デジタルにおける「エンパシー」はビジネスを成功に導くが、改善の余地も依然として大きい | EC業界ニュース・まとめ・コラム「eコマースコンバージョンラボ」
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公開日2019/11/11

デジタルにおける「エンパシー」はビジネスを成功に導くが、改善の余地も依然として大きい

エンパシー(他人の感情を理解すること。共感)は、ビジネスを成功に導く。しかしそれは、企業が積極的に活用した場合に限る。

 

「パパ、私が最近新しいジーンズを購入したら、なぜその後何週間もジーンズの宣伝広告が表示されるの?」と、最近17歳の娘に尋ねられた。「私が商品を購入した後、Free People (米国のボヘミアンファッションブランド)の店員が帰りの車までついてきて『買った商品と同じような商品を購入したいですか』なんて尋ねるようなことはしないのに」。私はそれが、すでに効果が実証されているデータ主導のターゲティング手法であるということを彼女に説明しようとした。しかし、娘は私の話を遮り、こう言った。「パパ、彼らは私が考えていることや感じていることを理解しようとしていないのよ。迷惑で、怒りすら覚えるわ。彼らは私の気持ちを考えるべきだわ!」

 

”世間知らず”の発言に、またしても私は考えさせられた。おそらく彼女の意見は正しいのだろう。データも、テクノロジーも、デジタル広告も、人の気持ちに無関心であるのだ。しかし、人間は気にかける。この点を、我々マーケティング業界は忘れてしまっているのかもしれない。

 

エンパシーとは人間性である

エンパシーとは、人が、心から他者の気持ちになって、その人の経験を理解し感じる能力である。この用語(empathy)は、古代ギリシャの「empatheia」に由来し、文字通り「in passion(愛情)」を意味する。何千年が経過し、エンパシーという概念は、人間を定義する特徴の1つとして認識されるようなった。曖昧なことで有名なこの概念は、以下3つの、独立した、しかし、密接に関連したアイデアとして認識することができる。

 

1.感情的エンパシー:これは、他者の感情を感じる能力である。苦しんでいる友人に「私も、あなたの痛みを感じている」と言うとき、私たちは一般的に感情的なエンパシーを表現している。ただし、真の感情的エンパシーは、単に他者の感情的な状態を模倣するだけではない。それは、共感する他者のそれぞれに異なる状況の中で、彼らの感情を感じることである。

 

2.認知的エンパシー:認知的エンパシーとは、他者が感じ行動する背景となっている状況を理解する能力である。認知的エンパシーによって、他者の感情状態を共有するだけでなく、感情と知識を組み合わせることで、他者の動機となっているものを深く総体的に理解することが可能になる。

 

3.身体的エンパシー:身体的エンパシーは、他者が経験した感覚に対する身体的反応である。身体的エンパシーのなかでも特に謎めいている側面を示す例として、テレビで、誰かが航海するのを見るときに、海の塩っぽいしぶきを感じたように思えたり、他の誰かが冷たい飲み物の栓を抜き美味しそうに飲む姿を見るときに、身体的な満足感を共有したりすることが挙げられる。現在では、稀なことであるが、VRを用いたコンテンツや広告が広まることにより、消費者からの深い身体的エンパシーを引き出すことが可能になるだろう。

 

効果が高い共感コミュニケーション

 

エンパシーは、人間特有の高度な現象である。そして、ストーリーほどエンパシーを呼び起こすことができるメディアはない。デジタルでのストーリーテリングにより、感情的なつながりが構築され、ストーリーのキャラクターを介して視聴者をストーリーテラーにリンクさせることができるのだ。誰もが、感動的な物語に出会った経験があり、それが我々の感情に影響を与える力を認識している。物語の可能性についての我々の直感は、神経経済学者のPaul J. Zak氏の研究によって科学的にも実証されている。

 

Zak氏の研究は、「黄金律の神経学的基質」と呼ばれる神経伝達物質であるオキシトシンの役割に焦点を当てている。人は、信頼され親切に扱われた時、脳がオキシトシンを放出する。そしてその後、社会的行動に報いたいと考える。

 

ある実験でZak氏は、ショートビデオを視聴している参加者の心拍数と発汗量を測定した。彼は各ストーリー全体における視聴者のアテンションの増減の波を測定し、ストーリーがクライマックスに近づき緊張感が増した時、視聴者のアテンションが著しく高まったことを証明した。また、このアテンンションの高まりの直後に、オキシトシンの分泌が増加した。画面上のキャラクターが困難に直面し、克服する過程で、調査対象者のオキシトシンのレベルが上昇し、キャラクターへの共感が生まれ、そのジャーニーを共有したのだ。

 

