国内・海外の当日配達・即時配達(クイックコマース)サービスのトレンドと今後

 

コロナ禍を経て、オンラインショッピングの利用者や利用頻度が増えている。また、近年は置き配など配達方法も多様化が進み、中でもスピーディに顧客に商品を届ける「当日配達」や数十分で配達する「即時配達(クイックコマース)」を実践する事業者も増えてきた。そこで今回は、国内や海外における、当日配達・即時配達(クイックコマース)の事例からトレンドを読み解き、今後の展開を考えていく。

 

 

※ログインして頂くと当記事でまとめたデータ(エクセル版)をダウンロードすることが出来ます。
※アカウント作成する方は、作成後再度このページへアクセスしてダウンロードしてください。

 

 

当日配達・即日配達・即時配達(クイックコマース)サービスとは

 

まずはじめに各キーワードについて簡単に整理していこう。

当日配達・即日配達・Same Day Deliveryと呼ばれるサービスは、注文したその日に配達が完了するサービスのことを指している。一方、非常に似ているが、即時配達・クイックコマースと呼ばれるサービスは、注文した後、数時間以内に配達が完了するサービスのことを指している。その配達時間によっては、当日配達と大差ないケースもあるため、その境界線は曖昧ではあるが、上記のように使い分けられることが一般的だ。

 

 

当日配達・即時配達(クイックコマース)サービスの市場規模

市場規模について、公表されているデータをいくつか見ていこう。

Straits researchによると、2021年の全世界における当日配達(Same Day Delivery)の市場規模は60億5,500万USドルに及び、2030年には5倍の344億2,400万USドルに拡大すると予測されている。

GIIによると、全世界における即日配達の市場規模は2028年に320億USドル規模に到達すると予測されている。

VALUESによると、2021年の米国におけるクイックコマース(即時配達)の市場規模は、既に200億~250億ドルに及び、今後さらに伸びることが予想されるとのこと。

上述したキーワードの意味するとことで多少対象の相違などはありそうではあるが、今後もかなりの勢いで右肩上がりに市場規模が増えていくことは間違いなさそうな状況となっている。

 

このように、今後も爆発的な伸びが予想されている当日配達市場だが、最新の国内・海外のトレンドはどのようになっているのだろうか。中国、欧米、日本の事例を見ていこう。

 

 

中国の当日配達・即時配達事例

 

中国では、2013年頃から当日配達サービスが一気に拡大し、JD.com等の大手ECサイトもサービスを開始している。中国の当日配達における特徴は、他国では類を見ない多種多様な内容と言える。BtoC向けの当日配達だけでなく、CtoC向けの当日配達や、中には代わりに行列に並ぶといった風変わりなサービスも提供している。それでは、中国の主要サービスや特徴的なサービスを見ていこう。

 

JD.com「极速达(Jisuda)」:3時間以内にお届け

JD.comは、2013年から极速达と言う当日配達サービスを提供している。JD.comは楽天やAmazonのような巨大モールで、中国国内No.2のシェアを誇る。家電を中心に、衣類や家具まで、非常に膨大かつ高品質な品揃えで有名である。そんなJD.comが展開する极速达のサービスは、北京・上海等の一部の大都市を配達範囲としており、配送料は商品の大きさによって異なる(一部無料)。注文後、3時間以内に商品を届けてくれて、受付時間は8:00〜20:00となっている。

 

 

美团外卖(Meituan Waimai):10キロ以内であれば1時間以内にお届け

2013年に創立された美团外卖は、2020年に中国国内初の非接触型配達サービスを開始した。医薬品・花・日用品・コスメ等の5,000万点以上の商品を扱い、配達範囲が10km以内の場合、1時間以内に配達してくれる。注文を行うと、配達スタッフの位置がリアルタイムで地図上に反映され、配達時間はもちろん、スタッフの体温や配達ボックスの消毒状況まで表示されるという徹底ぶりだ。非接触型の配達方法は、購入者が備考欄に置き場所を指定する方法と、スタッフと直接連絡して配達方法を伝える2つの方法がある。配達が完了すると、アプリ内のメッセージや電話で通知が来る仕組みとなっている。

 

 

达达快送(Dada Kuaisong):3キロ以内であれば1時間以内にお届け

达达快送は2014年に上海で創業され、2020年にアメリカのNASDAQに上場した配送サービスを提供している会社だ。ラストワンマイルを、クラウドソーシング的に配達してくれる配達者と個人をマッチングするサービスだ。現在は、中国国内2,700以上の都市でサービスを展開しており、日々の注文件数は1,000万件を超え、食品をはじめとしたあらゆる商品の当日配達が可能だ。距離ごとにサービスが異なり、配達に有する時間も異なるが、例えば自宅と店舗が3キロ以内であれば1時間以内に配達が可能。特徴としては、通常の配達だけでなく、買い物代行や代わりに行列に並ぶサービスなど、多様なサービス展開が挙げられる。

