スマートスピーカーAmazon Echo・Google Home・Clova WAVEがEC業界にもたらす影響と可能性
「音楽を流して」「電気を消して」。その声に反応し、作動する小さな機器。そんなCMを見たことがある人が増えてきているのではないだろうか。自らの手で操作する必要がないが、自分の思い通りに動かすことのできる機器。想像しただけで日々の生活がぐっと便利になることがわかる。この便利な機器は、「スマートスピーカー」と呼ばれて海外を中心にこの1年で一気に生活に浸透してきている。日本ではまだまだ知名度が低いが、アメリカでは既に「一家に一台スマートスピーカー」という時代が目前だという。今回は、そんな次世代機器、スマートスピーカーに注目し、スマートスピーカーがEC業界をどのように変えていくのかを考えていく。
そもそもスマートスピーカーとは何か
スマートスピーカーは、簡単に言えば「AI搭載のスピーカー」のことである。スマートフォンに入っているAIの検索アシスタントと似たようなものだと考えるとわかりやすいだろう。スマートスピーカーの特徴は、インターネットに接続して動くこと(Wi-Fi接続が必要)、音声認識によって動くこと(ハンズフリーでの操作が可能)、AI搭載で利用していくうちに学んでいくこと(会話の癖や行動パターンなど)などが挙げられる。
スマートスピーカーの主な機能としては、
1.情報検索
2.音声再生
3.対応機器操作
が挙げられる。情報検索機能は、スマートフォンの検索アシスタントのような機能であり、インターネットで知りたい情報を検索してくれることはもちろん、今日のスケジュールや天気なども教えてくれる。
音声再生機能は、聞きたい曲を頼むと流してくれるという基本機能以外にも、「テンションの上がる曲」や「おすすめの曲」といったざっくりとした指示にも対応し曲を流してくれること。また、音楽以外にもラジオやニュースといった音声も流してくれる。
対応機器操作機能は、IoT製品で、「スマートホーム」と呼ばれるインターネットによって制御されている家電をスマートスピーカーから動かすことができる。
各スマートスピーカーの機能とECへの影響
それぞれのスマートスピーカーの機能とECへの影響を見ていく。
Amazon Echo
Amazon Echoは、EC業界最大手Amazonの開発したスマートスピーカーである。日本では2017年11月15日に発売された。「Alexa」というAIを装備しており、7つのマイクを持つといった特徴がある。高機能な音声認識機能が受け、欧米で非常に人気を博している。基本モデルである「Amazon Echo」の他にも、小型モデルの「Amazon Echo Dot」、スマートホームハブ(スマートホーム機器の中継地点)内蔵の「Amazon Echo Plus」といった商品がある。日本ではまだ販売されていないが、カメラ付属の「Amazon Look」や、液晶モニター搭載の「Amazon Spot」「Amazon Show」といった商品も存在する。Amazon関連の音楽・動画ストリーミングサービス(Amazon Prime VideoやAmazon Music)の利用が出来る以外にも、全国タクシーでタクシーを呼んだり、クックパッドでレシピを検索するといった機能の利用も可能。日本では300種類以上の機能が利用できるという。
Amazon EchoとECとの関係といって一番最初に挙げられるのは、やはりAmazonでのショッピングだろう。音声でのショッピングを有効にしておき、Amazonの会員であれば、Amazon Echoからの購入が可能なのである。カートに入れておくことや、注文のキャンセルも可能。商品購入前に購入者が読み上げなければいけない確認番号を登録しておけば、他人に勝手に利用され購入してしまうということもない。Amazon Echoからのショッピングの特徴としては、リピート商品の購入に向いていることが挙げられる。一方、Amazon Echoは、Amazonでの注文履歴から商品を探してしまうという癖があるため、全く関係のない商品がヒットしてしまうということがある。そのため、商品の値段などを比較して購入商品を選ぶといったショッピングにAmazon Echoは向いておらず、まだまだ改善の余地がありそうだ。
<参考>
Amazon Echo、ついに日本展開開始、続々とスキルが追加
【米国】Amazon Echo所有者、Prime会員に比べ年間400ドル多く消費
Google Home
