これまでeコマース事業者は、収益拡大の主要な手段としてサイトの最適化と有料キャンペーンを活用してきた。このアプローチは完全に時代遅れというわけではないが、近年の消費者行動や顧客ニーズの変化、有料広告のコスト増により、eコマースマーケティングの状況はより複雑化している。

 

2002年当時、オーガニックグロース(自社の経営資源のみで企業の成長を成し遂げること)はeコマースビジネスの重要なマーケティング戦略として機能していた。当時、Googleとその他の検索エンジン間の競争は最小限のものであった。Google、Facebook、Amazonなど、eコマースで人気のあるプラットフォームでの有料広告のコスト増に伴い、より多くの企業が、オーガニックグロースキャンペーンを展開して、eコマースマーケティングの原点回帰を図ろうとしている。

 

つまり、企業は、「インバウンドマーケティング」に目を向けているのだ。

 

eコマースマーケティングは、インバウンド戦略よりも有料広告を選択するということではない。むしろ、企業はこの二つを連携させることが重要となる。言い換えれば、ペイドメディア(企業が費用を払って広告を掲載する従来型のメディア)は火に油を注ぐようなものであり、他方でインバウンドは安定した燃焼のようなものである。

 

インバウンドマーケティングとは何か。なぜeコマースビジネスにとって重要なのか。

インバウンドマーケティングのためのソフトウェアを開発・提供するHubSpotによると、「インバウンドマーケティングは、顧客に合わせた価値のあるコンテンツとエクスペリエンスを作成することで顧客を引き付けるビジネス手法」であるという。

 

対照的に、「アウトバウンドマーケティング」は、潜在的な顧客を引き留めようとするマーケティング戦略を使った一方的なものである。

 

最も重要なことは、インバウンドマーケティングは、顧客のニーズに対応するベストプラクティスに従うことで、顧客体験に焦点を合わせているということである。 積極的な購入体験を提供することにより、それらの潜在的な顧客は顧客になり、そしてあなたのブランドのプロモーターになるのだ。

 

では、なぜこれがeコマースビジネスにとって重要なのだろうか。

 

いくつかの観点から顧客を理解しようとするインバウンドマーケティング

eコマースはより速く、より使い勝手が良くなり、購買は、AmazonやFacebook、Instagram、Pinterestなどの人気のあるマーケットプレイスで企業が商品を販売するオムニチャネルの世界で行われている。

 

さらに、顧客の購入方法も異なってきている。Insider Intelligenceよると、2021年のモバイル端末での売上は2020年より15.2%増加した。2025年までには、モバイルの売上は2倍の7,282億8,000万ドルに達すると予測されており、これは米国におけるeコマース小売売上高の44.2%を占めることになる。

 

購買行動、属性、そして顧客の購入場所に対する理解は、インバウンドマーケティングの核心となる戦略で対応することができる。

 

インバウンドマーケティング戦略の第一歩

製品開発から新規顧客の獲得、顧客の維持に至るまで、eコマースの成功は顧客を理解することに始まり、理解することに終わる。

残念なことに、eコマース企業は、このことに関して見落としがちな面がある。ターゲットオーディエンスのより一般的な特徴を知ることはありふれたことであるが、ほとんどの企業は、より一般的な理解を重視し、セグメンテーションとパーソナライゼーションを軽視している。これにより、ブランドに関心のある顧客が、パーソナライズされた購買ジャーニーを受け入れないというサイクルが生じやすくなる。

 

パーソナライズされたインバウンドマーケティング戦略を展開するにあたっては、2つのステップを踏む必要がある。

 

1. バイヤーペルソナの作成

バイヤーペルソナは、理想的な顧客を半架空的に表現したものだ。これは、顧客の属性、行動、動機や目標に関する実際のデータと知識ベースの推測に基づいて作成される。

 

バイヤーペルソナには、対応が必要な2つの主なカテゴリーがある。

 

・顧客情報 これは、属性、興味、趣味、行動、ライフスタイルに関する洞察を提供するものである。

 

・購買プロセスの段階 これにより、マーケターは、オーディエンスを新規顧客と既存顧客とに分類することができる。

 

これらの属性により、顧客がどのような人物であるか、また、ビジネスにとって彼らにどのような価値があるかに基づいて、顧客をセグメント化することができるのだ。

 

