ECサイトにおける購買プロセスモデル - 消費者はどのようにECサイトを見つけ、どのように購買に辿り着くのか
消費者はどのように数多くのECサイトの中から買いたい商品のあるECサイトを見つけ、商品を探し、他のサイトと比較し、購入まで辿り着くのか。ECサイトの改善点を見つけ、どこに問題があるのかを把握する際にそのようなことを考えたことがある人もいるのではないだろうか。ECサイトの売上を上げるためのコンサルティングサービスを提供する会社は、独自の購買ステップなどのフレームワークを持っていることも多い。今回は、ECサイトにおける購買ステップのフレームワークモデルを紹介し、消費者がどのように購買に辿り着くのか考えていく。
従来の購買プロセスモデル
従来の消費者の購買プロセスをモデル化したもので著名なものはAIDMA(アイドマ)とAISAS(アイサス)が代表的なものだろう。AIDMAモデルは、1920年代のアメリカで提唱された非常に古いもので、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)に分けたものだ。インターネットの普及に伴いこのAIDMAモデルでは説明できない部分が増えてきたため、電通が提唱したAISASモデルが登場した。これは2005年に商標登録されたもので、Attention(注意)、Interest(関心)、Search(検索)、Action(購買)、Share(情報共有)に分けられている。オンラインでの特性として、SearchとShareが分けられていることが特徴的なモデルである。しかし、このAISASモデルは商標登録されていることや、オンラインマーケティングの進化は非常に早いこともあり、各社はそれぞれ独自のモデルを提唱してきている。今回は各社が提唱している購買モデルの中から3つを紹介していく。
AFLARモデル - ネットショップ総研
ネットショップの運営代行やコンサルティングを行うネットショップ総研は、独自の購買モデル「AFLAR(アフラー)モデルと10の消費者行動」を提唱している。
AFLARとは、Attention(認知)、Feeling(感情)、Logical(検証)、Action(行動)、Rerationship(取得)で、各単語の頭文字をとったものだ。このAFLARモデルに基づき、消費者は商品を購入するまでの10の行動をとっているという理論である。
Attention(認知)
認知は、消費者に「気づき」を与えるステップとなる。広告投下を行うことで、消費者とメディアが接触し認知に至る。従来からテレビ・マスメディア・WEBなどの広告媒体により接触は進められてきたが、最近ではTwitterやInstagramなどのSNSが広告の役割を担うことが多くなってきたため広告の範囲は広がっている。今後もSNSが進化してゆくにつれて、消費者に認知をしてもらうための範囲は拡大していくことが予想される。
Feeling(感情)
感情の段階では、「興味」、「検索」、「欲求」という商品に心を動かされるステップとなる。EC事業者は消費者を感情で揺さぶり、商品に対して興奮する状態へ誘導することが必要とされる段階であり、ECサイトやSNSなどの様々なメディアを利用して直接的に消費者との接触を開始する接客フェーズとなる。
Logical(検証)
検証の段階では、Compare(比較)、Cosideration(検討)、Confidence(確証)と冷静に商品が購入するに値するものか検討しているステップとなる。いくつか候補としている商品を実際に見て比較し、商品のメリット・デメリットをレビューサイトなど第三者情報を駆使して検討し、購入を決定(確証)するまでの検証を行う段階である。ネットショップ総研ではこの検証段階をC3(シースリー)またはショールーミングプロセスと呼んでいる。
Action(行動)
この段階では、消費者が実際にAction(行動)、つまり商品の購買を行う段階となる。消費者は商品の購入を決断した段階で心理的に無防備になり、クロスセルが最も発生しやすい状態となる。例えばAmazonでは、ある商品を選択すると類似商品の紹介や一緒に購入されている紹介をするなどクロスセルを狙うサイト構造をしている。EC事業者にとって重要なのは、この段階でどれだけ消費者の関心を引く商品を紹介できるかであり、客単価に大きく影響してくるフェーズである。
Rerationship(取得)
この段階では、購買後のExciting(感動)、Share(共有)のステップとなる。消費者が商品を受け取り、共有されることで消費者がインフルエンサーとなりうる段階である。しかし必ずしもポジティブな共有がされるとは限らず、購入時に消費者の期待値を下回ると商品の批判をされることにつながってしまう。特に、企業発信の情報よりも第三者の情報のほうがより信憑性が高いと感じるため、EC事業者は常に消費者の期待値を超える価値の提供を行うことが必須であると同時に、期待されていない要素に関しては十分なケアを行うことが求められるのである。
このモデルは、ネットショップ総研が長年培ってきた、サイトにランディングさせてから感情を揺さぶり購買意欲を高める方法論を丁寧にモデル化したもので、サイト内での消費者の心理を非常にわかりやすく表しているモデルといえよう。
DECAX(デキャックス)モデル - 電通
電通デジタル・ホールディングスの内藤敦之氏がコンテンツマーケティング主流になった現在に対応した購買行動モデルとして、DECAX(デキャックス)を提唱した。
DECAXはDiscovery(発見)、Engage(関係構築)、Check(確認)、Action(購買)、eXperience(体験と共有)をを表している。従来は広告を用いて注意喚起を行っていたプッシュ型のプロセスが重要とされていたが、DECAXでは消費者が自ら興味のあるコンテンツを「発見する」プル型のプロセスに変わってきていることに対応した購買モデルとなっている。
Discovery(発見)
