ShopifyやBASE、STORES.jpなどのECプラットフォーマーの登場によってショップ開設や運営のハードルが下がったことで、ここ数年で新たにD2Cブランドを立ち上げる事業者が増加してきている。しかし、複雑なバリューチェーンを有するD2Cブランドのビジネスには蓄積されたノウハウや情報共有の場がなく、これまで個々に試行錯誤を繰り返しながら取り組むしかなかった。そこで、ビジネスウェアのカスタムオーダーサービスを行うFABRIC TOKYOが、ナレッジをシェアしながら成長しあえる場を提供したいと考え、2020年9月よりD2Cブランド支援プログラム「Original Lab by FABRIC TOKYO」をスタート。3カ月限定の本プログラムには19社が参加し、物流フルフィルメントサービスを提供するオープンロジをはじめ、株式会社そごう・西武や丸井グループ、ポーラ・オルビスホールディングスなどがオフィシャルスポンサーとして参画している。

 

Original Labでは、第一線で活躍するゲストを招いた「ゲストセッション」や採択企業同士で過去の失敗や知見をシェアする「GIVEセッション」を週に1回のペースで行っているが、今回はオープンロジが登壇したゲストセッションの模様をレポートする。

 

※この記事は、クラウド型物流システム「オープンロジ」社の協力のもと、Original Labでのやり取りを記事化したものである。オープンロジに関する資料は以下からダウンロード下さい。

資料をダウンロードする

 

 

登壇者プロフィール

 

今回のゲストセッションはオープンロジの田島巧平氏がファシリテーターを務め、同社CSMOの及川直彦氏とモンゴルレザーブランド「HushTug(ハッシュタグ)」を運営するラズホールディングスの戸田貴久代表が登壇。Original Labに参加しているD2Cの事業者も交えて、「D2Cにおける物流の重要性と考え方」をテーマにトークセッションが繰り広げられた。

 

物流業界に改革を起こしたオープンロジ

「物流をもっと簡単、シンプルに」をコンセプトに2014年10月よりサービスを開始したオープンロジは、物流業務をネットワーク化し、個別見積もり不要・従量課金で利用可能な物流フルフィルメントサービスを日本で初めて提供した。ECにおける商品の受注から配送までの一連の業務をワンストップで請け負い、料金体系は固定費ゼロの従量課金制。システム利用料は無料で、荷物のサイズと個数に応じて倉庫利用料と配送料金がかかるだけというシンプルな仕組みが注目を集めてきた。現在はEC事業者を中心に8,000社以上が導入。2020年10月には17.5億円の資金調達を発表した。同社はこれまで多くのD2Cブランドの物流課題を解決した経験から、今回D2Cの成長を物流面で支えたいと考え、Original Labにスポンサーとして参画。D2C特有の物流の課題や成功の鍵となる要因について、物流のナレッジを提供したいとしている。

 

紆余曲折の末に誕生したモンゴルレザーブランドHushTug

HushTug創業者である戸田貴久は、24歳で起業してアフィエリエイトやWebメディアの仕事を行っていたが、実業に携わりたいという気持ちが膨らみ、2017年5月に伝手のあったモンゴルに単身移住。移住当初、事業の具体的な構想はなかったが、現地で直面した大気汚染問題に衝撃を受けて、解決のために何かできることはないかと模索する日々が始まる。そこで出会ったのがモンゴルレザーだった。モンゴルレザーは高級車のシートに使われていたり、約40%がイタリア、スペイン、トルコ、韓国などに輸出されている高品質素材。しかし国内の加工技術が追いつかないため、産業としては成り立っていなかった。それを知った戸田は、素材を活かせる加工技術を伸ばし、世界で通用する高品質な製品をモンゴル国内で作るべくHushTugを創業。現在は首都ウランバートルに自社工房を構え、バッグをはじめとした革製品を現地の職人が作り、日本に届けている。

 

 

物流は内省化すべきか外注すべきか

 

株式会社オープンロジ:田島巧平氏(以下オープンロジ田島氏) 株式会社オープンロジ:田島巧平氏(以下オープンロジ田島氏)

物流は内省化すべきか外注すべきか、人によって意見が分かれると思います。HushTugさんはブランドの立ち上げ時からオープンロジに物流を任せてくださっていますが、何を基準にアウトソースを判断しましたか?

