勝ち組が明確になってきたWeb接客ツール - レッドオーシャンを勝ち抜くサービスとその強み
2014年後半頃から新ジャンルとして市場にサービスが登場し始めた「Web接客ツール」。それから2年半が経過し、今や30を超えるサービスが乱立している。そんな中、導入店舗数を大きく伸ばしているサービスがいくつか際立ってきているようだ。今回はこのレッドオーシャンと化しているWeb接客ツールの主要サービスを紹介し、その強みについて見ていく。
<参考>
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Web接客を可能にするサービス
Web接客を可能にするツールとはサイトに来訪したユーザーに対して何らかのアクションをサイト運営者側が取れるツールだ。しかしその“Web接客ツール”と一言で言ってもサービスは多岐にわたっている。
大きく分けて5つのベクトルに分けられる。1つ目は本記事の中心でもあるWeb上での接客に軸足を置いたサービス。2つ目は離脱防止を目的としたもの。3つ目はチャット機能を重視したもの。さらに4つ目・5つ目は少しジャンルが変わってくるがCRM、マーケティングオートメーションサービスの中のWeb接客が可能なサービスとなる。これらWeb接客を可能とするサービスはおよそ30近くにのぼる。
<参考>
eコマース業界カオスマップ2016 - 転換率向上サービス編
今回はその中でも主にWebサイト上での接客に軸足を置いている、サービス事業者に対して、eコマースコンバージョンラボ編集部が独自にヒアリングを行い、回答があったものを中心に整理した記事となる。
各サービスの導入状況まとめ
ここで、回答があった主要な9サービスの導入状況をまとめてみよう。
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導入社数で見てみると、ecコンシェルとKARTE他社を引き離してきている。
ecコンシェルはディープラーニングの最先端技術を持つ「PKSHA Technology」と共同開発したAIが特徴。後発サービスでありながら、CVRを改善するAIで、ここ最近一気に導入社数を伸ばし、2,100社を超えている。
KARTEはWeb接客の先駆けといえるツールであり、高い拡張性と接客アクションの多彩さを武器に導入社数を伸ばし、導入社数は1,500社に迫ろうとしている。
導入しているECサイトの商品ジャンルを見てみると、サービスの特性が見えてくる。美容・健康がメインのヒキアゲールやエフトラCTA、Ve Panelやチャモはアパレルでの実績が目立つ。
導入しているECサイトの月商規模を見てみると、Sprocketやヒキアゲールは売上が500万円以上の中規模店舗への導入が非常に多いようだ。逆にecコンシェルやチャモは売上が500万以下の小規模店舗への導入が多くなっている。
一方Web接客に軸足を置いていないサービスでは、CRM系でMakeRepeaterが2万店舗以上の導入実績を誇るMakeShopとの親和性を武器に導入店舗数を伸ばし、チャットをベースとしたチャモも同数の2千社となっている。導入しているサイトの中でのECサイト比率はMakeRepeaterが99%、たまごリピートとの連携が強みのヒキアゲールが95%、KARTEが59%となっており、半数を超えている状況だ。
それでは、このレッドオーシャンと化しているWeb接客ツール領域において、導入店舗数を伸ばし、実際のECサイトに評価されている4サービスを見ていこう。
ecコンシェル
NTTドコモが2016年6月にローンチ。人工知能を活用しCVR改善の精度とスピードに特化したWeb接客ツールがecコンシェルだ。
国内有数のビッグデータ保有企業「NTTドコモ」と、ディープラーニングの最先端技術を持つ「PKSHA Technology」が共同開発したAIを搭載した、CVR改善の精度とスピードが特徴のWeb接客ツールだ。
AIを活用することにより、サイト内のアクセスログや購買履歴といったさまざまなデータの解析を自動で行う。そのため、Web接客ツールの運用に際して発生する手間の軽減を実現している。
数あるWeb接客ツールの中でも後発となったecコンシェルだが、上記のAIとUIを極力シンプルに設計して初心者でも迷うことなく使えるように工夫したことで、導入社数が急速に拡大。サービス開始からわずか10カ月で2,100社が導入するまでに至った。また、国内で唯一という期間無制限の無料プランで、初期導入のハードルを下げたことも導入社数の増加に繋がっている。
また、ツールを導入したことにより「いくら売上が純増したか」を、ほぼリアルタイムで知ることができるダッシュボードや、Webサイトのデザイン情報を解析し、自動でクリエイティブを生成する機能「オートクリエイティブ」など、担当者をサポートする機能にも力を入れている。
KARTE
Webサイトに数行のコードを埋め込むだけで、来訪者の特徴や行動をリアルタイムに解析し、実店舗さながらの接客を行えるKARTE。
従来のWeb接客ツールは過去の履歴から顧客分析を行うものばかりだったが、KARTEが画期的だと評価されたのは、サイトを訪れる顧客の「いまこの瞬間」を可視化し、それに対してアプローチできる点だった。KARTEでは、アクセス情報、来訪パターン、ユーザー情報をリアルタイムで更新し、常に最新の状況を把握することで、来訪者に対して適切な接客を適切なタイミングで行うことができる。利用方法はいたって簡単で、あらかじめ用意された施策のテンプレートを選ぶだけで効果的な接客へつなげられるのだ。
