多くの企業がAIを導入しているものの、それを統合できている企業は少ない。そのギャップが生じている理由と、「エージェント・スタック」がシステムと意思決定をどのように結びつけるのかについて解説する。


AIエージェントは企業のさまざまなシステムで急速に普及しつつあるが、そのほとんどはコアワークフローに統合されるのではなく、特定のユースケースに限定されたままである。企業の90.3%がAIエージェントを使用していると回答しているものの、実際に運用しているのはわずか23.3%、マーケティングシステムにAIを完全に統合しているのはわずか6.3%に過ぎない。

AIは個別のタスクへの導入が容易であるため、その採用率は高い。しかし、それらのアウトプットを、ガバナンスが確立された「システム・オブ・レコード」のワークフローに統合することははるかに複雑であるため、統合の進展は遅れている。マーテック分野において、真の制約となっているのはAIへのアクセスそのものではなく、制御、コンプライアンス、一貫性を損なうことなく、確率論的なアウトプットを決定論的なシステムと整合させることにある。

データによると、企業はSaaSをAIに置き換えているわけではない。むしろ、依然として業務を支えている決定論的なSaaSシステムの上に、確率論的なAIを重ねて導入している。課題は、システムの断片化や制御の喪失を招くことなく、これらを連携させることにある。エージェント・スタックはそのためのモデルを提供するものであり、その構成は企業の規模によって大きく異なる。

決定論的SaaSと確率論的AIは異なる役割を果たすが、同じスタック内で動作する必要がある。システム・オブ・レコードは依然として基盤であり、データを保存し、ルールを適用し、「何が真実か?」というひとつの問いに答える。

一方、AIエージェントは状況を解釈し、取るべき行動を決定する。それは「次に何が起こるべきか?」という、これまでとは異なる問いに答える。

最も単純な形では、エージェント・スタックは次のように機能する。

  • コンテキスト=ガードレール:価格設定ルール、商品の在庫状況、法的ルール、ブランドルールなどが、何が許容されるかを定義する。
  • 意図=状況:顧客が何を望んでいるか、何をしようとしているかが、何が起きているかを定義する。
  • エージェント=意思決定:両者を調整して、何をすべきかを決定する。

これにより、AIはSaaS全体で機能するようになる。ただし、統合の重要性は高まる一方で、制御もより複雑になる。なぜなら、意思決定は複数のシステムにまたがるデータ、ルール、コンテキストをリアルタイムで調整することに依存するようになっているからだ。


エージェント・スタックの実際の仕組み

簡単な例を挙げよう。顧客がチャットで商品の価格を尋ねてきたとする。

従来のスタックでは、これによって検索がトリガーされる。システムはあらかじめ定義されたルールに基づいて価格を取得する。その答えは正確ではあるものの、顧客にとって必ずしも関連性のあるものではない。

エージェント・スタックでは、同じリクエストが協調的な意思決定へと変換される。エージェントは、システム・オブ・レコードから価格設定ルール、商品制約、契約上の合意事項を取得すると同時に、顧客の行動、タイミング、チャネル、プロファイルといったコンテキストも評価する。

  • 顧客コンテキストは、「その回答が向けられる対象者」を明確にする。これは、顧客の保存された属性だけでなく、顧客の現在の状況を反映する。
  • コンテンツコンテキストは、「何を伝えることができるか」を定義する。これには、価格設定ロジック、商品の在庫状況、ブランドトーン、地域や法的な制約などが含まれる。

エージェントは両方の要素を組み合わせ、会社のルールと顧客の状況に合った対応策を練り上げる。その結果、正確かつ適切な対応が可能になる。適切な価格設定が適切なメッセージとなり、適切な方法で届けられるのだ。


企業規模によるエージェント・スタックの変化

エージェント・スタックは、ツールやエージェントを追加するのではなく、インテリジェンスの定義、統合、制御する方法の変化によって拡張される。

中小企業やスケールアップ企業は、マーテックとAIを最も積極的に導入する傾向がある。これらの企業は、成長を促進するためにツールに依存しており、これは相対的に高いマーテック支出と統合アプローチの両方に反映されている。

