高品質な商品について“期間限定で入手困難である”という感覚を作り出すことは、自社の製品やサービスの売り上げを伸ばす効果的な方法である。しかし、重要なのはそのやり方である。

最近では消費者にとって、気軽さ・利便性・可用性が全てである。数回クリックするだけで、ほとんど全てもの(食料品、衣服、乗り物のチケットなど、思いつくありとあらゆるもののほとんど)を購入し、自宅まで配達させることができる。

万が一ある事業者が欲しい商品を提供していなくても、数回クリックするだけで別の選択肢(事業者)から購入することができるのだ。もはや待つ必要などないのである。

このような現状では、「希少性マーケティング」は時代遅れに思える。しかし、現実には、全く反対である。結局のところ、供給量を減らせば、消費者は先を争って限定された商品を入手しようとする。実際希少性マーケティングは、適切に実行すれば、製品やサービスの売上を伸ばす驚くほど強力な施策となる。

これらを念頭に置いて、希少性マーケティングについて、また、「今すぐ手に入れたい」というニーズが強い今日の消費者に対し希少性マーケティングを効果的に実行する方法について説明しよう。

 

希少性マーケティングの仕組み

希少性マーケティングは、「恐れ」が行動を起こす動機になるという、非常に単純な基本的原理の1つに基づいている。ほとんどのあらゆることに対する「恐怖」が動機となる。たとえば、見逃すことへの恐怖や社会的に恥をかくことへの恐怖、不適切であることへの恐怖などである。なんとなく理解できるだろう。

例えば、Disney Vault(Disneyのビデオリリースについてのポリシー)を例に挙げてみよう。何十年間にわたりDisneyは、同社のクラシック映画のDVD発売を休止している。そして時々、Disneyはクラシック映画の中から特定のタイトルを期間限定で再販するのだ。子ども時代にお気に入りだった映画のDVDが欲しいならば、その販売期間を見逃さないように購入しなければいけない。

これは単純な戦略であるが、非常によく設計され、実行されている。そしてこうしたクラシックタイトルの「新規」リリースは、次世代の購入客を引き寄せているのだ。その結果、ディズニー映画は米国の家庭にとって特別な、“神聖”と言えるほどの確固たる地位を確立し続けている。全ては「希少性マーケティング」の効果なのである。

ディズニーの成功の秘訣は、「常に購入できる商品は日用品になってしまう」という事実である。私たち人間は、当たり前のことには有り難みを感じなくなるものだ。しかし期間限定、または、数量が限定されていて入手困難な場合、その商品は特別なものとなる。人は、入手しづらいものや、代用できないものに対しての関心が高く、さらに高い価値を感じるのである。

 

希少性を効果的に利用する

実際のところ、「今すぐ欲しい」という欲求を持つ消費者を満足させるための、「2日間以内に商品をお届けする」といったサービスが、希少性マーケティングの効果を高めている。消費者は、数量限定商品や、商品が届くのを待つことに慣れていないため、希少性が与えるインパクトはより大きくなっていると言えよう。

これは望ましいことである。なぜなら、何十年もの歴史を持つブランドを確立した巨大企業でなくても、希少性マーケティングを効果的に実行することができる可能性があるからだ。ここにいくつかのアイデアを紹介しよう。

 

高品質の商品を作り上げる

DIYを試したことがある人なら誰でも、高い品質のものを製作するには多くの時間と労力がかかることを理解しているだろう。その結果、人は皆“供給量と品質は反比例すること”を自然に認識している。品質が高ければ高いほど、生産量は少なくなるということだ。

ある商品が実際に大量生産できるかどうかが問題なのではなく、品質と生産量は反比例するということを信じているのだ。

(ワインなどの)アルコール飲料を例に挙げてみよう。何世紀にもわたり、さまざまな要因(生産地の天候や土壌の状態、収穫時期と品質、発酵技術、生産年など)によって、アルコール飲料は限定商品となっている。確かに、安いワインを手に入れることは可能だ。しかし、もし本当に美味しいワインが欲しいのであれば、”特定のブランド”から”特定の年”に生産されたワインを購入する必要がある。

ほとんどの場合、美味しいアルコール商品は限定数量でしか販売されない。少なくとも、数量を限定することにより、神秘性が生じる。その神秘性が効果的に機能する業界が存在している。

