マーケティングの未来がモバイルにあることは間違いない。モバイルインターネットの使用率が初めてデスクトップを上回り世界中での使用が急増した2016年末、我々は大きな転換点を迎えた。
現在、メディアに触れる時間の約70%、そしてソーシャルメディアに触れる時間の79%を、モバイル端末を使って過ごしている。
しかし同時に、モバイルのコンバージョン率はデスクトップに比べてはるかに遅れている。2016年にはスマートフォンはコンバージョン率のわずか20%を占めたのみだ。
モバイルを通じた顧客体験の最適化が不可欠なのは明らかだが、これまでのところ、実際のコンバージョン率最適化の成功に基づいた経験的で実用的なデータが不足している。
モバイルを通じた顧客体験にはある課題がある。それは単に画面が小さいことではない。モバイルユーザーは、コンピューターを使用する方法とまったく異なる方法でデバイスを使用している。Google社は、こうしたモバイルを通じた顧客体験を、「micro-moments」(マーケターが生活者の「意図」に触れる瞬間)としてみなすことを推奨。これは普遍的な影響をもたらすものとして、モバイルを最適化し一体となって取り組むためのものだ。
顧客体験全体を最適化するには、電子メール、サイトのコンテンツに対するレスポンシブウェブデザイン(それぞれの端末に対応したウェブデザイン)と、モバイル利用者が好む小さくて“気軽な”マルチメディアコンテンツという顧客との接点それぞれを考慮しなければならない。
モバイルコンバージョン率の最適化(CRO)とは、(共有や購読、通話、道案内、おさいふケータイ支払いなど)スマートフォンならではの行動を促すこと、また、最小化されたスクリプトやモバイルに最適化された画像サイズ、大きなボタン、スワイプ機能、スムーズなフォームの完成などの要素を組み込むためのシンプルなレスポンシブデザインを超えたユーザー経験を実現することだ。
課題はどのように最適化するかではなく、何を最適化するかを知ることだ。マーケティング担当者が学習曲線を乗り切るにつれて、モバイルコンバージョン率に関する新しいエビデンスは、具体的な主要分野の最適化がどのように直接的な影響を与えるかを正確に示し始めている。
これらの新しい数値を分析し、モバイルコンバージョン率を向上するために実装できる3つの具体的な戦術は以下の通りである。
1.起動時間の短縮は、ページの表示速度にとって不可欠である。
これまでモバイルの表示速度が重要な理由に関するデータを見てきた。モバイルサイトの読み込みにかかる時間1秒ごとに、サイト直帰率とカートの放棄率が急上昇し、コンバージョンは低下する。従って、読み込みにかかる時間を改善すると結果が向上するのは明らかである。
エージェンシー指向の対応ウェブサイト構築プラットフォームDuda社は最近、4,000以上のウェブサイトに関するデータを収集し、モバイルスピードの最適化の前後でパフォーマンスを比較し、どのページスピードメトリックがCRO向上と最も相関しているかを特定しようとした。平均レンダリング開始時間(コンテンツがユーザーの画面に表示されるまでの時間を測定して決定される時間。RST)は、最適化前の1.8秒から最適化後の1.4秒に低下し、23%の改善となった。モバイルコンバージョン率のデータが示すように、その減少は重要だ。
「最速のレンダリング開始時間(1秒未満)のサイトが最も遅いグループのサイト(3〜4秒)よりも50%近くモバイルエンゲージメントを獲得する」とDuda社 CEOのItai Sadan氏は述べている。
パフォーマンスの向上は、Dudaのフォームデータ送信、地図上のタップ、テキスト送信、電話、メール送信のための行動を促すボタンのタップなどさまざまなコンバージョンにおいて重要である。これは、訪問者の画面が完全に空白のときに読み込み時間が遅くなると最も不快に感じることを考えると、非常に意味がある。重いメディアがゆっくりと読み込まれても、できるだけ早くページをやりとりするオプションを与えることは、エンゲージメントに効果的なことは明らかだ。
今行うべきこと:Googleのベストプラクティスによると、開発者はクリティカルレンダリングパス(ブラウザがページの最初のペイントを実行するために必要とするシーケンスのこと)の最適化のためにできることがある。
- JavaScriptを圧縮して最適化する。
- CSSコードと配置のファイルサイズを縮小。
- イメージサイズを最小限に抑え、CSSスプライト画像の使用を検討する。
- 大きなファイルを必要とするリソースを事前読み込みする。
幸いにも、自分自身でこれをすべて行う必要はない。多くのウェブサイト構築プラットフォームとWordPressのテンプレートの多くは、モバイルスピードのためにこれらが最初から最適化されている。これらのソリューションのいずれかを使用してサイトを構築すると、すぐにRSTが改善され、コンバージョン率が向上するのだ。
2.ワンクリック決済の追加により即座の信頼獲得とより多くの販売が可能に
いったんレンダリング時間を改善してしまえば、モバイルコンバージョンにともなう別の問題点、つまり販売までのボトルネックを解決できる。
アメリカのデバイスホルダー販売NatoMounts社のCEO、Brandon Chatham氏は、90%の自社のトラフィックと85%がモバイルデバイスからの売上で、モバイルコンバージョンを増やす可能性のあるものは、最終損益に大きな違いをもたらすと認識している。
