海外展開向けECプラットフォーム4選 - トレンドは個人情報規制から顧客体験向上へ

 

国内にも海外からの観光客が一気に戻り始め、それと足並みを揃えるように再び勢いを取り戻してきている「越境EC」。最新の2022年データ(経済産業省調べ)では、中国から日本への越境EC市場規模は2兆2,569億円、同じく米国からの市場規模は1兆3,056億円と非常に大きなものとなっている。また、この歴史的円安もこの状況に拍車をかけており、日本商品に対する海外消費者のニーズはかなり高まってきている。そのような中で自社チャネルを活用した海外展開を検討している企業も増えてきている。そこで今回は自社でECプラットフォームを導入し、海外進出することを考えた時にどのようなプラットフォームが選択肢として挙がるのか、それぞれの特徴とともに紹介していく。

 

 

越境ECを行う際の出品・出店方法

 

まず、越境ECを行う際に、どのような方法があるのか、そしてその最新のトレンドについて簡単に整理していこう。

まず市場が最も大きい中国向けを考えた際に、日本企業が中国の消費者に対して商品を販売するには、以前はTmall等の現地モールで出店するケースが多かった。しかし、Tmallに出店するためには、中国本土で登録された企業、もしくは営業許可証や商標登録証が必要だったため、それらを行う仲介業者や、卸店舗上での販売などが中心に行われてきた。また、越境ECプラットフォーム「天猫国際(Tmall Global)」をはじめ、中国内の主要モールで同様の越境ECプラットフォームが提供されているものの、審査が厳しい・コストが高い等の理由により、中小企業にとって依然として出店が難しい状況となっている。

そのため、現在では市場規模が最大の中国市場だけでなく、出店が容易なeBay(主にアメリカ向け)、Shopee(台湾・東南アジア向け)などの選択肢を取る事業者も増えてきている。また、これら以外にも代理購入や転送サービス、出品代行などいくつかのサービスが存在しているが、本格的に現地の消費者と接点を持ち、商品を展開していくには物足りないと感じるケースも多くなってきている。その際に、国内で展開しているような形で自社サイトを持ちたいというニーズが最近は増えてきている。

 

<参考>

2023年eBay日本セラー取引額、1位レディースアパレル、2位時計・アクセサリー

 

 

越境ECを行う上での海外展開向けECパッケージの役割

 

EC事業者が、越境ECを展開する際には、以前は「言語・決済・物流」という乗り越えるべき3つの壁があるといわれていたが、現在ではほとんどが既に各種関連サービスで対応することが可能となり、そこまで問題ではなくなっている。

例えば、言語はサイト側で対応しなくても、ブラウザの翻訳機能で何不自由なく買い物を進めることが出来る。また、決済周りでは関税への対応の負担も大きかったが、Global-e等のサービスの登場により一気に状況は変わりつつある。そしてそれらの機能も活用しなくても、ECパッケージ側でも、ユーザーの居住地や言語をブラウザの設定などから把握することで、ほぼ半自動でユーザーの見たい言語で、居住地での価格や税金、関税、そして決済情報、物流オプションまで表示されるようになっているのがスタンダードになりつつある。

一方、近年はこの3つではなく、「個人情報」(情報管理、Cookie、法規制)への対応が重視され、最も難しい問題となっている。そのため、海外向けECパッケージを導入する際は、この4つ目の壁を取り除き、各国の消費者目線での「顧客体験」を高めることで売上を向上させることができるかが鍵となる。この個人情報保護や、各国法令順守についてはECパッケージだけでなく、開発・運用するベンダーの体制や運用も併せて考慮する必要がある。

そのような状況の中で、現地法人の有無などは関係なく、日本企業が、日本発の海外向けサイトで、海外のお客様を呼び込んで越境ECサイトを構築出来る4サービスを見ていく。

 

<参考>

越境ECの失敗原因、現地での認知獲得46%、価格37%、文化の理解不足31%

グローバルにeコマースを展開する際に考慮するべき5つのローカライゼーション視点

 

 

SAP Commerce Cloud(エスエーピー コマース クラウド)

 

SAP Commerce Cloudは元々Hybrisというサービスで、独立したコマース・プラットフォーム・プロバイダであったが、2013年に独SAP社によって買収され、企業の業務改善などを行う大規模ERPソリューション群の中の、コマースソリューションと言う位置づけとなっている。

SAP Commerce Cloud は、 B2B、B2C、および B2B2Cのユースケースを持つ大企業向けのeコマースソリューションで、社内全体のデータを活用して収益と顧客満足度を高められるようサポートを行っている。特徴としては、信頼性・拡張性が高いため、様々な機能で業務改善行え、さらに連携性、豊富なインサイト、適応力を備えたEC体験を提供することで収益向上に繋げられる。また、検索から販売までのエクスペリエンスを円滑にすることで、複雑なeコマースプロセスや受注プロセスもシンプルになるため、顧客が購入の過程を簡略化でき、より効果的な顧客エンゲージメントを実現することも可能となる。上記以外にも、「AI によるリアルタイムのパーソナライゼーション」や、「インサイトを活用して、顧客行動とeコマースのパフォーマンス状況を常に把握し、一人一人にあった適切な製品の提案等によって、顧客やビジネスに価値をもたらす」等の機能も兼ね備えている。

 

 

Salesforce Commerce Cloud(セールスフォースコマースクラウド)

 

