顧客は、最初に興味を示してから、購入のために継続的なサポートを受けて、最終的に再購入に至るまで、ブランドとのやり取りの中でさまざまなジャーニーを経験する。

 

これらのジャーニーは、コンシューマーエクスペリエンスの質を決定し、eコマースビジネスの成功に重要な役割を果たす。そして、企業は顧客のたどる道筋を熟考して計画を立てることにより、顧客にとって、より効果的なジャーニーをデザインできる可能性が高まる。

 

「カスタマージャーニーとは、個人がブランドとの関係の中でたどるライフサイクルやステージのことだ」と、Dynamic Yield(デジタル・カスタマー・エクスペリエンス・サービスを提供する米国のテクノロジー企業)の最高マーケティング責任者であるYaniv Navot氏は説明する。

 

「認知から検討、意図、購入、さらにはロイヤルティまで、それぞれのジャーニーは、顧客ごとに異なり、さまざまなチャネルやタッチポイント、エクスペリエンスを含んでる」。

 

顧客視点での計画

ブランドにとって極めて重要なのは、カスタマージャーニーにまったく同じものはないという点を覚えておくことだ。

 

「ある買い物客は、地下鉄の広告を目にし、その後サイトに初めてアクセスして商品を見始めるかもしれない。そして、別の買い物客は、Googleで特定のキーワードや商品を検索してからサイトにたどり着くかもしれない」と、Navot氏は説明する。

「どちらのジャーニーにおいても、ブランドとの事前の接点はないかもしれない。しかし、まだ認知段階にある買い物客は、すでに購入意図を示していて購入決定を速やかに行うためのサポートのみを必要としているもう一人の買い物客よりも、より多くのナーチャリング(顧客育成)を必要としている可能性がある」。

 

起こりうるカスタマージャーニーを事前に可視化することで、ブランドはジャーニーをどのようにデザインすればよいかを理解できるようになる。

 

「高いレベルでいえば、カスタマージャーニーとは、顧客がブランドとの間で、時間をかけて経験するさまざまなステージや、やり取りを包含するものだ」と、Pega(カスタマーエンゲージメントとオペレーションのためのソフトウェアを開発・サポートする米国企業)の製品マーケティング・意思決定科学担当のシニアディレクターであるMatt Nolan氏は語る。

「これにより、企業は、顧客の進捗状況を可視化できる。その結果、顧客がたどる最も効率的かつ効果的な道筋、彼らが使用するチャネル、そして、最終的に、顧客をコンバージョンさせ、ブランドロイヤルティを構築し、リピーターにするために発信する適切なメッセージを決定することができる」。

 

デジタルフットステップ

実店舗が、店内の通路や看板、雰囲気に気を配るように、eコマースブランドは、デジタルストアのドアを開ける顧客がたどる可能性のあるさまざまなエクスペリエンスについて考える必要がある。

「今日のコンシューマージャーニーは、段階的なルートではなく、買い物客が、今いる場所で、最も簡単に買うことができるチャネルを通じて購入する道のりであることを認識した戦略を構築しなければならない」と、Digital Shelf Institute(米国にある製造業のためのコマース・コミュニティ)のエグゼクティブディレクターであり、Salsify(製品コンテンツ管理やデジタル資産管理ツールを提供する米国企業)のコーポレートマーケティング担当副社長であるPeter Crosby氏は述べている。

 

「購入に至るまでの道のりに、非常に多くのチャネルやデバイスが利用されることを考えると、効果的なコンシューマージャーニーをデザインし、計画を立てることは、デジタルシェルフ(顧客が商品の発見や検索、購入の際に利用する小売業とのあらゆるデジタルなタッチポイント)で勝利するために重要だ」。

 

消費者がeコマース企業とやり取りを行う方法は、それぞれ全く異なることを考えると、ブランドにとって、複雑で多面的な世界においても、シームレスで継続性が感じられるジャーニーを構築することは不可欠である。

「消費者は、複数のデバイスとチャネル間を移動するため、ブランドは、購入までの具体的な道のりを十分に理解し、すべてのチャネルでマーケティングメッセージの一貫性を保つ必要がある」と、Crosby氏。

「そのためには、すべてのチャネルで単一セットの商品情報を作成するプロセスと技術、そして、一つのチャネルから別のチャネルに消費者データを移行することも必要だ。その結果、より強力で、より魅力的なコンシューマーエクスペリエンス、そして本質的により効果的なコンシューマージャーニーの実現につながる」。

