまることが重要だ。購入の機会とコンテクストを理解することで、ブランドは目的に合ったエクスペリエンスを構築できる」とDrozd氏は提言する。

 

実店舗とオンライン小売業者が生き残るためには?

2022年に買い物をする際、大半の米国人にとっては、安いことが最良の選択肢かもしれない。今後数か月の間に消費者の購買意欲が低下する可能性があるため、小売業者にとって、今は壊れているものの基本を修正する絶好の機会である。

 

小売業者(実店舗とオンラインの両方)は、顧客ロイヤルティがこれまで以上に重要であることを忘れてはならない。Drozd氏によると、ポジティブなカスタマーエクスペリエンスに投資することが重要だという。

 

たとえば、ロイヤルティリワードのメンバーが何千人もいる場合、お気に入りの加盟店だけで買い物をするインセンティブが既に存在する。消費者がまとめて予算を立てている場合、クーポンはより大きな価値を持つ。

 

「しかし、消費者は、習慣的に買い物するわけではないブランドのロイヤルティプログラムに参加することには、よりハードルの高さを感じている。したがって、ポイント還元以上のものを提供し、適切な場所で適切なタイミングで適切なメッセージを消費者に届けることが、市場で絶えずエスカレートするノイズを打破するための鍵となる」とDrozd氏。

 

CDPソリューション

小売業者が取れるアプローチの1つは、顧客データプラットフォーム (CDP) を使用して顧客データを活用し、嗜好の変化に関するインサイトを得るというものだ。

 

SAP CX(消費者データ、機械学習を集結しリアルタイムで顧客エンゲージメントを向上させるためのカスタマーエクスペリエンスソリューション)のチーフマーケティングおよびソリューションオフィサーであるSameer Patel氏によると、これらのプラットフォームは、あらゆる対面およびデジタルタッチポイントでの顧客との関わり方について、信頼性と関連性がある、実用的なデータを企業に提供する重要なインサイトを明らかにしてくれるという。

 

これにより、企業は新しいエンゲージメントモデルを試し、新しいビジネスモデルに迅速にピボットし、顧客にユニークな価値の提供し、ロイヤルティを強化し、ビジネスと財務の目標を達成するための強力なデータを手に入れることができる。

 

しかし、今日のCDPの使用の大半は、企業全体の全体的なパフォーマンスを促進するためではなく、マーケティングや広告のユースケースを目的としている。

 

「我々は、実用的な顧客データの活用は、マーケティングの成功を促進するだけでなく、販売、サービス、コマース、ロイヤルティなどの顧客体験スタック全体にわたって活用の機会があると考えている」とPatel氏は語る。

 

Patel氏はまた、CDPを実現技術として活用するチャンスがあると考えている。最終的には、CDPは企業資源計画(ERP)システムの中に閉じ込められているビジネスプロセスのバックエンドを、すべての顧客タッチポイントでエンゲージメントのフロントエンドにつなぐことができるのだ。

 

フロントオフィスとバックオフィスからのデータを組み合わせることで、企業はより深い顧客理解、実用的なインサイト、予測的なアクションをもたらす包括的な顧客プロファイルにアクセスできるようになる、とPatel氏は説明する。

 

CDPを利用することで、ITリソースへの負担を軽減しつつ収益を高め、顧客のコンバージョンと維持、ロイヤルティの向上、そして成長を拡大することができる。

 

「これこそ、私たちがエンタープライズ向けCDPだと考えているものだ」と同氏は語る。

 

実店舗と小売業者の両方を支援

データは、実店舗であろうとeコマースであろうと、あらゆる規模、あらゆるタイプのビジネスにとって重要なものである。実店舗をもつ中小企業は、激しい競争にさらされ、すべてのお金とデータポイントが重要な意味を持つ状況に置かれている。

 

「統一されたデータモデルにより、小売業者は顧客をより完全に理解し、変化する行動や経済状況に対応するためのアジリティ(機敏性)を高めることができる」とPatel氏は述べる。

 

一例として、CDPは、単なる購買データではなく、収益性に基づいた真のライフタイムバリュー(顧客生涯価値)スコアを提供する機能を備えている。また、顧客の収益性に基づいてセグメントに優先順位付けをする手段も提供する。

 

CDPはオンライン小売業者にも影響を与える可能性がある。たとえば、代表的なアパレル ブランドのCarharttは最近、デジタルネイティブの消費者のニーズによりよく対応できるようにするため、バックオフィス全体を変革した。

Carharttの戦略の中核は、高度にパーソナライズされたオムニチャネルエンゲージメントを促進するために、企業全体のデータを深く結び付けるデジタルテクノロジーへ投資することであった。Patel氏によると、これにより、eコマースサイトから製造現場までのバリューチェーン全体が、顧客が望むものを、望むときに、望む方法で提供できるよう最適化されているという。

 

上昇するインフレ率との戦い

インフレ率の上昇により、消費者はすでに購買習慣を変えていると、5月の小売売上高減少に言及してPatel氏は指摘した。 顧客が出費を削減し始めているなか、企業が優れた顧客体験を提供し、顧客の期待の変化に応えるためにピボットすることがこれまで以上に重要となっている。

「消費者はお金を使う場所をさらに選ぶようになるため、CX(顧客体験)を最適化していないブランドは成功できないだろう」とPatel氏は述べた。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の8/16公開の記事を翻訳・補足したものです。