中国のeコマースプラットフォームAlibaba以外で、中国を拠点とするセラーが最も成功を収めているD2C市場のひとつがAmazonである。この傾向は、何年も前から加速している。

eコマースインテリジェント企業Marketplace Pulseレポートでは、1月にAmazonに新規参入したセラーのうち、中国を拠点とするセラーは75%を占めたことが明らかとなった。これは、前年の47%から大幅に増加している。

 

Amazonの中国を拠点とするセラーのセグメントは、大規模ではある

が、流通総額(GMV/商品の総売上高)の市場シェアにはまだ影響を与えていない。米国内のセラーが総売上の大半を占めているのだ。

Amazonのコアマーケット上位4か国(米国、英国、ドイツ、日本)における、新規セラーの4分の3は、中国を拠点としている。この数値は、2021年のAmazonマーケットプレイスへ新規参入した40,000を超えるセラーを対象としたMarketplace Pulseのによるもので、前述4つのマーケットプレイスの平均値を計算したものである。

 

この4つのコアマーケットプレイスと、他の3つの欧州マーケットプレイス(フランス、イタリア、スペイン)、そしてAmazonの他の米国外プラットフォームは、それぞれ同様のパターンを示している。

 

中国を拠点とするセラーは、2020年1月の新規セラーの47%、2019年1月の新規セラーの41%を占めている。米国Amazonでは、2019年の28%から2021年には63%と、シェアが2倍以上となった。2020年3月以降、米国では新規セラーの半数以上が中国からとなっている。

 

Amazonは、中国ブランドが米国や欧州の消費者にリーチするための最も効率的なD2Cプラットフォームになっている。昨年、Universal Postal Union(万国郵便連合)が中国からの低価格小口貨物輸送に対する補助金を大幅に削減したにもかかわらず、中国を拠点とするメーカーは、迅速な配送レーンを依然として幅広く利用することができるのだ。

 

急激な配送料倍増にもかかわらず、中国セラーのAmazonでのビジネスは妨げられてはいない。それは、AmazonセラーがFulfillment by Amazon(FBA)プログラムによって在庫を現地で保管できることが大きく影響している。FBAでは、ベンダーはAmazonのフルフィルメントセンターに商品を保管することができ、Amazonの従業員が、商品のピッキング、梱包、発送、顧客サービスを行う。

 

Amazonで販売を行う米国内メーカーにとっては、価格面と商品提供面の両方で競争上の課題がある。特定カテゴリーで勝算のある商品を保有するAmazon FBA事業者を買収して運営するコマース企業のPerchにとっては、中国の小売業者が主な競争相手となる。Perchは、2019年12月のローンチ以降、20社以上のブランドを買収している。

 

Perchの買収担当副社長であるNate Jackson氏は、「彼ら(中国小売業者)が、我々にとって最大のリスクである」と述べている。

 

競争力をはぐくむ場

Jackson氏によると、Perchがこの状況を初めて把握したのは、Amazonのトップセラーの約45%が中国を拠点としていることが明らかとなった半年ほど前だと言う。45%が米国、残りの10%は、その他の地域に拠点としていた。

 

Amazonの新規セラーの75%は中国を拠点としており、Jackson氏は、この傾向が継続するとみている。しかし、これは政治的な問題ではなく、特に、今のパンデミック禍においては、小売販売は、元来非常に競争の激しいものである。

 

こちらの中国セラーに関する数値は、複数のアカウントで運営するベンダーがいることを考慮すると、部分的に誇張されている可能性がある。Amazonは、同一企業が複数のアカウントを持つことについて、それぞれが全く異なるブランドであったり、異なるビジネスニーズに対応するものであったりすれば可能だとしている。

 

「そのため、中国のセラーとの競争はますます激しくなっている」と認めるJackson氏。消費者にとって重要なのは、価格と利便性だろう。販売者の所在地は問題ではない。

 

FBAプログラムに加盟している中国セラーであれば、他の米国拠点の荷主と同様に、商品を米国内において国内配送することが可能だ、とJackson氏は語る。

 