2. 事業目標と目的の設定

インバウンドマーケティングKPIは、企業や従業員がパフォーマンス目標を達成できたか否かを測定・評価するものである。eコマースビジネスの場合、マーケティングキャンペーンでは、財務面での成長と直接的なアトリビューションが重要視されることが多い。

 

eコマースビジネスでは、以下のKPIを追跡することが最も一般的である。

 

・ウェブサイトへのトラフィックソース

・コンバージョン率

・平均注文額

・顧客生涯価値

・オンライン収益

・顧客獲得コスト

・購入に至るまでの時間

・購入サイクル

・リピート購入

 

バイヤーペルソナと事業目標は明白に関連していないように見えるかもしれないが、マーケティングをパーソナライズすればするほど、その事業目標を達成する可能性が高くなる。

 

eコマースビジネスに共通するインバウンド戦略

インバウンド手法は、HubSpotによって広く知られるようになった「フライホイール(はずみ車)」という概念に基づいており、マーケティング活動を「Attract(惹きつける)」「Engage(信頼関係を築く)」「Delight(満足させる)」の3つの段階に分類している。

 

eコマース事業者は、次の方法でマーケティング活動をフライホイールに適合させることができる。

 

顧客を惹きつける

この段階は、新規訪問者をウェブサイトに惹きつけるために、幅広い網を張ろうとするものである。検索エンジン最適化、ブログコンテンツ、動画、ユーザー生成コンテンツ、ソーシャルメディア、ペイドメディアに注力することで、リードジェネレーションに向けたアウェアネス(認知)を高めることができる。

 

検索エンジン最適化

検索エンジン最適化(SEO)は、技術的・非技術的な戦略に基づく戦術であり、オーガニック・ビジビリティを高めることができる。これには以下のようなものがある。

 

・ターゲットキーワード

・URLやメタディスクリプション(ウェブサイトの内容を100字程度で説明した文章)の文字数制限

・製品ページでの語句修正

・画像の代替テキスト

・商品名やカスタマーレビューを含むリッチスニペット(通常よりも多様な情報が表示される検索結果の情報)

 

コンテンツ

コンテンツは、SEOの「非技術的」な側面と捉えることができる。コンテンツといえば、マーケテターは通常、ブログ記事、電子書籍、ピラーページ(まとめページ)など、SEO戦略を用いた文字によるコンテンツのことを指す。しかし、それは動画マーケティングの場合もある。

 

コンテンツは、長期的なマーケティング戦略において重要な役割を果たすものである。すぐに結果が出るわけではないが、時間をかけて得たドメインオーソリティによって、検索エンジンのランキングを上げることができる。

 

さらに、情報は信頼を生み出し、ブランドの認知度やロイヤルティを高め、より多くの購買につながるのだ。

 

ユーザー生成コンテンツ

ユーザー生成コンテンツは通常、ビジネスや製品に関するレビューや評価のことをいう。サイトや検索エンジンのページにレビューや評価を追加することで、企業は以下のようなメリットを得ることができる。

 

・検索エンジンランキングの向上

・ウェブサイトへのトラフィックの増加

・購買決定における信頼性の向上

 

これは、コンバージョン率や顧客満足度に影響を与えうる小さな変化である。

 

ソーシャルメディア

インフルエンサーマーケティングは、ソーシャルメディア上で行われるeコマースのマーケティング活動の一部となりつつある。しかし、eコマース企業は、ソーシャルシェアにインセンティブを与え、チャネルに関係なくブランドが正しく表現されるようにする柔軟性のあるコンテンツガイドラインを作成することで、常連客を活用することもできる。

 

ペイドメディア

前述のように、インバウンドマーケティングはペイドメディアを排除するものではなく、むしろそれと連携して機能するものだ。一般的なペイドメディアの戦略には、以下のようなものがある。

 

・検索連動型広告

・ディスプレイ広告

・ソーシャルメディア広告

 

これらの戦略は、新規購入者を惹きつけ、ブランドのリーチを拡大するのに役立つ。

 

信頼関係の構築

この段階では、見込み客をナーチャリングし、購入へと誘導することに注力しよう。

 

カタログの最適化

これは、商品の分析、最適化、合理化を行い、収益を最大化するためのプロセスである。このプロセスでは、売れ行きの悪い製品を特定し、その製品を中心にマーケティング戦略を練り直す。

