導入が進む「受け取りロッカー」は再配達問題の切り札となるのか

 

ECの浸透に伴い、物流面での改革がここ数年飛躍的に進んできている。その中でも地味ながら、その重要性と意義から注目を浴びているのがオンラインで購入した商品の再配達問題だ。それを解決するための1つの手段として、各社が受け取りロッカーサービスの提供を進めている。今回は社会的な需要も高まってきつつある、受け取りロッカーサービスについてみていきたい。

 

<参考>

ECで買ったモノの受け取り方の多様化 - 受け取り専用ポスト、駅、ターミナル

再配達に関わる手間とコストをどこまで減らせるか - EC・フリマ事業者とコンビニと宅配事業者の三位一体の取り組み

 

 

再配達問題とは

 

冒頭でも触れた再配達問題とはそもそもどういうものか。ここで改めて整理してみる。

再配達問題とは、ECサイトの利用者の増加により宅配物が増加しつつある中で、宅配事業者が受取人不在による非効率な再配達によって圧迫されている問題のことを指す。

昨年10月に公表された国土交通省の「宅配の再配達の削減に向けた受取方法の多様化の促進等に関する検討会」報告書によると、全体の2割の荷物が再配達となっており、再配達によって営業用トラックの年間排出量の1%に相当する年約42万トンのCO2が発生していることや再配達にかかる時間は年間約1.8億時間で、年約9万人分の労働力に相当することや、トラックドライバーの1割に相当する労働力が費やされていることなどから、大きな社会的損失が発生していることが判明した。その結果地球温暖化やトラックドライバー不足、労働環境の悪化など様々な社会的問題への影響が懸念され始めている。

また消費者からしても一回で受け取ることが出来ない場合には、宅配事業者に連絡して再配達手配を行うため、それなりの手間が発生する。もちろん宅配ロッカーが完備されているマンションなどではそれほど問題はないが、一戸建てや代引きの場合は必ず対面での受取が必要となってくるため、再配達リスクは存在する。

1回目の配達で受け取れなかった理由としては、「配達されるこ とは知っていたが、用事で留守にしていた」「もともと再配達してもらう予定だった」などの声があげられ、再配達を前提とした依頼主の不在は約4割にものぼることが明らかになっている。

 

 

はこぽす

 

日本郵便楽天と連携し、2015年4月9日からゆうパック受け取りサービスはこぽすの提供を開始した。

 

 

はこぽすにより、利用者はECサイトで購入した商品を郵便局に設置されたロッカーを利用して受け取ることが可能となった。現在は、都内25か所の郵便局で24時間利用可能となっている(一部店舗は土日の利用時間が制限)。サービス開始時は楽天市場の約300の出店事業者から購入した商品を対象に試験的にサービスを提供していたが、同年11月からは楽天市場以外のECサイト(日本郵便株式会社と契約を交わした事業者のみ)から購入した商品についても、はこぽすを利用できるようになった。

はこぽすを利用するためには、はじめに、商品を注文する際に配送方法としてはこぽすを指定する。注文した商品は郵便局に届けられ、はこぽすに入れられる。受取りの際は、商品が郵便局に届けられるとメールで送られる認証番号をタッチパネルで入力することで開錠される仕組みになっている。メールが届いた日から3日以内であれば、いつでも受け取りに行くことが可能だ。ロッカーから受け取れるので、窓口に並ぶ必要もない。また、この受け取り方法は、購入者の住所や購入した商品を配送業者などに知られることがないため、購入者のプライバシーを守ることにも繋がる。ただし、荷物は三辺計100cm、重さが30kg以内であることが条件であり、代金引換や着払い、冷蔵・冷凍の荷物は利用することができない。

また、楽天ははこぽすとは別に、楽天ボックスというサービスを行っている。2014年5月に大阪から運用がスタートし現在は北海道・東京・大阪・福岡など全国で25か所の駅構内を中心に設置されている。現状でははこぽすも楽天ボックスも受け取りに関わるステップは全く同じだ。受け取り場所を一気に拡大し、楽天市場以外の商品の受け取りにも活用するためにはこぽすの提供を開始したと見ていいだろう。

 

 

ヤマト運輸×ネオポスト

 

今年の1月28日にヤマト運輸ネオポストと共に、オープン型宅配ロッカー事業の展開を目指し、合弁会社設立を発表した。

 

 

ヤマト運輸は従来からロッカー受け取りサービスを行っているが、一部のヤマト運輸の営業所と一部の駅の合計6箇所のみでの提供に留まっていた。そのため、今回のネオポストとの合弁会社設立により、ヤマト運輸が目指すのはより広範な宅配ロッカーの設置という動きとなる。また、今回の取り組みが注目されるのは、ヤマト運輸の宅配物だけでなく、他社の宅配物も同じように使えるオープン型宅配ロッカーを目指す点だ。ネオポストは既にフランスにて250台のオープン型宅配ロッカーの運営をフランスの郵政グループと共同で推進しており、今後の国内での展開が非常に楽しみな取り組みだ。

 

 

ネットでエキナカ

 

JR東日本では、ネットでエキナカを2014年11月から2016年3月末日の期間限定で行っている。

 