同社はモバイルに焦点を当て、A/Bテストに強気なアプローチを確立。アメリカのECサイト構築プラットフォームBigCommerceによるワンタッチ決済処理に統合して以来、NatoMountsはモバイル売上のコンバージョン率を約5%に引き上げた。昨年末には1.5%近くという数字だったスマートフォンの平均コンバージョン率と比較すると、その影響の大きさを認識し始めている。
Chatham氏はBigCommerceのケーススタディを受け以下のように説明した。「当社の目標はできるだけ早く、できるだけ多く注文を受けることだ。当社はクイックペイの要素を取り入れ、デジタルウォレットシステムを統合することでこれを達成することができた。最初の1週間で、サイトを訪れた顧客(新規)が43秒以内で注文完了ページを表示した。
デンマークのウェブユーザビリティ研究所Baymard Instituteの「Mobile E-Commerce Usability」調査の最新データでは、業界全体で支払いの部分がまだ整理されていないことが確認されている。つまりおサイフケータイソリューションによる迅速な支払いを実現する企業は、いくつかの主要な市場ごとに差別化をしている。Baymard社が50の主なEC店舗のモバイルウェブサイトでUX(チェックアウトユーザーエクスペリエンス)を調べると、以下の問題点がわかった。表には使い勝手が悪いことを示す赤い点とベンチマークの平均を示す黒い線が記されている。
同氏はモバイル決済の半分をPayPalが、Stripeは25%、Amazon Payが20%、Apple Payが残りの5%を占めていると推測している。顧客は決済時の面倒を減らす方法を好み、ビジネスをより簡単にしている企業が利益を得ているのだ。
今行うべきこと: Amazon Payや、PayPal One Touch、Apple Pay、Android Pay、その他利用者が使用しそうなプロセッサのワンタッチデジタルウォレットによる決済処理を、既存のEC設定と統合する。
3.パンくずリストやラジオボタンの使用でコンバージョンが向上
より良いリードジェネレーション(見込み客の獲得のための行動)とフォームの変換とは何か。アメリカの広告会社KlientBoost創業者兼CEOのJohnathan Dane氏は古いスタイルのリードフォームを複数段階のランディングページに改造して大成功を収めた。
このアイディアは、フォームフィールドの情報量を減らすことでコンバージョン率を向上させるという一般的な考え方を採用している。Dane氏の実験は、実際のフィールドの数ではなく、どのように表示されるかについてである。
多くの場合、よりよいアプローチは、連絡先情報を残さず、(ユーザーが今WEBサイト内のどの位置にいるのかを視覚的に分かりやすくする)パンくずリスト技術と呼ばれる技術を使用して、簡単に回答できる質問をすることである。
「モバイルデバイスの利用者は飽きっぽく、迅速な回答を求める」とDane氏。さらに「リードジェネレーションやSaaS(これまでパッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、インターネット経由でサービスとして提供・利用する形態のこと。Software as a Service)の場合、回答が簡単なラジオボタン(選択肢のなかから、ひとつだけを選択するボタン)で細かく関わることができれば、モバイルコンバージョン率を大幅に上げることができる」とも。また「それからコアのオファー(中心となる商品やサービス)と引き換えに、名前、電子メール、電話番号欄に記入する可能性が高い」と続けた。
KlientBoostは金融機関と協力して、住宅ローン情報のリードジェネレーションフォームをつくり直し、多数のフィールドを持つ長い単一のランディングページを一連の短いページと簡単な質問に変えた。その結果は印象的で、CPA(コンバージョン1件あたりにかかった広告費用を示す値。Cost Per Action/Cost Per Acquisition)は800ドル以上から35ドルに下がり、毎月のコンバージョン数が6回から135回へ急上昇。コンバージョン率は1%未満から19%以上に上昇した。
他のクライアントからのケーススタディも同様の結果を示し、コンバージョン率の大幅な上昇とCPAの劇的な下落を記録した。
今行うべきこと:このマルチページアプローチを使用するために、リードジェネレーションフォームを再作成し、ラジオボタンを追加して見込み客を素早く入力プロセスに誘導する。
重要なことを最適化する
モバイルの利用が拡大し続ける中、スマートフォンのコンバージョンを最適化する必要性が引き続きマーケティング担当者の関心を引くだろう。ありがたいことに、我々はモバイルエクスペリエンスの改善方法を真に理解するのに役立つ、具体的で実用的なデータを見始めている。
いったん顧客が購入にいたるまでのプロセスとデータを結びつけることができれば、RSTの改善、決済処理の簡素化、パンくずリストスタイルのリードキャプチャのラジオボタンを使用するなどの戦略的な変更を考えることができる。こうしたことが収益に大きな影響を与える可能性があることがわかった。
※当記事は米国メディア「Marketing Land」の7/5公開の記事を翻訳・補足したものです。