ノンファンジブルトークン(NFT/Non-fungible tokens)は、デジタルコンシューマリズムにおける比較的新しい動きである。しかし、その影響はすでに長期的なものとなっており、今後数年のうちにeコマース市場に変革をもたらすだろう。
NFTは、個別に認証・検証が行われる、代替不可能なアイテムである。NFTは、固有の識別情報とメタデータを備えた正真正銘の「一点もの」であり、その正式な所有者は常に一人だけである。
Creator.co(インフルエンサーと中小企業間のコラボレーションを自動化するために構築されたクリエイターエコシステムを運営するカナダ企業)の創設者兼CEOであるVinod Varma氏によると、NFTはユーザー体験やブランド認知度の向上、そしてブランドエンゲージメントの機会の拡大に役立つことから、有名ブランドはこの初期段階においてもNFTへの投資に前向きであるという。
NFT市場は過去2年間で10倍の成長を遂げており、市場ウォッチャーはこの勢いが続くと予想している。
新たな収益源
NFTを取り入れることにより、ブランドとインフルエンサーの双方は、収益化可能な独自のコンテンツを作成し、フォロワーが独自のコレクティブル作品を所有できるようになった。
「NFTは、ブランドの価値を高め、商品の発売やブランドイベントの宣伝となるほか、顧客への感謝の印として、ユニークなカスタムギフトやクーポンとして利用することができる」と、Varma氏は話す。
この傾向が続くことで、物理的な商品ではなく、完全にデジタル形式で商品を販売できるようになるため、NFTによって、まったく新しい収益の形態が開かれていることにブランドは気づき始めるのだ。
「革新的なコンテンツを作成するために提携するブランドとインフルエンサーは、多くのメリットを活用することができ、互いの関係やオーディエンスとの関係を一層強固なものにするだろう」と、同氏は付け加える。
仮想通貨とは異なる
NFTと仮想通貨は、いずれも同じようなイノベーションや規格を使用したブロックチェーンに基づくものである。どちらも似たようなターゲット市場を対象としている。だが、両者は同じではない。
NFTは、仮想通貨の補助的なものと捉えてほしい。つまり、NFTは取引や販売は可能であるが、暗号化された通貨の形態で行われる。最も基本的な状況としては、NFTはデジタル台帳の形でブロックチェーンに保存されたデータの単位で販売や取引が可能なものだ、とVarma氏は説明する。
両者の主な違いは、その名前に示されている。仮想通貨は「通貨」であり、それは他の通貨と同じように、代替可能で、金銭的価値を有するというだけのことだ、と同氏は明言する。
このことは、本質的には、暗号では所有者がどのトークンを持っているかは問題ではないということを意味する。最終的には次のトークンと同じ価値を有することになる。NFTの価値は、その固有性、そして他のものと同価には置き換えることができないという事実から生じている。
ノンファンジブルトークンは、すべての所有者の間で等価に交換される通貨のようなものではない。個々のNFTは、保有者一人ひとりにとって唯一無二のものなのだ。
違いは何か
NFTと仮想通貨は、人によっては区別するほどの違いがないかもしれない。次の比較を考えてみてほしい、とVarma氏は提案する。ビットコインのような仮想通貨は代替可能だ。人は、あるビットコインを別のビットコインと交換し、引き続き、同じコインを保有することができる。
しかし、NFTは代替不能で、唯一無二の取引である。そのため、あるNFTを別のNFTと交換した場合、それはまったく別のものとなる。
区別するための違いがまだ分からないだろうか?おそらく、NFTが実際に取引でどのように機能するのかについて説明すれば、そのモヤモヤが解消するだろう。
NFTの仕組み
ほとんどのNFTは、非常に高い割合でイーサリアムのブロックチェーン上に存在している。他のブロックチェーンでもイーサリアム版のNFTを実行することは可能だが、Varma氏によると、ほとんどの場合、NFTはイーサリアム上に存在しているという。
「イーサリアム」は暗号通貨であるが、ETHコイン(イーサリアムブロックチェーンのネイティブ通貨)とは異なる動作を可能にする追加データを保存することで、NFTをサポートしていると同氏は指摘する。NFTは、個別に認証、検証可能で、代替不可能なデジタルアイテムである。
固有の識別情報とメタデータを有する、正真正銘の一点ものであり、その正式な所有者は常に一人だけである。そして、このことを前提にNFTは売買されていると、Varma氏は付け加える。
違いはお分かりいただけただろうか?では、もっと掘り下げてみよう。
普及の要因
NFTはユーザー体験やブランド認知度の向上、そしてブランドエンゲージメントの機会の拡大に役立つことから、ブランドとインフルエンサーはこの初期段階においてもNFTへの投資に前向きである。なぜこれほど導入が加速したのか。その答えにはいくつかの理由がある。
ブランドはNFTをモバイル広告キャンペーンに活用し、さまざまなデジタルメディアに戦略的に配信し、何度も収益をあげることができる、とVarma氏は指摘する。
究極的に有益であるのは、ブランドとインフルエンサーの双方が、収益化可能な独自のコンテンツを作成できるようになることだ。これにより、フォロワーは独自のコレクティブル作品を所有できるようになる。
「NFT市場は、インターネットに精通した人たちだけに選択肢を与えるものではない。NFTは、すべての個人クリエイターにとって、広くアクセス可能で変革的な市場を創出するカギを握っている。アクセス性が高いとはいえ、NFTの認知度や関連性は、日常の消費者にとってはまだ相対的に低い」とVarma氏。
NFTを広く普及させる一つの方法として、NFT市場そのものを、市場自体に相対的な価値を提供するコンテンツでいっぱいにすることが挙げられる。
パンデミックの後、そしてデジタルトランスフォーメーションにより、個人は今や、すぐに、簡単にアクセスでき、ピアツーピアで共有できるタイプのテクノロジーに参加する準備ができている、と同氏は述べる。
つまり、NFTにおいて重要なのはそこなのだ。
理解はできたが、なぜNFTが必要なのか?