 

専用のECサイトで販売されているスウィーツやお弁当、お菓子やファッ ショングッズ、地域の特産品などの商品がエキナカのお店または自宅で受け取ることができる。現在はエキュート(東京・品川・品川サウス・上野・日暮里・赤 羽・大宮・立川)店舗で実施。他のサービスと同様に、ネットで商品を注文する時に受け取り日や時間を指定し、受け取る際はコードIDを利用する。手土産を持っていく時にネットで事前に注文し、出かける途中で受け取ることができるなどのメリットがある。しかし予告されたサービス終了まであと1ヶ月と迫り、今後の展開が注目されるタイミングでもある。

また、2013年4月1日から佐川急便が福岡エリアの一部の駅などで実施していた宅配ロッカー受け取りサービスは2015年3月20日をもって終了している。

 

 

ネットスーパー

 

大手スーパーがオンライン上で展開しているネットスーパーでも、受け取りロッカーサービスがいくつか立ち上がってきている。

 

うけとロッカー・どーぞカウンター

 

西友は、DeNAと共同運営をするネットスーパーSEIYUドットコムにおいて、2015年から2種類のセルフピックアップサービス「うけとロッカー・どーぞカウンター」を開始した。その名のとおり、購入した商品を西友店舗に設置されたロッカーで商品を受け取る「うけとロッカー」と店舗のサービスカウンターで商品を受け取る、「どーぞカウンター」だ。

 

 

うけとロッカーは長野県松本市の元町店でテスト導入され、予想外に利用者が多かったことから、2015年3月から本格的なサービスが始まった。購入者は商品を注文した時にあらかじめ受け取り場所と時間帯を設定する。ロッカーでの受け取りの際、あらかじめ発行されたパスワードを入力し商品を受け取ることができる。支払いはクレジットカードのみとなっている。どーぞカウンターでは、購入者は商品を注文した時に受け取り店舗と時間帯を設定する。店頭で本人確認ができたら商品を受け取ることができる。こちらはクレジットカードまたは現金での支払いが可能である。どちらのサービスも、入会費・年会費は無料。利用料は通常、3,000円未満の商品の購入で300円、3,000円以上の購入で無料である。現在はお試しキャンペーンが行われており、2016年9月30日まで、1円以上の購入で利用料が無料となっている。

受け取りの時間帯は14時から18時、または18時から22時までの2種類。9時までの注文で当日14時から、13時までの注文で当日18時からの受け取りが可能である。長野県松本市にある西友元町店では受け取りや注文の時間帯が異なっており、12時から16時、または16時から20時までの二種類であり、前日24時までの注文で翌日12時から、12時までの注文で当日16時からの受け取りが可能となっている。受け取りの時間を過ぎてしまうと、商品の受け取りができなくなるため注意したい。

商品は生鮮食品を含む1万5000品目と充実している。どちらのサービスも、今後三年間で、西友に150店舗の設置を予定している。また、うけとロッカーについては、西友以外の場所でも商品の受け取りができるように設置が検討されている。ほかのサービスとは異なり、生鮮食品を購入できることは高齢者や働く女性にとって便利なサービスだ。

 

 

東急ストアネットスーパー

 

今年の1月12日から東京急行電鉄東急ストアは、東急ストアネットスーパーで注文した商品を駅ロッカーで受け取る、新たなサービスを始めた。

 

 

1月8日に東急ストア綱島駅前店が閉店されたことに伴い開始されたもので、東急東横線綱島駅西口に専用の冷蔵ロッカーが設置された。商品の受け取りは13時30分から15時30分、16時から17時、18時から20時までの3つの便があり、注文の締め切り時間はそれぞれ当日の10時、12時、14時である。注文の際、届け先を「ロッカー受取り 綱島駅」とすることで利用可能である。利用料は300円で、2500円以上の購入で無料となる。しかし、2016年3月31日までは1500円以上の購入で無料でロッカーの利用ができる。

 

 

受け取りロッカーは再配達問題の切り札となるのか

 

受け取りロッカーの取り組みは、ECサイトを運営するモール・ネットスーパー発のものと、ヤマト運輸を中心とした宅配事業者発の両面で行われている。前述した社会問題の解決に寄与するだけでなく、配達時間を気にせずECサイトを利用することができ、注文の際に住所の入力を行わないため、個人情報の観点からもメリットがありそうだ。

しかし一方で、ヤマト独自の受け取りロッカーや楽天ボックスでは設置場所を一気に拡大出来ず、ネットでエキナカでは専用のECサイトからの購入が必須となっていることが足枷となるなど、1社単独での取り組みには限界が見えてきている印象もある。日本郵便と楽天、ヤマト運輸とネオポストなど、受け取ることが出来るECサイトや宅配事業者を問わない広範な取り組みが今後の更なる浸透の鍵となるのではないだろうか。

今や社会問題となった再配達を削減し、ECサイト事業者と宅配事業者だけでなく利用者にもメリットをもたらす受け取りロッカー。これから起こる社会の変化と人々の変化を察知し、本質的な再配達の問題としっかりと向き合ったサービスが活用されていくのではないだろうか。