医薬品ネット販売 - 街のドラッグストアとオンライン専業と異業種の取り組み

 

ドラッグストアというと、今やコンビニやスーパーマーケット並みに生活に密着している。取り扱い商品も、医薬品だけでなく健康食品や日用品、生活雑貨まで網羅されているケースがほとんど。さらに値段も安いため、医薬品が欲しい場合でなくてもコンビニやスーパーマーケットの替わりに利用することもしばしば。一方、オンラインの世界では、ここ数年この業界は医薬品のネット販売の解禁の話題が持ち上がるなど、業界の再編や新規参入が進んできている。今回は、オンライン専業、街のドラッグストア、さらには医薬品ネット販売解禁で参入してきた大手モールの取り組みを見ていく。
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医薬品・医薬部外品の取り扱い商品数(2021年4月5日現在)

 

 

医薬品ネット販売の基礎知識

 

医薬品ECを展開する各企業を詳しく見ていく前に、医薬品ネット販売の基礎や背景をおさらいしておきたい。取り扱うものが医薬品という特性上、他の一般的な商品を扱うECとは状況も規制も異なっているからだ。

 

医薬品ネット販売における安全確保の動きと背景

2014年6月、厚生労働省により医薬品ネット販売についての規制が見直され、現在は一般用医薬品であれば適切なルールのもとにすべてネット販売が可能となっている。2000年代は未承認の医薬品を販売するECサイトも多く、2009年2月にはそれを受ける形で改正薬事法(現在の薬機法)の省令が公布されたが、医薬品のネット販売規制に対しケンコーコムが訴訟を起こすなど、当時の医薬品ECは混乱のさなかにあった。詳しくは楽天24の項目で後述するが、ケンコーコムの勝訴によって医薬品ネット販売に関する細かなルールが定められるようになり、今に至ると言っても過言ではないだろう。

 

ネットで販売可能な医薬品の種類

先の項目では便宜上一括りにしたが、現在ネットで販売可能な一般用医薬品とは処方箋なく購入できるものの総称であり、一般用医薬品はさらに「第一類医薬品」「第二類医薬品」「第三類医薬品」の3種に分類される。第一類医薬品と第二類医薬品はいずれも日常に支障をきたす副作用を起こす可能性のあるもので、特に注意が必要なものが第一類医薬品でロキソニンSやバファリンEXなどが該当し、そうでないものが第二類医薬品で太田胃散や正露丸などが該当する。第一類・第二類医薬品以外の比較的リスクの低いものが第三類医薬品であり、一般的な整腸剤やビタミン剤など多くのものが該当する。

 

医薬品ネット販売で注意すべきポイント

医薬品は、誰でも簡単にネット販売できるわけではない。ECサイトでの販売は原則として実店舗を持つ企業に限られていること、薬剤師や登録販売者が在籍しており電話やメールによる問い合わせ対応が可能な体制が整っていること、使用期限や副作用に関する表示など、一般的な商品を扱うECと比べ医薬品のネット販売ではより信頼が求められる。ECに参入している企業のほとんどが実店舗を持つメーカーや大手モールなのは、このためである。

 

 

楽天24 - オンライン専業

 

楽天24(旧:ケンコーコム)は、2000年に立ち上げられた健康食品や化粧品などを取り扱う健康関連ECサイトに端を発する、医薬品販売に特化したECサイトだ。2002年より医薬品の取り扱いを開始した後、爽快ドラッグとの合併やRakuten Directへの名称変更を経て、現在では楽天によって運営されている。

 

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第一類医薬品及び第二類医薬品のインターネット販売規制に関して、前身のケンコーコムが国を相手取った訴訟を起こしたことで話題になったのをご存知の方も多いだろう。厚生労働省は2009年施行の改正薬事法に合わせて改正された薬事法施行規則において、第一類医薬品及び第二類医薬品のインターネット販売を禁止すると言い渡した。医薬品は副作用のリスクがあるため、対面販売を行ってリスクを最大限低減すべきということだったのだ。しかし、ケンコーコム及び有限会社ウェルネットはこの省令が憲法違反に当たるとして、行政訴訟を起こす。一審でケンコーコムらの主張は認められなかったが、二審でネット販売を認める逆転判決が下された。さらに2013年1月には厚生労働省が行った最高裁への上告も棄却されたため、ケンコーコムらの勝訴が確定。ケンコーコムは即日第一類・第二類医薬品のネット通販を再開した。

