英国に本社を置くモバイルおよびデジタル技術専門の調査会社Juniper Researchが2024年8月27日に発表したレポートでは、世界のeコマース取引が2024年の7兆ドルから2029年までに63%急増し、11兆4,000億ドルに達すると予想されている。

この驚異的な成長の原動力は、デジタルウォレット、口座間決済、後払い決済(BNPL)などの代替決済方法(APM)であり、これが世界の新興国市場におけるeコマースの成長に拍車をかける、とJuniper ResearchのアナリストであるLorien Carter氏は同レポートに記している。また、同氏は、2029年までにAPMが世界のeコマース取引の69%を占めるようになると予測している。

同レポートには、APMがeコマースでの決済手段に含まれるようになるにつれ、新興国市場で銀行口座を持たない消費者がオンラインで購入する機会が増えていくだろう、とも書かれている。この移行は、配送エコシステムへの投資の増加によって補完され、配送がより現実的なものとなり、eコマースの価値提案を高めるだろう。

Carter氏はレポートで、「代替決済の利用は大幅に増加しており、新興国市場でのAPM取引量はクレジットカードでの取引を大きく上回っている」と語っている。「販売業者は新しいユーザーや地域を獲得するために、APMの提供を重要な戦略として検討しなければならない」。

ペンシルベニア州スプリングフィールドにある貯蔵タンク販売会社Tank Retailerのオーナーで、元銀行業界金融アナリストのLou Haverty氏は、「eコマースの成長率は現実的な数字だ」と断言する。

「消費者がオンラインeコマースで購入する際の決済手段に安心感を覚えたことと、従来の販売業者の高価な実店舗モデルから在庫コストが少なくすむeコマースモデルへの移行が合わさって、コスト削減効果が得られるようになったことで、根本的な変化をもたらしている」と語った。


信頼なくしてeコマースの成長なし

Haverty氏は、代替決済方法が消費者と販売業者にとって信頼できるものであれば、eコマースの成長を支えることができると付け加えた。「eコマースの成長にとって最も邪魔になるのは、詐欺のリスクだ」と語る。

さらに、「クレジットカードは、支払った商品が届かなかった場合、支払い取り消しを行うことができるため、消費者は安心してオンラインショッピングをすることができる」と説明。「新興国市場での代替決済方法において、強力な詐欺防止策を行わなければ、消費者はオンラインでの購入に消極的になるだろう」。

「消費者の信頼度が低いと、eコマースの成長は冷え込む。そこで、消費者との信頼のために優れた決済システムを構築し、維持することが、将来のeコマース市場での大きな成功に不可欠となるだろう」と同氏は続けた。

サンフランシスコの金融テクノロジー企業、Link MoneyのCEOであるEric Shoykhet氏は「利用者はさまざまな方法での決済を希望するため、多くの決済方法を用意することはeコマースにおいてとても重要だ」と付け加える。

「特定の利用状況では、さまざまな理由でクレジットカードやデビットカードを利用したくない人も多い。そこで、実際に取引を成立させるためには、代替決済方法が非常に重要になることもある」と同氏は述べた。

「口座間決済のような多くの代替決済方法は、クレジットカードなどの代替方法よりも手数料がはるかに安価だ」と同氏。「これは経費削減を目指し、ひいては消費者の出費削減を目指す販売業者にとって非常に重要なことである」。


発展途上市場での成長のカギ

代替決済方法は、発展途上市場、特にスマートフォンの使用が増加している市場では成長に不可欠となるだろう。ドイツに本社を置くデータプロバイダのStatistaによると、たとえばラテンアメリカでは、スマートフォンの普及率が2023年の80%から2030年までに92%に達すると予測されている。

「ラテンアメリカの消費者は特定の決済方法を好み、彼らの手にはスマートフォンがある」と、英国に本社を置くグローバルな決済プロバイダPaysafeのラテンアメリカ担当バイスプレジデントであるEsteban Sarubbi氏は言う。

