圧倒的な商品数を誇る材料系BtoBのECサイト

 

ECと言うと、日常的に触れている一般コンシューマー向けのサービス(BtoC)を思い起こしがちだが、実は法人(BtoB)向けのECサイトも多く、市場はこちらも伸びてきている。BtoB向けのECサイトは業務用の多種多様な商品を取り扱うと共に、BtoCのように消費者を煽って買わせるような趣向ではなく、膨大な商品をいかに実務的に探しやすく情報提供するかに特化しているケースが多い。今回は、そのようなBtoB向けのECサイトの中でも、特に商品数が膨大な材料系のECサイトを見ていく。

 

 

 

モノタロウ

 

モノタロウ(MonotaRO)は兵庫県尼崎市に本社を構える通販会社で、工具や消耗品などの間接資材を事業者向けに販売している。

 

 

2000年に住友商事と米国の間接資材販売最大手のグレンジャー社の出資によって設立された住商グレンジャー株式会社が、翌2001年に間接資材に特化したECサイトMonotaRO.comをスタート。2006年に社名を現在の株式会社MonotaROに変更した。取り扱う間接資材は大型ホームセンターの30倍以上にあたる700万点で、在庫商品は17万点を超えている。Webサイト上で何でもお得に買える利便性が中小企業を中心に受け、2014年5月には登録ユーザー数が120万人を突破した。最近では毎月平均で延べ30万ユーザーが購買し、月間売上高は30億円を超える。

モノタロウはAmazonのビジネスモデルを間接資材の分野に持ち込み、今や「日本のAmazon」や「工場のAmazon」などの異名を持つほどの企業なのだ。モノタロウ登場以前、間接資材を調達するには業者に問い合わせるかカタログから探すのが通常の流れであった。加えて、単価は注文個数によって変動するという、中小企業にとっては非常に不利な状況が業界の慣習となっていた。そこでモノタロウは流通を効率化して手間を省き、あらゆる間接資材をECサイトで一括購入できる仕組みを作り上げる。しかも、1商材につき何十種類ものブランドを揃えるという徹底ぶりだ。

しかし立ち上げから数年は赤字が続き、ようやく黒字化したのは2005年のこと。立ち上げ当初は法人がネットで商品を購入するという仕組みはまだ一般的でなかったため、同社はチラシを作って金属加工業や機械製造関連業者に送付するという地道な作業を行う。顧客獲得のために価格を低めに設定し、一方で広告宣伝費には多額のコストをかけていたため、顧客を獲得しても売上は徐々にしか伸びていかなかった。しかし、そんな頃に始めたリスティング広告が功を奏し、顧客獲得単価は低下してモノタロウの利益は上がっていく。波に乗った同社は、2006年に個人消費者向けECサイト「IHC.MonotaRO」をオープン。切削工具や電動工具、洗剤、溶接工具、文具などの個人需要が高いと思われる1万点を、市場価格よりも3割程度安い業務用価格で販売開始した。

 

 

現在、在庫がある商品に関しては、平日の15時までに注文すれば当日出荷するというサービスを展開しているモノタロウ。毎年10月にはカタログも発行しているが、ネットでは目に止まりづらい商品の購買につながり、新カタログ発行後の第4四半期(10-12月)は毎年売り上げがアップするそうだ。また、ウェブの検索精度向上を目指して日々改善に取り組み、メーカーの品番で瞬時に検索可能なサービスも開始した。さらにこれまでのノウハウを生かし、リスティング広告の代理店業やWebページ作成サービス(ファクトリーブック.com)なども展開している。2013年度の12月期の売上高は約345億円で、2014年度の12月期の売上高予想は約426億円。今後は物流機能を強化することでロングテール商品の扱いをさらに増やし、ビッグデータ分析をさらに深めていくとしている。

 

 

ミスミ

 

株式会社ミスミグループは、金型用の精密機械部品をカタログやインターネットで販売し、「高品質・低コスト・短納期」で市場の圧倒的な支持を得てきた購買代理商社だ。2010年11月には自社製品だけにとどまらず他社製品も取り扱うECサイト(MiSuMi-VONA)をオープンした。

 

 

1963年創業の同社は、これまで数々のユニークな事業モデルを展開し、その収益力は業界屈指。競合企業に比べて1000億円ほど時価総額が高く、群を抜いている。ミスミはもともと三住商事の名でスタートし、立ち上げ当初は主に自動洗浄機を販売していたが、トラブルが続出。創立メンバーのひとりがかつてベアリング商社に在籍していたことから、ベアリングの仕入れ販売に方向転換した。

その後は顧客の要望に応じてさまざまな部品を製品化して販売、その流れで金型用の標準部品を通信販売することになる。ミスミはかつて、営業マンを持たない、人事部を設けない、チームリーダー立候補制やメンバーの社内公募制をいち早く取り入れるなど、「持たざる経営」と呼ばれる斬新な経営手法で成果を上げてきた。しかし2000年前後に赤字を出し、カリスマ経営者として崇められていた創業者の田口弘氏が2002年に社長を退任(現在は特別顧問という形で関わっている)。代わって日本を代表する経営コンサルタントの三枝匡氏が社長に就任した。2005年には金型部品メーカーの駿河精機を100%子会社化し、経営統合。その一方で「戦略志向のユニークな国際企業」を目指し、既存の国内事業と同等レベルの品質を保ちながら海外進出を加速してきた。

