ウェブファッションマガジンの積極的なEC連携はアパレルECの新たな潮流となるのか

 

ECサイトのメディア化がトレンドとなっている中で、今春になってからウェブファッションマガジンとECが連携した、“EC連携型ウェブファッションマガジン”というべき新たな形態のサイトが次々に創刊されている。

ウェブファッションマガジンとは、ファッション誌のような形態をとったWebサイトのことで、最近ではその大部分がスマホユーザー向けに最適化されている。またEC連携型の特徴はオフライン上にあるものをオンライン上に置き換えただけではなく、マガジン上で紹介されているアイテムを直接ECサイトにリンクし、その場で購入することができるようにしているのだ。そうしたことで、従来の紙媒体の雑誌ではわからなかった色違いのアイテムやサイズ感など、詳細な情報がその場で分かる上、探す手間も省け購入に繋がりやすいというのがEC連携型ウェブファッションマガジンの大きなメリットといえるだろう。今回は、注目のEC連携型ウェブファッションマガジンをいくつかピックアップし、今後のアパレルECの潮流を占っていく。

 

<参考>

ECサイトのメディア化は集客の最終兵器となるか - 最近のトレンドから見えてきた3つの方向性

ECサイトのメディア化によって得られる3つのメリットと3つの注意点

 

 

GINGER mirror

 

GINGER mirror(ジンジャーミラー)は20代後半から30代の女性をターゲットに創刊された、スマートフォンやタブレットなどから見ることができる無料のウェブファッションマガジン。

 

 

雑誌GINGERと同じスタッフが制作に携わっている。4月の創刊号ではモデルの菜々緒が表紙を飾り、「春ファッション コスパな買い物図鑑」というテーマで、100ページにわたり楽天市場で販売されている春の注目の服や小物を約400アイテム紹介している。

表紙をスワイプすると目次ページへ移動し、そこから読みたいコンテンツにすぐにいくことができる。

 

 

スワイプすることで次のページへ進むことができるのだが、ページをタップするとモデルが身に着けているアイテムの詳細を見ることができる。

 

 

そこからさらに楽天市場の商品ページに進むことができるのだ。

幅広いアイテムを扱う楽天が発行し、女性誌の編集で培ったノウハウのある幻冬舎が編集を行っている。2009年のGINGER創刊以来、楽天市場とコラボレーションした記事を毎号掲載してきており、この2社の間には非常に深い関係が築かれていたようだ。また、EC事業者と出版社が連携してオンライン雑誌を発行するのは国内初の取り組みとしても注目を集めている。システムプラットフォームは数々の電子雑誌を手掛ける株式会社ブランジスタのシステムを使いリリースしている。

楽天市場ではファッションジャンルにおけるスマホ利用率が年々上がってきているためため、今回の創刊によってファッションアイテムの「スマホ買い」の促進を目指しているようだ。

 

 

 C Channel

 

C Channnelは、ファッションやフードなどの情報を動画で紹介する女性向けファッションマガジン。

 

 

2015年3月末にLINE株式会社の代表取締役社長を退任した森川亮氏が、新会社C Channel株式会社を立ち上げ、4月10日にリリースした。全てのコンテンツが 約1分間の縦長の動画で、クリッパーと呼ばれるモデルやタレントがコーディネートやメイク、カフェなどを紹介。動画は自撮りのものからプロが撮影したものもあり、編集まですべて自社内で行って動画の配信を行っている。1日に10本程度の動画が更新され、常に新しい動画がサービス上には溢れているためついついアクセスしたくなる作りとなっている。

スマートフォンの普及で画質の良い動画を手軽に見たり撮影したりできるようになったことで、ユーチューバーが話題になったり6秒動画のVineを初めとして様々な動画アプリが配信されるなど“動画産業”に注目が集まっている。C Channelはそんな動画ブームにのったサービス展開だ。現在はユーザーの獲得を優先していてECとの連携は行われていないが、 今後はECと広告でのマネタイズで進めていくようだ。

年内にはアプリ開発や海外進出も行うとの情報もあり、今後どのように進化していくのか注目したい。

 

 

+CLAP men

 

株式会社カカクコムは、30~40代男性をメインターゲットとした+CLAP men(タスクラップメン)を創刊した。

 

 

