Cookieの段階的な廃止によってファーストパーティの顧客データの価値が高まるなか、広告主は引き続き、リテールメディアネットワーク(RMN)の機会を追求するだろう。

 

近年、多くの小売業者は、広告主を引きつけ、お気に入りのブランドや商品での顧客体験を向上させるために、リテールメディアネットワーク(小売業者がデジタルチャネルの広告スペースをサードパーティブランドに販売できるようにする広告プラットフォーム。RMN)を構築している。広告主にとって、多くの小売業者が保有する豊富なファーストパーティデータへのアクセスは見逃せないものである。しかし、RMNは成熟する必要がある。

 

RMNは昨年、この成熟に向けて大きな一歩を踏み出したが、広告主がRMNをテストし、メディア戦略に統合していくことから、この動きは2024年も継続するだろう。2024年にRMNが取るべき方向性は、以下の通りである。

 

RMNの成熟に伴う標準化

IAB(米国の双方向広告業界団体)は昨年、ネットワーク間の同一性を比較する方法に関する実質的な議論を生み出すために、パブリックコメント用のRMNガイドラインを発表した。そのためには、広告主がやり取りから何を得るかをより包括的に理解することが必要となる。メトリクスの標準化が進めば、RMNへの広告費支出が増える可能性がある。

 

米国の独立系調査会社Forresterの「Q3 2023 B2C Marketing CMO Pulse Survey(2023年第3四半期B2CマーケティングCMOパルス調査)」によると、CMOの半数が「リテールメディアと他のメディア投資の合理化」がリテールメディアに関する最大の課題のひとつであると回答している。

 

標準化が広がれば、広告主は異なるRMN間でパフォーマンスを比較したり、RMNキャンペーンの効果を他のマーケティングチャネルと比較したりできるようになるだろう。

 

より多くのRMNユースケースからの選択が可能に

広告主はRMNのユースケースを試し続けるだろう。ForresterはRMNを「新興」テクノロジーに分類し、成長だけでなく、成長の障害も予想されると示唆している。

 

Forresterは、4つの主要なユースケースとして、「ファーストパーティオーディエンスターゲティング」、「オンサイトアクティベーション」、「オフサイトアクティベーション」、そして「ニアリアルタイムレポーティング」を特定した。RMNが標準化され、受け入れられるようになれば、RMNの中心的な用途が増えると同時に、より幅広い拡張的な用途への扉が開かれることになる。

 

ForresterがRMNの広告主向けに特定した拡張ユースケースの一部を以下に紹介する。

 

・データ連携のためのデータクリーンルーム環境

・マルチタッチアトリビューション(チャネルごとのコンバージョン貢献率測定)

・予測とシナリオプランニング

・インクリメンタリティ(広告費が全体的なコンバージョン率に与える増分)の測定

・アセット、ワークフロー、チームを統合するクリエイティブなアセット管理

 

Cookieの消滅に伴い、オフサイトのRMNチャネルが参入する

サードパーティCookieの段階的な廃止が継続されることで、広告主にとって小売業者のファーストパーティデータの価値はさらに高まるだろう。このデータをCTV(ストリーミングコンテンツ内に表示されるデジタル広告)などのオフサイトキャンペーンに使用することに対する関心が高まることが予想される。

 

「小売企業はファーストパーティデータを活用して、利益率の高い収益をもたらす広告ネットワークやデータビジネスを構築し続けるため、リテールメディアは力強い成長を続けるだろう」と、プログラマティック広告会社Simpli.fiのCEOであるFrost Prioleau氏は話す。「2024年の成長の大部分は、オープンウェブやCTVデバイス上の広告をターゲットにするために小売業者のデータが使用されるような、”オフサイト”広告によって牽引されるだろう」。

 

「2023年を通して、代理店やブランドはリテールメディアを、広告を売上に直結させる強力なクローズドループマーケティング(事業成果に対するマーケティング施策の効果を把握するマーケティング手法)の投資と見なす傾向が強まった」と、コマースメディアプラットフォームCriteoの南北アメリカ担当エグゼクティブマネージングディレクターであるSherry Smith氏は語る。「Googleが来年末までにサードパーティCookieを段階的に廃止する予定であることから、特にファーストパーティデータの優位性を重視する小売業者やその他の企業にとっては、来年も同様に大きな変革の年となるだろう。リテールメディアは、効果的なオムニチャネル広告の要として台頭し、ブランドにとって信頼できるフロンティアとしてコマースメディアの物語を再構築するだろう」。

 

インストアメディアがオムニチャネルのギャップを埋める

オフサイトメディアはRMNのリーチと適用範囲を拡大するが、これは広告主が店頭での機会を放棄することを意味するものではない。

 

「リテールメディアは、2023年にeコマースで一目置かれる存在であることが証明され、2024 年に向けて急速な成長が見込まれる」とSmith氏。「これには、インストアのリテールメディアに対する追加投資が含まれる。小売企業はオンラインと店舗での体験の間にあるオムニチャネルのギャップを埋めることで、買い物客のジャーニーのあらゆるタッチポイントに影響を与えるだろう」。

 

競争力が求められる小売業者は、店頭での体験を向上させ、対面での買い物客により関連性の高い広告を提供するだろう。例えば、中規模のRMNであるHome Depot(米国の大手ホームセンター)は、一部の店舗でビデオスクリーンを試験的に導入している。

 

「2024年には、小売業者は店内スクリーンをよりスマートに使い、ブランドはCTVキャンペーンを家庭からモバイル、そして小売店やその他の屋外の場所へと展開し始めることが予想される」と、Samsung Electronics Americaのマーケティング責任者であるCathy Oh氏は述べる。

 

「CTVの広告機能が改善と進化を続け、デジタル画面がよりダイナミックになりリテールメディアのエコシステムが爆発的に拡大するにつれ、広告主は広告キャンペーンをリビングルームの枠を超えてシフトしていくことが重要になる。2024 年には、ターゲットを絞ったマルチスクリーン体験が、メディアと連動するメッセージを消費者に届けるための鍵となるだろう」と、Oh氏は説明する。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の1/5公開の記事を翻訳・補足したものです。