結果、海外売上高比率は2001年度の8.6%から2013年度には45%まで急拡大し、現在は世界50ヶ国で事業を展開している。2008年には三枝匡氏が会長職に就き高家正行氏が社長に就任したが、三枝氏は就任以来数々の企業改革に取り組み、連結売上高は社長就任時の500億円規模から約1700億円(2014年3月期見込み)に拡大。この12年間で売上高を3.3倍に、営業利益を3.7倍にさせ、ミスミは急成長を遂げたのだ。そして三枝氏はつい先日CEOを退くことを発表。後任に駿河精機の社長としてグローバル成長を支えてきた大野龍隆氏が就任した。

このような流れの中でMiSuMi-VONAは、メーカーにも関わらず他社製品も取り扱い、徐々に商品レンジも拡大することで現在では共に業界最大数となる1500メーカー900万点の機械部品を取り扱うECサイトへと成長してきている。また、メーカーに関わらず部品の検索や比較が可能な「瞬索くん」の実装により、商品分類、仕様、キーワード、型番など様々な切り口からの検索が高速で可能となっている。

 

 

イプロス

 

イプロスは、製造業に関わる企業に向けて製品情報やニュース記事を提供する製造技術の無料データベースサイトだ。

 

 

2001年のサービス開始以来、180万人のエンジニアが利用登録しており、月間ページビューは約1,000万PV、国内の製造業技術者の実に3分の1が利用している。3万5000社のメーカーが日々情報を更新し、総件数は30万件にも及ぶ。同サイトはマッチングサイトとしても利用されており、サイトを通じて生まれる商談件数は毎月8万件を数える。サイト上では資料のダウンロードや企業への問い合わせも可能となっており、利用する会員の約7割は、半導体、電子・電気機器、機械・自動車、化学製品など、日本の主な製造業で研究開発、設計、生産技術に関わる技術者である。

イプロスは制御機器大手のキーエンスが100%出資した子会社だが、キーエンスの関連会社だということが事業の障害になりかねないということから、立ち上げ当初はキーエンスの名を伏せて事業が行われていた。イプロスはまず、きっかけ作りのサイトを作り上げることが先決だと考え、利用登録者や出展社を増やすことに注力。製品情報を充実させた。しかし立ち上げ当初は無料会員さえ集まらなかったため、しばらくは中小製造業のホームページ制作を請け負い、その利益をサイト運営に充ててきた。そしてようやく転機が訪れたのは2008年のこと。リーマンショックによって体制を見直せざるを得なくなった企業がサイトに集まり、そこから同社は急成長を遂げたのだ。

現在の収入源は広告のみで、製品情報を登録するだけなら無料、サイトの目立つ位置に情報を掲載する場合のみ広告料を徴収する仕組みを取っている。また、会員には製品や企業に関する詳細な情報を提供するだけでなく、カタログのダウンロードなどの多彩なサービスを併せて提供。常に新たな情報を求める設計・開発技術者にとって、非常に使い勝手の良いサイトとなっている。2010年11月には約2年間かけてサイトの全面リニューアルを実施。例えば、技術者が使う特殊な専門用語を集めた辞書データベースを独自に開発し、検索エンジンに組み合わせることで検索の精度を高めた。また、サイト内の行動履歴をもとにお薦め製品を表示するリコメンド機能も新たに追加。他にも、製品や企業情報の比較表作成機能、再度参照する可能性のある情報を保存できるクリップ機能を追加し、動画コンテンツを提供する仕組みも整えている。このようにイプロスはECではないが、商品情報ページにカート機能がつけば機能的にはほぼECサイトそのものといえる充実のサイトだ。

 

 

BtoBのECサイト(モノタロウ・ミスミ・イプロス)から学べること

 

これらのBtoBのサイトで取り扱われる商品アイテム数は少なくても30万点、多い場合は900万点にものぼる。これは通常のBtoCのECサイトでは考えられない数字だ。そのため、各サイトとも非常に多彩な検索軸やナビゲーションを提供している。またトップページの最上部に設置されている検索窓の利便性は素晴らしく、キーワードだけでなく型番などから類似キーワードまで一気に表示されるケースもあるなど考え抜かれている。

また、売れ筋商品偏重となる通常のECサイトとは異なり、いわゆる「ロングテール」商品を売り「ビッグデータ」を駆使したマーケティング手法でユーザーへのレコメンドなどを徹底的に行っている。特にモノタロウでは閲覧履歴、検索キーワードなどを「KXEN」というデータマイニングツールで分析し、メルマガやレコメンドに活かしている。その結果、商品ページにはAmazonさながらのレコメンドの種類と精度で関連商品情報がレコメンドされている。

この商品数になると、データの登録や検索だけでなく在庫の管理も非常に大変だ。ミスミはEC以外での取り扱い商品を含めた数であるが、バリエーションが800垓(垓は1兆の1億倍)の商品を取り扱っているという。そのような膨大な数の商品を全て在庫しておくわけにもいかず、かといって注文してから数日以内に配送を行う必要があるため、非常に効率的な管理を行っている。ミスミでは自社製品に限る取り組みとなるが、組合せで数10万パターンの商品を作ることが出来る100種類ほどの部品を常備し、注文が入ってから最終商品に組み立てる。

これらの取り組みはAmazonにおいては実現されている内容と遜色がなく、それだけBtoBのECサイトは最先端の取り組みを行っているのだ。今後は、予測在庫、予測配送、さらには3Dプリンターを活用し、注文後に製品を作るなどの革新をEC業界にもたらしてくれるのではないだろうか。