例えば、バーボンウィスキーPappy Van Winkleは、毎年7,000ケースのウィスキーしか出荷していない。もっと大量に生産できないのだろうか?おそらく可能だろう。しかし、品質を重視し、年間数千ケースの生産量に制限することによって、消費者が1本に何百ドルも支払う商品を生み出したのだ。

どれだけの数量のウィスキーを生産できるかということは問題ではない。重要なのは、「Pappy Van Winkleのウィスキーを生産するのには多大な手間がかかっているため、7,000ケースしか出荷できない」ということを消費者が信じているという事実である。その結果として、消費者は大量生産されたウィスキー1本には決して支払わないだろう金額を支払い、このウィスキーを購入するのだ。

 

限定感を生み出す

希少性マーケティングが非常に効果的な施策であるもう1つの理由は、特別に入手できたという限定感を生み出すという点である。いくつかの州では、Pappy Van Winkleの数本のボトルを購入する権利を得るための抽選に当選しなければならない。そのため、ディナーの際にPappy Van Winkleのボトルを出せば、それだけで周りから“特別な人だ”と思われるだろう。

基本的に、希少性マーケティングは「手に入れた人」と「手に入れられない人」を生み出す。これにより、所属するグループに応じて社会的優位性、もしくは劣等感が生まれる。こうしたいくつかの原始的な社会的本能を企業はビジネスに活用しているのだ。

たとえば、最も人気のあるオンラインプラットフォームのいくつかは、この希少性マーケティングアプローチを利用してスタートしている。GmailとPinterestは、当初「招待制」のプラットフォームとして始まった。招待されたユーザーは、新しくてエキサイティングな何かへの特別なアクセス権を持つエリートグループの一員になった。

当時はGmailやPinterestが“他の類似のプラットフォームよりも実際に優れているかどうか”は問題ではなかった。それよりも重要なのは、そのプラットフォームの排他性によって、利用できるユーザーに優越感が生まれ、人々は利用者グループに入ることを熱望したという事実である。

 

期間限定のオファーを提供する

自社の商品に対する限定感と憧れを生み出す最も簡単な方法は、自社製品、またはサービスを入手困難にすることなのである。

DisneyがDisney Vaultでどのようにこの戦術を活用しているかについては、すでに説明した。しかし、入手困難にすることで売上を伸ばす方法は他にもある。

例えば、アーティストにゲームや映画、音楽アルバムに関わるオルタナティブ・アート作品の創作を依頼しているアートギャラリーMondoである。Mondoのようなビジネスを行う企業は他にもあるが、同社は、アートのプリント点数を制限することによって、熱狂的なファンを獲得している。人気の高いMondoの作品は、数時間から数日で売り切れることがほとんどのため、ファンは今後のリリースに関するニュースを見逃さないようにMondoギャラリーのTwitterアカウントを注意深くチェックしているのだ。

 

SupremeBapeといったブランドも、定期的に最新のデザインの衣類の数量限定発売を行なっている。結果として、新しい商品ラインアップが発売される度に、狂乱的な購入ブームが起こるのだ。

これらの企業は必ずしも高品質の製品を取り扱っているわけではなく、限定されたグループに対してのみ販売しているわけでもない。しかしこれらのビジネスは、自社製品を“入手困難”にすることによって、事実上コレクターアイテムにしている。しかもそれらの商品の価値が上がる前に、流行遅れになったり、廃業しなければならなくなったりすることもない。

 

結論

現在の消費者の考え方は、「商品を今すぐ手に入れなければ気が済まない」と表現するのが最適だろう。そこに希少性を利用することで、より利益を生むマーケティングを行うことができる。むしろ現在の消費者の期待の変化が、希少性マーケティングの効果を増幅させているようだ。

しかし、希少性マーケティングは適切に実行しなければ機能しない。一般的に入手できる、もしくは、独自性がなく高品質ではない製品やサービスについて希少性を作り出そうとすると、潜在顧客を他の事業者に取られるだけである。

しかし、選び抜いた固有の価値を持つ製品やサービスに希少性マーケティングを実行すれば、自社の提供商品の知覚価値を大幅に高めることができるのだ。平凡な商品に終わる可能性のあるものを、消費者が争って入手するような特別なものに変えることができるということである。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の2/22公開の記事を翻訳・補足したものです。