 

HushTug:戸田貴久氏(以下HushTug戸田氏) HushTug:戸田貴久氏(以下HushTug戸田氏)

私たちが考える判断基準は2つあって、1つは物流で何を狙うかというところです。たとえば配送に使う箱がすごく可愛くて、SNS映えするようなパッケージだったとするじゃないですか。その箱がマーケティングの役に立ちそうだということが立証されているのであれば、こだわりの箱を自分たちで作って物流を内省化してもいいと思っています。

ZOZOTOWNの箱は目立ちますよね。ああいったパッケージは広告効果もありますが、弊社がそういった広告効果があることをやったとしても、そもそも知らないブランドなんて誰も買わないなと。なので箱にそこまで重要性を感じず、物流を内省化することは考えませんでした。

もう1つの基準はステージ、レベル感です。HushTugは立ち上げ当初は月に3、4件の注文しかなかったので、物流は自分たちでもできると思っていました。ですが将来的には注文数も伸びるだろうと踏んで、スケールした時にも耐えられるように外注先を探したんです。結局最初からオープンロジさんのシステムを導入しましたが、今は月に1,000件ほどの注文が入るので、自分たちだけでやっていたら人件費もかかって何より作業が大変だったと思います。

 

株式会社オープンロジ:及川直彦氏(以下オープンロジ及川氏) 株式会社オープンロジ:及川直彦氏(以下オープンロジ及川氏)

物流を外注した場合のコストについてはどう考えていましたか?

 

HushTug戸田氏 HushTug戸田氏

普通に考えたら、内省化した方がコストを抑えられそうなイメージがありますよね。そこで15社ぐらいの見積もりを出して、同時に内省化した場合のシミュレーションも出しましたが、ことごとく自分たちでやった方が高くつくことが分かりました。なぜそんなことが起きるかというと、ロットが少ない上に法人取引になるので、自分たちで梱包して佐川やヤマトなどの大手に配送を頼むと高くついてしまう。一方オープンロジさんは1点から低価格でアウトソーシングできるので、コスト面でも最初から魅力は感じていました。

 

 

物流を外注に切り替えるタイミングは全体の荷量

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

今日会場にいらっしゃる皆さんは、物流を内省化している方と外注している方の割合が半々ぐらいですが、なぜ内省化しているのか、本当は外注したいのか等、皆さんのご意見を聞かせてください。

 

男性参加者 男性参加者

自分は家具のD2Cを運営していますが、物流は社内でやっています。できれば外注したいと思っていますが、月に数台売れる程度でまだ量がそこまで多くないという中途半端な時期で。ただ、ちょうど今クラウドファンディングをやっている関係で、月に60セットほど販売するタイミングが来ています。先日梱包作業をしましたが、作業スペースが限られていることもあってこれ以上量が増えたら外注すべきだと思いました。工場と梱包スペースが隣接しているので、木屑が入る心配もありますし……。

 

オープンロジ及川氏 オープンロジ及川氏

数がまとまっていないので、今の段階ではまだアウトソース先と調整や交渉がしづらいということですよね。確かに従来の物流はスタートアップに優しくないという問題があります。月額維持費やコストがある程度かかってしまったり、何ロット以上保証してくれないとうちの倉庫は対応できないというようなことを言われてしまったり。

 

HushTug戸田氏 HushTug戸田氏

そうですね。HushTugも最初は物流自体を外注に任せることに対して正直本当に大丈夫なのかという漠然とした不安はありました。どこでどういった方が発送業務を行っているのかという倉庫の内部も見えないですし。将来的なことを考えた時に内省化は絶対に無理だと思ったので外注に踏み切りましたが、やってみたら本当に便利で、早く導入すれば良かったと思いましたけど(笑)。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

確かに製品の品質に大きく関わってくる部分に不安があると、内省化したいということになりますよね。会場の皆さんの中で、外注されている方はどのタイミングで外注しましたか?