 

 

闪送(Shansong):1時間以内にお届け

闪送は2014年に創業した配達サービスで、中国国内260都市を対象に、1時間以内の配達を行っている。前述の达达快送と同様のサービス構成となるが、闪送もサービス内容がバラエティに富み、通常の日用品等の配達に加え、代わりに行列に並ぶサービス、薬局で薬を受け取るサービス、CtoCの配送サービスなどが用意されている。CtoC向けのサービスは、日本のバイク便のようなイメージといって良いだろう。CtoCは、10分以内に指定場所で集荷したのち、1時間以内に配達を行う。家の鍵やパソコン等の緊急性のあるものから、書類等の機密性の高いものまで対応可能だ。

 

 

Taobao(淘宝)「小时达(Xiaoshida)」:最短30分、通常1時間以内にお届け

中国最大手のECモールを提供するアリババグループは、2020年6月より淘宝(タオバオ)アプリ内において小时达と言う1時間以内に配達するサービスを開始した。小时达は、北京をはじめとする主要16都市を対象地域としており、最短30分で配達が完了するというスピード重視の内容となっている。

 

 

欧米の当日配達・即時配達事例

 

欧米は、中国よりも1~2年前の2012年頃から当日配達サービスが登場していた。例えば、Instacartは2012年よりアメリカで食料品の当日配達を開始。現在はカナダでも展開しており、500万点以上という非常に豊富な品揃えが特徴である。また、欧州アパレルのZalandoも、2015年からドイツ国内の一部都市を対象に当日配達を開始。Zalando Plus会員であれば、無料で利用可能だ。それ以外にも、多くの企業で行われている当日配達であるが、欧米の主要サービスや特徴的なサービスを見ていこう。

 

Amazon:当日中にお届け

Amazonは、2009年からニューヨーク、ボストン等の7大都市で当日配達を開始した。その後、シカゴ等の主要都市へサービスを展開。後に述べるように、日本と異なり欧米では現在も当日配達が行われており、アメリカではむしろ勢いが増している。Amazonは、アメリカではすでに1,285もの流通センターを有しているが、今後さらに231のセンターを増設し、当日配達を強化すると発表した。ただし国によって条件が異なり、例えばドイツでは日曜日には配達は行われない。

 

 

Lidl(イタリア):1時間程度でお届け

2019年、オンライン食料品の配達サービスであるSupermercato24(現Everli)とスーパーマーケットチェーンのLidlが提携し、イタリア国内の当日配達サービスを開始した。サービス開始時の対象エリアはミラノやローマ等の3都市のみであったが、徐々に対象地域を拡大すると発表している。Lidlはヨーロッパの20か国以上で展開し、世界中に約11,000店舗を有するチェーンである。この提携により、消費者はインターネット上で近隣店舗を選択し、商品カタログから希望商品を注文することができるようになった。注文を受けると、Supermaercato24の配達スタッフが1時間程度で自宅まで届けてくれる。なお、ヨーロッパでは日曜日にスーパーが営業していないことが多いが、本サービスは土日も利用できる。

 

 

Morrissons supermarket(イギリス):当日中にお届け

Morrisons supermarketは、2019年からイギリス全土を対象に、低価格の当日配達サービス「iDeliverr」を開始した。食料品をはじめ、各スーパーで取り扱う日用品の配達を行う。iDeliverrの特徴は、アプリ上であらゆるスーパーの取扱商品を見ることができる点だ。希望するスーパー及び商品を指定して注文すると、およそ1時間で配達される。配達を担うのは地元のドライバーで、注文時にドライバーと注文金額や詳細な注文についてリアルタイムでやり取りを行うこともできる。

 

 

Publix super markets:11:00までの注文で当日中にお届け

Publix super marketsは、2020年に医薬品配達を行うScriptDropと提携し、薬の当日配達を始めた。一般的な処方箋薬や市販薬、健康サプリ等まで幅広い医薬品が配送対象となっており、対象地域は各店舗から半径5マイル以内。配送料として5ドルが必要だが、11:00までの注文で当日中に配達される。なおPublixは、コロナ終息後も本サービスを継続すると述べている。

 

 

Walgreens(アメリカ):2時間以内にお届け

全米で8,100店舗以上を展開するアメリカの薬局チェーンWalgreensは、2021年から医薬品の非接触型当日配達を米国全土を対象に開始した。24,000点以上の商品が対象で、Walgreensのウェブサイトやアプリ経由で注文すると、2時間以内に届けてくれる。それだけでなく、Walgreensは店舗やドライブスルー経由でわずか30分で医薬品を提供するサービスも開始している。

 

 

Doordash(アメリカ):35分前後でお届け

アメリカの大手食品配達サービスであるDoordashは、2022年2月から花の当日配達を開始した。全米で3,000を超える花屋と提携することで、提携先の花屋がある地域内であれば35分前後で受け取ることができる。花の種類やブーケのタイプも自由に選べるので、イベント時にも重宝する画期的なサービスだ。

