多くの独立系CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)が買収される中、残された大手企業には、マーケティングスタック内のベンダーニュートラルなハブとなることができるのだろうか。
今、マーケティング・テクノロジーの領域では、地殻変動が起きているようである。もちろん、CDPはこの10年ほどの間に驚異的なスピードで成長し、進化を続けてきた分野である。しかし、ここで述べているのはもっと根本的な変化である。
マーケティングオートメーション、CRM(顧客関係管理)、顧客データは、マーケティング・テクノロジーという地殻を構成する3つの地殻変動プレートだと考えられる。それらは、常に動いている。日々の業務やキャンペーンのレベルでは気づかないかもしれないが、より戦略的なレベルでははっきりとわかる。正直なところ、マーケティング・テクノロジーが、新しくどのような構成になるかは分からない。しかし、問いかけるべき質問は分かっている。それは、「CDPは、マーケティングオートメーションの活性化と実行という役割を引き継ぐのか?顧客データの保管場所としてCRMに取って代わるのだろうか?」という疑問である。
独立系CDPのブームか、破綻か?
CDPのカテゴリが大きく成長していると捉えることは当然であり、正確でもある。CDPに大きな関心が寄せられている。特に、顧客とのエンゲージメントを大規模にパーソナライズしようとするB2Cブランド企業は、特にそうである。同時に独立系のCDPは、老舗で有名なものも存在するが、より包括的なマーケティング・スイートやデジタル体験プラットフォームにかつてない勢いで吸収されつつある。
AgilOneはAcquiaに、SegmentはTwilioに、ZylotechはTerminusに、BoxeverはSitecoreに、ZaiusはOptimizelyに、BlueVennはUpland Softwareに、ExponeaはBloomreachに買収された。これがトレンドである。一方で、今年、Treasure Data、Amperity、Tealium、Blueshiftといった独立系CDPが、多額の資金を調達している。
独立系CDPというカテゴリは、脅威にさらされているのか、いないのか?CDPトップ企業である、ActionIQの創業者兼CEOであるTasso Argyros氏に尋ねた。
「私の考えでは、これまでに売却された独立系CDPは、突破口を開くのに苦労し、CDPカテゴリのリーダーになることをあきらめていた。もしくは、コアCDPでなかったかのどちらかだ。ここでいうコアCDPとは、CXハブのことである」。AgilOneは、前者の例であり、CDPカテゴリへの参入があまりに早かったため、その製品は時代遅れの技術で構築されていたと、同氏は述べている。そのため、同社が企業単体で勝負するのは難しい状況であった。
当然ながら、Argyros氏は、ActionIQにはCDP分野で主要な独立系プレーヤーになるチャンスがあると考えている。「そのチャンスは非常に大きく、今すぐ売却するのは時期尚早である。とはいえ、主要CDPプラットフォームとして残されたスペースはどれほどあるのだろうか。せいぜい2、3社だろう。それ以外の企業は、最終的に買収されるだろうというのが私の予測である」。
同氏が説明するところによると、独立系CDPの価値提案の一つは、ベストオブブリードのスタックを可能にすることだという。AdobeやOracle、SalesforceのCDPを採用すると、ブランドはそれらのビッグプレイヤーの他のソリューションに縛られる可能性がある。「ActionIQを導入すれば、完全なベスト・オブ・ブリードのスタックを実現することができる。我々のCDPは、どの企業でもうまく機能する」。
また、Treasure Dataも、大企業ブランドを顧客にもつCDPで、11月に2億3,400万ドルのベンチャー資金を調達した。創業者兼CEOの太田一樹氏は、Argyros氏の見解に同意した。「迅速に成長できず、VC(ベンチャーキャピタル)から資金を調達できないベンダーは、明らかに売却を目指している」と彼は言う。「CDP業界は今過熱しているため、売却するには良いタイミングである」。
ActionIQと同様、Treasure Dataもベンダー中立を売りにしている。「いわば、スイスのようなアプローチである」と太田氏は述べた。
独立系CDPの必要性
また、CDP分野を最もよく観察している一人であるCDP Instituteの創設者であり、MarTechへの寄稿も行っているDavid Raab氏に話を聞いた。「CDPを買収する企業は、ほとんどの場合、マルチチャネル配信システムを持っている。彼らのシステムは買収されたものであることが多く、ネイティブに統合されていない。そのため、自社で管理していない他のチャネルからのデータも取り込むだけでなく、データを取りまとめ自社システムを統合するためにCDPが必要であると認識しているのだ。買収企業は、データ統合を目指している。そして、CDP構築は非常に困難であり、買収する方がより早く簡単であり、合理的であると言える」。
この傾向は、独立系CDPカテゴリを脅かすものだろうか?「確かに独立系CDP市場は縮小している。「今後予想されるのは、独立系が特定のニッチにより特化することで、自社のポシションをより確立するということである」。
マーケティングだけでなく、複数の部門が顧客データを管理・活用する必要がある企業レベルでは、独立したCDPのニーズが引き続き存在すると考えられる。「ActionIQやTreasure Dataはそこに位置する」とRaab氏。「CDPには、ベンダーニュートラルであることが求められる。また、輸送、医療、教育などの業種に特化したCDPが必要とされる。バーティカル業界のスペシャリストであるCDPを多く目にするようになったが、それもポジションを守るためである」。
実際、Treasure Dataは最近、マーケティング企業への販売を開始したが、ActionIQは、ヘルスケア分野のCDPとしての地位を確立し、CDP for ServiceとCDP for Salesで企業内の他の機能への対応を明確にしている。