 

女性参加者 女性参加者

私は以前アパレルの会社を6年ほどやっていましたが、最初の2、3年は自社でやっていました。商品と一緒にカードを同梱するなど、個別にイレギュラーなことが発生していたのですべて手詰めでやっていたんです。パーソナライズ性を高めるために、「このお客様は毎回注文してくださっている」というようなことを配送の際に目視で確認して、その都度判断していました。アパレルの場合はSKUも多くユーザーによって購入金額もまちまちですし、梱包のタイミングでロイヤルユーザーとの差別化を図っていましたね。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

では外注に移行したタイミングというのは?

 

女性参加者 女性参加者

物量が月間200から300ぐらいになってくるとそちらに割かれるリソースが大きくなってきて、さらに保管面も難しいということで、そのあたりから外注化しました。当時は週2ペースで発送業務を行っていたので、50件×月6回ぐらいのボリュームになると大作業感があって、一度に50件を超える発送業務となるとまず回りません。オフィスが狭かったので、床面積的な問題も大きかったですね。下着のようなものだと小さいのでそこまで問題ありませんが、重衣料になってくるとかなり厳しいのではないでしょうか。ただ、どのようにパーソナライズ性を出すかという点では、単価が高いものであれば社内でやる可能性もあると思います。

 

オープンロジ及川氏 オープンロジ及川氏

ちなみにカードの同梱は外注してからも行っていましたか?

 

女性参加者 女性参加者

入れていましたが、自社でやっていた時は手書きのメッセージで対応していたので、そういったことができない分、福袋の時にプラスで商品を入れるなどしてカスタマイズするようになりました。オープンロジさんは1件の配送から請け負っていただけますが、一般的には2、300ぐらいから月間の最低保障の売上がクリアしやすいイメージがあります。今は定期通販の形を取っているので、カスタマイズを画一化しやすくなった分外注しやすいと感じています。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

外注に移行する物量の基準は月間2、300というキーワードが今出ましたが、オープンロジでも相談を受けるタイミングはそのぐらいの数が多いですね。先日ちょうど初回商談について集計しましたが、相談に来られる方はだいたい月200〜300件で、急いで外注先を探しているお客様が多い。それから最近増えているのが、これからD2Cブランドを始めるという方で、最初の段階から物流を外注するというケースですね。

 

女性参加者 女性参加者

私も今やっている新しいブランドの方は最初の段階で押さえました。通販はスピード重視で、購入から届くまでのタイムラグが生じることによって受け取り拒否が出てしまうと怖いと思っていて。お客様の気分が上がっているうちに早くお届けしたいので、今は9時までの注文は基本的に当日出荷するようにしています。それは社内では絶対にできませんよね。

ただ、アパレルはバーコードの貼り付けのコストが高いんですよね。特に以前扱っていた下着はSKUが多く、倉庫の方は商品の違いが分かりづらかったようです。結局社内でバーコードを貼って送ったり説明に関わるコストを考えると、ボリュームが出てからでないとメリットはありませんでした。SKUが少ない事業者であれば、カードなどの同梱物だけ理解してもらえれば良いですし、バーコード管理がしやすい商材は外注の方が楽だと思います。個人的には、定期通販は初期から外注するのがいいという感覚がありますね。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

定期通販のいいところはSKU数が少ないところで、倉庫側としても実は受けたい案件なんですよね。管理コストが低いのでそれだけいい条件で契約もしやすいですし。というところで、SKUが少ないD2Cブランドさんはもしかしたら初期段階から物流を外注してもいいのかもしれません。HushTugさんはSKUの数はどのぐらいですか?

