世界はここ数年で劇的に変化した。マーケティング担当者は消費者への接し方を再考し、誠実さ、信頼性、コミュニティを優先することに慣れる必要がある。

 

事実として、インフレは企業と消費者の関係を根本的に変えた。

コスト上昇に直面した企業は、値上げや製品サイズの縮小などの同様の戦術で対応し、消費者の信頼を損なった。

これに対し、消費者の目はより厳しくなり、価値と真正性を求めるようになった。この懐疑的な消費者の新時代は、マーケティング戦略の根本的な転換を必要としている。マーケティング担当者は、消費者のニーズを深く理解し、イノベーションを起こし、価値を提供することに絶え間なく集中することが生き残るために必要となる世界に適応しなければならない。

 


聞き、学び、そして対応する

昨年は、大勢の消費者グループがソーシャルメディアを使ってブランドの問題について苦情を訴えた事件がいくつかあった。

たとえば、米国、英国、カナダ、ドイツ、フランスに店舗を構えるメキシコ料理レストランチェーンChipotleの顧客はソーシャルメディアを使って、ポーションサイズの不一致について苦情を訴えた。彼らの動画はこの問題を増幅させ、報道機関はそれを報道し始めた。Chipotleは4年前に経験した食中毒の危機から、どのように対応すべきかを学んだ。プレスリリースや洗練された広告の代わりに、Chipotleはソーシャルメディアを使って、消費者が期待する大盛りの約束を伝えた。これは、顧客の信頼を取り戻すのに大いに役立った。

Chipotleのように世間の批判に直面している企業はごくわずかだが、多くの企業は状況の変化を認識し、それに応じて戦略を調整している。

具体例:

  • 米国の宅配ピザチェーン店Domino’sのCEOは、配送コストが高いため、宅配よりもテイクアウトが好まれると指摘
  • 米国に本社を持つ家庭電化製品の製造販売を手がけるメーカーWhirlpoolは、アップグレードではなく、基本的な機能に重点を置いたり、古い家電製品を維持したりすることで、家電製品のアップグレードの減少に対処しようとしている
  • 米国の飲料・食品メーカーPepsiCoの菓子ブランドであるFrito-Layは、顧客が6ドルのチップスを以前ほど買わなくなったという事実に気づき、それに適応しようとしている

自社と顧客に対して誠実であり、真実を共有し、適応するための計画を明確にしたこれらの企業を称えたいものである。

 

伝統的なマーケティングの終焉

実績ある戦略と体系的なプランニングの自信に浸っていたかつてのマーケターが、新たな現実に直面している。私はデジタル時代の到来とともに社会人となり、マーケティング戦略とキャリアが急速に変貌していくのを目の当たりにした。私はこのキャリアで、マスメディアが支配する時代に説得力のある物語を作り、ブランドを構築し、販売を促進する技術を習得してきた。

デジタルの急速な進化は、従来のマーケティングのパラダイムを破壊したことは否めない。かつては信頼できる戦略やキャリアパスであったものが、今では不確かなものに感じられる。かつて約束されたマーケティングの世界の安定は、今や絶え間ない適応と改革が行われる状況である。それは、多くのマーケターが取り組んでいる困難な現実なのだ。

私は最近、世界のトップブランドのブランド・マーケターによる独占的なコミュニティBrand Innovatorsの、コミュニティ・コンテンツ担当ディレクターであるDavid Teicher氏に話を聞いた。彼は、何千人ものブランド・マーケターと関わってきた豊富な経験を持つ。

同氏は、次のように話している。

「この業界のマーケティング担当者から最も一貫して寄せられるフィードバックは、シニアディレクターやバイスプレジデントレベルのスイートスポットに関するもので、人々には自分たちをここまで導いてきた非常に明確な軌跡があった。そして突然、壁にぶつかり、これまで辿ってきた道が目の前から消えてしまったのだ」。

パンデミックとそれに続く経済的な課題により、多くの企業は長期的な成長よりも短期的な生き残りに重点を置くことを余儀なくされた。その結果、戦略的な計画を重視するマーケティングの役割は、縮小または廃止されている。

昨今、マーケティングは、根本的な原因を理解し、消費者の根本的なニーズに対応することを基盤とした分野から、多くの場合は必要に迫られて、迅速な解決策や戦術的な策略が支配する世界へと移行している。

マーケティング担当者だけが、より広範な経済課題に対して責任を負っているわけではないが、私たちは解決策に貢献することができる。


マーケティングの新時代

Teicher氏の見解は、Carlos Gil氏の経験と共鳴している。大企業でのデジタル戦略の先駆者から成功した起業ベンチャーの設立まで、Gil氏は決して傍観者でいることのない積極的な人物である。彼のキャリアは、革新性と粘り強さで特徴づけられている。しかし、この厳しい経済状況では、マーケティング費用は過去最低の水準にある。どうやら、Gil氏は収支を合わせるのに苦労していたようだ。

多くの人々と同じように、彼は起業家としての願望に焦点を絞り、より伝統的な役割を模索するという難しい決断に直面した。これは奥底にある弱さを示す瞬間であり、彼は勇気を持ってLinkedIn(世界最大級のビジネス特化型SNS)やその他のソーシャル・プラットフォームで共有した。

