ECサイト運営を支える配送事業者

 

ECサイトを運営する上でも、購入した際にも無くてはならない商品の配送サービス。忘れられがちではあるが、配送事業者なくしてECサービスの多くは成り立ち得ない。国内では佐川急便、ヤマト運輸、日本郵便の3社の影響力がECサイト運営においては大きい。今回はこの3社の取り組みから、配送の価格とサービスレベルの関係性について考えていく。

 

 

佐川急便

 

業界第2位のシェアを誇る佐川急便だが、本格的に宅配便事業に参入したのは1998年と比較的遅い。

 

 

同社はヤマト運輸や日本郵便のように小規模な営業所を多数配置するのではなく、比較的規模の大きな営業所を設け、1店舗で広範囲を網羅する形を取ってきた。近年は都市部にSCと呼ばれるサービスセンターを設置し、人力での配達が有力なビル街などで小規模店舗の展開が見られるようになったものの、基本的には1店舗の管轄するエリアが広域となる。そのため、営業店から離れた地域では2tトラックで各エリアへ荷物を輸送し、小荷物や個人宛の荷物を中心に地元の下請け配送業者への委託が行われている。しかし最近では、コストに見合ったサービスレベルの実現を目指し、正社員やそれに準ずるスタッフが配送することも多くなってきている。

このように営業所が少ない佐川急便は、コンビニや一般商店といった一般個人からの発送窓口が少ないため、同社が営業活動で開拓した企業間の荷物の取扱いが中心となる。その際、発送個数が多ければ交渉次第で発送条件に融通が利くというメリットがあり、EC事業者にとっては魅力的な部分があった。

しかし2013年に入り、同社は戦略を転換。大口契約の業者に対して配送料の値上げを迫り、結果的に取引先最大手であるAmazonとの契約をほとんど返上することとなったのだ。その結果、2013年度上期(4〜9月期)の取扱個数は前年同期比11.3%減と減少したのに対し、1個当たりの単価は22円増の481円となり、業績も改善した。

単価のアップを計る一方で、同社はネット通販利用者に対するサービス内容の向上にも力を入れてきた。2000年に開始した代金引換サービス「e-コレクト」は、ドライバーが荷物を届けたその場ですぐに、クレジットカードやデビットカードなど多彩な方法で決済が可能な代金引換えサービスだ。消費者の情報漏洩に対する不安を解消することでカード利用者は増加し、eコレクトサービスの扱い個数は増え続けている。

また、同社は2011年秋に女性従業員の数を8,000人から1万5,000人にまで引き上げると発表。ネット通販では一人暮らしの女性が夜間に荷物を受け取ることも多く、女性スタッフによる宅配で安心感につなげる狙いがあった。

佐川急便には、EC事業主にとって便利なサービスも多数用意されている。例えば2012年には、東京都内の一部地域で荷物の集荷の24時間受け付けサービスを開始。これまで集荷の受け付け締め切りは午後7時だったが、全国の主要都市向けの荷物で午前3時までに集荷連絡のあったものを当日中に配達するなど、リードタイムを短縮。キャンセル率の低減を狙うEC事業者の取り込みにつなげる意向で、現在は大阪市の中央区・北区でも同サービスを展開している。

また、EC事業者向けに購入商品の返品・返金を行う「リバース・ソリューション」サービスを同時期に開始。顧客から返品依頼のあった商品を同社が回収し、EC事業者に配達。通販事業者側で返金対象かを判断して返金指示を出すと、顧客が指定した銀行口座に返金代金が振り込まれる仕組みを提供している。他にも、受注から発送までの業務を大幅に軽減してくれる伝票発行システム「e飛伝」や、各地域のセールスドライバーが生産者の収穫物を集荷してそのまま購入者へ直接配送する「集荷依頼サービス」、産直品の鮮度を保ったまま届けることができる「飛脚クール便」などを展開している。