中小企業の半数以上(53.6%)が、システム接続にZapierMaken8nなどのiPaaSソリューション(クラウド上で複数のアプリやシステムをつなぎ、自動化するためのサービス)を利用している。これは、大企業におけるわずか20%と比較して高い割合だ。また、中小企業はアクセスしやすいエントリーポイントを通じてAIを導入しており、32.1%がiPaaSまたは自動化プラットフォームを介してエージェントを統合している。これは、大企業におけるわずか8%と比較して高い割合だ。これにより、迅速な実験が可能になるが、ビジネスロジックが複数のツールやワークフローに分散されるという課題も生じる。

複雑さが増すにつれ、このアプローチの限界が明らかになってくる。中堅企業は、iPaaS、既製の統合ソリューション、そして選択的なカスタム開発を組み合わせることで、自社のスタックを体系化し始める。そして、意思決定ロジックは個々のツールを超え、明確な意図レイヤーが出現し始める。

大企業環境では、統合は制御と所有権へとシフトする。中小企業の53.6%に対し、大企業の約4分の3(72%)はカスタム構築の統合に依存している。また、大企業はアシスタントやコアプラットフォームにAIをより深く組み込んでいる(中小企業の46.4%に対し、大企業は52%)。一方で、はるかに大きな課題にも直面している。統合における摩擦は68%(中小企業は41.1%)、ガバナンス上の制約は48%(中小企業は26.8%)、コストの可視性は44%(中小企業は17.9%)に達しているのだ。

「エージェント成熟度」とは、組織がシステムをいかに効果的に統合し、それら全体にわたる意思決定をいかに適切に統制するかを指す。企業が成長するにつれ、課題はインテリジェンスの実現から、相互接続がますます進むシステム群全体において、意思決定がどこで、どのように行われるかを制御することへと移行していく。


小売業を例に

小売業は、組織の成長に伴ってエージェント・スタックがどのように進化していくかを示す好例である。この例は、単一の業種内でも明確に表れている。

ここでは、スタック全体の成熟度と企業規模、そしてより具体的には統合とタグ管理というカテゴリーに焦点を当てて、2つの視点から見ていこう。

全体的な成熟度は企業規模とともに高まる。小規模小売業者の平均成熟度は2.6、中規模小売業者は2.8、大規模小売業者は2.9となっている。スタックの規模も同様に拡大しており、小規模企業では大規模小売業者のスタックの約60%程度にとどまるのに対し、エンタープライズ環境ではフルスケールで導入されている。

一方、統合に関しては異なる傾向が見られる。このカテゴリーにより、企業は顧客データを収集し、システムを連携させることが可能になる。これにより、プラットフォーム間でデータを流通させ、カスタム(AI)ワークフローを構築し、スタック全体でエージェント主導の意思決定を実行できるようになる。

しかし、スタックが大きくなるにつれて、システム間の接続、データフローの管理、一貫性の維持が難しくなり、能力と連携のギャップが拡大する。

小規模小売業者は、直接的な収益への影響に焦点を当てた、緊密に連携したスタックを構築する。eコマース、CMS(コンテンツ管理システム)、CRM(顧客関係管理システム)、カスタマーサービス、パフォーマンスマーケティングのツールは、多くの場合、iPaaSソリューションを介して連携される。エージェントは既に、商品コンテンツの生成、広告の最適化、顧客とのやり取りといったユースケースをサポートしている。しかし、意思決定ロジックはツール間で分散しているため、一貫性を拡張することが難しくなっている。

中規模小売業者は、連携の強化へと拡大している。キャンペーンの規模が拡大し、チャネルが増えるにつれ、システムの統合がより計画的に進められる。エージェントは複数のワークフローを横断して業務を行うようになり、意思決定のロジックもより明確になっていく。

大規模小売業者は、異なる規模で事業を展開し、CDP(顧客データプラットフォーム)、CDW(クラウドデータウェアハウス)、PIM(商品情報管理システム)、MRM(マーケティングリソース管理)などの統合されたシステム・オブ・レコードを中心にシステムスタックを構築し、膨大なデータ量とキャンペーンに対応している。エージェントは、価格設定やプロモーションからパーソナライゼーションに至るまで、これらのシステムを横断して意思決定を調整する。一方で、複雑さが増すにつれ、意思決定に対する統制を維持することが難しくなっている。

3つのケースすべてにおいて、共通するパターンが見られる。スタックは大きくなるだけでなく、管理も難しくなる。「実行を可能にすること」から、「意思決定を制御すること」へとシフトする。これこそが、エージェント・スタックがもたらす真の変化なのだ。


※当記事は米国メディア「Martech」の4/2公開の記事を翻訳・補足したものです。