英国に本社を置く位置情報ベースのモバイルマーケティング専門企業BubblCEOであるJo Eckersley氏が、ジオフェンシング(携帯端末の位置情報を利用して実際の空間に仮想の柵を設定し、境界の出入りをシステムが検知して所定の動作を行う仕組み)技術を使ったアプリが顧客体験にどのような大改革をもたらし、消費者に新たな世界をもたらすかを説明する。

 

米国に本社を置き、企業マッチングを行うTop Design Firmsが実施した調査によると、中小企業の48%が消費者にリーチするためのモバイルアプリを開発している。そして、英国に本社を置き、アプリ、ビジネス向けのワールドクラスのニュース、分析、データ、マーケットプレイスを提供するBusinessofapps.comによると、2021年には、1,436億のアプリがモバイルデバイスにダウンロードされたという。

 

しかし、アプリはこれほど人気のあるメディアであるにもかかわらず、ほとんどのブランドはそのチャネルで顧客を維持するだけで四苦八苦している。全体的な顧客体験を重視していないために、多くの企業が失敗しているのだ。顧客の獲得は重要かもしれないが、最も重要なのは顧客がアプリをダウンロードした後の利用方法だ。

 

オンラインアプリ戦略vsモバイル

米国に本社を置くモバイルインテリジェンス企業Quettraのデータによると、ブランドは、アプリのアクティブユーザーの90%をダウンロードの30日後には失うという。これは、ポップアップ広告や予期せぬ支払い、サブスクリプションといった、オンラインと同じ方法でモバイルアプリでもアプローチし続けているのが最大の原因だ。

 

ユーザーのモバイルアプリのダウンロードに対する考え方は様々である。アプリはホーム画面に表示され、とてもパーソナルなものだ。ここで重要なのは、ユーザーはメッセージを大量に受信するためではなく、そこから何らかの価値を得られると信じてアプリをダウンロードした、という点である。

 

そのため、顧客がブランドのアプリをダウンロードするというのは特別なことであり、それはロイヤルティと信頼の証である。しかし、モバイルアプリを単なる広告媒体として扱うと、ブランドは信頼を築いたときと同じくらいの速さで失い、解約率を高め、ROIが低下する可能性がある。

 

モバイルアプリ体験の再構築

ブランドは、位置情報を利用したモバイルマーケティングツールを導入することで、戦略を切り替え、獲得予算を最大限に活用することができる。この新しい種類のテクノロジーはモバイルと提携して、ポジティブなアプリ体験を実現するための「アプリ外」プラグインとして機能する。ブランドは、ユーザーがアプリを立ち上げなくてもコンテンツを提供することができ、コンテクストトリガーによって、ユーザーに関連性のあるパーソナライズされた通知や広告をタイムリーに配信することができる。

 

アプリ外テクノロジーの利点

1. 位置情報ベースのジオフェンシング

位置情報ベースのジオフェンシングの全体的な目的は、特定のエリアに顧客がやってきた時間、場所や状況固有のトリガー通知を顧客に送信することだ。例えば、顧客がKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)の半径1マイル圏内を歩いているときにアプリをダウンロードすると、その場で顧客に購入を促すためのパーソナライズされた位置情報ベースのコンテンツや広告、プロモーションが送信される可能性がある。

 

Burger King位置情報ベースのジオフェンシングをフル活用しているブランドである。McDonaldの2万件の位置パラメーターをアプリにハードコーディング(ソースコードの中に固定値を書き込むこと)し、アプリ経由で顧客に自社製品をアピールしている。アプリユーザーがMcDonaldから600フィートに設定されたジオフェンス内に足を踏み入れるとすぐに、Burger KingはWhopperというハンバーガーが0.01ポンドになるプロモーションを送信し、良いタイミングと場所で顧客を誘い込むことができた。

 

顧客はすでに食事をしようとしているところだったので、通りの反対側のBurger Kingへ1分ほど引き返す理由があれば良かったのだ。

 

このキャンペーンは、iTunesアプリストアの飲食カテゴリで、Burger Kingのアプリを686位から1位に押し上げただけでなく、過去4年半で最高のアクセス数を記録し、これまでのアプリのオファーより20倍利用率が多くなった。

 

2. 時間ベースのジオフェンシング

ブランドはこの手法を用いて、顧客が特定の時間に何をしているかを追跡する仮想のパラメーターを設定することができる。つまり、入店や退店時に、状況に関連するアプリ外コンテンツを送信することができるのだ。顧客がジオフェンス内に入るやいなや、最新のオファーや魅力的なコンテンツを含む、時間ベースの通知を送信することができる。顧客が店舗を出ると、店舗での体験に関するアンケートやSNSでシェアできる限定コンテンツのような、別の通知を送信することもできる。

 

3. プレファレンスマッチング

位置情報ベースのモバイルマーケティングツールには、プレファレンス(消費者のブランドに対する相対的な好意度や選好性)をマッチングするテクノロジーが組み込まれたものもある。これにより、ユーザーはアプリ内でプレファレンスを設定し、受け取るコンテンツをコントロールすることが可能だ。例えば、ラジオ局のアプリで、ユーザーが「ニュース」と「天気」だけを選択すると、それ以外の交通情報や試合結果のようなものはすべて除外することができる。これによってエンゲージメントが高まるだけでなく、ユーザーが位置情報の送信や通知を許可する可能性も高まる。

 

4. 30分で導入できるプラグイン

プッシュ通知の利用を検討しているブランドは、マーケティングおよび顧客エンゲージメ.ントプラットフォームを提供するSwrve(本社:米国)やモバイルアプリ体験習得を支援するAirship(本社:米国)のようなオムニチャネルプロバイダと提携することが多い。問題は、これらの通知SDK(ソフトウェア開発キット)やツールはセットアップに数週間かかることがあり、複数の異なるSDKを必要とすることが多いため、中小規模市場のブランドは敬遠しがちだ。一方で大企業は、開発者の入力が必要なツールのセットアップに投資する時間や自社開発するリソースはほとんどない。ブランドはそれよりも、数分でセットアップと運用ができるローコード(必要最小限のソースコード開発でソフトウェアやアプリ開発を行う手法)のプラグインを利用すると良い。

 

また、位置情報やその他のトリガーでエンゲージメントを管理する技術を導入した後は、創造性を通知だけに限定しないことも重要だ。広告とは対照的に、革新的な新種のコンテンツフォーマットを使用することは、モバイルによる顧客体験を真に引き出す可能性を秘めている。今こそ、創造的なエンゲージメントを制限するのをやめ、モバイルアプリ体験を破壊することなく、アプリ利用者と本当の意味で繋がり、注目を集めることができる、新しいモバイルマーケティングツールを探すときだ。

 

アプリと終わりのない広告があふれる世界では、ブランドはアプリ内の収益化に集中するのではなく、顧客を優先したエクスペリエンスを切り開く必要がある。新しい位置情報ベースのモバイルマーケティングツールが登場するにつれて、ブランドは、アプリ内体験に真の違いをもたらすアプリ外での体験の可能性に気付き始めるだろう。

 

※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の10/12公開の記事を翻訳・補足したものです。