B2Cへ参入し始めた当時は荷物の取扱や不在時の対応などが酷評されていたこともあったが、現在ではこのようにサービスの改善にかなり力を入れてきているようだ。

 

 

ヤマト運輸

 

元祖「宅配便」の生みの親であり、全国のデパートや空港に荷受所を出店するなど、佐川急便に比べて手広くサービスを展開しているのがヤマト運輸だ。

 

 

お届け完了eメールサービスをいち早く導入し、Web出荷コントロールサービスや伝票番号による検索など、同社は便利でかつ効率化を意識したサービスをこれまで数多く提供してきた。中でも業界初の物流サービスとして注目を集めたのが、午前0時までのネット販売受注商品を翌朝に届ける「トゥデイ・ショッピング・サービス」だ。消費者がネットから注文を入れると、エリアによっては最短4時間で商品を届けられる。

さらに同社は、2016年までに関東・中部・関西の3大都市圏をまたぐ荷物の当日配達を始めると発表。他にも、ネット通販の購入者が商品の注文時に受け取り場所としてコンビニを指定できる「宅急便受取場所選択サービス」や、利用者が受け取った商品を確認後に代金を払えるサービスなど、魅力的なサービスが揃う。

また、ヤマト運輸はさまざまな企業との業務提携にも積極的で、2010年には伊藤忠商事、ヤフー、ファミリーマートの3社による宅配便サービス「はこBOON」の配送業務を受託。最近ではAmazonと連携し、受注した当日に商品を届ける「お急ぎ便」サービスにも参画している。今年4月からは、中国の物流最大手の中国郵政集団(チャイナポスト)と提携し、日本のネット通販で買い物をした中国人向けに商品を宅配するサービスを始めた。同社のネットワークを利用して日本企業から集荷し、中国に空輸。現地で受け取ったチャイナポストが中国全土に宅配する仕組みだ。中国にはEコマースで海外の物品を購入する利用者は約3億4,000万人だと言われているが、彼らが日本の通販サイトで購入した商品は最短3日で届けられることになる。

このようにさまざまなサービスを提供し、配送業務自体を正社員が行うことでサービスの品質に定評のあったヤマト運輸だが、最近では一部でサービスの品質低下がささやかれたり、今年に入って実施された法人の取引先に対する料金の値上げに対する不満の声も聞かれる。以前に比べて取扱う荷物の量が急激に増え、社員だけでの配送に限界が来ており、地元の配送業者への委託を行っていることも影響しているようだ。

 

 

日本郵便

 

日本郵便はかつて郵便局として存在した郵便事業を運営する民営企業だが、民営化から間もない2007年10月、日本郵政と宅配便業界第3位の日本通運が宅配便事業の統合を含めた包括的な業務提携を締結した。

 

 

この事業統合の狙いは、全国の郵便局ネットワークを生かした物流網を持ち過疎地などでの配送に強い日本郵便と、企業向けの配送には強いが宅配便事業では遅れを取っていた日本通運が組むことにより、圧倒的なシェアを誇るヤマト運輸や佐川急便と対抗することだった。日本通運の宅配便ブランドであるペリカン便の事業を郵便事業会社に統合、宅配便事業会社のJPエクスプレスを設立することとなった。2010年7月にペリカン便とゆうパックは統合され、現在の郵便事業「ゆうパック」となったが、その直後にシステム統合の影響で大規模な遅配問題が発生。これがEC事業者の荷主離れを引き起こす原因となり、赤字続きになるなど苦戦を強いられてきた。また、日本郵便はもともと公社であったことからか、サービス面で民間より劣っているようなイメージを持たれてきた。しかしここ1、2年で同社は次々と新たな施策を打ち出している。

