サードパーティーセラーの長期的な成功に依存するAmazonは、彼らの知的財産権の保護に強い関心を持っているという。AmazonのCEO Jeff Bezos氏は、最近の株主宛書簡にて、ここのところサイトの総商品売上高の大部分をサードパーティーセラーが占めており、その収益の比率は、1999年のわずか3%から今日の58%に増加したことを公表した。
一方Amazonは、模倣品や知的財産権の侵害からセラーを守るための新しいシステムの開発と、その実施に苦労している。そこで、同社は4つの大きな改革を実行に移そうとしている。
- 自社製品リスティングの保護をサポートする同社プログラムである「Amazon Brand Registry」(Amazonブランド登録)に適用させるための連邦商標登録要件の変更
- 米国外の海外定住申請人向け商標出願要件の変更
- 将来のセラーの知的財産権の争いを解決するための、新たな解決システムの導入
- AmazonのProject Zeroプログラムのスタートによる、マーチャントに対する権利侵害しているリスティング自体を直接削除する権限の付与
Amazonセラーは、競合他社に不意を突かれないよう、こうした重大な変更に適応することが極めて重要である。
Amazon Brand Registryにおける変更
ほとんどのAmazonセラーは、Amazon Brand Registry(ABR)を知っており、この資格を取得し、維持することがどれほど重要であるかを認識している。ABRによって、セラーは自社商品リスティングの管理をさらに強化することが可能となり、自社ブランドに関する正確な情報を確実に提供できるのだ。
ABRに登録が承認されたセラーは、商品タイトルや説明を自由に編集できるだけでなく、追加の画像や動画をアップロードすることも可能。ABRを持つセラーは、強力な検索やレポートツールにアクセスできるだけでなく、特定の自動侵害保護機能を利用できるというメリットもある。Amazon Brand Registryは、ここから申し込むことができる。
Amazonは最近、ABR資格に関する規則を変更した。かつては、いかなる国の単一商標登録でも受け付けていたが、現在では、AmazonセラーがABR登録を希望する各国での商標登録が必要要件となっている。
結果として、米国でABRの資格を得るためには、セラーは、自社商標を米国特許商標庁(USPTO)の主登録原簿(Principle Register)に登録する必要がある。また、商標は文字またはロゴなどの画像に限定される。その他の形式の商標登録は認められない。
外国における商標登録は、現在では認められていない。外国商標登録を有するセラーは、できるだけ迅速に自社商標を米国特許商標庁に商標登録する必要があるということだ。一件の商標登録に、8~12ヶ月を要するケースもあるのである。
さらに、セラーは、商標調査を実施し、自社商標が米国先行商標登録や米国の他のコモンロー(判例法)上の商標権と抵触しないことを確認する必要があるかもしれない。USPTOへの商標出願を行なっていなかったとしても、企業が米国内の事業において、ある商標を使用した場合は、コモンロー上の商標権が発生する。
商標に関するプロセスは時間がかかり、また、これまで隠されていた潜在的な商標権の抵触問題をさらけ出す可能性がある。そのため、セラーはABR登録の必要要件を失うことがないよう、できるだけ早急に商標出願を開始することが重要である。
海外定住セラーによる米国商標出願
これまで、商標出願人は誰でも、費用削減のために自分自身で商標出願を行うことが可能であった。しかし最近、USPTOは、海外出願人による大量の詐欺行為に苦労しているという。
この深刻化する問題に対処するため、USPTOは、すべての海外定住者(米国外に居住する出願人)はUSPTOへの商標出願にあたって米国の弁護士を起用することを“義務づける”と発表した。この変更は2019年8月3日に発効する。したがって、ABR登録を希望するAmazonセラーは、米国商標の取得に際し、米国弁護士に依頼”しなければならない”。
海外に定住するAmazonセラーは、商標登録を遅延させ、ABR必要要件を妨げる可能性が生じる問題を回避すべく、USPTOへの出願や異議申立てを行うための信頼できる米国弁護士との関係構築が必要となるだろう。
Amazonでの特許紛争
Amazonは、長らく同プラットフォームでの特許紛争に苦労してきた。同社は、貴重なサードパーティーセラーを、模倣品による損害から守りたいと考えている。しかしその一方で、Amazonは、法廷ではなく、競合するセラー間の往々にして複雑な特許や商標の紛争を裁定することはできない。この問題を解決し、特許侵害に対抗する方法として、Amazonは、同社が指名する特許弁護士を介して特許紛争を仲裁できる新しいプログラムを導入した。システムは、以下のステップによる:
