この要件はドメイン全体に適用されるため、マーケティングと営業担当は、メール戦略で協力しなければならない。


2024年2月、GoogleとYahooは、一括メール送信者に対する新要件を適用する予定だ。そのガイドラインは、大きく分けて「送信メールの認証」「報告されるスパム率」「購読しているメールの簡単な配信停止機能」という3つの分野に焦点を当てている。

Googleは2023年10月上旬に、大量送信者を「Gmailのアドレス宛に1日5,000通以上のメッセージを送信する者」と定義し、B2B、B2C両業界のメールマーケターの注目を集めた。

 

一括送信者へのメール認証要件とは

両社は、大量メール送信者に対して、Googleが言うところの「確立されたベストプラクティス」に従って認証を受けることを義務付ける。Googleによると、これによって攻撃者に悪用される可能性のある抜け穴が塞がれる、という。

メール認証については、次の3つのメカニズムが連動している。


・Sender Policy Framework(SPF)

送信者が自身のドメインからメールの送信を許可されているメールサーバーを識別できるようにすることで、ドメインのなりすましを防ぐのに役立つ。


・DomainKeys Identified Mail (DKIM)

送信メールにデジタル署名を追加し、メッセージが許可された送信者によって送信され、途中で改ざんされていないことを証明する。


・Domain-based Message Authentication, Reporting and Conformance (DMARC)

メールの認証に失敗した場合にドメイン所有者が取るべきアクションを指定するのに役立つ。また、メール認証結果のレポートも可能になる。

GoogleとYahooは、一括送信者に2024年2月1日までに、これら3つのメカニズムすべてを設定するように求めている。

 

一括メール送信者のスパム報告率は

Googleによると、一括送信者はGoogleのPostmaster Tools(Gmailに配信しているメールの配信エラー、迷惑メール報告された数などを確認できるツール)で報告されるスパム率(受信者からスパムとして報告される送信メッセージの割合)を0.10%未満に抑えなければならず、「0.30%以上になることは避けなければならない」という。

メールをスパムとして報告することは比較的簡単で、この要件は認証や配信停止リンクとは別に設定されている。結局のところ、受信者がどのような価値を得られると考えるかがポイントになる。そのため、ある程度は送信者の手に負えないものである。

米国に本社を置く、顧客データプラットフォームベンダーのOptimoveのメールマーケティング担当ディレクターであるDana Carr氏は、正規のメッセージをスパム扱いされないように、複数の戦略を取るよう推奨している。まず、送信時刻に注意する。多くの一括メールは、正時や30分に送信されるため、まとめてスパムとして報告されやすくなる。

また、プリファレンスセンターの活用も提案している。プリファレンスセンターでは、ユーザーがメールの頻度や、メッセージに含まれるカテゴリーや商品を指定することができる。プリファレンスセンターはメールの量を減らすだけでなく、メールへのエンゲージメントを高めることも多いとCarr氏は言う。

 

一括送信者の「配信停止」要件とは何か

当然のことながら、Googleはマーケティングメッセージや他のメールマガジンに、ワンクリックでの配信停止機能を要求している。

経験豊富なメールマーケターにとって、これはすでに当たり前のことだ、とCarr氏は言う。この機能を含めることに消極的なのは、メール戦略において質より量を重視していると言わざるを得ない。

「メールの受信者数は、あなたの評判を落とす可能性のある数字群の中の一つの数字である。数字群にはリストのサイズだけでなく、開封率も含まれる」とCarr氏は語った。「結局のところ、これらの数字はすべて、エンゲージメント指標に悪影響を及ぼす。リストのサイズについて考えるのではなく、セグメンテーションとターゲットを絞ったコンテンツについて考える必要があるということだ」。

 

メールマーケターはこれらの要件をどれくらい懸念する必要があるか

経験豊富なメールマーケターのほとんどは、これらの要件を見て「とにかく確認、確認だ」と言うだろう。

Carr氏は、認証と適切なメールプラクティスを理解している送信者は、過度に心配する必要はないと考えており、「2月になっても今以上に心配することは何もないと思う」と述べている。

