経営幹部は、CXの重要性と収益に影響を及ぼす要因となっていることを理解している。そのため、AI導入の資金繰りは容易になったが、その稼働と運営はいまだ困難である。


顧客エンゲージメントと顧客体験(CX)は、新しいテクノロジーと顧客行動の変化のおかげで、さらなる大転換期を迎えている。そこで、企業は収益の向上とともに、パーソナライズされたインタラクションや顧客満足度の向上、効率性の改善を実現するためにAIを活用しつつある。今日のCXの状況、投資の傾向、AIの役割の拡大に関する2つのレポートが最近発表され、重要な洞察を提供している。

CXはもはや顧客を満足させるためだけのものではなく、業績を左右する重要な要素であり、そのことを経営幹部は理解している。米国に拠点を置くCX管理会社であるNextivaの「2025年版CXの展望レポート(2025 CX Landscape report)」によると、CX関連の意思決定者の89%が「幹部は利益率に与えるCXの影響を理解している」と回答している。現在では、多くの幹部がCXを、収益を集計しないコストセンター(コスト要因)として(21%)ではなく、収益作用因である(79%)と考えている。

これによって、CXへの投資の承認が下りやすくなったのは当然のことで、回答者の67%が、5年前より承認は得やすくなったと答えている。さらに、ほぼすべての企業(94%)が、主要なCX投資に対するROI(投資利益率)を獲得していると報告している。

しかし、ROIを獲得することと、期待するROIを獲得することは違う。カナダのデジタルソリューション企業Apply Digitalのレポート「顧客エンゲージメントの未来(The Future of Customer Engagement)」によると、パーソナライゼーションエンジンが十分なROIをもたらしている、と回答した上級経営幹部はわずか5%だった。リワードおよびロイヤリティプログラムが十分なROIをもたらしている、と回答した上級幹部はたった15%だった。そしてほぼ同数が、ROIの獲得方法と顧客生涯価値について次のように述べている。

「これは非常にまずい」

それでも、Apply Digitalのレポートでは、回答者の47%がロイヤリティプログラムやリワードプログラムをリピーター獲得のための強力なツールだと引き続き考えている。

出典:「顧客エンゲージメントの未来(The Future of Customer Engagement)」

 

顧客エンゲージメントにおけるAIの役割の拡大

CXにおけるAIの重要性は周知の事実である。「顧客エンゲージメントの未来レポート」では、上級幹部の93%がAIは現在の戦略の重要な鍵であると答えている。しかし、「重要」だからといって、AIを導入・運用しているという意味ではない。2025年版CXの展望レポート」では、企業の24%がAIを導入したばかりであり、31%が現在積極的に実装を進めていることがわかった。

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出典:「2025年版CXの展望レポート(2025 CX Landscape report)」


相変わらず、大きな課題のひとつはデータである。「2025年版CXの展望レポート」によると、86%の企業が、顧客データの異なるシステムへの分散に苦慮している。その他の課題としては、変化に対する顧客の抵抗、社内の専門知識の不足、予算の制約などがある。「顧客エンゲージメントの未来レポート」では、顧客の抵抗が最大の課題(90%)であり、予算の制約、データ収集の難しさなどの要因も上位にランクされた。

しかし、AIの実行は報われる。企業がAIに経験をつませ、投資をするほど、リターンも大きくなる。「2025年版CXの展望レポート」によると、AIの導入が「進んでいる(mature)」と回答した企業の84%が、「投資から高い価値を得ている」と回答している。

 

AIと人間味のバランス

AIは顧客エンゲージメントを強化するが、人間によるやり取りと組み合わせることで最高の効果を発揮する。それにはAIと人間の担当者との間の強力な連携が不可欠だ、と「2025年版CXの展望レポート」の回答者の98%が同意している。しかし、CX担当リーダーの多くは、そのためのシームレスな移行方法をまだ模索中である。大きな障害のひとつは、従業員の抵抗である。企業の36%が、AIと人間の連携を導入する際に反発があった、と報告している。

これを乗り越えるためには、企業はAIと従業員の連携方法を改革しなければならない。監視やリアルタイムのエージェントサポートなどの機能により、ワークフローを改善することができる。従業員がAIによって権限を与えられた、と感じれば、満足度は高まる。大規模なAI投資を行った企業の51%が、従業員はその結果に非常に満足している、と回答している。

 

各レポートの調査方法について

Nextivaの「2025年版CXの展望レポート」は、米国、カナダ、英国の従業員100人以上の企業で意思決定を行う1,000人以上のCXリーダーを対象としたオンライン調査を元にしている。レポートの全文はこちらから。

Apply Digitalの「顧客エンゲージメントの未来レポート」は、米国およびカナダの年商5億ドル以上の企業の上級幹部500人を対象に行った調査に基づいている。レポートの全文はこちらから。


※当記事は米国メディア「MarTech」の2/7公開の記事を翻訳・補足したものです。