このような製品の特定を行うことは、マーケターにとって、顧客を惹きつけるのに役立つ割引やオファーを試す絶好の機会となる。

 

メールマーケティング

SMSメッセージと並んで、メールマーケティングはeコマースマーケターにとって最も認知度の高いマーケティング形態の一つである。メールは最もコンバージョン率の高いチャネルであり、常に収益を上げている。

 

また、キャンペーンの品質は、A/Bテストで簡単にテストすることができる。このテストでは、あるメール(またはメールの要素)の2バージョンを比較して、パフォーマンスの品質を判断するというものだ。これは収益を上げるだけでなく、今後のアプローチにも影響を与える。

 

ユーザーエクスペリエンス

デザイン思考は、デジタル領域を利用する複数の業界において主流となりつつある。eコマースマーケティングにおいては、主に2つのユーザーエクスペリエンス要素を実践する必要がある。

 

・サイト内検索: 顧客の探している商品を簡単に見つけることができる必要がある。これは、サイト内検索機能で実現できる。

 

・チャットボットとライブチャット: 購入プロセスのどの段階であっても、レスポンシブで、ダイレクトな顧客サービスが必要である。

 

リカバリー戦略

カート放棄は、顧客がカートに商品を入れたものの、購入しないことを決定した場合に発生する。これは非常に一般的で、放棄率は約70%近くにもなる。

 

多くのマーケターは、この問題を解決するために、カート放棄メールワークフローを使っている。このワークフローには、特別オファーや割引で顧客との再エンゲージメントを図るための一連のメールが入っている。

 

分析

インバウンドマーケターは、自分の努力によってもたらされるデータに常に注目している。そのデータからは、以下のような情報が得られる。

 

・成功した戦略と失敗した戦略

・その戦略が、企業全体の事業目標や目的の達成にどのように役立っているか

 

顧客を満足させる

最後に、ひとたび潜在顧客を購入者に変えれば、顧客を満足させる段階が始まり、貴社を輝かせるチャンスとなる。

 

顧客体験の最適化は、出荷、高品質な製品の提供、簡便な返品・交換手続きの提供、コミュニティへの顧客の招待、役立つコンテンツの提供、ソーシャルシェアリングの促進など、さまざまな方法で行うことができる。

 

パーソナライゼーション

パーソナライゼーションとは、可能な限り付加価値を提供することである。一定額以上の購入で割引やクーポンを提供することのように思えるかもしれないが、パーソナライゼーションは、バイヤーペルソナを活用するものでもある。興味を持たないオーディエンス層に商品の宣伝メールを送信するようなことはすべきではない。

 

高度にパーソナライズされたコミュニケーションを生み出すためには、すべてのタッチポイントがペルソナにつながる必要がある。

 

再エンゲージメントのためのキャンペーン

どのようなeコマースビジネスでも、客足が遠のく時期がある。一方、残念ながら、新規顧客を見つけることは、既存顧客を維持することよりも費用がかかる。

しばらく顧客からの購入がない場合には、新製品やイベントを宣伝したり、割引やクーポンを提供したりして、メールで顧客に再エンゲージメントを行いたいものだ。

 

ただし、顧客が定着しないことはよくあると覚えておいてほしい。しばらくたっても再エンゲージメントがうまくいかない場合は、既存顧客により多くのエネルギーを傾けられるよう、次のステップに進もう。

 

ロイヤルティプログラム

顧客のエンゲージメントを維持するには、段階的なロイヤルティプログラムやVIPプログラムが役立つ。顧客の購入額が上がれば上がるほど、より限定的なインセンティブが与えられる。一般的なインセンティブとしては、誕生日や購入記念日の割引などがある。

 

これらのメッセージは自動化することができるが、それでも後々までインパクトを残すことができる可能性があるだろう。

 

インバウンドマーケティングはeコマースの未来である

eコマースに関する市況はますます変化している。ここで説明してきたインバウンドマーケティング戦略を導入することで、オーガニックグロースや顧客の獲得・維持、そして最も重要なこととして、コンテンツと素晴らしい製品によって顧客を喜ばせることに基づいた、長期的な戦略を立てるための役に立つだろう。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の7/15公開の記事を翻訳・補足したものです。