デジタルウォレットは、店舗の内外において、消費者に好まれる支払い方法として急速に普及しつつある。業界レポートによると、2024年には米国のスマートフォンユーザーのおよそ3分の2がモバイルウォレットアプリを使って毎月の取引を行うようになるという。これはユーザーの半数が利用していた2021年に比べても増加することとなる。

 

モバイル決済の未来は、ブロックチェーン技術や仮想通貨の急成長とも交差する。これらのテクノロジーをモバイル決済システムに組み込むことで、クロスボーダートランザクションに革命をもたらし、取引手数料を削減し、透明性を高めることができる。

 

モバイル決済オプションは、特にeコマースにおいて極めて重要なイノベーションとして登場した。それは利便性、安全性、汎用性を提供し、企業の取引方法を一変させた。

 

しかし、このプロセスは、顧客が簡単かつ安全に取引を完了できる場合にのみ機能し続けるだろう。銀行とベンダーが普遍的な決済ソリューションに合意しない限り、モバイルeコマース決済を推進する原動力は消え去ってしまう可能性がある。

 

モバイル決済の持続可能性の鍵は、プラットフォームに対する買い物客の承認と、マーチャントの支持の両方にかかっている。マーチャントが導入しなければならないシステムに抵抗を感じたり、違和感を覚えたりした場合、たとえ買い物客の承認があったとしても、取引の効率や完了率が低下する可能性があるからだ。

 

AIを搭載したアプリの開発会社BryjのCEOであるLawrence Snapp氏によると、もう一つの影響要因は、モバイルWebサイトやプログレッシブウWebアプリ(PWA)に比べて、優れたユーザー体験を提供するモバイルショッピングアプリの人気が高まっていることだという。これにより、小売業者は顧客との関係を深め、ブランドロイヤリティを強化し、投資収益率(ROI)に変革をもたらすことができるようになるとのこと。

 

「モバイル決済の利用をめぐる消費者の考え方は急速に変化している。消費者は、店舗での購入であれ、アプリ内での購入であれ、ますますモバイル決済を採用し、利用するようになってきている」と、同氏は語る。

 

モバイル決済の普及を推進

消費者がモバイル決済を採用するようになったきっかけは、2つある。ひとつは、パンデミックの間、実店舗での買い物ができなかったこと。もうひとつはおそらく、常に現金を持ち歩かなければならないことへの嫌悪感が残っていたことだろう。モバイル決済は、多くの買い物客にとってその問題を解決したのだ。

 

変化する消費者の要求に対応するため、一部の実店舗の小売業者は、顧客が購入代金の支払い方法をより柔軟に選べるような物理的な端末を設置することで、潜在的な新しい成長曲線を先取りしようと乗り出した。

 

たとえば、ある宿泊施設では、デジタルウォレットのバーコードを素早く取得できるよう、キャプチャカメラをカウンターに向けた。しかし、この戦略はすべての実店舗ベンダーにとってあまり有用ではないことが判明した。

 

その他の課題に対しては、さらに新しいモバイル決済プラットフォームへのアップグレード費用を吸収するなど、より複雑な解決策が必要だった。さらに大きな問題は、ベンダーが採用するシステムがどのようなものであれ、ペイメントカード業界(PCI)の要件に準拠していることを保証することであった。

 

モバイル決済スキームへの移行を大きく後押ししたのは、新型コロナウイルス感染症の間に誕生した、「後払い決済(BNPL)」の機会だった。

 

「モバイル決済に対するこの需要の高まりは、モバイルeコマースの継続的な成長の結果である。ドイツの統計調査企業Statistaよると、モバイルeコマースの売上は2023年に2兆2,000億ドルに達し、世界のeコマース売上全体の60%を占めている」と、Snapp氏は指摘する。

 

より優れたIDセキュリティはすでに存在する

世界中でデジタル化が進むにつれ、バンキング、ショッピング、その他の購買アクセスはすべてモバイル機器に統合されつつある。金融の専門家は、5年以内にデジタルIDが、提示される身分証明書の大半を占めるようになると予測している。

 

AI搭載のID検証プラットフォームを提供するIDScanの共同設立者兼最高技術責任者(CTO)のAndrey Stanovnov氏によると、企業と消費者の両方の嗜好がモバイルID認証にシフトしていくため、小売業者は今後24か月間の大きな変化に備える必要があるという。

 

eコマースブランドは、モバイルIDを検証するための効果的な方法を模索することが予想される。この取り組みは、年齢制限のある商品の販売に伴うリスクを軽減し、詐欺防止対策を全体として強化することを目的としている。

 

デジタル詐欺に対抗するためのIDScanのプラットフォームは、非接触型のデータ転送を可能にするモバイルIDを標準化するセキュリティプロトコルを利用したもので、小売業者が新しいモバイル決済方法の安全性を確保できる方法の一つである。

 

「どのジュリスディクション(法域)も独自の方法でクレデンシャル(認証情報)を構築しているが、これらのクレデンシャルはすべて、受理や検証のプロセス中に顧客データが危険にさらされることがないよう、同じ全体的なセキュリティ機能に準拠している」と、Stanovnov氏は指摘する。

 