価格.com内の同じターゲット向けファッション記事が好評だったため、新たなメディアを立ち上げるに至った。

服の他にも腕時計やインテリアなど様々なカテゴリーでファッションに関する情報が、「プロが書く、おしゃれのこと」をコンセプトに流行に敏感なプロのライターによって発信されている。どの記事もアイテムの大きな写真と2文程度の読みやすい説明がセットとなって1つの記事に約5つのアイテムが紹介されている。紹介されているアイテムは、画像からECサイトへ行ってそのまま購入もできるが、価格.comで比較検討をしてお得に購入することもできる。

 

 

ブランド名やキーワードで検索したり、人気の記事のランキングがあるのも他のウェブマガジンとの違いだ。ウェブファッションマガジンというよりもメンズファッションのキュレーションサイトという方が近いかもしれない。

 

 

その他のEC連携型ウェブファッションマガジン

 

この春登場したEC連携型ウェブファッションマガジンはまだまだある。

DeNAショッピングのコンテンツとして創刊された、提案型のウェブファッションマガジンLilyもその一つだ。

 

 

コンセプトは「私らしさが見つかるファッションマガジン」で、分量は20ページ程度。有名モデルを起用し、毎月初めに更新される。 DeNAショッピングのアイテムを使って雑誌のページが構成され、商品ページへのリンクが貼られている。他にも「似ているコーディネート」の写真があり、関連したアイテムページへ行くことができる。そうすることで、より自分の好みに合ったアイテムを見つけることができるだろう。

 

 

メンズファッション誌の「men’s JOKER」のウェブファッションマガジンとしてオープンしたMen’JOKER premium。本誌と連動した企画やスナップなど様々なコンテンツが充実している。連動はしていないものの併設されたECサイトでは、人気ブランドに別注した限定アイテムを販売している。今後スポーツ選手やモデルのブログも開設してサービスを拡大していくようだ。

 

低価格帯商品を販売するGU(ジーユー)は、G.PAPERをGUアプリ内に開設した。最新アイテムの着こなしの紹介や、有名ファッション誌の編集長やスタイリストへのインタビューなどを読むことができる。また、女性向け記事のみではなく、男性向け、ファミリー向け、キッズ向けの記事もあるところがGUならではだ。

 

 

アパレルECの新たな潮流となるのか

 

紹介したEC連携型ウェブファッションマガジンは、それぞれサービス提供元の意向が反映された形で更新頻度や対象としている商材に異なる特色を持っている。

 

 

更新頻度(縦軸)で見ていくと、毎日数10のコンテンツがアップされるC Channnelが圧倒的。+CLAP menと、ここでは紹介しなかった元祖ウェブファッションマガジンであるhoneyee.com(ハニカム)とその女性版fatale(ファタール)は毎日数本のコンテンツが提供されている。一方でLily、Men’JOKER premium、G.PAPERは月刊誌という形態を取り、月一回の更新。GINGER mirrorは隔月での更新となるようだ。オンライン上で「月刊」という形態にどれほど意味があるのかは分からないが、運営母体が紙媒体のMen’JOKER premiumとGINGER mirrorは現状の編集のサイクルを継承していると想像できる。

次に対象となる商材(横軸)で見ていくと、メーカーの自社ECに誘導するG.PAPER、自社運営のセレクト型のECサイトに誘導するhoneyee.com、fatale、Men’JOKER premiumと比較的商材は限定的で、厳選されたものを抽出している傾向が強そうだ。一方でモールを運営しているDeNA、楽天は自社モールで提供している幅広い商材への導線を用意することが出来るだろう。さらに+CLAP menは価格.comだけでなく、Amazonなどへの導線も幅広く提供しているため、ほぼ無制限に良い商品をマガジン上で紹介できる状態だ。

ウェブファッションマガジンと言っても、雑誌をめくる感覚に近いものやまとめサイトのようにトピックを並べているものなど記事の表示の仕方はさまざまだ。しかし、どのサービスにも共通していることは、スマートフォンで気軽に読むことのできるデザインとインターフェースになっていることだ。アパレルECの消費動向を分析すると、このようなサービス形態は若年層を中心に今後の潜在ユーザーへのファーストコンタクトとなっていく可能性は高そうだ。EC系サービスを展開している価格.com、楽天、DeNAなどのビッグプレイヤーが仕掛けていることからも、今後さらにそれぞれの好みに応じた様々なジャンルのウェブファッションマガジンが刊行され、アパレルECサイトにはなくてはならない存在になっていくだろう。ウェブファッションマガジンが今後どのような広がりをみせていくのか非常に楽しみである。