Amazonセラーの“アグリゲート組織”が、商品とセラーの買収を戦略的かつ積極的に推進していているということは、ほとんど知られていないAmazonのマーケティングの秘密の1つである。

これらの企業は、より広い市場に大きな影響を与えることができる。表面的には、アグリゲート企業は、マーケットプレイス内のサブストアのような存在となる。

 

<参考>

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そのようなアグリゲート・エンティティ(企業体)の1つが、Amazonに出店する中規模プライベートブランドを買収・統合するElevate Brandsであり、CEOは、Ryan Gnesin氏である。同社は、消費者に人気の高いFulfillment by Amazon(FBA)登録済みのブランドを買収し、独立セラーが製品の売り上げを最大限に高めるための支援を行っている。

 

そうした新しい動きに理解を示すセラーと、積極的なアグリゲートの両方にとって、Amazonでのビジネスは活況を呈している。

 

パンデミックにより、2020年にデジタル eコマースにおいて大規模なシフトが起こった。Gnesin氏によると、eコマースは前年比で44%成長したという。

Amazonのサードパーティセラーマーケットプレイスは、2020年に年間3,000億ドルを売り上げ、2019年の2,000億ドルから大幅に増加している。

「すぐにではなくとも、今後5年以内に5,000億ドルに達する予想」と、Gnesin氏は推察した。

 

ビジネスの売却

現在のeコマースの大幅な増加と、オンライン商品検索のまさに約70%がAmazonから開始されていることを結び付けてみよう。これは、マーケットプレイスが、消費者が求めるものは「第一に選択と価値、第二にブランド」だという事実を活用した結果であると、Gnesin氏は述べている。

 

一方、サードパーティのアグリゲーターによって買収された何百ものセラーの大規模な統合によって、買い物客のパフォーマンスは向上している。実際、2021年第一四半期で、アグリゲーターは、自社事業を売却しようとする小売業者の数が20倍に増加したことを目の当たりにした。

 

アグリゲーターは、過去2年間よりも、直近の3か月で、より多くのAmazonマーケットプレイスのセラーを買収したとGnesin氏。

40を超えるさまざまなセラーアグリゲーターが出現しているが、その大半は6ヶ月前には存在していなかった。今日の市場でトップ3のアグリゲーターは、ThrasioPerch、そして、Elevate Brandsだ。

 

2019年以来、約30億ドルがこれらの企業に投資されている。その額は、毎週増え続けているとGnesin氏は語った。

Elevate Brandsは、最近、5,500万ドルの資金を確保し、買収が急増した時には必要に応じてそれ以上の資金を調達するための許可を得ている。同社は、すでに10数社のeコマースブランドを買収しており、現在は週に平均1社の買収を行っている。

 

Elevate Brandsは、4年以上にわたりこのような買収を行う唯一のアグリゲーターだ。同社もかつてはセラーであり、買収ブランドは最初の1年で最大10倍の成長を遂げている。

 

ポジティブな影響

アグリゲート・セラーの主な機能の1つは、買収した各製品のプロビジョニングを向上させることだ。多くの場合、買収したビジネスは小規模な事業者によって運営されている。Amazonの立場からすると、それはブランドにとって非常にポジティブなステップアップである。消費者にとっては、より高品質の製品をより多く入手できることで利益になる、とGnesin氏は述べた。

 

明らかに、アグリゲーターが運営することにより、システムに流入する資本が増加する。それがアグリゲーターの活動を可能にしたのだ。アグリゲーターは、ブランドを引き継き、新しいバリエーションをローンチするとともに、製品と品質を改善する。

 

すべてのアグリゲーターが、同じオペレーションを行うわけではない。各エンティティが採用するビジネスモデルは1つではない。セラーがアグリゲーターと提携することによって、デジタルストアのオーナーと、Amazonの製品管理全体の間に中間層を付け加えているような場合もある、とGnesin氏は説明した。

 

その一方で、アグリゲーターが、eコマースストアを完全に買収し、セラーは買収金額を手にして立ち去る場合もある。アグリゲーターは買収した製品ラインを所有し、それを自社のストアフロントに統合するのだ。

 

仕組み

Elevate Brandsのオペレーションでは、同社が買収するすべてのデジタルストアは完全に獲得される。他のアグリゲーターの中には、例えば、ビジネスの20%または25%を買収し、経営者に運営を継続させるという独自のモデルをもつものもある。

Gnesin氏は、「これらの企業は、どこかの段階で、事業を上場するか、ポートフォリオを売却するつもりである。私たちは、それが特段に優れたモデルだとは思っていない」と述べた。

Gnesin氏のモデルは、これらのビジネスを買収し、セラーはその後は関与しない。Elevate Brandsはビジネスを完全に所有し、中間層は一切存在しない。

 

「Amazonアカウントを買収する際には、その商標、Amazonリスティング、Webサイト、サプライチェーン、そして、工場との関係を買収することになる」と、Gnesin氏は語った。

その買収とは、何もかもすべてを引き継ぐことを意味する。したがって、セラーがもはや関与することはない。

法的な観点からみると、これはクリーンでシンプルなトランザクションである。Elevate Brandsは、セラーのLLCをアグリゲーターのLLCに切り替え、本質的に他のすべてを引き継ぐとGnesin氏は詳細に述べた。

 

セラーの会社の経営陣を留任させることを選択するアグリゲーターも存在する。前のオーナーを従業員として残し、管理業務を割り当てることもある。

 