今日のeコマースのワークフローでは、消費者の身元確認は購入プロセスのある時点で行われている。小売業者はAPIを使ってIDが保管されているデジタルウォレットに問い合わせを行い、本人確認を行う。

 

「理想的には、このプロセスがエンドユーザーのワンクリックだけで迅速に行われ、トランザクションが最小限の中断で進められるようになることだ。そうすることで、ユーザー体験を向上させ、チェックアウト率に影響を与えることができる」と、同氏は説明した。

 

より多様なPOSが店舗に登場

過去12か月の間に、銀行のサポートが向上し、eコマースのトレンドを模倣した店舗内での決済の利便性を高めるPOS(販売時点情報管理)のレンダリングが改善された。顧客もまた、クレジットカードやモバイルウォレットを使ったタッチ決済(Tap to Pay)に素早く適応した。

 

フィンテックの専門家のレポートによると、昨年のショッピングシーズンが終了した時点で、買い物客の半数が非接触型の支払い方法を利用していたという。業界の専門家は、BNPL企業は新規ユーザーを獲得するために新たな選択肢を導入するだろうと考えている。この傾向により、米国の消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau)はそれらのサービスをより効果的に規制せざるを得なくなる可能性がある。

 

モバイルPOS(mPOS)は、消費者が今年、導入を期待できる新しいオプションである。この機能の追加は、顧客体験の向上という点で、小売業者と消費者の双方から肯定的な反応を得るはずである。

 

買い手と売り手の双方にとって便利なmPOSは、ベンターの取引を処理するソフトウェアとポータブル型のハードウェアで構成されており、顧客よりもむしろ小売業者を対象とするものである。この仕組みによって、買い手と売り手の双方に利便性や信頼性、スピーディーな退店を提供することができる。

 

mPOSシステムは、従来のレジやいくつかの既存の決済プラットフォームと同じように、売上合計の計算や支払いの処理、在庫の追跡、ビジネスデータの収集を行う。顧客はタブレット、スマートフォン、または専用のワイヤレスデバイスをチェックアウトポイントとして使用できるようになるだろう。

 

店舗オーナーにとっての大きな利点は、このプロセスによってeコマース決済がポータブルかつワイヤレスになることである。mPOSシステムは、NFC(近距離無線通信)を活用したデジタルウォレット決済やクリック・トゥ・ペイ(Click to Pay)に対応している。

 

スキャン不要のトランザクションが新たに誕生する可能性

スキャン不要のチェックアウトは、大いに歓迎されたイノベーションだった。それが実際にはそうでなくなるまでは。実店舗におけるレジをスキャン不要とすることは、潜在的には良いアイデアだった。しかし、消費者の反発や、スキャンミスや買い物客の悪巧みによってベンダーの収益損失が膨らんだことで、このプロセスは急速に見直されるようになった。

 

セルフレジのロジスティクス、商品のスキャンミス、そしてこのような自己申告システム型の取引を避けたいという不信感や回避願望の高まりをめぐって、マーチャントと買い物客の双方が対立している。

 

人間が操作するレジのスキャンの列に戻ることは望ましくない。一部の大型店舗では、そのプロセスをなくすという目標が進行中である。

 

新しいソリューションは、AIを搭載したセンサーによるRFID(無線周波数識別システム)ベースの自動スキャンである。カートの中や頭上にあるRFIDセンサーが、買い物客がカートに入れた商品を入力する。

 

これが導入された店舗では、買い物客は入店時に会員カードや支払いカードを提示する。購入した商品は自動的に買い物客のアカウントに追加される。買い物を終えた消費者は、レジの列に並ぶことなく、ただ店を出ていけばよい。

 

買い物客の意識が変化する中、決済トレンドがさらに拡大

eコマース分野でも、ファイナンスオプション、後払い決済、BOPIS(オンラインで購入した商品を店舗で受け取る仕組み)など、よく知られたトレンドが今後も成長を続けるだろう。しかし、重要な進歩は、顧客の身元をリモートで確認する機能の強化にある、とStanovnov氏は指摘する。

 

「この開発により、これらのトレンドはこれまで以上に安全性が高まることになるだろう」と同氏。

 

近年、買い物客の行動はモバイル中心のソリューションへと大きくシフトしている。Stanovnov氏は、モバイル決済やモバイルID認証、モバイルショッピングの導入が顕著に加速していると見ている。

 

「このトレンドはテクノロジーに精通した若者だけの現象ではなく、あらゆる年齢層に浸透している」と、同氏は話す。

 

わかりやすい例として、モバイルIDを最初に導入したルイジアナ州では、成人の70%以上がモバイルIDアプリをインストールしている。この統計は、デジタル統合に対する消費者の強い嗜好を反映しており、日常的な取引においてモバイルテクノロジーが広く普及し、快適さを増していることを浮き彫りにしている、とStanovnov氏は説明する。

 

「小売業の未来はモバイルである。モバイルのチェックアウトから、AIや拡張現実を利用したバーチャル試着室まで、小売業者は物理的な体験とデジタルな体験を融合させ、顧客の進化する要求に応える新しい方法を発見している」と、BryjのSnapp氏は指摘する。

 

※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の2/28公開の記事を翻訳・補足したものです。