Salesforce Commerce Cloudは、元々demandwareというサービスで、独立したコマース・プラットフォーム・プロバイダであったが、2016年にSalesforce社に買収され、企業の営業改革をサポートするソリューション群の中のコマースソリューションと言う位置づけとなっている。

Salesforce Commerce Cloudは、デジタルストアフロントの立ち上げをサポートする、eコマースソリューション。サービス、およびマーケティング向けの組み込みアプリ等、あらゆる場所にAIを活用したコマースを組み込むことで、ECサイトの立ち上げから、幅広い顧客接点での販売まで、あらゆる仕事を自動化し効率化できる。また、「99.99%の高い稼働時間で20億人以上の買い物客の取引をサポート」、「Salesforceの利用者は、旧式のチャネルから移行することでデジタル収益が29%増加」、「2022年のサイバーウィーク中に11%のデジタルセールスの増加を記録」等多くの実績があることから、三越伊勢丹、ロクシタンジャポン、富士フイルム等、様々なジャンルの企業に導入されている。

 

 

Adobe Commerce(アドビコマース)

 

Adobe Commerceは、元々MagentoというオープンソースEコマースプラットフォームであったが、2018年にAdobe社に買収され、企業のDX化をサポートするソリューション群Adobe Experience Cloudの中のコマースソリューションと言う位置づけとなっている。

Adobe Commerceは、顧客やビジネス機会の変化に合わせて、コマース基盤を容易に拡張できる等、柔軟性、拡張性に優れており、多様化する顧客層に向けて、購買体験をカスタマイズ可能だ。例えば、単一の基盤から、AIと高度なデータ共有能力を利用して、個人に合わせたB2CとB2Bの両方のコマース体験を実現できるため、事業を拡大しながら、チャネルや利用者をまたいで複数のブランドを一元管理することができる。さらに、Adobe CommerceのMarketplaceには、何千ものアプリケーションと拡張機能が揃っており、バックオフィス統合から、マーケティングや顧客体験管理に至るまで、ビジネスのあらゆる側面のカスタマイズも行える。導入事例としては、コカ・コーラはトラフィックが前年比50%増加、クリスピー・クリーム・ドーナツでは、コンバージョン率が前年比約2倍に増加した等、世界的なブランドがコマースの成長を実現している。

 

 

G1 Commerce(ジーワンコマース)

 

日本と韓国を拠点として中大規模のECサイト構築と海外展開の経験を多く積み重ねてきた株式会社UZENが、2015年から展開しているECパッケージがG1 Commerceである。

越境ECを展開する上では国ごとに異なるビジネス環境や文化的背景、法律の規制がシステム構築のネックであるが、同サービスでは通貨・言語・時間・決済方法 などが国単位で設定/管理できるのが最大の特徴である。特に、G1 Commerceは中国、韓国、東南アジアをはじめとするアジア圏へのEC展開に強みを持つパッケージで、段階的に対応国を拡張していくビジネスプランにも柔軟に対応が可能となっている。またオムニチャネル対応も基本的な部分は網羅されており、Webサイト、店舗における店舗業務管理や顧客管理の一元化にも対応している。さらに、最新のアーキテクチャでは、ECパッケージによる制約が少なく、フルカスタマイズに近い形で、顧客の要望に応えることができる他、カスタマイズ性が高いことで、運用者に向けたユーザビリティの改善が行える。このように、G1 Commerceを導入することで越境ECの展開が可能なオールインワンECプラットフォームとなっている。

 

 

海外展開のためのECパッケージシステムの選び方

 

紹介した4つのサービスについて、実際の導入に向けていくつかの観点から比較をしていこう。

大手向きの豊富な機能を取り揃えている各サービスは、基本的には言語・決済・物流システム連携というEC事業者が越境ECを展開する上での対応要件をほぼ満たしている状況だ。オムニチャネル化もほぼ対応しており、あとは各社のニーズに対してどれほどのカスタマイズ費用が発生するかが鍵となってくる。そのためサービスの優劣よりも、各サービスの特徴と各社がどのような展開を視野に入れているかという視点がどれだけFITするのかでサービスを選んでいくべきだろう。

考慮するべきポイントとしては3つある。1つはどこに国発のECシステムかと言う点だ。欧州発か米国発か国内発か、大きく3パターンになる。もちろん欧米発のECシステムも日本国内の商習慣はマスターしてはいるものの、やはり日本から海外への展開となると多少の差が出る可能性もある。日本を拠点と考える場合には、日本発のECシステムの方が安心感が高いケースが多いだろう。次に、ECシステムのライセンス形態だ。SaaS型のライセンス形態は、毎年発生するライセンス料と売上やトランザクションなどに応じた成果報酬型の課金形態となることが一般的だ。一方でパッケージ型は買い切りが主流となり、ライセンス料は以降発生しない形となる。そして3つ目のポイントは各国における顧客体験向上のための仕組みやマーケティング面でのサポートだ。関連サービスを多数抱える欧米発のSaaS型ECシステムは自社関連サービスとの連携を中心に展開を行うことが基本となる。一方で、パッケージ型では自社関連サービスを持っていないが、国毎・エリア毎・要望毎に商習慣に応じてCRMやMAの外部サービスの組み合わせを変えることが可能となっており、柔軟性は非常に高い。

海外でモノを売るという行為は日本の常識が通用しないことが多い。配送時間が長い、違う商品が配送された、配送中に商品が無くなったなどの配送に関わるトラブルや、返品・交換に関する商習慣も国によって異なってくる。これらのパッケージを活用し、しっかりとしたインフラを構築し、海外進出を成功させる礎を築いていきたい。