中国セラーは、Amazonの配送センターに商品を供給する。Amazonは、中国セラーの販売と配送を、他の米国セラーと同様に処理する。

そうでなければ、中国セラーが実際に中国から出荷しなければならず、消費者がPrimeサービスの適用外であることや実際の商品到着日を認識できなかった場合、到着まで何日も待つことになる。

「中国セラーが販売する商品の大半は、FBA会員のものであり、他のセラーの商品と同様に迅速に配送されている」とJackson氏は言う。

 

大半の購入者が知らないこと

Amazonの消費者の多くは、誰が商品を販売しているのかを知らない。大半の消費者は、商品が定評のある実店舗で販売されているものだと誤解しているのだ。Jackson氏によると、実際には多くのセラーは、遠く離れた場所のガレージや地下室で事業を行う、個人や母子家庭の再販業者だという。

 

Jackson氏は、Amazonがこうした状況への透明性を高めつつある、と付け加えた。現在、欧州の消費者は、サードパーティセラーのページのリンクをクリックすると、そのセラーの情報や店舗の写真などを閲覧できる。9月には、Amazonは、米国でもこの機能を有効にした。一部の販売者については、潜在顧客は、同様にセラー情報を見つけることができるという。

 

「当初、セラーの多くは、透明性の向上によって自分たちをさらけ出さなければならないと感じ、反対した。しかし、多くの場合、消費者は商品の写真を見て、詳細を読み、価格を確認し、レビューを読んでからカートボタンをクリックするだけなのだ」とJackson氏。

 

常に商品は、FBAを利用することによって、ほかの商品と同様に扱われる。その製品が中国製であるか、他国で製造されたかは問題ではない。しかし、発送の詳細情報に注意を払わなければ、文字通り中国から直接発送され、到着までに数週間かかることもある」とJackson氏は説明した。

 

Amazon マーチャントプライマー

一般的に、Amazonで買い物をする人は、デジタルマーケットプレイスの小売構造を理解していない。Amazonには、上述の自宅で事業を行う販売者以外にも、複数タイプのセラーが存在している。

 

このような、マーチャントは再販業者である。彼らは、卸売業者から安いバルク価格で商品を購入し、Amazonで、より高価格で再販して利益を得ている可能性がある。

 

また、プライベートブランドのマーチャントも多く存在する。中国を拠点とするマーチャントの多くがこのカテゴリーに属している、とJackson氏は指摘する。彼らは実際、他社から製品を購入するのではなく、自社で製造した製品の一部に別のブランド商標をつけているという。

 

「このようなセラーは、当社は複数の企業向けに同じ製品を製造していたメーカーで、その後、一部の製品に自社レーベルを付けてAmazonで直接販売をはじめている」 とJackson氏は語った。

 

Amazonエコシステムへの影響

Jackson氏によると、Amazonはエンドカスタマーを重視することでよく知られている。消費者にとって、カスタマー・エクスペリエンスにおいては、品揃え、品質、カスタマーサービス、そして価格が全てである。Amazonは、低価格で提供できるセラー数が増えることは、消費者にとっても好ましいことだと考えているのだ。

 

「残念ながら、中国からの商品を販売する事業者に対する、購入者のネガティブな反応があり、そのようなコメントが製品レビューにも見られる。商品の品質やセラーのサービスについては触れずに、中国からの商品というだけの理由で、星1つのレビューをつける消費者もいるくらいだ」とJackson氏。

 

消費者の中には、米国内産の製品だけを購入したいという人もいる。Jackson氏によれば、これが国内のセラーの主な競争力となっているという。価格だけではなく、独自のブランドアイデンティティを確立することで、消費者に自社商品を選んでもらうことができるということだ。

 

「例えば、米国製の設備の画像を表示しているマーチャントも存在する。特定の州の生産ラインの画像などを掲載している場合もある。消費者の中には、そのような画像が心に響く人もいるだろう」と同氏は語った。

 

