GoogleとEC - ジワジワECに攻め込むGoogle

 

言わずもがな今やGoogleは検索エンジンを提供しているだけでなく、多岐に渡るサービスを提供しインターネット業界を制しようとしている。ECとの関わりで見ると、SEOやリスティングといったECサイトへの集客施策のツールと考えるだけの時代が長く続いた。しかしここ数年で、消費者向けサービスではGoogleショッピングからGoogle Shopping Express、事業者向けサービスでは商品リスト広告(PLA)からGoogle Shopping Campaignsも開始間近となるなど、本格的にECサービスの提供を始めている。今回はGoogleはどのようにECの未来を変えようとしているのかを見ていく。

 

 

Googleショッピング

 

まずは消費者向けサービスから見ていこう。Googleは、ECサイトを横断検索して商品の価格比較ができるGoogleショッピングの日本語版を2010年10月にローンチした。

 

 

検索ボックスにキーワードを入力すると、複数のECサイトから該当商品の情報が集められ、商品名や画像、価格が一覧表示されるサービスだ。これは消費者向けサービスとしての顔だけでなく、後半で紹介する事業者向け広告サービスの商品リスト広告の表の顔として位置付けられるものだ。

Googleショッピングの最大の特徴は、Googleショッピングのページだけでなく、通常の検索結果画面に商品画像が掲載される点。通常のGoogle検索ではECサイト以外の情報が多くヒットする上、文字情報しか出て来ないので商品情報が分かりづらい。よって、消費者はネットショッピングをする際はより商品情報に結びつきやすい Amazonや楽天を利用していたが、これに食い込んで来たのがGoogleショッピングだ。一時期はGoogle Shopperと呼ばれるGoogleショッピングのアプリも存在したが、Web版とGoogle検索のサービス向上に集中したいという理由から2013年8月をもってサービスは終了。

本国のGoogleショッピングサイトでは、類似色が検索できたり、360度全方向からの製品写真が見られるなど、便利な機能が多く備わっており、今後の日本での展開にも期待したい。

 

 

Google Shopping Express

 

配送ロッカーサービス企業のBufferBoxや、オンライン小売り追跡サービスの米Channel Intelligenceを買収するなど、Googleはここ1、2年でオンラインショッピング事業の強化に取り組んできた。その一連の流れとして、ECサイトで購入した商品を当日中に配送するGoogle Shopping Expressを2013年3月から試験的に導入。

 

 

対象エリアはサンフランシスコやサンノゼなど米国の一部の地域で、ユーザーがGoogleの提携ショップで買い物をすると、購入した商品が当日中に自宅に届くというものだ(3段階の時間指定も可能)。3ヶ月後の2013年6月からは、同じサンフランシスコとサンノゼで招待制という形で正式スタートし、半年間は送料無料とした。さらに今年5月からは、提供地域にニューヨークのマンハッタンとロサンゼルスの一部を追加すると発表。同時に、19時までに注文された商品を翌日配達するサービスも開始した。

現在はTarget、Walgreens、American Eagle、Toys“R”Us、Office Depot、Whole Foods Market、Costcoなど全米に店舗を展開する小売チェーン、そして地元コーヒーショップや食料品店などと提携しており、これらの店舗の商品が1つのオンラインサイトに集められている。送料は1店舗につき4.99ドルだが、6月末までにメンバー登録をしたユーザーは6ヶ月間送料無料となっており、最低購入金額も設けていない。

Google Shopping Expressの最大の特徴は、商品の配送方法にあるといえる。独自のロジスティクスシステムを構築しているAmazonと異なり、在庫は持たずにGoogleが提携店舗で準備された商品をピックアップし、配達先を回るという仕組みで即日配達を実現。倉庫も在庫も配送網も持つAmazonの当日配送サービスとの対比が非常に鮮明であり、今回のサービスは同社に対抗する狙いがあると見られている。現在は米国のみのサービスとなっているが、国土の広い米国で成功を収めれば、今後日本への展開も十分に考えられるだろう。

 

<参考>

ECの即日配達サービスの限界への挑戦 - 頼んだものがすぐ届くのが当たり前の未来はやってくるのか

 

 

商品リスト広告(PLA)

 

