オンデマンドECは日本市場に浸透するのか - kaukul、LINEWOWの挑戦

 

アメリカ西海岸を中心にここ数年で成長している「オンデマンドEC」。昨年暮れ頃から日本でもいくつかのサービスが開始されてきている。ここのところECはサイトの改善だけでなく、物流面に注目したサービスの発展も著しく、このオンデマンドECもその旗頭といえよう。今回は日本でオンデマンドECを開始したサービスを2つ取り上げ、日本におけるオンデマンドECの今後を占ってみる。

 

 

オンデマンドECとは?

 

そもそもオンデマンドECとは「可能な限り早く商品を配送し、即日で商品を届ける」サービスの総称だ。そのスピード感が特徴で「即日配送」は当たり前、数時間から一時間以内での配送を売りとするサービスも存在する。2007年にAmazonがシアトルを中心として食料品や日用品を即日配達する「Amazon Fresh」を開始し、その後アメリカ西海岸をメインエリアとして発展してきた。またGoogleも「Google Express」を展開するなど、オンラインの雄が続々と参入してきている。日本ではLINE WOWがその成長性に着目し試験的にサービスを開始しているが、まだまだ参入企業も少なくフロンティアとなっている分野である。

 

<参考>

ECの即日配達サービスの限界への挑戦 - 頼んだものがすぐ届くのが当たり前の未来はやってくるのか

GoogleとEC - 新サービスShopping Expressとショッピングキャンペーンがもたらす利便性

USで話題のデバイスAmazon Dashが日本のEC市場に与え得る影響と可能性

 

 

kaukul

 

kaukul」は小売店や飲食店、ECサイトの商品配送を行うデリバリー代行サービスだ。

 

 

 

渋谷区・港区に日替わり弁当を配達する「bento.jp」を運営している株式会社ベントー・ドット・ジェーピーが4月10日から開始したばかりのサービスで、小売や飲食の事業者向けの「kaukul for Stores」とオンラインEC事業者向けの「kaukul API」の2つを展開している。kaukul for Storesは実店舗の即時デリバリー代行とも言えるもの。毎日のルート配送を行い、来店客の購入商品の持ち帰り代行配送も取り扱う。サービス開始前に行った試験導入では客単価を4倍まで成長させることに成功しており、地域に根ざして販売を行う店舗の商圏拡大・売り上げ向上を目指している。一方、 kaukul APIはオンライン店舗の即時デリバリー代行だ。即日配送リクエスト、実際の配送、配送状況の確認までの機能をAPIでEC事業者に提供する。当日・翌日配送に特化した配送機能によってオンデマンドECのサービス提供を可能にし、ECサイトの付加価値を高めることができる APIだ。どちらのサービスも最短30分からの配送を謳っており、「bento.jp」の20分配達で培ったノウハウを生かした形となっている。「オンデマンドECを導入したいが、しっかりとした配送システムを自社で用意できない」という店舗や事業者には心強い代行サービスになるだろう。

導入事例としては、代官山のコールドプレストジュース専門店「Why Juice?」がオフィスやフィットネススタジオに向けたデリバリーサービスでkaukul for Storesを利用している。またシャンパンの即日配送を行なうオンデマンドECサイト「シャンデリ屋」は、kaukul APIを利用することで渋谷区と港区の一部で最短30分での配送を行っている。現在kaukulは渋谷区、港区、目黒区、世田谷区、新宿区の都内5区のみでデリバリーを行っているが、2015年中に100以上の事業者への提供を目指しており、配達エリアも順次拡大していく見込みだ。

 

 

LINEWOW

 

LINEWOW」はLINE株式会社が昨年11月に開始したフードデリバリーアプリである。

 

 

アプリ上で高級店や有名店のランチの事前予約を受け付け、配送を行う「プレミアムランチ」(現在は「WOWセレクション」)を中心として試験的にサービスを開始し、先月のアップデートによって「今すぐ配達」と「おねがいWOW」の2つのサービスが追加された。