オキシトンの放出は、調査対象者をストーリーに没頭させるだけでなく、意思決定に対し定量的な影響を与えた。そして、アテンションの増加と同様に、オキシトシンのレベルと、画面上のキャラクターを「助ける」ために金銭を寄付したいという意欲には、正の相関関係がみられた。Zak氏はこれら2つの指標によって、82%の精度で、視聴後のチャリティ行動を予測できることを発見した。

 

エンパシーは、その神経化学プロセスを通じて、対象のニーズを感じ(感情的)、理解(認識的)することを可能にする。我々は、感情的に共感することにより、対象のニーズを満たすために行動することを余儀なくされる。これは、個人だけでなく企業にも当てはまる。

 

エンパシーは、効果的なビジネスである

エンパシーは創造性を刺激する。Kelly Herd教授とRavi Mehta教授の研究によると、デザイナーは第一に、潜在顧客が検討中の製品を使用したときにどのように感じるかを想像することに注目した場合、より創造的に考え、よりユニークで効果的な製品を生み出すという。したがって、マーケティング担当者はブランドや広告を取り扱う際に、潜在顧客がどのように感じるかを何よりも優先して考えることにより、消費者とつながりが持てるオリジナルで実用的、かつ創造性の高いデジタル広告を制作することが可能となるのだ。

 

エンパシーは、信頼を築く。ビジネスを成功させるために、信頼が強力な顧客関係の基盤であることを認識することは必須である。信頼の構築には時間がかかるが、それが失われた場合にそれを取り戻すのは非常に困難である。エンパシーは、潜在顧客との信頼関係を構築するための、ビジネス手法における強力なツールである。なぜなら、真に共感することができる企業は、顧客のニーズを自分自身のものとして認識し、それらのニーズを効果的に満たそうとするからである。

 

エンパシーが、確実な顧客中心のビジネスを生み出す。エンパシーに基づいて思考することは、オーガニックなプロセスである。人の感情、ニーズ、動機は常に流動的であり、他者に共感することは、これらの変化を一緒に感じとることだ。顧客のニーズとそのニーズへの対応についての顧客の感じ方は常に変化するが、共感的なマーケティング担当者は、こうした変化をリアルタイムで感じとり、理解し、反応することができる。

 

エンパシーによってビジネスを成功させることができる。しかし、企業が積極的にそれを活用する場合に限定されるのである。

 

エンパシーを感じ、検討し、行動に移す

 

1.感情的に共感しよう。現在の情報化時代では、蓄積された膨大なデータから「人間的」な何かを引き出すことは困難である。しかしそれがまさに、我々が共感的にならなければならない理由である。感情的に共感的なフィルターを、既存のデータ収集と解釈方法に適用する必要がある。潜在的な顧客がどのように感じるかについて、数字は何を教えてくれるだろうか?「潜在顧客は何を必要としているのか?」ということ以上に、「彼らのニーズはどのように生まれたのか?」を考えなければいけない。「彼らを、そのニーズに基づいて行動させるためには何が必要か?」、そして「これらのニーズを満たすことについて、彼らはどう感じるか?」。我々は、感情的なエンパシーを適用して、「何」だけでなく「なぜ」という理由を明確にしなければならない。

 

2.認知的エンパシーへつなげる。マーケティング担当者として、我々は消費者それぞれに感情的に共感することから獲得したインサイトを取り入れ、潜在顧客がより大きな市場でどのように感じるかを文脈化することができる。顧客のニーズを満たす方法に対する顧客の感情や認識と、企業独自のアイデアとの間にはギャップが存在する。マーケティング担当者は、認知的エンパシーを文脈化することにより、そのギャップを視覚化し、それを埋めるための実用的なソリューションを見つけることができる。

 

3.徹底して共感しなければならない。マーケティングプロセスのすべての段階において、感情的および認知的エンパシーの両方を常に適用し、顧客のニーズと動機の進化に関与するための、実用的で実行可能な戦略を積極的に模索する必要がある。エンパシーは、先駆的な要素でも、食卓で使われる調味料でもない。これは、データ獲得から販売までのマーケティングプロセス全体で一貫して適用する必要がある、堅固で非常に人間的なツールである。

 

私の娘は、デジタルマーケティングと接し、怒りと不快感をもって反応している。彼女なりに自分のニーズを理解したところによると、ジーンズの広告は、冗長で、時代遅れであり、それ故に煩わしく感じているようだ。マーケティングプロセスにおいて、エンパシーが欠如しているために、コンテンツに対する彼女の感情的なエンゲージメントは、圧倒的に否定的である。マーケティング担当者や代理店、そして、メディアのデジタルエコシステムが、いつか自身の人間性を再発見し、「パパ!この可愛いトップスを見て!私が買ったばかりのジーンズとあわせて着ると素敵だと思う!」と娘がスマートフォンに表示されたエンパシーを感じる広告を、私に寄りかかって見せてくる日を望んでいる。そうすれば、私は財布の紐を緩めてしまうだろう。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の10/28公開の記事を翻訳・補足したものです。

 

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