その答えは、Varma氏が提案したように、最終的にはあなたがクリエイターであるか、消費者であるかによって異なる。
この点に関するVarma氏の推論をよりよく理解するために、話を続けよう。
クリエイターにとってNFTは、ユニークな作品をこれまで存在しなかった市場に売り込むための一つの選択肢となる。また、対象商品の認知度と可視性をこれまで以上に高めることができる。
「NFTでは、販売や取引が行われるたびにクリエイターに一定の割合が支払われる機能もあり、彼らはこの機能を有効にすることができる。これにより、クリエイターのデザインに人気が出れば、クリエイターも利益の一部を享受することができる」と、Varma氏は説明する。
消費者がNFTを求めるのにはいくつかの理由がある。まず、最も明白なことは、アートを購入することで、アーティストを経済的に支援しつつ、基本的かつ固有の使用権を保持しながら、気に入ったデザインを所有できるということだ。
さらに、自分だけのNFTを所有することで、素晴らしい自慢ができるのだ。だが、もし消費者が投資という道を選びたいとしたらどうだろう。
「その場合、NFTは他の芸術資産と同じように取り扱うこともできる。消費者は、価値が上がり続けることを期待して作品を購入し、いつか取引や売却が行われて利益を得ることができるのだ」と、同氏は述べる。
もっと詳しく
NFTは、クリエイター、消費者やブランドに権利を与える新たな形のソーシャルコマースの先駆けとなりつつある、とVarma氏は付け加える。これにより、中小企業はパブリックブロックチェーンを利用してデジタル製品を生産できるようになっている。
生産されたデジタル製品は、仮想通貨ウォレットに即座に届けられる。NFTは、顧客が小売プラットフォームから利益を得るための認証された方法として機能する、唯一無二のデジタルオブジェクトなのだ。
NFTがブランドとインフルエンサーの関係をどのように強化するのか。Varma氏によると、それは「可能性」に尽きるという。
「NFTの可能性は常に広がっており、NFTによってすでに多くのクリエイターが自らの革新的なアイデアを形にすることができるようになっている。これにより、ブランドとインフルエンサーがかつてないほど協力し合える機会が生まれている」と同氏。
動画からバーチャルハウス、音楽、芸術作品、オンラインレース、デジタル収集品まで、NFTはオリジナリティと種類を増やし続けている。さらに、NFTを販売するマーケットプレイスの数は増加し続けていることから、これらはほんの始まりに過ぎない、と同氏は予測する。
「ブランドやインフルエンサーにとって最も重要なことは、NFTが単なる最近のトレンドや最新の流行ではないことだ。NFTは、デジタルエコシステムにしか存在しないが、現実世界で価値を提供する素晴らしいデジタルエンティティなのだ」。
我々のカルチャーがますますデジタルを重視するようになるにつれ、組織や人々が新しい仮想環境への投資機会としてNFTを利用するようになり、NFTは増加するだろう。多くの人はまだ物理的な資産を最も好むかもしれないが、NFTは未来の在り方である、と同氏は付け加える。
バーチャルコレクティブル、音楽、そしてデジタルアートのいずれであろうと、NFTにより、ブランドとインフルエンサーの双方は、デジタルコンテンツと知的財産を活用するユニークな方法で協力し合うことができるのだ。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の4/28公開の記事を翻訳・補足したものです。