現在KARTEで行えるのは、写真や文字でアピールするカード機能、テキストで興味を引く通知機能、まとまった情報を配信できるメール機能、密にコミュニケーションが取れるチャット機能の5つ。たとえユーザーがサイトに来訪していなくても、モバイル通知やブラウザ通知で話しかけることが可能で、SMSやLINE、Facebookメッセンジャーなど、あらゆるツールと連携している(KARTE TALK)。例えば、長時間カートに商品を入れたままサイト内に滞在しているユーザーがいたらチャットで話しかけたり、購入を迷っているユーザーやお得意様にはお買い得価格でアプローチしたり、接客を鬱陶しく思うユーザーに対しては何もしないという施策を選択できるなど、その接客姿勢はリアル店舗を超えていると言っても過言ではない。また、クライアントが個別に持っている顧客データやSNSの行動データと関連付けることもできるため、あらゆる角度からWeb接客が行える。
2015年3月のローンチ以来、ファッション系のECサイトを中心に支持されてきたKARTE。現在1,430社もの事業者が導入しており、求人・転職サイトや不動産サイトなど、全体の4割を非ECサイトが占める。2016年の時点で導入企業が845社だったことを考えると、この1年で飛躍的に伸びたことが分かるだろう。
Ve Panel
Ve ContactやVe Prompt、Ve Assist、Ve Adsなど、サイトからの離脱防止にフォーカスすることでコンバージョン率を改善するサービスを複数展開するVe Japanが、2016年6月にローンチした新たなサイト離脱抑制サービスがVe Panelだ。
固定費や導入費なしで成果報酬で利用でき、サイト離脱防止ツールとしては、複数の機能を一度に提供できる世界初のサービスとして注目を集めている。ユーザーがサイトから離脱しようとするタイミングで割引クーポンや商品レコメンドなどが表示される仕組みだが、まるでサイトの一部であるかのようにそれらが表示されるため、自然な形でサイト離脱を抑制できると好評だ。公式発表によると、導入による売り上げ増は24%。運営元のVe Interactiveはグローバルオフィスが世界34箇所にあるので、海外サイトでも対応可能というのは心強い。世界中のECサイトのうち、15%の購入情報を取得しているという点もメリットの1つだろう。
flipdesk
2014年9月にローンチされたflipdesk(フリップデスク)は、現在540社が導入しているスマホECに特化した販促・接客ツールだ。
専用のタグをサイトに埋め込むだけで訪問者の行動履歴を自動解析でき、その解析をもとに1人1人の状況に合わせた的確な接客が行える。例えば、閲覧中の画面にバナーを表示してリンク先に遷移させたり、初めてサイトを訪れたユーザーにクーポンを発行するほか、訪問中のユーザーへのダイレクトメッセージ、販促キャンペーンの告知、資料請求や問い合わせへの誘導、チャットでのリアルタイム対応など、自由度の高い接客が可能となっている。また、顧客の会員ランク、実店舗での購買有無、メルマガ登録の有無など、サイト上の行動履歴だけでは判別できない情報を連携することで、ターゲティング条件として活用することが可能だ。KDDIグループとして広告や検索などと連動した総合的なソリューションを提供できる点も、他のWeb接客ツールにはないメリットの1つと言えるだろう。
レッドオーシャンを勝ち抜くサービスとその強み
ここで紹介した各サービスはWeb接客ツール領域で勝ち組といえるだろう。それぞれのサービスはどのようなポイントが評価されてきたのだろうか。
ecコンシェルは後発ながら爆発的な勢いで導入社数を伸ばしている。CVRをAIで改善するという機能的なメリット以外にも、AIによるマーケティング担当者の負荷軽減、業界で唯一の「無料」という価格面のアドバンテージが理由としてありそうだ。また後発ゆえに業界の他のサービスのいいとこどりをしている側面もあり、機能的にも必要な機能が一通り揃っているという安心感も大きいだろう。
KARTEはなんといってもリアルタイム性とSNSとの機能連携が特徴的だ。他のサービスには無い強みの打ち出し方に成功している。
Ve Panelはこちらも成果報酬型という料金体系が強みになっていそうだ。さらに中規模以上の事業者をターゲットとしているだろうことから、他の関連サービスとの親和性という部分が評価が高いポイントだろう。
flipdeskの強みはスマホ指向を打ち出したことだろう。またKDDIグループへの加入で安心感も付加され今後の進展も期待できそうだ。
このように導入店舗数を増やしているWeb接客ツールにはそれぞれの特徴や強みがある。EC事業者にとって、そのサイトが置かれている状況は千差万別だ。その中でこれらの強みの中でどのような点を評価していくのかによって選択していくサービスは変わってくるだろう。既にECサイト支援サービスの中で一定の市民権を得ているこのWeb接客ツールという領域だが、これからもサービスの競争によってツールの改善が行われていくことを期待したい。