 

HushTug戸田氏 HushTug戸田氏

12しかありません。

 

物流はコストとして考えるべきか投資として考えるべきか

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

物流はコストとして考えるべきか、投資として考えるべきかという点に関してはどうお考えですか?

 

HushTug戸田氏 HushTug戸田氏

最初はコストだと思っていました。どれだけ素敵な箱で送ったとしても、それによって初見のブランドを買うなんていうことは絶対にないじゃないですか。商品の良し悪しは届いて初めて分かるのに、箱なんてデザインしても意味がない、購入していただかないと話にならないと思っていました。ですがある程度ブランドが大きくなってくると、ブランドのロゴが入った箱で写真を撮ってくださるような方も出てくるので、ここに来てようやく自分たちも検討するようになりました。オリジナルの箱にして、物流をコスト削減ではなく投資の対象として考えていく。これはフェーズと商材でかなり変わってくると思います。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

では物流を投資に変えるタイミングは?

 

HushTug戸田氏 HushTug戸田氏

注文数が月に1,000〜2,000件ぐらいあればいいのではないでしょうか。段ボールを500枚刷るのと1万枚刷るのとでは当然コストは違ってくるので、そのあたりの採算性を見ながら考える。リターンが出そうだったら物流を投資対象として考えて、お金をかけてもいいのかなと思います。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

ただ、リターンの見え方という意味では難しそうですよね。目に見えてリピート率が上がるようなことばあればいいですが、投資を回収できているかどうかという判断基準は難しいと思います。

 

オープンロジ及川氏 オープンロジ及川氏

確かにそれはなかなか難しい問題ですよね。実際にはパラレルワールドなので、独自のこだわった箱を作った場合と作らなかった場合の数字は残念ながら比較できません。ですが、お客様にそのブランドの体験をお届けするというところで言うと、「作り手の思いを形にするために物流にもこだわる」というのが一番大きいのではないでしょうか。

自分たちが作った大事な商品を届ける時に、箱から開けるという梱包のところでストーリーを作りたいと思う方がいるならば、それも商品の一部ですよね。一連の開ける体験そのものが商品だとすれば、それはこだわるだろうなと。リターンというよりは、作り手の価値の追求の仕方。それを物流の都合で月何件越えないとできないというのは物流業界側の傲慢なので、そこは変えていく予定です。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

そもそも物流を投資対象として見るというよりも、お客様に対して物流まで一貫してどういった見せ方をしたいかが重要であるということですよね。逆に言うと、物流はコストとして見られがちなので、そのコストをどう抑えるかが重要だと思っています。資材の種類によってもコストは変わってくるので、こだわりを持った上でコストを抑えて、しっかりと事業運営上継続できるような水準で回すと。戸田さんはこだわりの上限はどこで判断すべきだとお考えですか?

 

HushTug戸田氏 HushTug戸田氏

事業者の自己満足になっていないかというところを客観的に見て、同時にKPIとして見る。箱を変えたことでSNSの投稿が増えたり、リピートやレビュー獲得率につながるなど、ブランドによって何かしら独自の指標があればいいのではないでしょうか。あとはリターンとの兼ね合いで見ていけば問題ないと思います。基本的には自社でKPIポイントを決めておいて、それを達成できる場所をOKラインとして判断するしかないと。

 

オープンロジ及川氏 オープンロジ及川氏

やはりなんだかんだ言っても、事業の中で上代がいくらだから物流コストはこのぐらいというラインが決まってくるので、そこは大きく外せませんよね。商品より物流の方が高いというのは、どんなにストーリーを作っても厳しいので、その辺で自然といい数字に決まってくるのではないでしょうか。

それから少し話が逸れますが、物流におけるコストにおいて意外と皆さん見逃しがちなのが、発送や梱包以外にかかる費用です。物流業務によって得られるマインドシェアについて考える時間もコストですし、箱の破損によって生じる外部とのやり取りなど、社内の管理コストもコストの議論に入れないといけません。皆さんの貴重な時間におけるコストも考えて、自分の大事な時間を生み出すための投資というところもあるのではないでしょうか。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

確かにそうですよね。物流のリソースを抑えて別の投資対象にしっかり投資する。土台を作ると言いますか、まさにHushTugさんはそういう考え方でやられているのではないでしょうか。会場の皆さんの中に、物流に対してコストをかけようとしているという会社さんはいますか?

