コンポーザブル・コマースは、カスタマー・エクスペリエンスを継続的に最適化するための独自の方法をブランドにもたらすことができるマーケティングアプローチである。
コンポーザブル・コマースは、(各分野でそれぞれ最適な製品を選定し組み合わせた)複数のベスト・オブ・ブリード・ベンダーを採用し、ビジネスに完全に対応するソリューションを構築する。この開発戦略では、厳選したコマースコンポーネントをマッシュアップし、Packaged Business Capabilities(PBC:パッケージ化された業務アプリケーションの機能を組み合わせて、カスタマイズされた業務アプリケーションのエクスペリエンスを実現できる技術)を使用して、特定のビジネスニーズ向けに構築されたカスタムアプリケーションと結合する。
米国調査会社Gartnerによると、コンポーザブル・テック・ソリューションを使用している企業は、2023年までに新機能を導入する場合、競合他社よりも80%迅速に実行できるという。このマーケティング戦略は、交響曲によく似ている。
小売業の最新ツール
楽譜がパートと楽章に分かれている交響曲の構造を考えてみよう。そして、それぞれが、聴き手を旅へ誘っている。同様に、コンポーザブル・コマース戦略は、カスタマージャーニーを中心に構築された現代のコマースソリューションだ。これには、CMS(コンテンツ管理システム)、ERP(企業資源計画)、検索、関連性、ライブビデオショッピング、チェックアウトなど、多数のパーツまたはビルディングブロックが必要となる。
これらのコンポートを選択し、オーケストレーション(システムやソフトウェア、サービスなどの構築・運用管理を自動化)し、継続的なニーズをサポートする適切な機能を実現することは、企業の責務である。ここで、コンポーザブル・コマースの出番となる。コンポーザブル・コマースによって、組織は、常に進化する顧客ニーズに適応するため、個別の交換可能なビルディングブロックから構成されるeコマースソリューションを構築できるのだ。
アジリティ(敏捷性)とフレキシビリティ(柔軟性)の向上のため、このアプローチを活用するコマース組織が増加している。コンポーザブル・コマースは、Covid-19パンデミックの際に急増したデジタルコマーストラフィックへの対応に一役買った、小売業界の最新ツールの1つである。
「一言で言えば、コンポーザブル・コマースでは、デジタルコマースソリューションをベスト・オブ・ブリード方式で導入することが可能である。その対極は、すべてが包括されたモノリス(分割されていない巨大な一枚岩)ソリューションだ」と、デジタルコマース企業Avensiaの北米ゼネラルマネージャー兼シニアコマースアドバイザーであるJohan Liljeros氏は語った。
コンポーザブル・プラットフォーム・コンポーネントの選択
コンポーザブル・コマースシステムを、新しいタイプのマーケティング・プラットフォームだと考えてみよう。モノリスシステムが提供するものに自社のビジネスフローを適応させるのではなく、自社のビジネスニーズに合うように機能を調整するべきである。
たとえば、自社ビジネスに適したCMS、支払い処理ソリューション、検索エンジンの種類を選択すべきである。そして、パーソナライゼーションのタイプ、ホスティングプロバイダー、および、チェックアウト、デジタル資産管理などのコマースオーケストレーションも選択するのだ。
そして、それらの選択したすべてのコンポーネントは、モジュラー式のジグソーパズルのように、各ビジネスが採用するDRP(流通資源計画)またはCRMプラットフォームに統合することができるとLiljeros氏は指摘している。
一般的には、コンポーザブル・プラットフォームをセットアップするための初期費用は、若干高くなる。しかし、Liljeros氏によれば、長期的なメリットもはるかに大きいという。
「これらすべてのコンポーネントを統合するために、初期投資は少し大きくなるかもしれない。しかし、構成されたプラットフォームの適応性は、はるかに向上し、使用可能期間も長期化する」と、Liljeros氏は付け加えた。
その継続的な適応性は、企業のビジネスモデルやカスタマー・エクスペリエンスが変化した場合に効果を発揮する。期待するものが変化した場合に、コンポーザブル・プラットフォームは、より迅速に変更することが可能であり、時間、費用、および競争による損失という両方を削減することができるのだ。
「投資面だけでなく競争という点でも、もう一つのビジネスバリューとなるだろう。新しいソリューションを導入することで、競争他社を凌駕するチャンスが劇的に増えることになるだろう」と、Liljeros氏は語った。
顧客要望計画
Liljeros氏は、導入を考える際には、コンポーザブル・コマース・プラットフォームを、特定の業界向けのソリューションではなく、広範なツールとみなす必要があると警告している。それは、B to B企業向けか、または、B to C企業向けのツールであるかは重要ではない。むしろ、将来的にどれだけの柔軟性が必要になるか、また、業界の変化にどれだけ迅速に適応したいかが重要であると同氏は語った。
そうではなく、ビジネスリーダーは、自社の顧客対応要件などのパラメータを確認する必要がある。顧客の要望と期待は、時間とともにどのように変化するのか?ビジネスリーダーとして、新しいビジネスモデルを導入する予定があるか、あるいは、自分たちの業界は今後のビジネスモデルにさらなる柔軟性を求められるだろうか?
