ECサイトでも使えるマーケティングオートメーションサービスを4つのセグメントで整理してみた

 

BtoBサイトを中心に昨年頃から多くの話題を提供してきているマーケティングオートメーション。その波が今年はECサイトにも到来することが予想されているが、どのようなサービスが具体的には存在しているのかなかなかサービス内容が難しくて理解できないケースが多いだろう。そこで今回は、ECサイトでも使えるマーケティングオートメーションサービスを4つのセグメントに分けて整理して考えてみる。

 

ECサイトでも使えるマーケティングオートメーションサービスを4つのセグメントで整理してみた

 

今回は縦軸を導入するECサイトの売上高の規模の大小、横軸をそのマーケティングオートメーションツールがどこまでオートメート化を実現するかを手動~自動で整理した。それぞれのセグメントで注目のサービスをピックアップしていく。

※なおこの整理はカスタマーリングスを提供する株式会社プラスアルファ・コンサルティングの協力を得て作成した。

 

 

<参考>

ECサイトでのマーケティングオートメーション元年がやってきた - 前編:ECサイトでもマーケティングオートメーションが重要な4つの理由

ECサイトのマーケティングオートメーション元年がやってきた - 後編:ECサイトでマーケティングオートメーションで成果を上げる5つのポイント

 

 

大規模MAツール - 機能要件が複雑で、SIを伴う組み込みが必要なナショナルクライアント向け

 

図の右上にあたる大規模向けかつ自動化要素の強いセグメントに位置付けられるサービスは、全国規模で販促や広告に力をいれているような大企業向けに主にBtoBツールとして提供しているものだ。そのためターゲット層毎のキャンペーンの作成と施策の実行に重点を置いているものが多いのが特徴だ。

代表的なものとしてOracle Marketing CloudのEloqua(以下エロクア)がある。

 

 

エロクアの機能はエンゲージメント機能、変換機能、分析機能の三つに分けられる。一つ目のエンゲージメント機能とは「顧客に対する施策」のための機能である。例えばキャンペーンの作成やターゲット設置、見込み客からのリード(営業目的としてコンタクト可能な顧客情報)設計などだ。二つ目の変換機能とは「社内の効率化」に貢献するもので、営業とマーケティングの連携を円滑にしたり、事前に用意されたテンプレートをもとにブランディングに一貫性を持たせたり、見込み客に関する優先順位を参照したりすることでリードの質を高めるものだ。三つ目の分析機能は「それぞれの結果の分析」で、マーケティングのROIを測定したり、業界のベンチマークをもとにエロクアを利用している優秀なその他のマーケティング担当者とユーザー自身を比較したり、ダッシュボード上でトラフィックやキャンペーンなどに関するレポートツールなどを使用したりする。このように直接的にECサイト運営に活用することは少し難しく、高機能なキャンペーン管理ツールの色合いが強いといえる。

他ではExperianはマーケティングのROIの最大化に焦点を当て、更にマーケティング戦略立案などに関してもサービスを提供している。Sales forceはCRM(Customer Relationship Management:顧客との良好な関係を築くこと)に重きをおき、特に営業プロセスの自動化を促す。IBM Unica Campaignはキャンペーンを流れを通しての設計やマーケティングメッセージのツール、様々なデータへのアクセスやトラッキングなどを提供する。

 

 

自動化が強い - これから売上アップを目指す、成長が期待される企業

 

図の右下にあたる比較的小規模向けかつ自動化要素の強いセグメントに位置付けられるサービスは、主に積極的にアプローチし集客につなげる施策を打つのに適しているものが多い。大規模向けのセグメントに対しての施策よりも細かいカスタマイズをするのに適しているだろう。

このセグメントでは代表的なものにカスタマーリングスがある。

 

 

カスタマーリングスはこのセグメントに置いたが、実際は小規模店舗から比較的大規模店舗まで幅広く対象としたサービスとなる。各種データの紐づけを自動で行いデータ抽出作業の手間を大幅に減らし、各顧客セグメントに対して施策立案、それらのユーザー嗜好に基 づくメール配信などを行う。更にさまざまな分析(顧客分析、商品分析、データマイニングなど)をもとにダイレクトメッセージなどで集客を行い様々な施策を ダッシュボード上で行うことが可能なのも魅力的だ。

他に似たサービスとして、Make Repeaterがある。Make RepeaterはカートASPサービスを提供するMake Shopが運営しているが、幅広いカートASPやECパッケージとの連携が可能で、使い勝手の良いメールのエディタ機能や柔軟なシナリオ設定などを持つ、メールマーケティングを軸に据えたサービスだ。R∞(アールエイト)はデータを紐づけ、CRMの施策、さらに抽出リストに対しての集客型のマーケティングオートメーションをする。もう一つ、うちでのこづちは主にCRMに重きを置き集客型でのマーケティングオートメーションよりもボトルネックの解消やリピートの管理などに重点を置く。このようにこのセグメントのサービスはすぐにでもECサイトのリピーター育成に貢献出来るサービスと言える。

 

 

プライベートDMP要素が強い - 従来型のCRMシステムで、自動化というよりもデータが入るドラム缶的な利用

 

