まるで個人アシスタントのように機能する受信トレイとは?AIは重要な情報を選別して、メールを日常生活に適したスマートなものに変えるかもしれない。その方法を紹介しよう。


想像してみてほしい。受信トレイが、個人的なメッセージから返信、お知らせ、アラート、そして商業的なメッセージで溢れかえり、延々とスクロールしなければならない状態ではなく、AlexaのようなAIエージェントと対話する状態になることを。このエージェントは、あなたのメールやWebサイト、そしてデジタル領域全体での行動に基づいたシステムに従って、受信メールを仕分けし、適切な対応をする。

受信箱のエージェントは、あなたが最も興味のあるメッセージ、たとえば、Webサイトで閲覧した商品を紹介するメールなどを浮かび上がらせる。その商品は、あなたが購入する前に配偶者やパートナーと相談したいものだと知っているので、あなたはそのメールを見たい(聞きたい)と思うだろう。あなたがその日の一杯目のコーヒーを入れたり、犬を散歩させたりしている間に、エージェントはこれらのことを行う。

いとこにメールを送りたいときは?AIエージェントに指示すれば、そのまま送信することも、思いついたことを書き直して送信することもできる。また、今日のリマインダーが必要になったときは?エージェントにToDoリストに追加してもらうか、連絡して会う時間を設定するように頼んでみよう。

AIエージェントは、非常に近い将来、人々がデータと関わる方法を再構築する。あなたの受信トレイには、コミュニケーションや整理を効率化してくれる信頼できるアシスタントが配置される。メールは、複数のタブと山積みのメールを整理する作業ではなく、会話そのものになるのだ。この変化には、あらゆるチャネルにおけるマーケティングの変革が必要となる。

 

これはもうすでに起こっているのだろうか?

まだそこまでには至っていないが、その兆しは見えている。私は、AIエージェントやLLM(大規模言語モデル)を人間のように扱うことで、プロンプトのプロセスにおいてより良い結果が得られると語る人々と話をした。

人間と同じように、AIも命令を与える代わりに会話をすることで、より良く機能し、より正確で完成度の高い結果をもたらす。ChatGPTボットに名前を付け、「お願いします」や「ありがとう」と声をかけ、指示に正確に従った際には褒めると、AIも同じように反応し始める。

私のメール仲間であるDela Quist氏は、これを「プロンプト心理学」と呼んでいる。これは「口調、信頼、そして感情的な認識を通して、人間とAIのインタラクションを形作る技術」だ。

このことから推論して、数年後を想像してみよう。AIエージェントとの会話が問題解決に役立つのであれば、パラメータを設定し、行動シグナルを結びつけることで、AIが私のメッセージを選別するためのデータを取得することで、それを受信トレイのアクティビティにも拡張できるだろう。

たとえばGmailの場合、Googleはすでにこうしたすべての情報のグラフを持っており、それを使って受信トレイの優先順位付けを行うことができる。これは受信トレイの情報だけでなく、私がデジタルでやり取りしている他のすべての情報も対象としている。

 

人々はこれを受け入れるだろうか?

「ライアン、今ロッド・サーリングみたいなことを言っているじゃないか。まるで『Twilight Zone(1959年から放送されたアメリカのSFテレビドラマシリーズ)』のエピソードみたいだ」と思うかもしれない。それも理解できる。これは受信トレイに対する新しい考え方、そして新しい使い方なのだ。

この受信トレイの変革は、今のところまだ起こっていない。テクノロジーがまだ十分に堅牢ではないからだ。そうなったとき、ユーザーはAIエージェントにこれほどのコントロールを委ねるだろうか?

この新しい受信トレイのフォーマットは、Googleが作成したフレームワークMP for Emailのようなインタラクティブなメールとは異なる。AMP for Emailでは、Webサイトにアクセスすることなく、メール本文で取引を完了できる。

これは、消費者がメールをどのように捉えているかという定義を覆すものだ。メールはメールである。受信トレイに存在している。ショッピングカートはWebサイト上に存在するカートだ。メール内でのコンバージョンは米国ではまだ普及していない。仮に普及したとしても、私が思い描くAIエージェントほどテクノロジーに大きな変化をもたらすことはないだろう。

AIを活用して受信トレイを再定義するとは、メールを静的なリストから、あなたとあなたの生活を反映するインタラクティブなガイドへと変える変革を意味する。延々とスクロールすることなく簡単に閲覧でき、カレンダーのデータに基づいて会議の予定を確認するなどのタスクを実行できるようなものになるだろう。

 

私たちはテクノロジーを信頼するだろうか?

