「光り輝くもの」を追い求めて時間を無駄にしていないどうかを診断する方法

問題の一つに、長年にわたる「光り輝くもの」病がある。この病気は、「you-know-what(知ったかぶり)」と同じくらい伝染しやすい。すべての問題を魔法のように解決してくれるツールを発見したときの喜びと無縁のマーケティング担当者はいないだろう。

 

「光り輝くもの」には惹きつけられる

私たちは、メール技術が飛躍的に進歩した20年前と同様に、「光り輝くもの」を探し求めてしまうものである。20年前はすべてが光り輝くように見えたが、私たちは、さらに明るい輝きを与え、機能させてきた。

 

当時は、eメールプログラムを構築するという使命感を持っていた。何が変化をもたらすのかを見つけるために、あらゆるものを試した。

 

現在も私たちは変化をもたらすことに注力しているが、新しい個人情報保護規制、変化するテクノロジーの限界、顧客エンゲージメントの新たな課題、顧客感情の変化など、気を散らさせる外敵要因が数多く存在する。

 

当時はわからなかったが、今明らかなことは、変化をもたらすことに集中することを忘れないように、自分自身をチェックする必要があるということだ。すべてのデジタル業務の鍵となるのは、戦略からツール、プロセスに至るまで、すべての行動が目標達成に役立っているかどうかを確認することである。

 

セルフチェックのための3つの質問

常に目の前に魅力的なものが溢れる状況で、自分が追いかけているものが間違っていないことを確認するには、どうすればいいだろうか?次の3つの質問は、自分の選択肢を評価するために有効である。

 

1.明確に定義されたKPI(重要業績評価指標)を設定しているか?

ほとんどのビジネスは、収益を重視している。業界ごとにその測定方法は異なるかもしれないが、すべては、収益に集約されるだろう。もし、収益が唯一のKPIであれば、私たちメールマーケティング担当者は、毎日、1日2回メールを“吐き出して”いるだろう(念のためにいうと、私はこの“吐き出す”という言葉が嫌いだ)。

 

メールマーケティング担当者として、私たちは、より優れた目的意識を持つべきである。組織が収益を重視する一方で、メールマーケティング担当者の目標は異なるものでなければならない。それは、クリックスルー率だろうか?リピーター獲得だろうか?リード獲得か?何もしないよりは、目標達成に近づくだろうか?

 

小売業サイド、ベンダーサイド、クライアントサイド、すべての視点での仕事において、優先順位を明確にするために、すべてのアイデアや機会を目標達成という基準によって測定する必要がある。変化は、前向きなものか、もしくは、後ろ向きか?長期的な利益をもたらすのか、それともすぐに消えてしまう短期的な利益なのか?

 

例えば、BIMI(Brand Indicators for Message Identification、認証済みのメールメッセージにブランドロゴを添付するための規格)を例に挙げよう。BIMIの認証プロトコルに従えば、GmailやYahooメールの受信箱で、自社ブランドロゴが送信者名の隣に表示される。購読者は、そのメールを認識し、それがスパムメールではなくブランドから送信されたものだと確信することができる。

 

素晴らしいことである。しかし、BIMIが、自社の目標達成に有効だろうか?私は、BIMIが重要でないとか、導入すべきでないと言っているわけではないが、結局のところ、BIMIはブランディング上の判断である。顧客は気にするだろうか?認証にかけた時間は、メールのエンゲージメント向上というかたちで報われるだろうか?それは、長期的にはどうだろうか?

 

もう一つの側面:KPIをどのように達成するかを定義しているか?また、それを正確に測定しているか?多くのマーケターはそうではなく、他の要素を考慮していない。

 

2.費用をかける価値があるか?

ある大企業のクライアントから、メールプログラムへあるサービスの追加を検討していると相談を受けた。このサービスは、概念実証のために非常に高い金額を請求していた。私が、同クライアントにした最初の質問は、「このサービスは、収益性にどう影響するのか?」というものだった。

 

現在でも、eメールは付加的サービスを利用したとしても、他チャネルに比べて安価であり、より高いリターンを得ることができる。しかし、それらのコストはすぐに膨らんでいく。よく見落とされる点が、「光り輝く」アドオンサービスが、キャンペーンに反応した顧客を基準に評価した場合に、利益を生むかどうかという点である。なぜなら、そのコストを評価する際に、反応しない人は考慮すべきではないからだ。

 

すべてのメールに対し、2セントの追加コストが発生すると言われても、最初は大した金額ではないと考えるかもしれない。しかし、実際のコストは、メール1通あたり9〜10セントになる可能性もある。なぜなら、メールを配信する全員を対象に費用を支払っても、全員が反応するとは限らないからだ。つまり、反応した人数をベースに、コストを割り振らなければならない。

 

もう一度、キャンペーンの反応を測定し、KPIの達成に役立ったかどうかを判断しなければならない。

 

リアルタイムメールは、この一例である。キャンペーンメールを配信するためのトータルコストにどれだけ追加されるのか?概念検証を行い、確実にコストを回収することができるか?