Google Homeは、Googleが開発したスマートスピーカーである。日本では2017年10月6日に発売された。「Googleアシスタント」というAIを搭載しており、Googleの検索機能から提供される情報の正確性やその受け答えから、「執事」と表されることも多い。現在日本では、基本モデルである「Google Home」に加え、小型モデルの「Google Home Mini」が販売中。アメリカでは、「Google Home Max」という、より高機能でスピーカーに特化した商品も発売されている。Google Play MusicやSpotifyで音楽を再生することができ、テレビに接続するデバイスChromecastを利用することで、YouTubeやNETFLIXを再生することも可能だ。
Google HomeとECとの関係は、検索エンジンを使ったショッピングが可能な点だ。Google Homeのアプリにクレジット情報と配送先の住所を登録しておくことで、購入が可能となる。Googleの提供するデリバリーサービスのGoogle Expressや、会員制スーパーのCostco、高級スーパーのWhole Foods Market、薬局のWalgreensなど、アメリカでは様々な企業と提携している。しかしこれらの機能は2017年2月にアメリカで始まったものの、あまり進展は見られない。また、現在日本でのサービス提供はなく、今後日本での提供開始が行われるかも不明である。
<参考>
【米国】Google社、音声アシスタントでのショッピングを可能にするGoogle Home発表
Clova WAVE
Clova WAVEは、無料通話・連絡アプリを手がけるLINE株式会社が開発したスマートスピーカーである。「Clova」というAIを搭載し、赤外線機能が付いているため赤外線リモコンに対応している家電を操作することができたり、バッテリーを内蔵しているため持ち運びが便利であったりといった特徴を持つ。基本モデルの「Clova WAVE」と、LINEキャラクターをモチーフにした見た目で、LINE通話ができることが特徴の「Clova Friends」の2種類が販売されている。今や日本人にとってかかせない連絡手段となったLINEのメッセージ読み上げ機能や、メッセージの送信といった機能が付いていることが、最大のウリだと言えるだろう。しかし、Amazon EchoやGoogle Homeに比べて対応サービスは少なく、機能は限られている。
Clova WAVEは現在のところEC関連の機能は存在していない。しかし、今後LINEサービスとの連携を行っていくという方針のため、LINEの提供しているサービスであるLINEショッピングや、LINEデリマといったサービスとの連携が期待される。
スマートスピーカーがEC業界にもたらす影響と可能性
主要各社のスマートスピーカーの基本機能とEC業界への影響を見てきたが、今のところスマートスピーカーからのオンラインショッピングという部分に限られている。スマートスピーカーで商品を購入しようとする場合、AIが検索して最初に読みあげる商品が1つだけとなるため、1位である商品や、会社名とともに結びつけられてある程度固有名詞を覚えられている商品は非常に強くなる。そのため、商品のブランディングがより一層大切になってくるだろう。
また、商品を並べてじっくり比較し、購入を検討するようなプロセスは非常に不向きである。短い言葉で履歴から商品を検索するなどの、毎回買っている日用品や消耗品購入にスマートスピーカーが利用されるケースが多くなりそうだ。
商品のマーケティング面でも違いが出てくるだろう。今までは画面を見ての購入だったため、商品の画像や言葉による商品説明によって、視覚的に商品の差別化を図ることが可能であったが、スマートスピーカーによる商品購入では、スマートフォンに検索画面が表示されるが確認しない場合も多いと想定されるため、音声だけが頼りとなる。また、音声による広告サービスが導入されることも予測されているため、EC事業者は新たな広告媒体への対応も迫られることになりそうだ。
Arizton社の調査によると、スマートスピーカーの市場規模は2016年の9.9億ドルから2022年には48億ドルと、約4.8倍へ拡大することが予測されている。そのため、現時点ではまだまだ市場の発展途上段階とみることが出来る。今後搭載されているAIがさらに進化することで、人間が購入の意思を表さなくても、生活サイクルなどからスマートスピーカーが「この商品はそろそろ必要ないですか?」と能動的にアクションを起こしてくることや、「あなたのお持ちの商品と似た人の多くがこの商品を買っていますよ?」とレコメンドしてくる可能性も大いに有り得る未来だろう。
現在スマートスピーカーを利用している人は、アーリーアダプター層に限られるが、利用者の感想はおしなべて便利で、1回利用しだすとスマートスピーカーのない生活に戻れなくなるという。そのため、今後数年以内に私たちの生活に欠かせないものとなる可能性は非常に高いだろう。今後スマートスピーカーでできることが拡大していった時、EC業界にもさらなる変化が訪れる可能性は高いだろう。