そのためには、テクノロジー、ブランド、そしてメールでやり取りする相手を信頼する必要がある。また、エージェントをパートナーとして、そしてガイドとして信頼することも必要だ。このようにコントロールを与えることは、私がこれまで他の分野で与えてきたコントロールと似ているが、時が経つにつれて、私たちの私生活におけるテクノロジーへのコントロールもエスカレートしていくだろう。

この受信トレイの変革は、AIがメールの世界に与える影響も変えていくだろう。たとえば、AIは、まだそうでなくても、近い将来、メールの配信においてより大きな役割を果たし始めるかもしれない。

AI導入の道のりをスムーズに進める受信トレイプロバイダーは、この進化の基盤を築くだろう。今後3~5年で、AIをより低い制御レベルで段階的に導入していくかもしれない。

人々はAIを果たして気に入るだろうか?ゆっくりと進めていけばいいだろう。受信箱の「タブ」がリリースされた当時は、それを嫌う人もいた。今はどうだろうか?タブがないと、私の受信トレイは混乱してしまう。変化は難しいものだが、大きな変化を押し付けるよりも、小さなきっかけを作る方がAI導入を後押しするだろう。

 

これにどう対処すればいいか?

今すぐ何かをする必要はないが、eメールの行く末や近い将来起こりうることについて考え始めるには良い時期だ。

eメールの技術や、今何が可能かについて十分知っているだろうか?その情報を使って、この先何が起こりうるかを想像できるだろうか?それはCEOレベルのスキルだ。優れたCEOは、何が起こっているかを想像し、目標達成のためにチェスの駒を動かしたり、関税によって不安定化した経済におけるマーケティングのような予期せぬ問題を解決するためにギアをシフトしたりすることができる。

あなたのCEOは今のところ、メールの動向を気にしていないかもしれないが、あなたはメールのCEOとして、何が起こるかを予測し、会社がそれをどのように活用できるかを最善の形で見極めるべきだ。

あるいは、自分を「ゴッドファーザー」の原作と映画(最初の二作だけ)に登場するMichael Corleone の生まれ変わりだと考えてみてほしい。彼は家族関係や忠誠心に関する知識と、関連する第三者の情報とを組み合わせ、裏切り者を特定した。これは戦略的なプレイといえるだろう。

あなたの仕事はそれほど悲惨なものではないが、それでもメールプログラムの健全性に関わるものだ。2、3年前までは、Gmail、Apple Mail、Yahoo! Mailなどのメールプロバイダーが、受信トレイのプリヘッダーを変更したり、AIによる要約でメッセージの内容を変更したりするルールを開発するとは、ほとんどの人が想像もしていなかった。今日、私たちはメールクライアント(電子メールを送受信するためのソフトウェアやアプリケーション)のコントロールをさらに浸食するのに対抗するための戦略を練っている。

 

売上目標だけでなく、関係性を築く

インタラクティブなAI主導型受信トレイの効果は、顧客が受信トレイに許可するブランドとの関係性に左右される。強固な関係性においては、受信トレイの構造や動作の変化、あるいはその変化による影響は、必ずプラスに働くはずだ。

しかし、顧客が受け取るのが「これを買ってください」というメッセージばかりだと、メールはさらに埋もれてしまう可能性がある。AIエージェントは、メールをスパムフォルダよりもさらに深いところへ追いやる可能性があるのだ。売上重視のマーケティングでは、顧客とのより強い絆を築くために必要な価値を提供できないだろう。しかし、関係性に基づくマーケティングは、それを実現する。

 

今後5年間、メールはどうなっていくだろうか?

受信トレイの体験は変化していく。タブ付きの受信トレイがずっと続くわけではない。メールとその利用方法も変化するだろう。受信トレイをより便利で、よりストレスの少ないものにするために、AIが原動力となる。

おそらく、今すぐ上司に「5年後にはAIが受信トレイを管理し、メッセージの優先順位付けを行うようになるはずなので、今すぐリレーションシップ・マーケティングに取り組まなければならない」と言う人はいないだろう。しかし、「これは必ずやってくる。そして、それは重要になる。私はこれをより重要視する必要がある。今こそ、この視点から戦略を見直す必要がある」と言うべきだ。

AI主導型受信トレイの台頭は、消費者体験に劇的な変化をもたらすだろう。まだ実現していないが、誰かが取り組んでいることは間違いない。

あなたにとって重要なのは、未来の兆しを読み、来年何が起こるのかを見極めることだ。好奇心を刺激してほしい。この記事やMarTech関連のトレンド記事などを読んでみよう。カンファレンスやウェビナー、業界団体などに参加し、今後の動向やそれへの備えについて議論しよう。

このコラムと今後のコラムが、メールの継続的な進化に備えるための学びと洞察の道へとあなたを導いてくれることを願っている。


※当記事は米国メディア「Martech」の4/24公開の記事を翻訳・補足したものです。