図の左上にあたる大規模向けかつ手動要素の強いセグメントに位置付けられるサービスは、マーケティングオートメーションというよりもクラウド上などで多数の人数で同時に作業を行い、施策を打つ形と言える。主に設定したセグメントに対してのCRMを重視しリテンション率を上げることなどにフォーカスを置く。

代表的なものとしてSynergy Marketingがある。

 

 

Synergy Marketingでは顧客管理、統合CRM、BtoBマーケティング、価値観マーケティングなど様々なものが提供されている。前者の二つを取り上げると、これらはデー タベース上で顧客管理やキャンペーンマネジメント、メール配信、アンケート、問い合わせ管理、携帯CMSなどでCRMを重視する。

他のサービスとしてはパイプドビッツクライゼルのようにより細かい対応やCRM重視のサービスが見受けられた。DECIDE(Dentsu E-Commerce Ideal Designing Engine)は電通独自のプラットフォームで、一つの画面で一元管理できる。Synergy Marketingなどと同様にデータ管理やマッチング(例:アクセスデータと顧客データなど)を自由に組み合わせより多くの施策へと生すことが可能だ。このようにECサイト向けの機能は十分有しているものの、実際に活用するためにはかなりのマーケティングノウハウが必要となり、効果を出すためのハードルは高そうだ。

 

 

部分的 - 限定された機能で十分な企業

 

図の左下にあたる比較的小規模向けかつ手動要素の強いセグメントに位置付けられるサービスは、よりきめ細やかな個々への対応を行い、定着率(定着:何度も同じサイトに訪れること)を保ちCRMにフォーカスを置く。

このセグメントではLTVイノベーションが代表的といえる。

 

 

LTVイノベーションはLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を増やすことに対して重点を置いているものである。集客型でのマーケティングオートメーションでの新規流入よりも、現時点の顧 客に対してきめ細かな対応でのCRM施策、リピート分析や、ステップメール設定、A/Bテスト、カートシステムとの自動連携、開封率分析などが行える。

たまごリピートはカートASPの機能を有しながらも、リピート率にフォーカスをし定期購入を促すことに重点を置く。コールセンターの対応での細かいサポートや、ステップメール、各種分析(広告・CR・定額リピート)などに対応している。有能なマーケターを有する多くのECサイトでは、実際にはこれらのサービスに頼ることなく手動で行うことも可能ではあるが、ノウハウを持たないショップでは非常に効果を発揮してくれるだろう。

 

 

ECサイト向けのマーケティングオートメーションはどのように変わっていくのか

 

このように現状では、それぞれのセグメントで複数のサービスが提供され、ECサイト事業者から見ると選択肢が増えつつある状況といえる。しかし、それぞれのサービスには得意・不得意領域が明確にあり、各ECサイト運営においてオートメート化したい領域をしっかり検討した上でサービスを選択していくことも重要となってくる。

また、今後サービスが増えていくことが予想される中で、それぞれのセグメントの中で明確な住み分けが行われ、各サービスが各得意分野にフォーカスしていくことになるであろう。例えば、図の上部の各サービスは大規模向けのECサイトやBtoBサイト向けの施策により特化し、下部の各サービスは小規模向けの細やかな施策により特化していくだろう。

自動化要素の大きい図の右側の各サービスはマーケティングオートメーションの中でも特に集客型にフォーカスしていくと考えられる。これは商品に対するロイヤリティが比較的低いものを扱う業界で活用されていくだろう。ロイヤリティが低いとは、そのブランドや商品に対するこだわりが薄く、似たようなものであればどこで購入してもよいと思うようなものである。例えばポケットティッシュはどこの店やコンビニで購入してもある一つのブランドなどにこだわる人は少ないだろうが、アパレルグッズや車などこだわりがでやすい商品はロイヤリティが高い分野だと言える。このような商品に対するロイヤリティが低いジャンルを扱っている場合は顧客のリテンションにフォーカスするよりも新規顧客を獲得しく必要性があるからだ。そのような商品を取り扱い、自動化することに対して大きなメリットを感じるECサイトを意識し、より集客に特化した機能の拡充が図られるだろう。

それに対して左側の手動要素が大きい部分は、CRMやLTVなどの細やかなサポートに重点を置きよりロイヤリティが高まるようにリピート率に重きを置く傾向が強くなるだろう。このセグメントのサービス対象となるECサイトは、ロイヤリティが高い商品を扱い、細かい施策を顧客中心に設計して、リピーターを上手に育てていくことに重点を置いている。そのためそれらの細かい施策を打つためにかかっていた工数を減らすための自動化を丁寧に進めていく形となるだろう。

このように今後のマーケティングオートメーションはそれぞれの分野で、それぞれのフォーカスポイントを突き詰めていき各企業が明確に住み分けをしていくと考えられるため、ECサイト事業者も、商品の特性を理解し、オートメート化を行いたい領域を検討した上でサービスの選定を進めていく必要がありそうだ。

いずれにしても、ECサイト運営において、マーケティングオートメーションの概念を導入する市場環境は整ってきている。出来るだけ早めにサービスの導入を進めて、どのように成果を出していくべきかの方法論を身に着けていく必要がありそうだ。