Gil氏は仕事探しについて、自分が何を望み、何を必要としているかについて率直に語り、高い能力を持つ40代として仕事を見つけるのに苦労していることを率直に語った。彼は長年にわたって築いてきた強力なネットワークとコミュニティを活用した。彼は困難な状況を、つながりと成長の機会に変えた。


これがきっかけで、彼はポーランドのメールマーケティング会社GetResponseにたどり着いた。同社は、米国で地元の顔としてブランドを代表し、戦略的パートナーシップを築き、公の場でのスピーチや業界イベントを通じて認知度を高めることができるマーケティングリーダーを求めていた。

コミュニティ内の信頼できる友人や同僚からの紹介により、Gil氏は一般的な応募プロセスを経ずに、GetResponseの採用チームに直接会うことができた。

GetResponseは、「型にはまった」マーケティングのプロフェッショナルではなく、企業と起業家としての経験を独自にブレンドした人材を探していた。彼らは、Gil氏がブランドを正真正銘に表現する能力があることを認めていた。彼らしさが完璧にフィットし、Gil氏は採用された。その見返りとして、GetResponseは、広告や放送メッセージではなく、コンテンツやコミュニティを通じて結果を出し、ブランドを高めることができる、経験豊富で多才なマーケターを獲得した。

Gil氏の歩みは、リーダーシップに対する人間中心のアプローチと、本物のつながりの永続的な力を示す強力な例である。それはまた、マーケティングの展望におけるより広範な変化を強調するものでもある。

 

関連性を取り戻す

未来は、万人に万能であろうとするのではなく、特定のコミュニティを深く理解し、サービスを提供できる企業や個人のものである。ジェネラリスト的な大企業が、現代のメディア環境において共鳴するためには、より焦点を絞り、信頼性を高め、コミュニティとつながる必要がある。

伝統的メディアもレガシーブランドも、当初はソーシャル・プラットフォームでつまずき、画一的な「ブロードキャスト」アプローチを採用していた。事前にスケジュールされたコンテンツとトップダウンのコミュニケーションスタイルに頼り、エンゲージメントよりもリーチを優先し、コミュニティの育成をおろそかにした。

こうしたオーディエンスとの断絶は、米国のスポーツ月刊誌Sports Illustratedや米国のオンラインメディア及び同サイトを運営する企業BuzzFeedなどの多くの従来型パブリッシャーの衰退の一因となり、カスタマイズされた体験と本物の関係を求める時代に、一般的なコンテンツが不十分であることを浮き彫りにした。

かつて流行した「パブリッシャーとしてのブランド」という概念は、パブリッシャー自身が有意義なインタラクションなしにオーディエンスを獲得し、維持することの難しさを明らかにしたため、結局は失敗に終わった。

広大で非個人的なオーディエンスを獲得するのではなく、ブランドは相互尊重と価値交換の上に築かれた本物のコミュニティを育成すべきである。マーケティング界では、「ターゲット・オーディエンス」という言葉が消費者を客観視し、単なる人口統計に還元するために使われることが多い。それとは対照的に、志を同じくする個人との深いつながりを育むことは、一時のトレンドを超えた永続的なブランド・ロイヤリティを生み出す。

表面的な指標よりも真のエンゲージメントを優先することで、ブランドは、関係者全員が有機的でやりがいを感じられる、活気あるコミュニティを育成することができる。

パフォーマンス・マーケティング時代の短期的利益と顧客獲得への一点集中は、消費者を遠ざけている。操作され、過小評価されていると感じている人々は、ブランドの好みについてますます声を荒げている。料理に必要な食材と料理の作り方がまとめて用意された一式であるミールキット・サービスのトライアルにはもう興味はないのだ。

顧客は、本当の価値を提供するブランドには報い、そうでないブランドには拒否反応を示す。一方的で押しつけがましいマーケティングの時代は終わったのだ。要するに、パフォーマンス・マーケティングの衰退は、深い目的意識を持つ企業が成功するための空間を生み出しているのだ。長期的な価値に焦点を当て、本物の関係を築き、顧客のニーズを理解することで、こうした企業は消費者主導のマーケティングの新時代に生き残り、繁栄することができる。この概念は、ハーバード大学のRanjay Gulati教授の著書「Deep Purpose」でも論じられている。

 

マーケターの適応、構築、そして繁栄

マーケティングの状況は急速に変化している。昨日うまくいったことが今日はうまくいかないかもしれない。成功するためには、柔軟性と変化を厭わない姿勢が必要だ。単一の仕事やキャリアパスに依存する時代は終わった。成功するキャリアを築くには、多くの場合、複数のプロジェクトや役割を担う必要がある。多様な収入源を作り、新しい機会を受け入れることだ。

コンフォートゾーンの外に出ることを恐れてはいけない。新しいスキルを学び、マーケティングのさまざまな分野を探求し、同じ業界の人たちとネットワークを作ろう。継続的な学習は不可欠である。

変化には困難も伴うが、成長の機会でもあることを忘れてはならない。順応性を受け入れ、新たな道を探ろうとする意欲を持つことで、長期的な成功が可能になる。粘り強さ、誠実さ、決断力は、今日の複雑な世界を生き抜くために不可欠である。真の成功とは、単に評価基準によって測られるものではなく、人間的なつながりの深さ、情熱を追求する勇気、そして自分の可能性の実現によって測られるものなのだ。



※当記事は米国メディア「Martech」の8/13公開の記事を翻訳・補足したものです。