次に事業者向けサービスを見ていく。

商品リスト広告は、Googleショッピングの裏の顔として始まった、Adwordsサービスの延長線上に位置付けられる広告サービスだ。Googleショッピングは立ち上げ当初は商品の登録が無料だったが、2013年2月には商品情報を宣伝する商用モデル、商品リスト広告(PLA)へ移行すると発表。同年6月より完全有料化となった。課金方式はクリック課金となり、通常のGoogle Adwordsアカウントを用いて、Google Merchant Center経由での登録・申請がベースとなってくる。

商品リスト広告がAdwordsと大きく異なる点は、検索キーワードと連動した設定を行うのではなく、Google Merchant Centerが関連性の高い商品を選別して、ユーザーに提示するため、検索キーワードへの入札方式ではない点だ。そのためGoogle Merchant Centerへのキーワードの登録は行わず、商品フィードと呼ばれるGoogleが定めるデータの登録を行う方式を取っている。

有料化以降、商品リスト広告はROIの高いCTRとコンバージョン率を出すようになってきている。例えばAdwordsにかかるコストと比較し半額程度で済むケースが多く、Googleの検索結果に優先的に表示されるという優遇措置も存在していると言われている。また、スマートフォンのトラフィックが急増している昨今において、スマホはPCよりも検索結果上位のリンクがクリックされやすい傾向が高いため、スマホ向け広告としての利用価値は非常に高いと言えるだろう。さらに登録が若干難しいところがあり、Googleショッピングに精通した代理店も多くないため、競合が少ないのも魅力といえよう。

 

 

Googleショッピングキャンペーン(Google Shopping Campaigns)

 

Googleはさらに次の一手を準備している。この8月から商品リスト広告がGoogleショッピングキャンペーンに置き換わるとアナウンスされた。

この動画(英語版)が現在公開されている。

 

商品リスト広告自体の内容の難易度が高いために、Googleショッピングキャンペーンになったら何が変わるのかを説明することは難しいところだが、簡単に言うなればEC事業者の実情にあった形で商品グルーピングを柔軟に対応することが出来るようになり、広告の管理やROIの効率化などに向けて利用しやすくなった、ということになる。

商品リスト広告とGoogleショッピングキャンペーンの違いは大きく分けて3つだ。

  • Adwordsでの管理が行いやすくなった。在庫商品を直接Adwordsで確認しグループ化することが出来るようになり、競合のデータも参考して投資の検討が行えるようになった。
  • レポーティングが強化された。新しい商品グループを作成せずに、様々な詳細度のデータの確認が可能となった。
  • グルーピングの柔軟性が向上した。商品ターゲットではなく商品グループを利用すること、カスタムラベル、商品フィルタ、キャンペーンの優先度などの設定が追加された。

少し難しいが、これにより今よりも効果的な広告投資が行えるようになるだろう。(詳細はこちらの公式ヘルプページを参照されたい。)

 

 

新サービスShopping Expressとショッピングキャンペーンがもたらす利便性

 

商品リスト広告からGoogleショッピングキャンペーンへの流れは、Googleが従来から得意とする広告モデルのバリエーションと考えることができる。オンライン上のECコンテンツをギャザリングして、そこに優先順位というGoogleお得意のフィルタをかけることで広告モデルを構築し、ECを行っているオンライン事業主から、リスティング以上の効果的な広告モデルを構築しようとする動きだ。

しかし、Google Shopping Expressは明らかに少し毛色が違う。それはGoogleが従来から取り組もうとしてなかったオフラインの業務をベースにしたサービスだからだ。このようなオフラインの取り組みを行っていることからもGoogleのECへの本気度を感じることが出来る。これは物流などのオフラインでも強みのあるAmazonへの対抗と考えることが出来るだろう。

Amazonは未来を予測し、商品の配送を注文前に行うという方法を模索しているという。しかしGoogleこそ、その最大の強みである「検索窓」という、商品のトレンドが最も分かる立ち位置にいるはずだ。Googleの検索窓にキーワードを打ち込まれた瞬間、もしくは打ち込まれる前にAmazonよりも精度の高い予測配送を実施できるのではないだろうか。また配送する商品への同梱広告もAdwordsやショッピングキャンペーンの一環で行うなど、従来から存在するオフラインの広告をGoogleならではのやり方で大きく変えることも考えられる。

Googleが従来の強みを最大限に活用した上で、オンラインに閉じた取り組みとせずにオフラインへの取り組みも進めることで、ECは更なる進化を遂げる可能性が見えてくるだろう。Googleがオンライン広告でのノウハウをもとに、オンライン広告モデルからの脱却を図るとき、多くの利便性をEC業界に提供してくれるのではないだろうか。