同社はバイラルソーシャルでの成功に向けた変化の真っただ中にある。

 

ビューティブリトー(beauty burrito)という商品をご存知だろうか。米国のオンライン化粧品会社e.l.f. Beautyと米国のメキシコ料理レストランチェーンChipotle Mexican Grillがコラボし限定発売した、ホイルでラップしブリトーのようにパッケージングした化粧キットだ。一見どうかしているような組み合わせだが、両社は、化粧キットユーザーとブリトー好き、両方の購買層を巻き込み、TikTokを中心にバイラルソーシャルキャンペーンを展開した。

 

e.l.f. Beautyがスマートなデジタルキャンペーンを展開していることは明らかで、バックグラウンドには多くの戦略とテクノロジーがある。同社で進行中のトランスフォーメーションについて最高デジタル責任者であるEkta Chopra氏に話を聞いた。

 

トランスフォーメーションの4つの重要な柱

e.l.f.のデジタルトランスフォーメーションは、約2年半前、新型コロナウイルスのパンデミック前から始まっている。「ブランドの認知度が低く、e.l.f.が何の略なのか知られていないこともあった」とChopra氏は語る(eye, lip, faceの頭文字)。「我々はどのようなブランドか、ということをわかりやすく伝えたかった」。そして、e.l.f.が下した決断は、出店していた実店舗を閉鎖し、代わりにデジタルへ投資することだった。

 

e.l.f.のデジタルトランスフォーメーションには4つの重要な柱がある。第1の柱は完全につながったデジタルエコシステムを作成することだ。「消費者が商品を発見してから購入するまでの過程やアドボカシーなど、いかに摩擦のないコンシューマージャーニーを実現できるか」。2本目の柱はデータ収集。「消費者データをどう活用し、一つの消費者プロファイルに集約させるか」。

 

Chopra氏は、3本目の柱は、データ収集後、消費者に価値あるエクスペリエンスを届けることであると言う。「確実に、消費者のニーズ、要望、欲求に合うエクスペリエンスを提供する必要がある」。そして、4本目の柱は、エクスペリエンスの活性化だ。「拡張現実(AR)、ライブ販売、リアルとデジタルのギャップを埋める様々な方法でのアプローチは、最終的にコマースビジネスの成長をもたらす」。

 

昨年は、全体的にデジタルの成長がみられたが、e.l.f.は3桁の成長を記録した。「私たちは、本当の意味でデジタルの成長を維持し、活用する準備ができていた」とChopra氏は語った。「成長を促進したのはデータだ。それはデジタルエコシステムにおける通貨なのだ。データ無しでは、成長し続けることは不可能である」

 

データ戦略

e.l.f.の顧客データ収集アプローチは、最近のプライバシー規制以前に遡る。「消費者と距離を縮めるには、価値のあるものの提供が必要だと考えた。それが、ポイントプログラムだ。現在、約260万人のロイヤルティメンバーがいて、会員は増え続けている」。e.l.f.はGDPR(一般データ保護規則)、CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)やその他の規制を準拠しており、ロイヤルティプログラムは顧客データを集めるためだと明言している。

 

「また、顧客データを使ってエクスペリエンスを作成したときに、コンバージョンが増えたか、平均注文額が増えたか、顧客生涯価値が上がったか、リピート購入率が向上したかを測定している」とChopra氏は語った。

 

顧客IDをまとめる

Chopra氏によると、一年半ほど前、e.l.f.はつながったデジタルエコシステムが整い、大量のデータを収集したが、それらのデータをまとめて、さまざまなチャネルで活用するという課題に直面した、とのこと。さらに「すべての顧客情報を収集したが、単一の顧客IDごとにまとまっていなかった」と語った。そして「そして、顧客データプラットフォーム(CDP)を入手しようと考え、米国の顧客プラットフォーム提供会社であるActionIQを選んだ」と続けた。

 

Chopra氏は、ActionIQの実装に段階的に取り組んでおり、そのプロセスはまだ完了していない。「収集したデータの約75%を取り込み、単一のユーザーIDごとにまとめるというフェーズ1は完了した。今、すべてのデータソースにアクセスでき、セグメントを作成してリアルタイムのマーケティングに活用できる状態だ。実際にキャンペーンを実行する代理店に同プラットフォームの活用についてのトレーニングを行った」。インポートが必要なソーシャルデータはまだある。

 

ソーシャルメディアに加えて、eメールやSMSも、e.l.f.にとって重要なチャネルだ。「しかし、包括的なアプローチと言っていいだろう。消費者が望む我々とつながる方法は一つではない。個々のチャネルをサイロ的に判断するよりも、消費者の好みを認識したカスタマージャーニーを提供することが重要である」。

 

フェーズ2は、セグメントの作成とe.l.f.が実行したいマーケティングタイプに焦点を当てた。「ジャーニー自体は、すべての構成要素をまとめるため、フェーズ3に移行する予定だ。その間、ジャーニーは、ActionIQのデータに基づいて、米国本社のSalesforceが提供するデジタルマーケティングプラットフォームSalesforce Marketing Cloudで編成される。

 

CDP導入を成功させるまでに時間がかかることは珍しい話ではない。「我々の非常にアジャイルなアプローチをとっている。2020年10月頃に、ActionIQを選択し、2021年3月には、データの75%というかなり膨大なデータ量を使用可能な状態でローンチできた。強固なチームでなければできなかった。我々には、専門のCRMアナリストがいて、デジタルエコシステムをよく理解しているデータアナリストがいて、ActionIQの実装チームとうまく連携している。このような協力によって、実現することができたのだ」。

 

ソーシャル面では

ビューティブリトーのキャンペーンから明らかなように、e.l.f.は、従来のソーシャルメディアプラットフォームを超えたマーケティングを行なっている。e.l.f.のチャレンジキャンペーンは、TikTokで70億回再生を記録し、過去最高のバイラルを達成した。動画シェアソーシャルプラットフォームのTrillerを検討し、音声SNSのClubHouseをテストし、ライブストリーミング配信プラットフォームTwitchで大きな存在感を確立した。「私たちは、常に新しいアプローチ方法を探している」とChopraは語った。「Twitchは、私たちにとって重要なチャネルであり、注目している。そして、私たちには3つのモットーがある。地に足を付ける(基礎の強化に焦点を置く)、星を見上げる(常に新しいチャンスを探す)、迅速に動く、この3つだ」。

 

今回のアジャイルアプローチも、このモットーに従った結果だ。e.l.f.は、幅広いチャネルに少額の投資を行う準備をしており、エンゲージメントが獲得できれば「前向きに」進める、とChopra氏。「大がかりな調査を待たず、シグナルを見つければ、その方向に進み継続的に投資する」。現在、e.l.f.は、ソーシャルメディアマネジメントに米国発の顧客体験管理プラットフォームSprinklrを使用しており、ActionIQとの統合が進行中である。

 

e.l.f.の次のステップは何か。「次の進化は、顧客データを活用したインサイトや予測モデルなどの強化である。このデータを活性化し、収益化するさまざまな方法を検討するために、これらすべてをどのようにまとめるかという点に取り組んでいく」。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の6/15公開の記事を翻訳・補足したものです。