 

デジタル・カスタマージャーニーは、最初に小売スペースやエクスペリエンスのために開発されたものと同じ基本原則に根ざしている必要がある。それらの原則を、eコマースの現実に合わせて再構築したとしてもだ。

 

「古典的なカスタマージャーニーは、かなり前に作成された、ユーザーが顧客になるまでの道のりにおいて、各段階でどのような指標やチャネルに注目すべきかを簡単に理解するのに役立つモデルを示すものである」とNavot氏。

 

「私見としては、ファネルの考え方は方向性の面では役立つかもしれないが、あまりにも狭すぎて、世界観が過度に単純化されてしまっている。今日の実際のカスタマージャーニーは、直線的なファネルが示すよりもはるかに複雑なものだ」。

 

データを活用する

成功するeコマースジャーニーをデザインするためには、データを効果的に利用することが重要である。

「データは、ジャーニーを成功させるための最も重要な要素だ。eコマースでは、データは、正しく使用すればパワーとなる。より質の高いデータがあれば、カスタマージャーニーをパーソナライズすることができる。実際、マーケターの86%は、さまざまなオーディエンスセグメント毎にカスタマイズしたキャンペーンを行うとパフォーマンスが向上すると答えている」と、Crosby氏は話す。

 

ブランドは、データの力を活用することで、(本質的には、顧客をジャーニーのある地点から次の地点に導くデジタルサイネージとなるような)高度にパーソナライズされたメッセージングを作成することができる。

 

「カスタマージャーニーをパーソナライズするブランドは、顧客とのあらゆるやり取りにおいて、顧客の好みをどれだけ理解しているかを示す。ブランドは、これらの機会を利用して、コンテクスチュアルで関連性の高いメッセージを送ることができる」とCrosby氏。

 

「顧客のデジタルジャーニーを知ることは、ブランドが顧客の関心や問題点をより深く理解することにも役立つ。ブランドは、このインサイトによって、顧客のニーズに応える商品や戦略を生み出すことができる。その結果、より大きな売上と顧客ロイヤルティの向上につながる」。

 

今後のジャーニー

デジタル技術がもたらしたあらゆる変化にもかかわらず、基本的な真実は、顧客は自分の好きな、信頼できるブランドとのジャーニーを好むということだ。

 

「消費者の購入までの道のりは、ますますオンライン化がすすみ、店舗でのやり取りが少なくなっている。最近のSalsifyによる買い物客を対象とした調査では、対象者の43%が、パンデミック(世界的大流行)前の行動に戻ることはなく、オンラインでの買い物が今後も増えると思うと回答していることから、対面での活動が復活したとしても、この状況は続くだろう」とCrosby氏。

 

「それでも、顧客はチャネルではなく企業と関わるということ、そして、顧客はすべてのチャネルで同じレベルのサービスと情報を期待するということを覚えておくことが重要だ。たった一つのデジタルタッチポイントが、ブランドが検討、購入、あるいは支持のチャンスを活かせるかどうかを左右する可能性があるのだ」。

 

消費者は今後、さらに多くのカスタマイズやパーソナライゼーションを期待するようになるだろう。消費者に関するあらゆる情報を効果的に活用するブランドは、最も満足度が高く、売り上げにつながるジャーニーをデザインできるようになる。そして、顧客は自分で自分のジャーニーを作っているため、行為主体感を感じるだろう。

 

「今日の顧客は、自身の道を選択し、自分の言葉でブランドと対話する力を持っており、かつてないほど頻繁にチャネル間を行き来し、彼らの嗜好は変化している」とNolan氏。

 

「今日の企業は、顧客とのあらゆる接点で適切なアクションを取り、すべての対話において、顧客のニーズに応じた適切なメッセージ、オファーやサービスを提供する必要がある。もはや、顧客データをインサイトに変えることが全てではない。

 

企業が、知得したことや顧客が実際に取っている行動に基づいて、顧客に何を話すべきかにおける優先順位を付け直すことができれば、関連性が高くタイムリーで有用なオファーを提供し、競合他社と一線を画すカスタマーエクスペリエンスを実現できる有利な立場にたつことができるだろう」と同氏は締めくくった。

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の7/6公開の記事を翻訳・補足したものです。