 

言っておくが、私はリアルタイム機能の大ファンである。しかし、単に光り輝いているだけでなく、拡張性があり、長期的な効果をもたらすことを明確にできる場合に限る。それを、証明できる場合のみに限られるのだ。

 

メールは、他のデジタルチャネルに比べて、すでに資金不足である。収益を産まないクールなことができる、「光り輝くもの」にお金を使い続けるのは避けるべきである。そうすれば、KPIに集中せざるを得なくなり、「光り輝くもの」から遠ざかることができる。

 

3.スケール可能か?

10年前の業界では、パフォーマンスを迅速に向上させることが話題になっていた。その理由のほとんどは、「驚いたよ、これを試してみたか? 」と話すのが楽しかったからだ。私たちは、「開封しないでください」(これは、個人的なお気に入りである。) という件名を使うなどのメールのテクニックについて話していた。 もう一つ人気のあったテクニックは、偽の謝罪メールを送ることだった。

 

あるブランドでは、通常のHTMLメールのテンプレートを、テキストのみのメッセージに置き換えた。その時は、大きな成果が得られた。しかし、当然のように、だれもが同じことを試し、すぐに「収穫逓減の法則」が働いた。このような短期的な利益は、購読者が慣れたことによって、長期的な損失になってしまった。

 

短期的な盛り上がりを狙うと、宛先であるモンスターに何度も餌を与える結果となる。

 

カウントダウン・タイマーもその一つである。最初はクールだったが、マーケティング担当者が戦略や目標を考慮せずに不用意に展開したため、顧客がそれに慣れてしまった。同様の戦術を評価する際には、それが長期的にスケールするという根拠をみつける必要がある。

 

最初は、盛り上がりがあり、受信箱における差別化が図れるかもしれない。ブラックフライデーに送る「Oops!」メールのように、控えめに使えば価値があるケースもある。注目を集める必要がある時に、差別化することができるからである。

 

しかし、それ以降はただのトリックに過ぎなくなる。ある頻度の高いブランドは、大体25個のキャンペーン(約2.5週間)に1回、ミスメールを送信してくる。定期的にそんなことをしていると、その担当者やブランドが無能で信頼できないように見える。

 

「光り輝くもの」は必ずしもモノではない

通常、「光り輝くもの」とは、ツールやプラットフォームのような有形の創造物である。新しいソーシャル・プラットフォームが登場するたびに、メールを消滅させる確実に光り輝く新製品として宣伝される。ClubhouseやTikTokもそうである。

 

しかし、「光り輝くもの」は、マインドセットでもある。例えば、Appleが、iOS 15のアップデートでメールのプライバシー保護機能をスタートすることにより開封率が低下することについて、メールマーケティング担当者の間で懸念が広がっている。Appleによって、開封率は有用な指標ではなくなることは分かっている。しかし、ここで、コストのかかる妨害となる「光り輝くもの」とは、開封率のプロキシを見つけるためにハックしようとすることである。

 

より生産的な現実は、よりクリックされるようにメッセージの価値を高めるためにその時間を費やすことだ。私たちは、そのためにお金をもらって仕事をしているのだから。

 

確かに、開封率の低下は混乱を招く。マーケティングエージェンシーのRPE Originでは、300の自動化機能を変更しなければならないクライアントを担当しているが、そのうちのいくつかは、開封率に依存している。開封率は、B2Bマーケティングにおける意思表示のひとつである。しかし、開封率をハックするのではなく、長期的な視点で、意図やエンゲージメントを測定する方法を変える必要がある。

 

意図を示していない開封率に執着するのは、「光り輝くもの」に固執するのと同じである。スケーラブルな方向とは、前に進み、ソリューションを見つけ、それが目標達成に役立つことを何度も確認することである。

 

まとめ

COVID-19やその変異株、政治、経済、そして、消費者調査やソーシャル投稿には現れない個人的な不安など、今日の私たちの生活には多くのストレスが存在する。これらの動揺は、マーケティング担当者をゲームから遠ざける。私たちは2020年を乗り切ったが、また同じことを繰り返さなければならない。そして、「光り輝くもの」は、誕生し続けている。

 

それらの多くは、優れたものであるだろう。しかし、導入する前に一度評価する必要がある。自社に必要な成果をもたらすもの、そして、瞬間的だけでなく長期的にも顧客を魅了するものに注力しよう。問題を解決してくれる「光り輝くもの」を探すことは、費用面だけでなく、収益や顧客を失うという意味でも、ダメージの大きい失敗となる可能性があるのだ。

 

※当記事は米国メディア「Martech」の9/2公開の記事を翻訳・補足したものです。