また、企業のバリュープロポジション(価値提案)が、今後5年間でどのように変化するかを考慮しよう。デジタル戦略はどのようなものか?また、IT分野部門には何が必要となるのか?
したがって、ビジネスがターゲットとする業界によって、リーダーがコマースプラットフォームにプラグインするために選択するモジュールの範囲が決まるのだ、とLiljeros氏。
現在、コンポーザブル・コマース・プラットフォームは適応曲線上にあると同氏は指摘した。ビジネスツールとしての成長曲線がみられるのは、ここ数年前のことである。
まだ馴染みのない領域
すべての新しいテクノロジーと同様に、企業や政府がその真の価値を理解するには時間がかかるかもしれない。一方で、このテクノロジーの創設者は、ソリューション開発のためのさまざまなプラットフォームを開発し続けている。
「ベスト・オブ・ブリードという概念は新しいものではない。しかし、今は、テクノロジーは、まったく異なる方法で、はるかに前進し、より収益性が高く有益なものとなっている」と、Liljeros氏。
Avensiaは、他の多くのデジタル開発企業と同様、この新しいテクノロジーの最前線にいる。同社は、世界中の小売業者や企業にeコマースソリューションを提供しているのだ。
初期から参入しているが、新しいスタートアップではない。Avensiaは14年前から、コマースプラットフォームに携わっており、これらすべてのコンポーネントを集約させてクライアントのニーズに適合するプラットフォームの導入に取り組んできた。
Avensiaは、DIY企業、小売業者、製造業者と提携し、さまざまなプラットフォームコンポーネントを選択し、eコマース・オーケストレーション・プラットフォーム間の統合の集約をサポートしていると、Liljeros氏は説明する。
実店舗を含む
コマースプラットフォームのためのプラグイン、またはコンポーザブル・ビジネスモジュールの増加傾向の一部に、用語の変化がある。たとえば、Liljero氏は、「eコマース」という用語を使用することはめったにない。これは、「eコマース」という用語を使うことで、実店舗と従来のeコマースビジネスとの間の隔たりが強化されるためだ。
代わりに、Liljero氏は、より包括的な「デジタルコマース」という用語を使用する。いわゆるeコマースは、インストア・コマースに不可欠なものになりつつあると同氏は提示した。
広い意味でのコンポーザブル・コマース・ソリューションは、現在、実店舗でもみられるテクノロジーである。セルフチェックアウトに使われるデジタルディスプレイや、POSシステムなど、同じテクノロジーをリユースしているのだ。
「実店舗でも、同様に、さまざまなコンポーネントを使用している」と、Liljero氏は語った。「実店舗での商品情報表示やパーソナライゼーション効果は、オンラインシステムサービスで使用する情報とまったく同じになり得る」。
これの良い点は、顧客の視点で、結果をみた場合であるとLiljero氏は付け加えた。異なるチャネルというものは、もはや存在しない。顧客にとって、それはより一貫性のあるエクスペリエンスとなる。
「すべてのチャネルで、同じ表現、同じ価格設定、同じキャンペーン、同じサービスに出会うと、すべての小売業者が目指す、チャネルにとらわれないエクスペリエンスを得ることができる。このようにコマースシステムを構築していれば、新しいチャネルをシステムにより簡単に接続できる。それは理にかなっている」と、Liljeros氏は述べている。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の9/9公開の記事を翻訳・補足したものです。