 

女性参加者 女性参加者

今は物流を内省していますが、結果的に物流に投資している形になっています。お漬物のプロダクトを作っているので、食品ということで衛生管理面を重視せざるを得ません。今は月に2、300ほど注文をいただくので外注したいのですが、倉庫となるとそこを担保するのが難しいのではないかという心理的な感情と、物理的な条件も揃わずなかなかできていない状況です。

 

オープンロジ及川氏 オープンロジ及川氏

食品においては冷蔵冷凍問題が出てきますよね。オープンロジに限らず、API連携させる物流サービスがあまり冷蔵冷凍を打ち出していないのは、そもそも冷蔵冷凍対応してくれる倉庫が世の中的に少なく、供給に対して需要の方が多いからです。冷蔵冷凍の倉庫はホテル運営企業などの既存の本業の人たちが押さえに入っているので、なかなかスペースを見つけられません。希少資源ということで我々も苦労していますが、このOriginal Labに参画した時から食品の要望が多いことは分かっているので、社内でも冷蔵冷凍の整備は急務だと声を大にして言っています。

食品を扱う事業者さんは、冷蔵冷凍対応でプロの業務用のノウハウがあるところを見るのがいいのではないでしょうか。スペースは冷蔵冷凍だけど、建屋に行く時に炎天下を通らなければいけないような倉庫もあるので、冷蔵冷凍とひと言で言ってもどういう対応をしているのかをしっかり確認した方がいいですね。

 

 

パーソナライズ性を高める施策とは

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

パーソナライズのニーズというのはD2Cブランドにとって特に大きいことだと思いますが、そういった施策はどうしていますか?

 

HushTug戸田氏 HushTug戸田氏

パーソナライズは物流ではやっていませんが、その代わりHushTugでは購入後30日間返品交換保証というサービスを付けています。それに合わせて30日経ったタイミングでモンゴルの工房から手紙が届くようにしていて、これはお客様から非常に評判が良く、驚いたという声が寄せられていますね。今はコロナの影響でできていませんが、普段はそういった施策を行っています。

 

男性参加者 男性参加者

HushTugさんのモンゴルから手紙が来るというのはすごくいい体験だと思って自分たちも真似させていただいています。これはオープンロジさんにお伺いしたいんですが、生産過程でファン作りをするのと同じように、物流でもエンターテインメント性の高いファン作りができるような施策を作れないでしょうか。

 

オープンロジ及川氏 オープンロジ及川氏

まだ検討中の話ですが、洋服を購入したらその服に合うカスタマイズブックをその場で印刷して送れないかということをあるアパレル会社さんに相談されています。コストによって実現の可能性が変わってきますが、共同実験しようという話は出ています。

物流の世界で言うと、梱包資材の箱やラッピングをどうするかという話が中心になってきますよね。これからは、その中でどういったストーリーを作るかという点を強化していかないといけないと感じています。最近「どうしても益子焼を風呂敷で包みたいからこの巻き方でお願いしたい」というお客様がいらっしゃったので、倉庫の方に風呂敷の巻き方を練習してもらいました。これは喜ばれましたね。ロボットはドラム缶の燃料や箱入りの工業製品などは運べますが、ロボット倉庫がすべてのEC物流を担うことはできません。そういう意味では、人間の良さを残した倉庫の良さを活かして、ある程度まで安定化したら操作を考えてもいいのかなと思います。

それから全然違ったところで言うと、キャラクターグッズの梱包時にランダムにグッズをピックアップして、どのキャラクターが来るかというランダム性を楽しんだり、いくつか物流のテクニックの中でお客様を楽しませるというテーマはありますよね。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

これはエンタメ性ではないかもしれませんが、紹介によって商品購入を促すリファラルマーケティングを同梱物でやられている事業者さんは多いですよね。オープンロジとしても、今後はそういったマーケティング系の会社と組んで何かしらのスキームが作れないかということは話し始めています。

 

 

D2C事業における物流の理想形

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

D2C事業における物流の理想形はありますか?

