激動する東南アジアのスタートアップECサービス - メガマネーでグローバルEC企業との争いを制することが出来るのか

 

近年の東南アジアにおけるEC市場の勢いは留まることを知らない。フロスト&サリバンの発表によると、2013年から2018年にかけての年平均成長率は37.6%となる予測であり、これは全世界のEC市場において最も高い成長率である。ますます東南アジアのEC関連事業に注目が集まるなか、今回は資金調達や事業提携などの大きな動きを見せた3つのスタートアップECサービスをピックアップして紹介していく。

 

<参考>
急成長を遂げる東南アジアとインドのEC市場 - 6カ国の市場環境・決済と進出ハードルまとめ

 

 

Tokopedia

 

Tokopedia」は、個人・企業の両方にECサービスを無料で提供するインドネシア最大規模のオンラインマーケットプレイスだ。

 

 

ジャカルタを拠点として2009年にサービスを開始し、現在では毎月1,000万人のユーザーが訪問するECサイトへと成長した。インドネシアのEC市場活性化に力を入れており、国内の中小企業の商品を月に400万以上販売している。Google Playでのアプリ配信も行っており、FacebookやTwitter、Instagramとの連携を行うなど、スマートフォン利用者の取り込みにも意欲的だ。
Tokopediaは楽天のように様々な企業が出店するモール型ECだが、デザインにおいてはAmazonのように全ての商品ページを統一されたUIで構成しているのが特徴的である。現在はシェア拡大を優先するため取引手数料が無料となっていて、収益化には3年ほどかかる見通しだ。広告収入などによって今後どのように利益体系を確立するのかが注目される。
Tokopediaは2014年10月にSoftBankSequoia Capitalから1億ドル相当のインドネシア史上最高額の新規投資を受けたことで大きく話題になった。SoftBankは中国のショッピングサイト最大手「Alibaba」の創業当初に20億円を出資しており、Sequoia CapitalもGoogleやAppleの黎明期を支えている。この出資によって強力なバックアップを得たTokopediaは、インドネシア企業がグローバルマーケットへ進出する際の拠点として、その役割をより強めていくだろう。

 

 

Lazada

 

わずか3年で東南アジアのB2Cマーケットプレイスの覇権を獲得した「Lazada」。

 

 

Lazadaは2012年にサービスを開始したモール型オンラインマーケットプレイスだ。現在では月間5,500万のユニークアクセスを誇り、主にインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの6カ国でサービスを展開する「東南アジアのAmazon」と呼ばれている。14年11月にはシンガポール政府が運営するTemasek Holdingsより2億4900万ドルの資金調達を行い、これまで受けた資金調達の総額は7億ドル以上にのぼる。また同年12月には、利便性と安全性を前面に押し出した東南アジア向けのオンライン決算サービス「helloPay」を開始した。Lazadaグループの更なる消費者の囲い込みだけでなく、東南アジア圏でのオンライン決算の浸透も期待されている。

Tech in Asiaの記事によると、Rocket Internetが東南アジアの各国で展開していたC2Cマーケットプレイス「lamido」がサービスを終了し、同社が運営する大手B2Cマーケットプレイス「Lazada」と合併することを発表した。もともとlamidoは消費者向けのマーケットプレイスを提供するためにRocket Internetが実験的に開始したサービスだったが、東南アジアのEC市場が拡大するにつれて「lamido」と「Lazada」の両マーケットプレイスが成長し、消費者とセラーが重複し合う形になったという。2つのサービスが並行して展開されていたインドネシアやフィリピンなどの全ての地域における業務を「Lazada」に一本化することで、競争力を強めていく方針だ。

 

 

MetroDeal

 

MetroDeal」は日替わりで様々な商品をタイムセール販売する、フィリピンのデイリーディールサイトだ。

 

 

2011年に設立され、現在では月間ユニークユーザー数160万人、Eメール登録者数300万人とフィリピン最大規模のショッピングサイトである。食品やアパレルなどの物品だけでなく、レストランのビュッフェや宿泊プランなどのサービスに至るまで、様々な商品をMetroDealだけの割引価格で購入することができる。商品ページでは価格や割引率、購入期限のカウントダウンが表示され、商品の購入期限は基本的に1日となっている。ユーザーはMetroDeal上で購入手続きを行い、発行された引換券を店舗に持っていくことで商品を手に入れることができるシステムで、「GROUPON」などの共同購入型クーポンとは違い最低購入人数が設定されていないのが大きな特徴だ。App StoreやGoogle Playでアプリも配信しており、こちらでは近隣のレストランやホテルがMetroDealに出している商品を検索できる。

MetroDealは今年3月、日本を拠点として世界39カ国でITサービス全般を取り扱う「トランスコスモス」に事業を譲り渡すことを発表した。MetroDeal代表のRalph Wunsch氏がトランスコスモスの子会社を新設し、業務を移行する形となる。トランスコスモスは13年に「日本直販」をグループ会社に吸収して以来EC関連事業の強化を進めており、同年5月にアメリカのEC業界大手の「PFSweb」、7月に中国の大手ECフルフィルメント・物流企業「FineEX」、11月にはインドネシアのファッションEC大手「PT.BERRYBENKA」と次々に資本業務提携を行っている。トランスコスモスの流通網を得たMetroDealが、今後どのようにASEAN諸国での事業展開を進めていくのか注目したい。

 

 

メガマネーでグローバルEC企業との争いを制することが出来るのか

 

これらの企業はいずれも2009年以降に設立されたスタートアップにも関わらず、MetroDeal以外は既に数百億円規模の資金調達を完了していることからも注目の高さが分かる。

 

 

これらの企業を中心とした東南アジア発のECサービス全体の特徴として、東南アジア域内でのビジネスにまずは注力しようとする傾向が強いようだ。インドネシア国内の中小企業の商品に力を入れているTokopediaのように、東南アジアのEC業界発展に貢献しつつ、その急速な成長の波に乗っていこうとする意欲的な企業ばかりだ。

グローバルで展開する大手EC企業も東南アジア進出を着々と進行させている。Amazonは東南アジア地域向けのサイト運営には取り組んでいないにも関わらず、シンガポール、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシアの5カ国で月間トラフィック数が5位以内に入っており、その影響力の強さを伺い知ることができる(eCommerceMILO調べ)。またEbayは上記の東南アジア5カ国にベトナムを加えた計6カ国のサイトを運営しており、シンガポールでは月間トラフィック数1位、その他の国でも3位以内にランクインしている。

楽天は2009年に当時のタイ国内最大手のECサイト「TARAD.com」の運営会社と資本業務提携を結んで子会社化を行い、2010年にインドネシアの複合メディア企業PT Global Mediacomとの合弁会社を設立、2012年にはマレーシアに「楽天市場」と同様のマーケットプレイス「Rakuten Online Shopping」を独自進出させている。中国のEC大手企業のAlibabaも2013年、世界最大のC2Cマーケットプレイス「Taobao」のシンガポール向けサービスとして「Taobao Southeast Asia」を開始させている。しかし、楽天が現地企業との業務提携を足がかりとして進出を始めたのとは対照的に、Taobaoは東南アジアでの主なターゲット層を“中国語を話せる移住者”に限定しており、東南アジア向けのサイトもほぼ中国語のみで構成するなど、他のECサイトとの差別化を図っている。

市場の急成長の波に乗ってビジネスを拡大していく地域発のECサービスと、言語や物流といった壁を乗り越えて東南アジア地域に参入しようとする世界各国の大手ECサービス、その双方の動きが今後も注目される。