- 特許権者が、権利侵害しているAmazonリスティングの削除を申し立てると、侵害を申し立てられたセラーに通告され、21日以内に当該告訴へ反論する必要がある。侵害主張に異議を申し立てるには、セラーはAmazonが選任した中立の特許弁護士に4,000米ドルを拠出しなければならない。しかし、セラーが告訴に対して異議を申し立てない場合、そのリスティングは削除される。
- セラーが実際に特許侵害の申立てに異議を唱えた場合、特許権者もまた紛争解決を行うために4,000米ドルを拠出しなければならない。
- Amazonが指名した特許弁護士はすべての必要な情報を検討し(通常、二ヶ月以上かけて)、その後に決定を下す。Amazonは弁護士の決定に従って、対象商品リスティングを残すか、または削除する。この裁定の「勝者」は4,000ドルが返金されるが、「敗者」は、紛争解決の費用に充当するため支払った額を没収される。
この改革は、Amazonで販売を行うすべての特許権者にとって歓迎すべき救済策だろう。新商品の開発者が、大量の模倣品に効率的に対抗し、Amazon製品の健全な利益率を維持するのに役立つはずだ。
これらの変化は、Amazonマーケットプレイスでの特許の重要性を高めるのに役立つ。多くの専門家は、マーケットプレイスの競争がより激しくなるにつれて、Amazonセラーによる新たな特許出願の急増は続くと予想している。
さらに、特許の攻撃的な利用が増加するにつれ、既存セラーは将来の特許侵害主張から自分自身を守ろうとするので、防御的な特許出願もまた増加するだろう。
AmazonのProject Zero
Amazonはまた、Project Zeroを始動させた。これは、Amazon Brand Registryの資格を持つAmazonセラーが、米国登録商標などの知的財産権を示す識別情報を提供できるようにする新たなプログラムだ。同システムは、侵害リスティングを特定し、削除するための強力なツールを提供している。
Project Zeroは、まず、自動的に侵害リスティングを探し出し、削除する強力な自動ソフトウェアツールを提供。このシステムは、Amazonからの削除要請ではなく、資格を有するセラーがセルフサービスツールを使って模倣品リスティングを直接、削除することを認めているものだ。
さらに、Project Zeroに参加することにより、模倣品を発見・削除を目的として、セラーは個々の製造商品ユニットに固有のコードを付与することが可能となる。「プロダクト・シリアライゼーション」として知られているが、これは、Amazonでの模倣品販売を防ぐ強力なツールとなっている。
Project Zeroは現在、招待制限定のプログラムであるが、Project Zeroのこのウェブサイトからウェイティングリストに申し込むことが可能だ。
他のサイトでの侵害
中小企業のオンライン売上が、過去5年間であまりに劇的に増加したため、他のサイトにおいてもAmazonと同様の侵害防止システムを構築する必要があった。例えば、セラーが中国の製造業者から製品を直接購入できるAlibaba.comは、模倣品のリスティングを削除し、再犯者を根絶している。
Alibabaグループの株主宛てレターによると、新しいデータモデリングによって、より効率的で迅速な権利侵害申し立ての処理が可能なため、ブランドや権利保有者からのほぼすべての知的財産権関連の削除要請は24時間以内に処理されているという。削除達成率は、要請件数の83%とのこと。
殺到する知的財産権関連のクレームに対応しているサイトは、他にも、Shopify(カナダのeコマース企業)やeBayが含まれる。両者とも現在、ユーザーが簡単に侵害を報告し、迅速な対応を受けられるよう、簡略化されたフォームを提供している。
最終的な考え
知的財産権は、この超競争的なグローバル経済において極めて重要な意味を持つ。新製品は、商標権の調査と出願が完了し、また新商品のデザインや特有のユーティリティ機能について何らかの形で特許的な保護が図られた後でのみ、発売されるべきである。
そしてセラーは、新製品をコピーや模倣、その他の知的財産権侵害から守るための必要なツールを活用するべきである。これらの保護対策を講じることにより、セラーが自社製品の健全な利益率を維持し、自社のデザインや開発の努力から利益を得ることを可能にする。幸いにも、Amazonは、セラーの権利保護を支援するための重要な新しいツールを提供しているのだ。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の7/25公開の記事を翻訳・補足したものです。