 

HushTug戸田氏 HushTug戸田氏

消費者目線で言うと、購入してすぐに商品が届くことが一番の理想だと思いますが、今は早く届くことが当たり前になりすぎていますよね。HushTugの商品は購入から発送まで1カ月ほどお待ちいただきますが、皆さん待ってくださるので、早いことだけが本当に理想なのかということは最近ふと思います。

納期が遅くなるというのは、お客様からしたら悪の要素の方が強いじゃないですか。じゃあそれをどうポジティブに変えようと考えた時に、HushTugではあなたのために一生懸命作ってるという感じを出すようにしました。今工房で着手し始めました、モンゴルの空港に届きました、といった内容をステップメールで組んで自動化してお送りしているんです。これが斬新で面白いというレビューがかなり多いんですよね。

 

男性参加者 男性参加者

今の話は面白いですね。ロジスティックのプロセスがすべて可視化されると、お客様の待つ体験が上がりますよね。クロネコヤマトにも、LINE連携すると発送通知が来るシステムがあるじゃないですか。ああいったことをD2Cブランドとオープンロジさんとで連携して、入荷や発送の連絡が事務的でなくもう少しエモい感じで来るとか。そういった連携の余地についてはオープンロジさんにお伺いしたいですね。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

可能性としてはありますね。発送通知は通常お送りしていますが、それ以外に弊社ではピッキング中、梱包中、梱包済み、という部分まで細かくデータを取っていて、それをD2Cブランド側の管理画面上に表示させるという機能までは実装させています。なのでそれを誰に通知するかという問題だと思うんですよね。ブランド側がお客様に通知させる機能を追加するというのは可能性としてはあります。

 

男性参加者 男性参加者

メールは最近開封率が悪いので、LINEなどで送れるといいですよね。アメリカにエバーレーンというアパレルのD2Cブランドがありますが、そこはFacebookのメッセンジャーと連携していたり、割とテッキーなんですよね。オープンロジさんもぜひShopifyなんかと連携して、そういった機能を実現していただけると嬉しいですね。

 

女性参加者 女性参加者

アメリカのShopifyは追跡画面が一番見られているという話がありますよね。外部アプリの追跡画面で「届くまでのあなたにこんなコンテンツをお届け」というようなことをタイミングに合わせて送る機能がすでにあって、問い合わせたら日本郵便は対応しはじめそうという話でした。個人的には、それだけでもShopifyに移行する意味があるなと思っています。

 

男性参加者 男性参加者

クロスセルできたりするかもしれないですよね。追跡画面を見るとついつい買ってしまうとか(笑)。PayPayモールなどでよくある宝くじとか、そういう顧客を楽しませるエンタメ要素があってもいいのかなと。そのあたりはグローバルでもやれている会社があまり多くない気がするので、やれるとすごくイノベーティブだなと思います。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

確かに物流はただ箱を運んでいるだけなので、従来のものにもう少しエンタメ要素を加えられたら面白いですよね。弊社にもデータはあるのでその使い道ですね。他にD2C事業における物流の理想形について考えている方はいますか?

 

男性参加者 男性参加者

モノを渡されて一番嬉しい瞬間というのは、友人や家族、恋人から直接目の前でプレゼントを渡された時じゃないですか。おそらくD2Cにおいては、そういった体験を提供できる状態が理想形なんじゃないでしょうか。スピードに関してはどうやってもAmazonには勝てないですし、勝つ必要もないと思うんですよね。