しかし、問題点がある。

この要件はドメインレベルに適用される。つまり、マーケティングだけでなく、同じドメインを使用する組織が送信するすべてのメールに適用されることを意味するのだ。これには、営業チーム、特にアウトバウンド営業メール戦術に頼ることが多い、ビジネス開発担当者や営業開発担当者も含まれる。

これらのチームは、生成AIツールやセールスエンゲージメントプラットフォーム(SalesloftOutreach:どちらも本社米国など)を武器に、大量のメールを生成することができる。

このような担当者は、必ずしもマーケティング部門に直属するとは限らず、メール認証の要件に精通しているとも限らない。そのため、自社のメール戦略を守ろうとするマーケティング担当者にとっては、ある種の支配権をめぐる争いの様相を呈しているということになる。

「一般的に、認証をコントロールするのは、マーケティング部門だ」と、米国のデジタルマーケティングサービス会社RPEOriginの共同設立者であり、寄稿者でもあるRyan Phelan氏は言う。「営業とマーケティングの良好なパートナーシップが重要なのだ」。

またCarr氏は、マーケティング部門が認証と組織全体の優れたメールプラクティスについて主導権を握るべきだと考えている。「マーケティング部門は、メッセージの送信ドメインについて意識しておかなければならない」と同氏。「ウェブサイトのドメインと混同してしまう人もいるだろう」。

Carr氏は、DNS(Domain Name System:ドメイン名をIPアドレスに変換し、ブラウザがインターネットリソースにアクセスできるようにする)レベルでの変更は、深刻な問題を引き起こす可能性があるため、マーケティング部門は認証を管理するチームにも助言する必要がある、と述べている。

 

一括送信者に新要件が課された理由

スパムは深刻な問題だ。スパムメールの圧倒的多数が受信トレイに入る前にブロックされているため、多くの人はこの問題の大きさを認識していない。スパムはセキュリティ上の脅威でもあり、それが特定の企業や政府機関のユーザーの受信トレイに届くと、非常に深刻なセキュリティ上の脅威となる可能性がある。

しかし、スパムをこの世からなくすことは、動機の一部でしかない。

「受信トレイは収入源だ」とPhelan氏は語る。「受信トレイの上部にある広告、モバイルアプリの広告、そしてGoogleのデータマート(データ利用者の用途、目的に応じて必要なものだけを抽出、加工したデータベース)へのきっかけなのだ」。

Googleは長年にわたり、Gmailにプロモーションメールやソーシャルメールを選別するタブを追加するなど、収益源を守るための対策を講じてきた。Phelan氏は、今回の動きはこの問題に対処するためのもうひとつの方法だと考えている。同氏は、受信トレイに到達する送信者を決めるために、認証などの手段を使用して無意味な情報をフィルタリングするのが自然な反応である、と言う。

Carr氏は、この動きは受信トレイが人々の日常の活動の中心にあり続けることと大いに関係がある、と同意。「(Googleは)バカではない」と同氏は語る。「Googleは、SMSやアプリ内メッセージなど、他のチャネルを選択する顧客がますます増えていることを知っている。これは、親が 『私は3回チャンスを与えた』と言っているようなものだ」。

 

Google Workspaceの受信トレイについてはどうか

Google Workspaceの受信トレイは、Googleサーバー上に存在する、企業や教育機関が管理するメールアカウントである。ソーシャルメディア上では、新しい要件がアウトバウンド営業メールに与える影響について多くの議論が交わされている。新要件がGoogle Workspaceアカウント上のビジネスメールアドレスに適用されなければ、多くのアウトバウンド営業担当者はもっと安心して眠れるようになるだろう。

一部のオブザーバーは、Googleの新要件は特に「Gmailアドレス」について言及していると指摘しており、Workspaceアカウントは新要件の適用が免除されるのではないかという憶測を呼んでいる。現在までのところ、Googleはそれについて明らかにしていない。

※当記事は米国メディア「MarTech」の12/6公開の記事を翻訳・補足したものです。