最近は、消費者の多くがPCやスマートフォンを使用して情報を仕入れる時代となった。消費者が日常的な生活行動の中からコンテンツを「Discover(発見)」してもらうことが購買プロセスの第一段階となる。いかに自然にコンテンツを発見してもらえるプラットフォームやテクノロジーを提供できているかが重要となってくる段階である。
Engage(関係構築)
コンテンツを発見してもらったあとは、日々の生活のなかにコンテンツを浸透させていく段階になっていく。商品やブランド認知を目的としたコンテンツを実際に見て楽しむ過程だ。消費者は商品やブランドに親密さや信頼性を感じるようになってくると後述するCheck(確認)の段階に移行する。
Check(確認)
興味が深まっていくにつれて、コンテンツの信憑性を確かめるためにSNSやレビューサイト等を用いてこれまで目にしてきた情報に嘘や間違いがないかCheck(確認)を行う。この段階でステマ(=ステルスマーケティング)の存在が発覚した瞬間に、消費者が「発見」したコンテンツだけではなくその他にこのコンテンツを提供している企業から発信されるすべての情報が信用されなくなってしまう。消費者はコンテンツとの関係構築と確認を繰り返し、最終的に購買が行われるのである。
Action(購買)
コンテンツの信憑性が確認されたところで消費者は、ついに購入という「Action(行動)」を起こすことになる。従来の購買モデルであればこの段階がゴールとなる場合が多いが、現在は購買が行われたあとにも消費者との関係が終わるわけではなく、後述する「eXperience(体験と共有)」に段階は移行する。
eXperience(体験と共有)
最近は、デジタル要素の含まれる商品が多くなってきた背景もあり、購買が行われた段階では消費者とブランドとの関係は切れなくなってきている。購入後のアフターサポート、商品の効果的な使い方や豆知識のようなコンテンツに消費者が接触することで商品の新たな価値を発見するほか、クロスセルやアップセルのきっかけにもなる。場合によってはSNSやレビューサイトへの共有にもつながり、共有された情報は新規顧客の「発見」にも利用されることになるため、消費者の商品使用後の反応も意識した戦略を取ることが重要となってくる。
このモデルは広告目線から、企業と顧客との関係性が変わってきていることに対応したモデルといえる。モノを売るためには顧客とのコミュニケーションをしっかり維持していく必要があるということを分かりやすくモデル化しているものだ。
消費者動向に基づく3ステップモデル - エンパワーショップ
ECサイト・Webマーケティングのコンサルティングやサービス提供を行うエンパワーショップでは、消費者動向に基づく3つのステップで購買モデルを定義し、サイトの分析・調査フレームワークとして活用している。
集客
消費者は何らかの「きっかけ」を与えられたり、自発的に商品への興味を持ちサイトを訪問する。そのステップが集客だ。どれだけ多くのユーザーにニーズがあり、リーチすることができる商品を取り扱っていて知名度が高いかを示す知名。その上で、しっかりと消費者に検索エンジンや各種メディア上で露出し認知されているか。さらに、ショップ・商品を認知したユーザーに関心を持ってもらい来訪を促すための情報を的確に来訪前に訴求できているかが重要になってくる。またリピート客に対して関心を継続的に高めることができているのかも考慮する必要がある。消費者の商品やサービスに関する知名・認知・関心を高めるためには、SEO対策などを行い高確率で認知されるECサイトを構築することはもちろん、SNSやメディアを通じて情報発信を行うことが有効な手段となる。
レコメンド
消費者に商品をおすすめし、購買に必要な情報を提供するのがこのレコメンドのステップ。まず、どのくらい訴求力のあるランディングページを準備出来ていて、パッと見た目の印象が良く、購入意欲をそそるか。そしてサイト内へ上手く導いていけているのか。次の回遊では、どこで何が出来るかすぐ分かり、類似商品、関連商品への回遊性は十分に担保されているか。最後に購入への後押しとなるような口コミ・商品評価情報等が分かりやすく用意されているかの絞込みのステップになる。レコメンドでは、自社のECサイトへ消費者を案内して商品のアピールをするステップであるため、購入意欲を掻き立てるようなコンテンツとナビゲーションのわかりやすさが重要になるだろう。
コンバージョン
販売されている商品の購入の意向が高まった消費者が、最終的に購入を行うステップがコンバージョンだ。決定では購入を決定付けるための後押しをするために、付帯的なお得感を提供することが出来ているか。さらに障壁なく購入完了に到達するための手助けを手続き上で行なっているか。そして安心感は、このステップ全体を通して店舗としての不信感を少しでも与えないように、努力をしているか。消費者は購入を決めていてもこのステップで少しでも不安に思うと容易に購入をやめてしまうため、このステップは最終的な売上に大きな影響を及ぼす。
このモデルは顧客目線で購買ステップをトータルに俯瞰したモデルといえる。顧客との接点だけでもなく、サイト内の取り組みだけでもない、ECサイト事業者が行うべきこと全てもバランスよくモデル化したものといえよう。
消費者はどのようにECサイトを見つけ、どのように購買に辿り着くのか
ECサイトの購買モデルを紹介したが、実際のECサイトを運営しているとこのような概念通りに消費者が行動しないことは多々ある。しかしながら、サイトを俯瞰的に確認し、自社サイトの強みや弱みを把握すること、さらには競合サイトと比較する際などには非常に有用なモデルといえよう。ここで紹介したモデルのそれぞれの特徴を把握し、ECサイトの何をどう改善していきたいのか、どのような目的で利用したいのかによって活用方法をそれぞれ変えてみてはどうだろうか。今後もオンラインでの消費者の行動はサービスの変化によって大きく変わる可能性もある。あと数年もすると、今とは全く違うテクノロジーの世相を反映したモデルが登場していくのではないだろうか。