先日、日本郵便は東京ドーム級の広さの大規模なメガ物流局を全国20カ所に新設すると発表。2018年度までに約1,800億円を投じ、郵便や宅配便の区分け作業を同局で集中処理し、配達にかかる時間を短くする。また、競合2社に対抗するためにDVDや書籍などの小型商品の取り込みに力を入れ、ゆうパックの取り扱いを年間4億個(2013年度見込み)から2016年度に5億個に拡大、市場シェア15%を目指す。小型のゆうメールも32億個(2013年度見込み)から40億個に増加させる。さらに、ゆうパックなどの宅配事業の強化に向け、新たに全額出資の子会社「日本郵便デリバリー」を設立したと発表。2015年の株式上場を目指す日本郵政は、需要の伸びが見込める物流事業を、手紙やはがきなどの郵便事業に並ぶ業務の柱に育てる考えだ。

 

 

価格とサービスレベルの鍵を握る巨大モールAmazon

 

巨大モールAmazonとの関係を軸に配送事業者の取り組みを見ていくと面白いことが見えてくる。佐川急便からヤマト運輸は2013年にAmazonの業務を引き継いだ形となっている。佐川急便は、Amazonでの業務受託を始めたのを機にB2Cサービスの改善に力を入れてきたが、徐々に業績が悪化してきてAmazon業務から撤退した。それを受け継いだヤマト運輸も、品質が急に低下した。特に、2013年のお歳暮の時期(いわゆる年末商戦期)はAmazonの業務を受託した直後で、圧倒的に小口の荷物が増えていたことなどから、配送が遅延したり破損が多くなったなどの話が聞こえてきた。やはり、Amazonの発送数量は、想像以上に他の業務を圧迫したといえる。また昨年、あのヤマト運輸が荷物を捨てる、というニュースも世間を賑わせた。このようにAmazonという甘い汁とサービルレベルの維持はトレードオフの関係となっているといえる。

 

 

 

価格とサービスレベルの狭間での奮闘

 

EC事業に参入する企業が増え、宅配便市場は拡大しているにもかかわらず、競争が激しいため法人向けの単価は下落の傾向が続いていたが、最近ヤマト運輸は法人顧客に対して一斉に運賃の引き上げを要請することを選択した。既にEC事業者など大口顧客には契約見直しを打診し始めている。その背景には、荷物量が増えたことによる配送トラブルの増加、もちろん人手不足になってくることでの人件費の増加など、裏事情が垣間見えてくる。

業界最大手のヤマトが料金を値上げすることは、日本経済の「脱デフレ」の流れを象徴しているが、荷主企業がその値上げ分のコストを吸収できなければ消費者が負担する送料が上がる可能性は高く、ECの購入者としては喜べない状況でもある。

事業者側の視点で言えば「送料無料」というサービス(キャンペーン)は大きな影響を受けるため、サービス自体の見直しや、そもそも実施できなくなる事業者も出てくる可能性も高い。キャンペーンの継続の替わりに、商品自体の値上げの検討、アフィリエイトの報酬の引き下げ、広告費用の削減など、事業全体を見渡したコストの見直しが必要となってくる。事業者側は、各社の事情や改善の見込みを踏まえた上で、顧客に迷惑をかけないサービスを提供してくれる業者を選択する必要があるといえる。

配送業者側では、値上げするヤマトに対して、価格面での優位性のある佐川急便や日本郵便にチャンスが回ってくることになり、さらに3社間の競争は激化するだろう。佐川急便は、Amazonから勇気ある撤退をしたことから判断できるよう、一定のサービスレベルを維持する為に見合わない金額で受託するようなことは、積極的には行わない。逆の言い方をすれば、適切なサービスレベルを維持するという方向性を取っているといえる。日本郵便は営業所(局)の数は圧倒的に多い上、さまざまな地元密着型のサービスを検討していくことで、今後、より多くの意味のあるサービス提供者になっていける可能性を含んでいる。

送料無料に慣れ、Amazonの当日配送にもそれほど驚かなくなってきているが、高いサービスレベルを求めるにも関わらず、適正な送料をECの購入者が負担しないという構図はどこまで続くのか。業界全体のパワーバランスは、価格とサービスレベルの狭間で行ったり来たりを繰り返しつつ、その落としどころを探っているのかもしれない。

 

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