UpstartWorks(米国コンサルティング企業)の社長であるRohan Thambrahalli氏は、中国を拠点とするベンダーが目立つことは、最終的にはAmazonの顧客基盤に利益をもたらすと述べている。顧客の選択肢が増え、競争が活発化するためだ。

 

「しかし、消費者が偽造品販売の可能性のあるセラーから購入するリスクのある製品に注意しなければならない必要性が生じることも、好ましくない変化である。商品情報の中に、適正な規制当局の承認が含まれていない可能性がある」と、Thambrahalli氏は語った。

 

例えば、Covid-19禍には、多くのセラーがその殺菌力を違法に謳い、殺菌剤やPPE用品の偽造品を販売している、と同氏は説明する。

 

中国製のコスト

Perchの創業者兼CEOであるChris Bell氏によると、中国を拠点とするセラーによるアカウント開設は何年も継続しており、Amazonやその他のマーケットプレイスのセラーにとって、避けては通れない現実である。Bell氏は、この状況を、eコマースにとって良いか悪いかという観点からは考えていない。

 

Bell氏は取材に対し、「これは、eコマース市場の継続的なグローバル化の結果に過ぎない」と語った。「中国でも米国でもどこでも、質の悪い不正なセラーが存在する。また、拠点を置く場所にかかわらず、質の高い優良なセラーも存在するのだ」。

 

中国のサプライヤーがAmazonにもたらすデメリットの1つは、米国や欧州のサプライヤーに対して、コスト面で優位であるという点である、と同氏。しかし、中国のサプライヤーは、現地の消費者の嗜好を理解し、現地の顧客にアピールする商品リストを作成し、他のセラーとの競争に勝つためにプラットフォームを最適化するという課題も抱えている。

 

「世界の消費者は、優れた製品と自信を持てる物を、手頃な価格で購入したいと考えている。それは、世界的に優れたブランドオーナーが消費者に提供できることだ」とBell氏は述べた。

 

Perchは、大半の製品カテゴリーにおいて、中国や米国の販売業者との競争が絶えず激化しているにもかかわらず、市場シェアの維持、拡大を実現した。その理由は、同社が、魅力的なプライスポイントで優れた製品を提供し、それが優れたレビューによって実証されていることにある。このようなレビューは、高品質な製品提供、また、問題が発生した場合の優れたカスタマーサービスによって獲得されている、と同氏は付け加えた。

 

選択肢が少なければ希少価値が上がるが、グローバリゼーションによって(選択肢が広がっると)、平凡な製品を高いマージンで販売することは困難になっている。Bell氏は、Amazonなどのマーケットプレイスにおいて、無限に選択肢が拡大し、多くのサプライヤーによる顧客獲得のために競争している中、常にビジネスを向上させ、競争力を維持し、アプローチを緩めないことが必要だと考えている。

 

「しかし、消費者に満足度の高いサービスを提供し続け、製品、コスト、マーチャンダイジング、顧客サービスに鋭敏であり続ける限り、消費者支出の大部分を獲得し続けることができる」とBell氏は結論付けた。

 

Amazonの品質管理

Thambrahalli氏によると、中国セラーは、製品を非常に短期間で市場に投入することを得意としている。一般的に、米国で新製品を発売するには半年から2年かかるといわれているが、中国のセラーは90日以内に製品を市場に出すことができる。

 

「このように市場投入までのスピードが速いため、中国セラーは、Amazonプラットフォーム上での販売製品の数の多さだけによっても、同エコシステムに影響を与え続けるだろう」とThambrahalli氏。

 

つまりAmazonは、ブランドの認証と、製品が現地と連邦政府の規制要件を満たしているかどうかの精査を強化し続ける必要がある。

Amazonは、Amazonで販売されている製品に対する消費者の信頼を非常に高く保たなければならない、とThambrahalli氏は警告した。また、Amazonは、製品の使用に関する安全性の証明についても、常に努力していかなければならないだろう。

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の3/30公開の記事を翻訳・補足したものです。