これは、Raab氏にとって理にかなっていた。「バイイングセンター(購買中心点)は複数存在する。マーケティングが主であるが、カスタマーサクセスは常にCDPのバイイングセンターである。企業には、マーケティングやIT、データチームなどとは別の導入経路もある。カスタマーサクセスやどの部門に売るにしても、その部門に最適な個別機能を持たせるという部門の垂直統合には価値がある。
当初、私が困惑したのは、Raab氏が、部門別垂直化と呼ぶものに対してCDPを提供することは、それが確実にデータのサイロを生み出すという点である。太田氏は次のように説明する。「我々のクライアントの組織はサイロ化されており、データもサイロ化されているのが事実である。150社以上あるCDPは、主にマーケティング部門に製品を売り込もうとしている。Treasure Dataは、クライアントがカスタマージャーニーのあらゆる場面でより良いサービスを顧客に提供できるよう、全ての各部門でデータを活用するようクライアントの行動を変えようとしている」。
では、次のステップは、マーケティング、サービス、セールスの各サイロにあるプロファイルをまとめて包括的なビューを作成することだろうか。太田氏は、「もちろんそうだ」と答えた。
次世代キャンペーン・マネジメント
CDPとして提供されるソリューションのすべてが、実際には真のCDPではないというのは周知の事実である。しかし、昔からCDPにはさまざまなタイプがあったというのが正しいかもしれない。しかし、CDPの中には、顧客に関する唯一の情報源としてだけでなく、顧客体験を組織化し提供するためのハブとなることを目指すものもあり、その区別はより明確になってきている。
このようなフルサービスのCDPは、様々な名称で呼ばれている。Blueshiftの創業者兼CEOであるVijay Chittoor氏は、プロファイルの統一、オーディエンスのセグメンテーション、キャンペーンの活性化を提供するCDPを「スマートハブ」CDPと呼び、Gartner(リサーチ&アドバイサリ企業)から借用した用語であるとしている。Argyros氏は、CDPを 「CXハブ 」または 「次世代キャンペーン・マネジメント」と呼んでいる。
「市場には2種類のCDPが存在する 」と太田氏。「1つは、タグマネジメントの領域から来たベンダーで、ウェブサイトやモバイルのデータ収集サイドにフォーカスしている。もうひとつは、アクティベーション、つまり実行サイドに特化したものである。後者カテゴリ自体には、多くの混乱が生じていると認めなければならない」。「Treasure Dataは、実行分野にも進出する可能性がある。データを活性化することはできるが、それを他のソリューション(ESPやメッセージング・チャンネルなど)に送り込み、実行する、という位置づけだ」と太田氏は言う。
CDPの主な仕事はデータをつなぐことであるという考え方は間違っているとArgyros氏は述べている。「我々がそれを行うのは必要だからである」。その程度は、クライアントがデータをきちんと管理しているかどうかで決まる。「データ接続は目的達成のための手段であり、データ接続機能の提供が不要になれば、それはそれで喜ばしいことだ。なぜなら、より速い展開が可能になるからであり、それがCDPの将来のかたちである。CDPは、次世代のキャンペーン・マネジメントプラットフォームであり、次世代のカスタマーインテリジェンスプラットフォームである」と同氏は語った。
さらに、こう続けた。「以前は、キャンペーン・マネジメントは、データから完全い切り離されていた。というのも、そもそもデータがあまりなかったからである。テラバイト級のデータがある今、キャンペーン・マネジメント・プラットフォームは非常に大規模なデータ処理を行う必要がある。このように、キャンペーンに使われていたデータマートが消滅し、今日ではCDPと呼ばれる単一のスタックに統合されている。キャンペーン・マネジメント3.0のようなものだ」。
カスタマーインテリジェンスも極めて重要だと、Argyros氏は主張する。CDP外でカスタマーインテリジェンスを実行するためのツールは、本質的に限られている。ウェブ解析はウェブサイトのアクティビティに限定される。ビジネス・インテリジェンスでは、高品質の集計レベルデータは習得できるが、カスタマージャーニーレベルのインサイトは得ることができない。「事実、CDPは、インテリジェンスを収集し、それをキャンペーンとうまく結びつけるための場所となっている。データからインテリジェンス、アクションまで、CDPという同じプラットフォームで行うことができる」。
スマートハブCDPは、マーケティングオートメーションを冗長化させるか?
Raab氏は、CDPがマーケティングオートメーションの役割を奪うとは考えていない。「ほとんどのマーケティングオートメーションシステムは、主にメールを送信しており、メールを送信できるCDPも存在する」。そして、メールマーケティングのコア機能を持つCDPの例として、Algonomyを挙げた。
「CDPには、非常に高度な配信機能、チャネルへの対応能力を持ち、マーケティングオートメーションができることを確実に実行するものがかなりある。」と同氏。「しかし、そうでない場合もある。マーケティングオートメーションはB2B的であることが多く、CRMシステムと密接に統合されている。CDP内に構築されていないマーケティングオートメーションからCDPには搭載されていないような専門的な機能が数多く備わっている」。
また、Raab氏によるとマーケティングオートメーションとCDPでは、データ構造にも大きな違いがあるという。「すべてのものを恐ろしく詳細に保存する大きなバルクデータストアがあるはずだが、せいぜい半構造化されたものだろう」。それが、CDPである。「そして、すべてのセグメンテーションを行い、マーケティングオートメーションなどを実行する、より構造化されたデータストアがある。基本的に2種類のテクノロジーが存在し、それぞれが得意とする機能を実行している。それらが、同じシステム内にあるとしたら、それは素晴らしい。いくつかのトラブルを回避することができるからだ」。