 

 

日本国内の当日配達・即時配達事例

 

海外では当日配達は依然として勢いがあり、サービス数も増えているが、国内では大手ECサイトが展開する当日配達サービスは近年減速傾向となっている。一方で、海外同様、コロナ禍を経て新たに当日配達サービスを立ち上げた企業もあった。ここからは、国内の当日配達サービス事例を見ていこう。

 

Yahoo!ショッピング:当日中にお届け

日本国内のシェア3位を誇る大手通販サイトYahoo!ショッピングは、国内の他ECに先駆け、注文商品を当日に届ける「きょうつく」を2012年より開始した。当日配達の範囲は各モールの出店者に委ねられており、各ストアが定めた利用条件時間内に注文が完了し、かつ指定の配達エリアであれば、注文商品を当日に届けてくれる。なお、配達時間の指定はできない。対象商品は現状ではフラワーギフトが大半を占めている。

 

 

ZOZOTOWN(現在サービス縮小):当日中にお届け

ZOZOTOWNは、2014年から有料の当日配達サービスを展開している。0:00〜5:59までの注文で、当日の18:00までに商品が届くというものだが、物流会社の労働環境への配慮から、開始時は対象地域であった関西や中部エリアへの即日配送は2017年に停止となった。現在のサービス対応エリアは関東のみとなっており、決済方法等の条件によっては利用できない場合もある。

 

 

Amazon Prime Now(現在サービス終了)⇒Amazon内ではライフ・成城石井:最短2時間でお届け

2015年にスタートしたAmazonの地域限定スピード配達サービス「Prime Now」は、2021年3月31日をもって終了している。Prime Nowは、地域のスーパーや百貨店、ドラッグストアと提携して、受注から1時間以内に配送する「1時間以内配送」とそれ以上の「2時間便」を展開。しかし、コスト負担と稼働率の低さから打ち切りとなってしまった。ただし、Prime Nowという名称はなくなったものの、スーパーの「ライフ」が行う当日便は残っている。AmazonのWebサイトとアプリから、ライフのストアを通して注文が可能で、生鮮食品や惣菜を最短2時間でAmazonプライム会員向けに配達する。対象エリアは、東京23区・16市、神奈川県9市、千葉県14市、埼玉県16市、大阪府26市・1郡、京都府3市、兵庫県8市(それぞれ一部エリアを除く)。なお、2023年3月には「成城石井ネットスーパー」もAmazon内に開設され、こちらもプライム会員向けサービスとして、東京都の一部地域(スタート時は世田谷区など7区)を対象に最短2時間で配送する。

 

 

OniGO:最短12分でお届け

2021年に創業された「鬼速で届く宅配スーパー」OniGOは、注文から最短12分で届くという画期的なサービスだ。関東の一部地域を配達エリアとし、提供時間は8:00〜23:00。対象商品は青果や文具、ペット用品などで、注文を受けると自店舗や提携店舗から即時配送される。配達状況をリアルタイムで確認できるほか、置き配等の指定も可能。また、1回の配達料は300円と低価格に抑えられており、初回は送料無料で気軽に試すことができる。現在自店舗の拡大を計画中で、2023年3月時点で一都三県を中心に63店舗に拡大している。

 

 

beepDelivery:最短12分でお届け

beepDeliveryは、2022年から本格的にEC事業者向けの当日配達サービスを開始した。同社は約7万台の配送ネットワークを所有しており、予算や地域に合わせて最適な配送会社を自動でマッチングすることで、EC事業者に代わって最短12分で商品を届けることが可能となっている。現在の対象地域は東京23区と大阪市だが、初期費用が11万円、さらに月額33,000円かかるため、コスト的には注意が必要である。なお、配達員の状況はリアルタイムで確認することができる。

 

 

※ログインして頂くと当記事でまとめたデータ(エクセル版)をダウンロードすることが出来ます。
※アカウント作成する方は、作成後再度このページへアクセスしてダウンロードしてください。

 

 

当日配達・即時配達(クイックコマース)サービスの今後

 

コロナ禍を経て、消費者が自宅にいたままで手軽に、そして思ったよりも早く商品を手に入れることが出来ると言う体験をしたことで、世界的に見ても当日配達・即時配達のニーズは高まっていると言える。

しかし、国内では、ラストワンマイルを担う宅配事業者の負担などから全面的な展開にはブレーキがかかっている状況ではあるが、フラワーギフトや医薬品など、当日配達・即時配達をする合理的な理由がある商材については、積極的な展開が今後も期待出来そうだ。また、海外の事例のように、再度この当日配達・即時配達のメリットを消費者が強く実感する機会が増えてくれば、ここで挙げた以外の商材についても、今後様々な検討がなされ、展開が行われていく可能性もありそうだ。今後の拡大にも期待していきたい。