「今すぐ配達」はスマートフォン上の地図で現在地を指定しフードメニューを注文すると、専属デリバリースタッフの「WOWコンシェルジュ」が30分から1時間程度で配送してくれるサービスだ。フードメニューを短時間配送するシステム自体はbento.jpと似たものだが、特筆すべきはその商品数である。bento.jpは日替わりでひとつのメニューに限定されているのに対し、LINEWOWは150以上の店舗のメニューから選ぶことができる。出店している飲食店のジャンルも和食をはじめイタリアン、中華、ハンバーガー、カレーやスイーツなど多岐に渡り、ひとつの店舗でも複数のメニューを提供している為ついつい目移りしてしまう。現在は商品代金と別途サービス料500円の期間限定価格で注文することができる。「おねがいWOW」はWOWコンシェルジュが商品の購入代行と配達を行なってくれるサービスであり、こちらも1時間以内での配達が可能。対応エリア内の人気スイーツ店やデパート、コンビニなどの商品を買ってきてもらうことができる。現在は買い物代行のみをサービス料500円で行っているが、今後はバイク便や薬用品購入のサービスも予定されている。

 

<参考>

LINEのEC関連事業への参入が本格化!EC市場でも覇者となれるのか

 

 

USにおけるオンデマンドEC

 

アメリカでは2007年に「Amazon Fresh」がシアトル市内の一部地域で開始されて以来すこしずつ対応エリアを広げており、現在はロサンゼルスやニューヨークの一部地域を含む5つのエリアで配送を行っている。

 

 

また「Google Express」が大型リテールチェーン店だけでなくローカル店舗の商品も即日で届けるサービスを行うなど、競合企業も出現している。Google Expressは10ドルの月額制で、ロサンゼルス西部やサンフランシスコなどの7つの地域に配達を行っており、多くの店舗とタッグを組むことでAmazonFreshと戦う姿勢だ。

 

 

また、「Curbside」はオンデマンドECと買い物代行を組み合わせたようなサービス。アプリ上から注文を行うと、ピックアップステーションで商品を受け取ることが出来るサービスだ。

 

 

このように、アメリカでは、AmazonやGoogleといったメガIT企業からベンチャーまで幅広くサービスに進出してきているホットな領域といえる。

 

 

オンデマンドECは日本市場に浸透するのか

 

アメリカでは少し前から浸透しつつあるオンデマンドECであるが、日本市場には浸透していくのだろうか。

 

 

検討する上でまず気をつけたいのは、アメリカと日本の生活習慣の違いだ。アメリカ、特にオンデマンドECや買い物代行が浸透している地域では、生活圏が広く車を使った移動が大前提となる。例えば通勤も買い物も車を用いるのが一般的だ。一方日本ではオンデマンドECのサービスエリアで考えると電車・バスなどの公共交通機関による移動が多くを占める。

このことは、アメリカでは足りなくなった食材などを少し買いに行くのでも、車を出して幾らかの距離を運転して郊外型の大型スーパーマーケットに行く必要があり、そこでは駐車し駐車場から広大なショッピングゾーンへ移動し、目当ての商品を探さないといけないという手間が発生する。しかしオンデマンドECを利用すれば、車を出して移動する手間を省ける上、家で待っているだけで注文した品を受け取ることができる。このような環境においてはオンデマンドECのサービスは十分魅力的だろう。

日本のEC市場における配達サービスの多様化は去年から続く傾向だが、更に多様な利用者のニーズに対応すべく、スピード面で差別化を図るためのサービスとしてオンデマンドECが注目され始めたようだ。しかし日本の小売店の現状を考えてみると、特に都市部ではどこにいてもすぐにスーパーやコンビニを見つけることができる。24時間営業の店舗も多く、都市部においては「ちょっと買い物に行ってすぐ帰ってくる」ことや「駅から自宅の帰り道でちょっと買って帰る」ことが行いやすい環境が整っている。日用品以外の弁当販売などでも同じことが言えるだろう。もちろんデイタイムのオフィスニーズを狙った市場は一定量存在することも理解できる。しかし日本のライフスタイルでは、オンデマンドECの「即日配送」に魅力を感じにくい土壌があることも否めない。

日本のネットスーパー各社は自社の配送ルートを利用し、郊外への配送にも着手して売り上げを伸ばしているが、都市部のごく一部のエリアのみに対応した現状のオンデマンドECではそれも難しい。アメリカと異なる環境でオンデマンドECが定着していくためには、対応エリアの拡大はもちろん、より柔軟に利用者のニーズを発掘しそれに対応する必要もあるだろう。食料品や日用品の配達だけに留まらず、様々な商品を提供できるサービスとして発展していくことが期待されるのではないだろうか。

 

<参考>

ネットスーパーは店舗の商圏を拡大できるか - 独自配送網の諸刃の剣