Amazonができないところをあえてやっていくということがすごく重要で、先ほどパーソナライズの話が出ましたが、まさにそれはAmazonではできないことだと思います。ファウンダーの熱量や物流の作業員の方々の想いが、届いた瞬間の体験に盛り込まれている。これはAmazonにはできないですよね。D2CはSNSなどでブランドの世界観に触れて、ECサイトで購入の意思決定をして……ってすごくテンションが上がっている状態だと思うんですよ。その熱量そのままに開封体験まで行けるとすごく理想的なんじゃないかなと。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

たとえば産直の野菜を買う時、生産者の顔が見えたり想いが知れたら野菜のいびつさもまた可愛くなってくるのと同じことですね。D2Cブランドにはそういう風に思わせるような仕掛け、熱量が伝わるようなものがあって、その熱量も含めて運んであげるというのが確かに物流の理想形ではありますね。その1つが同梱物でどう実現できるかだと思います。

 

男性参加者 男性参加者

もう少しオペレーティブな話でいくと、弊社は全商品カスタムオーダーでサイズが違うので、検品作業が大変なんですよね。なので検品、検寸、検針、このあたりをもう少しオートメーション化したり、そういうところは会社として取り組みたいと思っています。

 

オープンロジ田島氏 オープンロジ田島氏

確かに取り扱う商品によって物流の理想形は違いますよね。食品であれば劣化しないような品質管理は必須ですし、アパレルであれば検針、検寸。ただ共通して言えることは、D2Cはどうやってファンを作るかというところが重要で、D2Cおける物流の理想形の1つにパーソナライズというキーワードは外せない部分なのかなと思います。物流会社としてパーソナライズの面でお手伝いができるとしたら、同梱物であったり……。

 

オープンロジ及川氏 オープンロジ及川氏

そうですね。先ほどの戸田さんの話がすごく分かりやすくて、物流の理想形にはフェーズがあると思います。商品そのものにパワーを持たせる段階と、ブランドが出来てきて商品以外のところでコミュニケーションする段階があるので、それによってこだわりポイントが変わってくる。フェーズによって理想形は違うんだろうなというのは感じました。

今回このOriginal Labに参加したからというわけではありませんが、今後は何となく物流を扱うのではなく、D2Cにフォーカスしようと思っています。たとえばこれまでお断りしていた独自資材の対応をお受けして、梱包資材のクリエイティブ性を高めていく。そうやって皆さんにご提案できるものをどんどん作っていきたいですね。冷蔵冷凍に関しては大きな約束はできませんが、倉庫開拓チームを再編成しなおしたので、冷蔵冷凍の開拓を加速して安心できる倉庫があれば皆さんにご案内したいと思っています。

それからモノにストーリーがあるのであれば、人が作業している倉庫という強みを生かしていきたいですね。倉庫によっては、手作業が得意だからどんどんそういった案件を持ってきて欲しいというところもあります。ある倉庫さんは中国の造花を扱っていて、ラッピングによって高級に見えるということを自慢げに見せてくれました。今後はそういった職人技の倉庫ともっと議論しながら、一緒にストーリー体験を高めるものを作ってご提案していくという点も強化していきたいですね。

 

 

D2Cの物流の未来 – セミナー後記

 

D2C事業においても、ECを行う以上は、物流部分が非常に重要になっていくことが伝わったセミナーだったのではないだろうか。特に小規模のスタートアップ企業の参加者が多かったため、自社で物流業務を行う限界が来てしまっているが、いつ、どこへ外注すべきか悩ましいという意見が多かった。セミナー終了後も、参加者が登壇者と個別に詳細な話をしていたのが印象的で、久しぶりに、目のキラキラしたスタートアップの若者達がバンバン手をあげて発言する熱気を帯びたセミナーだったのではないだろうか。

D2Cと言うキーワードの定義をしっかり考え、Amazonに出来ない強みをしっかり見出し、それを物流を使って実現する、そんな未来を作っていく可能性を感じることが出来る一日だった。

 

※この記事は、クラウド型物流システム「オープンロジ」社の協力のもと、Original Labでのやり取りを記事化したものである。オープンロジに関する資料は以下からダウンロード下さい。

資料をダウンロードする