「Paysafeの最新の調査レポート『Inside the Wallet』では、ラテンアメリカの消費者の37%は、オンラインで決済する際のデジタルウォレットの利用が1年前より増加しており、欧州の29%、北米の25%の消費者も同様の行動を取っている」と同氏は語った。「また、ラテンアメリカの消費者の20%は、最近1か月以内に銀行振込を利用しており、欧州では14%、米国とカナダでは8%だった」。

「APMを提供することによって、ラテンアメリカの銀行口座を持たない人々はさまざまな決済手段を利用できるようになるため、eコマースはより利用しやすくなるだろう」と同氏は説明した。

「インフォーマル経済(法令上または慣行上、公式な取決めの適用を受けていない、または十分に適用を受けていない労働者及び経済単位によるすべての経済活動。不正活動を除く)や路上販売のために、現金は依然として非常に存在感を持っている。しかし、ラテンアメリカの消費者の多くはスマートフォンを利用できるため、デジタルウォレット、銀行振込、電子マネーは決済には必須である」と同氏。「これらの決済方法によって、従来の銀行を利用できない消費者もデジタル経済に参加できるようになり、商品やサービスの利用を増やすことができる」。


商取引の障壁を乗り越える

Sarubbi氏は、発展途上市場におけるeコマースの成長にはまだ乗り越えなければならない障壁があると認める。「ラテンアメリカが直面しているeコマース成長の障壁には、クレジットや銀行サービスへのアクセスが限られていること、オンライン取引における信頼の欠如、非効率な配送インフラなど物流の課題などがある」と同氏は話す。

「さらに、越境取引にかかるコストが高く、各国の複雑な規制環境も、事業拡大の妨げになっている」と付け加えた。

しかし、同氏は、「ほとんどの国が主な問題に対処しており、この地域のeコマース市場の潜在力を引き出している」と指摘した。

テネシー州クリーブランドにあるピックルボール(バドミントンコートと同じ大きさのコートの中で、プラスチック製のボールを打ち合うスポーツ)用具販売会社、101 PickleballのCEO兼共同創業者で、発展途上市場への進出を計画しているMichael Chien氏は、これらの地域ではeコマースの成長に障壁があることに同意した。しかし、デジタルウォレットと口座間決済の台頭によって、特にクレジットカードの普及率が低い地域においては、よりアクセスしやすい安全な決済方法が提供されるため、これらの市場を変革することになるだろう、と主張する。

同氏は、「この傾向は、私のようなeコマース業者にとって、競争力を維持し、より広範囲な顧客層にアプローチするためにAPMを決済システムに統合して適応しなければならないことを意味する」と語った。

「APMが進化し続けることで、おそらくeコマースは必須なものとなっていき、販売業者は多様な顧客のニーズに対応するための決済方法やセキュリティ対策の革新を迫られるだろう」と同氏は述べた。


決済オプション

Juniperの調査ではまた、決済サービスプロバイダ(PSP)がより多くのAPMを提供するようになると、チェックアウト時に適切な決済オプションを提供することが顧客のコンバージョン率を最適化する上で極めて重要になるだろう、とも予測している。

同レポートは「PSPは、個々の消費者の場所や属性に合わせて購入オプションを調整することで、顧客満足度を最大化しなければならない」と指摘。PSPは、消費者の嗜好を熟知する地元の決済会社と提携し、地域の決済手段をサポートすることで、こうしたコンバージョン率を最大限に高めることができる。

「Paysafeの『Inside the Wallet』レポートでは、世界の消費者の43%がオンラインショッピング時の決済方法に適切な選択肢がないと、カートを放棄することが分かった」とSarubbi氏は語った。

「世界中のeコマース決済市場は、決済方法の選択、消費者の利便性、シームレスなチェックアウトを求めている。地域のニーズに適応する販売業者は、その成長市場を獲得するのに有利であり、より多くの消費者のニーズに対応し、コンバージョン率を高めることができるだろう」と付け加えた。


※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の8/28公開の記事を翻訳・補足したものです。