Gnesin氏は、大企業の買収では、一部の従業員は留任したいと考えていることに気が付いた。それは、新オーナーにとって有益なことであり、彼らを従業員として引き受けることにした。

「誰かに1,000万ドルを支払ったとしても、普通は従業員になりたいとは思わないということがわかった」と、彼は付け加える。

 

リバウンド・セラー

多くの場合、Amazonでのデジタルストアのビジネス拡大に成功している起業家は、アグリゲーターにとって魅力的なもう一つのバイアウトターゲットを構築することで、再度利益を得る機会をうかがっている。彼らは新しい製品ラインをもってAmazonに戻り、最初からやり直すのだ。

 

「彼らは、同じビジネスで直接競合することはできないが、他の製品ラインに参入することは可能だ。最終的に、成功した場合には、再び買収されるかもしれない。それが狙いなのだ。私たちは、それを奨励しサポートする」と、Gnesin氏は語った。

 

Amazon業界の素晴らしいところは、絶え間ないイノベーションが成功を後押ししていることである。製品のアイデアが枯渇することはない。

 

適例

毎年、何百もの新しいセラーが、新しく革新的なアイデアでAmazonマーケットプレイスに参入している。Gnesin氏は、この状況が変わることはないと考えている。

たとえば、彼は、最近出会ったあるビジネスを買収した。彼のマーケティング眼を惹きつけた商品は、奇妙な形の枕だった。

セラーが考案した独特な形は買い物客に大好評で、20,000件の5つ星レビューを獲得した。

「セラーは、その商品の特許を持っている。彼らは、まさに、今の市場にはない斬新なものを考案した。彼らのビジネスは素晴らしいと思えたので、事業を買収することにした」とGnesinは語った。

 

チャンスは、まだたくさんある。Gnesin氏は、Amazonで買い物をするようになった消費者の数が増えているため、チャンスの幅は広がる一方だとしている。

 

買い物客の変化

Z世代とミレニアル世代は、Amazonでの購入に対し新しいアプローチ方法をとる。この新たな要素は、Amazon小売の未来を強化するもう1つのファクターである。

 

Channel Bakers(広告、マーケティング企業)の創設者兼CEOであるJoshua Kreitzer氏によると、Z世代とミレニアル世代の買い物客は、特定のブランドを見つけることにあまり関心がなく、プレミアムブランドの購入の際には、最適な価格で購入することに重点を置いているという。Channel Bakersでは、Amazonやその他のセラーが販売成功のための最適化支援を行っている。

「ベビーブーマー世代は、ブランドへのロイヤルティが非常に高いため、フォード派かシボレー派のどちらかであった」とKreitzer氏は語った。

ノックオフブランド(偽物や類似品)とノンブランドの海外のセラーも、より多様化し増加するAmazonの買い物客層にうまく対応する傾向にある。Amazonショッピングは、どのブランドを購入するかにこだわらずに、お得な価格で購入することを望む傾向にある。

 

Channel Bakersは、ブランドが売り上げを伸ばし、小売およびeコマースチャネルでの影響力を強化するための支援を提供するという使命を担っている。同社のビジネスは、Samsung(韓国発、世界最大級の総合電気製品メーカー)、Calvin Klein(米国ファッションブランド)、その他の大手有名ブランドなどをクライアントとして抱え、プレミアムブランドを基盤としている。

 

現在、小売プレミアムブランドの将来を考えると、Kreitzer氏や、同業種のマーケターは、買い物客が発見したコンテンツと新しいメディアに注目しなければならない、とKreitzer氏は指摘している。今日の買い物客は、はるかにデジタル志向だ。そのため、マーケティングの焦点は、現在、動画に向けられている。セラーのコンテンツは、Amazonや他の販売チャネルにおいて、新しいオーディエンスの期待に応えるものでなければならない。

 

「よくある退屈なコマーシャルをテレビや動画で流すだけでは不十分だ。買い物客を惹きつける方法で、コンテンツを作成する必要がある。広告主は、新たにつくり直されたメッセージで製品ストーリーを伝える必要があるのだ」とKreitzer氏は述べている。

 

それが、これからの小売のあり方だ。プレミアムブランドとしてeコマースで勝つためには、セラーとマーケターは勝つ方法を理解する必要がある、とKreitzer氏は助言した。

 

ストーリーテリングがカギとなる

買い物客のデジタルへの関心が高まる中、ブランドは自社ストーリーを伝え、たとえば、より高い価格を支払う理由を次世代に理解させる必要がある。

「マーケティングの未来は、間違いなくeコマースだ」とKreitzer氏。「しかし、明日の買い物客に、関連性が高く説得力のある方法で製品ストーリーを伝えることは不可欠だ」と述べている。

 

そのストーリーテリングのマントラは、Amazonの全体的なマーケティング戦略の大きな部分を占めるとKreitzer氏は確信している。ビデオストリーミングは、未来のエンターテインメントの流行となる。Amazonは、マーケットプレイスでの購入以外にも、オンラインのデジタル倉庫への集客の準備をしている。

 

「Amazonは、誰もが、商品だけなくエンターテインメント動画を求めて集まる場所になりつつある。これはワンストップショッピングの仮想プラットフォームなのだ」と、Kreitzer氏は語った。

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の7/13公開の記事を翻訳・補足したものです。