その後も販売可能な品目に関して協議が続けられたが、2014年6月12日、政府は成長戦略の一環として全面的に医薬品のネット販売を認め、約11,000品目ある一般用医薬品(医師の診察を受けなくても購入できる薬)のうち99.8%の品目に関して販売を解禁した(それまで販売可能だったのはわずか26.2%だった)。長年に渡る医薬品販売の規制緩和を巡る議論は、紆余曲折を経てようやく解決したのだ。

正式にインターネット販売が解禁されたことを受け、ケンコーコム側も新たな取り組みを始めた。2014年2月からは、ITを活用した会員制の処方せん薬受け取り支援サービス「ヨヤクスリ」を開始。専用サイトから処方せん画像を送ると、患者は処方せんの原本と引き換えに調剤された薬を受け取れる仕組みで、患者および薬局側に無料でサービスを提供している。専用サイトには全国約5万2000店の調剤薬局データが地図付きで収録されているため、患者はサイト上で薬を受け取りたい薬局を検索。薬局側には患者の電話番号も表示されるため、いざという時はコンタクトを取ることも可能だ。さらに2014年5月からはチャットシステムを導入し、薬剤師が24時間常駐してリアルタイムで問診を行う新サービス「薬剤師LIVE」を開始。薬に関して詳細な確認が必要な場合はチャットで連絡を取り合い、迅速に対応できるようにした。

大手ドラッグストアの平均アイテム数は1万5千点と言われているが、ケンコーコムは当時その10倍以上の18万アイテムを扱っていた。しかし、同社のライバルはドラッグストアではなく、国内に10カ所以上の物流センターを持つAmazonだ。そのAmazonに対抗すべく、ケンコーコムは2012年に楽天との資本提携を行い、楽天はケンコーコムの40%超の株式を保有する筆頭株主となった。また、2013年5月には、楽天が提供する総合フルフィルメントサービス「楽天スーパーロジスティクス」を利用することを決定。主要出荷拠点を福岡から首都圏へ移行して物流網を広げ、当日配送エリアの拡大や配送コストの削減などを実現した。また、ケンコーコムは国外にも目を向けており、中国最大のBtoCモールである「天猫(Tmall)」内に、日本の健康関連商品を個人輸入で販売する店舗を2013年9月にオープン。さらに先日、年内に香港に物流拠点を設けて台湾やマレーシア市場に参入することが発表された。

その後は中国とシンガポールを主要拠点に日本の安全かつ高品質な健康関連商品をアジアの消費者にも届けたいとしていたが、2017年に商品拡充や物流インフラなどの向上のために同じ楽天子会社である爽快ドラッグと合併し、社名をRakuten Directに変更。2019年には楽天のグループ内再編により楽天に吸収合併され、現在では楽天24という名称で旧ケンコーコムの姉妹店として運営されている。

 

 

 

マツモトキヨシ - 街のドラッグストア

 

ドラッグストア最大手のマツモトキヨシも、政府の決定を受けて2013年夏にネット通販子会社を設立。一般用医薬品のネット販売を本格化した(マツモトキヨシの通販サイト)。

 

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この本店以外にも楽天市場店Tモール店など複数の店舗を持っているマツモトキヨシだが、オンライン販売額のシェアは売上のごく一部となっており、まだまだ実店舗の売上が圧倒している。また、楽天24のようなオンライン専業サイトに比べると、医薬品ネット販売の影響は現時点ではそれほど大きくないのも事実だ。実店舗を含む総売上高において以前は業界トップだったマツモトキヨシだが、近年ではウエルシアやツルハなどに首位を譲っている。当時マツモトキヨシの背中を追っていたサンドラッグにも追い抜かれつつあり、実店舗も万全とは言えない。そのような状況が続く中、2021年3月にココカラファインとの経営統合を発表するなど、首位奪還を試みる動きが本格化している。

