心理学をマーケティング戦略の一環として活用することにより、コンバージョンの増加と、購買サイクルの短縮が可能になる。

 

マーケターは、パンデミック渦中で極めて困難な課題に直面している。購買サイクルが長期化し、需要が減少しているにもかかわらず、成長を促進することが求められているのだ。そして、今すぐに実行しなければならない。厳しい時期には、ここで紹介する4つの心理的ドライバーを活用することで、ビジネスの牽引力を高めることができるだろう。

 

  • アンカリング効果(固着効果)
  • ソーシャルプルーフ(社会的証明)
  • 損失回避
  • 目標采配

 

アンカリング効果

顧客の心の奥まで到達し、アンカー(錨)を下ろす。マーケターは、アンカリング効果を用いた情報提示の順番によって、顧客の行動に影響を与えることができるだろう。顧客は、最初に提示された情報に重きを置く傾向があるので、最初の情報を受け取った直後に、思いもよらず価値認識を変えてしまうものなのだ。

この現象を紹介した心理学者のAmos Tversky氏とDaniel Kahneman氏によると、「異なる出発点からは、異なる推定値が得られる。そして、推定値は、初期値に引っ張られてしまう」という。では、どのように、これを現実世界に応用できるだろうか?ある商品を販売している場合、その商品を提示する前に、より高額な代替品を紹介することで、購入に対する抵抗を最小限に抑えることが可能になる。

このバイアスが働くのは、顧客の脳が最初のデータポイントと比較して、2番目の選択肢の価値を割り出し始めるからである。マーケティングでは、最初に紹介するアイテム(または、アイテムグループ)を、2番目の選択肢よりかなり高い価格帯であるもののわずかに優れたメリットしかないアイテムにすることが重要である。最初の価格ポイントが強く印象に残っている顧客は、2番目のアイテムを、見過ごすには惜しいほど優れた商品として認識するだろう。

 

ソーシャルプルーフ(社会的証明)

Arizona State Universityの心理学とマーケティングの名誉教授であるRobert Cialdini氏は1984年、ソーシャルプルーフの概念を紹介。それは、マーケティングの世界をすっかり変化させたのだった。Cialdini氏は代表著書である『Influence, the Psychology of Persuasion(影響力の武器)』の中で、人は、他人が同じ行動をとっている場合に、いかに「そのある行動をより正しいとみなす」傾向があるかという点に焦点を当てている。要するに人は、他人に正当性を求め、それを目にすることにより、行動を起こす可能性が高くなるということである。

 

マーケティングにおけるソーシャルプルーフの価値は何だろう。Northwestern University(ノースウェスタン大学)のSpiegel Research Center(スピーゲル研究センター)によると、オンラインレビューは、購買行動に劇的な影響を与えるものだという。実際、自社ウェブサイトにポジティブなレビューを表示することで、コンバージョン率を270%向上させることができるのだ!レビューを有効に活用できているだろうか?

ビジネスによっては、ソーシャルプルーフへのアプローチを変える必要があるかもしれない。例えば、地元のサービスプロバイダーであれば、自社を賞賛する顧客の声を獲得することにフォーカスするだろう。そして、それらの声を自社サイトにアップするかもしれない。一方、テクノロジー企業であれば、他者がどのようにして自社製品の恩恵を受けているかのケーススタディを作成するだろう。他の人があなたのビジネスを気に入っているという証拠を提供すれば、潜在顧客があなたの会社を試してみようとする可能性が高くなるのだ。

 

損失回避

勝ちたいか?もちろんそうだろう。しかし、勝つためにどのような犠牲を払っているのだろうか。利益を得るか損失を回避するか、どちらかを選択するとなると、どれだけ勝つのが好きでも利益を求めるよりも損失を回避するために努力する可能性が高い。1979年にTversky氏とKahneman氏は、損失回避の概念を取り入れた行動モデルであるプロスペクト理論を生み出した。損失への嫌悪ゆえに、人は、同じ価値の利益よりも、同じ価値の損失をより重視する傾向があるという。

ではどうすれば、収益増加における成功を促進するために、この原則を活用することができるだろうか?たとえばSaaS企業で、新規顧客獲得のために割引を提供するか、無料トライアルを提供するかを検討しているとしよう。損失回避がもたらす影響を理解すれば、ソフトウェアの無料トライアルを提供し、ユーザーをプラットフォームに依存させることにより、良い結果が得られる可能性が高いことがわかるだろう。結局のところ、顧客は何か新しいものを獲得するためにエネルギーを発揮するよりも、持っているもの(または必要なもの)を手放したくないと考えるのだ。

 

目標采配

1932年、行動心理学者のClark Hull氏は、動物は食料源に接近するにつれ、より速く走ることを発見した。この見解は最終的に、今日のマーケッターやUXデザイナーにとって大きな意味を持つ仮説となる目標勾配説につながることになった。購買サイクルを短縮したいだろうか?ウェブサイトのフォームコンバージョン率を上げたいだろうか?

 

Journal of Marketing Research誌に発表された研究では、リサーチャーたちは、コーヒーショップのスタンプカードを持っていた参加者の大きな行動の変化を観察した。この研究では、カード所有者は、スタンプを集めるごとに、無料のコーヒー1杯を受け取るという目標に近づいた。そして彼らはスタンプを多く獲得するにつれて、より頻繁に購入するようになった。実際、購買行動は16%加速し、購買サイクルは、5日間短縮された。

 

また、目標采配をウェブサイトの心理的ドライバーとして活用することも、コンバージョンを加速させる驚くべき効果がある。例えば複雑な見積システムを持つB2B企業であれば、プログレスバーを作成することで、見込み客が購入完了まであと一歩のところまで来ていることを強調することができるだろう。結局のところ、顧客にゴールラインを見せてしまえば、顧客は目標を達成するために、大急ぎでゴールを目指す可能性が高くなるのだ。

 

結論

不確実な経済環境においてビジネスを生み出そうと努力する中で、認知的バイアスや心理的ドライバーが行動に影響を与え続けていることに気づくはずである。重要なのは、各原則を自分の業界に合わせてそれらを適応させ、倫理的に行動変化を促すことである。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の5/14公開の記事を翻訳・補足したものです。