2014年1月には、第一類医薬品の販売開始に合わせて都市部を中心に翌日配送サービスを開始。全国各地にある1,500店強の店舗網を活用し、それまで2~3日かかっていた配送時間を短縮した。また、安全面でもリアル店舗を持つ強みを打ち出し、商品に最寄り店の案内図を添付するなどして副作用や問い合わせ窓口にした。薬剤師などの資格者が対応することで安心感を持ってもらうことが狙いだ。同社ではグループの成長戦略としてオムニチャネル化の推進を掲げており、実店舗、ECサイト、スマートフォン、ソーシャルメディアを組み合わせて、ネットとリアルをシームレスにつなぐオムニチャネル戦略を進めている。そのためマツモトキヨシは、ネットとリアルをシームレスにつなぎながら、充実した買い物体験を提供していきたい、としている。LINEを活用して若年層を取り込むなど、時代に合った戦略を次々と打ち出してきた同社が、今後どのような取り組みを見せるのか期待したいところだ。

政府の成長戦略に組み込まれたことにより、マツモトキヨシだけでなくサンドラッグなども取り組みを活性化してきており、街のドラッグストア各社からも目が離せない。

 

 

Amazon - 異業種の参入

 

Amazonジャパンも他社と時を同じくして、2013年9月より医薬品の販売を開始した。

 

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ただしAmazonは自ら販売は行わず、顧客からの問い合わせに薬剤師が応じることのできる出品者のみが販売。比較的副作用の少ないビタミン剤などの第三類医薬品のほか、風邪薬などの第二類医薬品を中心に取り扱っていたが、2017年には第一類医薬品の取り扱いを開始した。現在は第二類医薬品が4,000品目以上、第三類医薬品が3,000品目以上となっており、第一類医薬品は44品目と比較的少ないものの、専門店以外では最大級の取り扱い数を誇る。Amazonのページ構成は通常のECサイトとは異なり、商品毎に複数の出品事業者が比較・掲載される形態をとる。そのため、医薬品についても価格競争を懸念する声も多く聞かれる。また、異業種としてはビックカメラヤマダ電機なども既に参入してきおてり、今までの商流の強みをどのように活かして各社が販売を行っていくのか気になるところだ。

 

 

主戦場は街のドラッグストアからオンラインに本格的に移っていくのか

 

売上高を見ていくと、街のドラッグストアはマツモトキヨシ5,906億円、サンドラッグ6,178億円(共に2020年3月期)となっており、企業によって減益はみられるものの、新規参入の難しい世界でありながら医薬品ECは全体的に右肩上がりの成長を続けている。医薬品のネット販売に関する法律が整備されたこととコロナ禍による需要もあり、医薬品・医薬部外品や健康関連商品をオンラインで購入することが消費者にとって日常になりつつあるのだ。

一括りに医薬品と言っても、第一類、第二類、指定第二類、第三類、医薬部外品(指定医薬部外品、防除用医薬部外品、医薬部外品)などの様々なジャンルに分かれる。ビジネスとしてとらえるならば、どの分類が売上・利益率が高く、オンラインで売るための手間が少ないかという視点も必要となってくる。

また医薬品であれば厚生労働省により効果が認められた治療を目的とするものであり、医薬部外品であれば厚生労働省が許可した有効な成分が配合されている防止・衛生を目的とするものとなる。また化粧品などのそれ以外の商品は効果・効能を謳うことは出来ないというルールが薬機法などで規定されており、なかなか通常のECのようにユーザーを煽ってコンバージョンに至らせるわけにもいかない。

しかし市場としては非常に魅力的なことも事実。Amazonは今のところ自社での第一類をはじめとする医薬品の販売を行わないとしているが、医薬品は商材特性として軽量で小さく、梱包も容易であることから書籍やCD・DVDの販売からスタートしたAmazon向きと考えられる。Amazonが本格的に参入してくると低価格化や配送時間の短縮化などの競争の過熱の可能性も高い。楽天の行っているヨヤクスリなどのサービスで、対面販売と変わらないオンラインの利便性を活かしたサービスの展開も期待できる。

消費者にとっても使い慣れている医薬品はどの分類であれ、オンラインで安く早く購入できることはとても助かるものだ。ケンコーコム等が身を挺して守ってくれた利便性を、厚生労働省などが懸念するリスクや問題が発生しないようにルールを守って適切な競争を行うことで、医薬品のオンライン販売は更なる活性化が期待できそうだ。